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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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規格外といるということ


 僕の名はハーヴィー。ダンさんのチームで一人前を目指している新人探検家です。






 僕が、ダンさんのチームに入ってから一夏が過ぎました。


 "僕の祖先にあたる獣人と会い、できることなら親交を深めたい"



 そう一念発起して探検家になってからの1年よりも、何倍も濃い毎日を過ごしている気がします。


 僕が1年無駄に過ごしていて、実はこれが普通なのかなと思い、先輩のドランさんに聞いてみました。


 ドランさんは、ダンさんが言うには<無駄に頭が良い脳筋>とのことですが、それはきっと相手がダンさんだからそうしてるんだと思います。

 他の人に比べて何もなくて畏縮する僕に、わざとらしく大仰な態度をとってリラックスさせようとしてくれて、いつもふざけて僕を困らせているように見えて、本当に困っているときは助けてくれる。そんな人だ。


 そんなドランさんは、僕の質問に一言


 「お前も、旦那に染まられたな!はっはっは!」


 と、言っただけでした。


 でも、それで僕は自分が置かれている状態を理解して、つい溜め息をついてしまう。


 「どうしたハァーヴィィー!前の生活にでも戻りたくなったのか?」

 「ちょっとドランさん、演技しすぎでしょ。…………戻りたいとは思わないですよ。毎日が楽しいですし」

 「俺は、隊長と戦闘訓練があまりできないのが不満だなぁ」

 「それに関しては、逃げ回ってる隊長に感謝ですよ」


 ドランさんの戦闘訓練好きは普通に異常で、暇があれば僕やデルク君やダンさんを戦闘訓練に誘っている。

 まぁ、一番被害に遭っているのはダンさんだけど。


 そんなドランさんを、戦闘バカだとダンさんは言っているのだけど、はっきり言えばダンさんも同類だ。

 この前だって、森の集落からやって来たフィーネちゃんの希望だから、しょうがなくドランさんとの戦闘訓練を付き合うとか言っていた筈なのに、最終的に僕らのチームと集落の捜索団の全員を戦闘訓練に巻き込んできて、一人で全員を5回相手するとか本当に化け物かと思うよ。


 最終的に、3ー2で僕らが勝ったわけだけど、それだって集落の皆さんの強力な魔法援護があってようやくといったところだから、ダンさんの能力は本当に異常だと思う。

 そんなダンさんに隙あれば戦闘訓練を求めるドランさんを、僕は凄く尊敬してるし、やっぱりダンさんの言う通り戦闘バカなんだなとも思う。

 

 僕は今、そんなドランさんと二人で、他の皆がいる集落から一番近い村に向かっている最中です。

 僕達が用事があるのは、その村に存在している探検家ギルドの支部です。

 僕は、大森林の調査結果を報告に、ドランさんはそろそろ更新期限が近づいているからついて来るそうです。

 僕達探検家は、一年に一度ギルドの依頼か未開地の調査を報告してギルド証の更新を行わないと、探検家の資格を一度失ってしまう事になってしまいます。そうなると、またIクラスからのスタートになってしまうわけですが、普通に探検家をしていればそうそう資格を失うことなんかは無い筈です。


 「ドランさん、失効が近いってどれだけ仕事してなかったんですか?」

 「おぉ?そうだなぁ、最後に仕事したのは冬に入る前だな。冬はあまり町の外に出たくはないからな」

 「じゃあ、まだ結構あると思うんですけど」

 「ハーヴィー、今回森にどれだけ篭っていたか覚えてるか?」

 「だいたい3ヶ月弱で……あ」

 「わかったか?普通はなぁ、未開地の探索って言ってもだいたい一月くらいで戻るんだ。まぁ、あの家やら集落にいたからっていうのもあるが、3ヶ月も篭るなんてありえねぇんだよ」


 今回も、僕がギルドに行きたいと言ったからこちらに出てきているけれど、それが無かったらおそらく前回よりも深部まで足を運んで行った気がする。

 それを考えると、ドランさんにとっても今回の更新はちょうどいい機会だったということなのだろう。


 「まぁ、正直言うとだ。俺は、これから先あの人達にずっとくっついて行くつもりだから、失効しちまっても構わないと思ってるけどよ、こっちが望んでもあっちから切られちまうかもしれないだろ?そうしたら食い扶持がねぇからな」

 「そんなことしないと思いますけどね」

 「俺も、それはそう思うけどよ!はっはっは!念のためよ」


 もしかして、一人で村に向かうつもりだった僕に気を使ってくれて同行してくれてるのかな?


