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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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収穫祭の準備とお年頃である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 我輩は今、集落の広場にあるベンチに腰掛けているのである。

 周囲は、あと数日で開催される収穫祭の準備でおおわらわである。

 木材などの建築資材を運搬するもの。

 簡易な舞台を設定しているもの。

 近隣集落との共同開催なので、親交を深めるための企画を立てるもの。

 収穫祭に出す料理の献立を考えるもの。

 その食材を集めてするもの。

 様々である。


 ダンは、職人達とともに建築資材の運搬や舞台の建造を中心に、全ての準備に顔を出しているのである。

 集落の女性に混じって献立を考えている様はなかなかシュールであった。


 ミレイ女史は、首長や他の集落からやってきた者達とともに、企画を立てているのである。

 帝都内で様々な催し物を見てきたり、研究室の一般解放日の企画なども立ててきたのであろう。

 首長達が年少者であるミレイ女史の言葉に耳を傾けている様は、なかなか面白いのである。


 アリッサ嬢は、集落の女性陣とともに楽しそうに献立を考えているのである。

 時々デルク坊達と食材捜索に出かけるようであるが、基本的にはこちらに混ざっているのである。

 今回も、女性陣にもみくちゃにされて大変そうだったのである。


 デルク坊は、妖精パットンや若い探検家とともに食材収集を行っているのである。

 おれ、他の人たちにすげぇ頼りにされてるんだと嬉しそうに話すデルク坊を見て、本当に良かったなと思うのである。

 

 サーシャ嬢は、大人たちが準備に追われている間面倒が見きれない子供達の相手をしたり、アリッサ嬢たち女性陣の料理の手伝いをしているのである。

 最近ではサーシャ嬢はかなり人間の言葉が話せるようになり、子供相手の会話だとほぼ問題ないくらいになったのである。


 そんなサーシャ嬢やデルク坊であるが、その髪は、透き通るような翡翠色ではなく、茶色に色が変わっているのである。


 一応集落の者はサーシャ嬢の身の上を知っているのであるが、新しく入ってきたものもいるので、今回は髪の色だけ変えてカムフラージュすることにしたのである。


 しかし、今回は妖精パットンの認識疎外の魔法は使っていないのである。サーシャ嬢もある程度話せるようになり、妖精パットンと別行動になった際、家に篭っていないといけないというのがもったいなく感じたからである。


 そう思った我輩は、工房を出る前に一つの道具を作製したのである。

 中級手引き書にあった【髪染めの髪飾り】である。


 染めたい【色】の構成魔力と、髪飾りとなる素材の構成魔力。今回は【羽】を組み合わせて作る道具である。

 構成魔力的には初級手引き書のものなのであるが、鮮やかな色や効果範囲の設定などで細かいイメージを必要とするために中級に入っているようである。

 森の民であったノヴァ殿には少し骨の折れる作り方であったのかも知れないのである。

 実際に、サーシャ嬢が作ったのであるが、色はぼやけて、髪の毛のほかにも色が変化してしまう箇所もあったのである。

 逆に、我輩は得意なのでほぼ完璧に作れたのである。


 「おっちゃん、ありがとう!」

 「おじさん、ありがとう」


 嬉しそうに頭に羽飾りをつけるデルク坊に比べ、何やら浮かない様子のサーシャ嬢である。

 何か気になることでもあったのであろうか。

 サーシャ嬢の様子を不思議に思ったアリッサ嬢が、サーシャ嬢の手に持っている髪飾りを見て納得の表情を浮かべるのである。


 「あははは、サーちゃんもお年頃かい?」

 「うぅ~。」

 「どうしたのであるか?何か問題でもあったのであるか?」

 「サーちゃんは、羽飾りの形が気に入らないんだよ」


 どうやら、白い羽を髪に留めるように作った簡素な羽飾りは、サーシャ嬢にとっては好ましくない造形であったようである。

 サーシャ嬢もまだ子供であるが、しっかり女性である。ということなのであろう。


 「でも、おじさんがせっかく作ってくれたんだし…」

 「気にすることはないのである。我輩、造形などには詳しくないので、どうしてもそういう簡素な物になってしまうのである。申し訳ないのである」


 なのでサーシャ嬢の髪飾りは、ミレイ女史に代わりに作ってもらう事にしたのである。

 サーシャ嬢の意見を取り入れて作られた羽飾りは、サーシャ嬢らしいとても可愛らしい物であった。

 そんなサーシャ嬢の姿を、眺めているとアリッサ嬢がやってくるのである。


 「可愛いねぇ、サーちゃん」

 「普段の翡翠色の髪も綺麗であるが、羽飾りが付いた茶色の髪も可愛らしいのである。さすがはミレイ女史であるな」


 落ち着いた茶色の髪に似合う小さな羽がいくつも重なった羽飾りは、サーシャ嬢によく似合っていたのである。


 「センセイも丸くなったねぇ、研究所時代ならあたしやリリーが文句言っても<造形など気にするだけ無駄である>とか言って聞き入れなかったじゃない」

 「先ほどの話を忘れたのであるか?我輩は、造形に詳しくないので女性の要望に応えることができなかっただけである。それに、他に錬金術ができるものがいなかったのでどうしようもなかったのである」

 「だったら、そういえば良いじゃないのさ。なんでそんなところで意地はってんのさ。馬鹿じゃないのかい」


 呆れながらそういうアリッサ嬢の言葉に、我輩も確かにそうであるなと思うのである。

 自分でもわからないうちに、一人で全てをできないといけない。と思うことが重圧になっていたのであろうか。


 「そうであるな。確かに馬鹿らしいのであるな」

 「あっれ?やけに素直じゃないのさ。明日は炎の雨でも降るかねぇ」

 「その言い草はないと思うのである」


 我輩の言葉に笑いながら謝るアリッサ嬢である。絶対まともに謝る気はないのである。まったく。


 「あのさ、お願いがあるんだけど」

 「嫌である」

 「まだ何も言ってないんだけど!」

 「冗談である。何であるか?」

 「本当にあたしの知ってるセンセイかねぇ……まぁいいか」


 何やら失礼なことを言い放ち、アリッサ嬢はキラキラした瞳で我輩をまじまじと見るのである。


 「何であるかアリッサ嬢。まじまじと」

 「センセイ、あたしにもあれ、作っておくれよ」


 どうやらお年頃はサーシャ嬢だけではなかったようである。






 「うっふふふ……」


 燃えるような赤い髪を、光輝く金の髪に変えたアリッサ嬢は、洗面所にある鏡でその姿を見てご満悦である。


 「あー!アリッサお姉ちゃん、髪の色変わってる!綺麗!」

 「どうしたんです……髪飾りですか?」

 「そうだよ。ミレちゃんの綺麗