 愉快そうに笑って豪快に街道を歩くドランさんを見て、僕はふとそう思った。


 「おい、ハーヴィー急げよ。ちんたらしてると祭に間に合わなくなっちまう」

 「大丈夫ですよ。そのために余裕をもって早く集落を出たんですから」


 僕は、少し焦った表情て先を急がせる先輩探検家の様子に、苦笑いを浮かべて応じるのだった。






 朝に集落を出た僕らは、昼を少し過ぎた頃には村に到着した。


 「飯にしようぜハーヴィー」

 「ダメですよ。受付に間に合わなくなります。仕方ないとは言え、予定より遅くなったんですからご飯は諦めてください」


 僕の言葉を聞いたドランさんは、肩を落として僕の後をついて来る。


 僕達が早めに村に着かないといけなかった理由、それは支部で受けた報告を、近くの主要都市にある探検家ギルド地方本部へ送る配達受付が、この時間くらいまでだからだ。 

 この受付時間に遅れると明日の配達に回すか、探検家に配達依頼を出すしかなくなってしまう。


 移動時間に余裕を持たせていたのだけれど、ぎりぎりに近いこの時間に村に到着したのには理由がある。


 「そんな忙しい中、すいません……」

 「気にしなさんな。こいつが細かいことを気にしすぎなだけですわ」


 村まで1時間といったところで、途方に暮れている若い男女を見かけたからだ。

 何事かと思い近寄ると、僕らに気づいた女性が助けてくださいと泣き叫んでいた。

 事情を聞くと、彼女たちは兄妹で親が高いところから落ちて怪我をしてしまったので薬師様に薬を作ってもらおうと、材料を採りに薬草の群生地へ行っていたみたいだった。

 その薬草の採取中に、毒蛇に兄が噛まれてしまいここまで何とか運んできたが、ここら辺で体力の限界が来てしまったらしい。


 「お願いです!なんでもしますから!兄を助けてください!!」


 兄と呼ばれた男性の様子を見ると、患部が赤色から紫に変色しかかっている。噛まれてから時間が結構経ってしまっている。

 このまま村まで連れていったとして、その時には紫色に変色してしまっているだろう。そうすると、薬師の毒消しの調合を待っているうちに手遅れになる可能性が出てくる。


 僕は、ドランさんを見る。

 ドランさんは何も言わずに背負い袋から緑色の液体が入った瓶を取り出す。

 僕はそれを受けとると、彼の口にそれを持っていく。

 これは、出発の前にもしも用としてアーノルドが作ってくれた薬の中でも効果の高い即効性の解毒薬だ。

 アーノルドさんが作って、効果が高いっていうことは、当然副作用もきつい。たしか、苦みだったよな。これ。

 蛇足だけど、以前3人で同じ材料で同じ薬を作った場合の違いがあるかを調べるということで、僕が実験台にされたことがある。

 アーノルドさんの薬は、効果が高いかわりに、副作用がきつい

 サーシャちゃんの薬は、時々違う効果が出ることがあるけど副作用が低い

 ミレイちゃんの薬は、効果が出るのが他の二人に比べて遅くて、副作用もじわじわやってくる。


 何というか、制作者の性格が表れているような気がする。と、副作用に苦しみながら思った記憶がある。


 「かなり苦いですけど、死にたくなかったら我慢して飲んでください」


 最近ようやく副作用を抑えて薬を作るようになったってダンさんやアリッサさんは泣いて喜んでいたけど、一度試しで飲んだ僕からすれば、それでも十分副作用はきついと思う。

 それをデルク君に言ったら


 「ハーヴィー兄ちゃん、この十倍くらい強力な解毒薬を副作用抑えないで飲んだおれからしたら、この程度の副作用なんか水だよ水」


 って、その時のことを思い出したのか、目に涙を溜めて半泣きで言われたことを覚えている。

 その時、これがダンさんが言っていた“デルクも完全に染まったな“ということなんだと思った。


 事実、この薬を口に含んだ彼は、あまりの苦さに含んだ薬を瓶に戻してしまっている。


 「死ぬか、苦いかです。どちらをとりますか?」


 もう一度聞くと、彼は意を決して薬を飲むのだった。

 副作用がきつかった分の効果はしっかり発揮して、数分もしないうちに患部の色はもとの色へと戻っていく。


 「これで大丈夫ですよ」

 「とは言ってもあれだな。おまえら、この先の村のもんか?それなら村までこいつを背負って行ってやるぞ

。ハーヴィーが」

 「ドランさんの方が体大きいんだからやってくださいよ」

 「はっはっは!そりゃそうだ!」


 妹から村に住んでいることを確認したドランさんは、歩いて帰れるという彼の言葉を無視して、強引に背負う。

彼も成人前なので結構成長しているのだが、ドランさんからすれば幼児みたいなものなのだろう。軽々と持ち上げて背中に乗せてしまう。


 「妹の手前、弱みを見せたくない気持ちはわかるがな、毒が消えただけで消耗した体力は戻ってねぇんだいからおとなしく背負われてろや」


 そうして若い兄妹と村へと移動することになったため、時間がかかってしまったわけなんだ。


 「ハーヴィー、お前が細かいこと言うから、お嬢ちゃんが気にしちまってるだろう?」

 「収穫祭に間に合わないって二人で向かってた時にぼやいてたのは誰ですか?」

 「だれだ?そりゃ」

 「ドランさんでしょうが」

 「そうだったか?はっはっは!」

 「笑ってごまかさないでくださいよ」


 僕らのやり取りを聞いて、彼女は笑い出す。良かった。結果はどうあれ、僕らが助けたくて助けただけだから、気にされちゃうのは申し訳ない。



 「あの、今回は本当にありがとうございました。僕にも、親にもこんなに高い薬までいただいて……」


 お礼を言っている兄の手には、四角い容器に入った湿布薬が入っている。筋肉や骨などの怪我をしたという彼らの親用だ。

 一応、副作用も言ってあるのできちんと用法は守ってくれると思いたい。たくさん使うと地獄を見るのは、僕もドランさんも体験済みだ。彼も先ほどの一件で、僕らの薬がそういう物だというのはわかってくれたと思う。


 「ドランさん、あれって高いんですか?」

 「さぁ?どうなんだろうな。支給品だしな」


 僕らの様子に驚きの表情を浮かべる兄妹二人。

 規格外の人達といすぎて、いろいろと感覚が世間とずれちゃったのかな。 


 そんなことを思いながら僕らは、二人と別れて探検者ギルドに向かう。


 別れ際にドランさんが


 「お嬢ちゃん、なんでも言うことを聞くって言ったよな」

 「は、はい。なにをすれば……」

 「ここのオススメの飯と酒、教えてくれ」


 ちゃっかりお礼を貰っていたのを確認しながら。





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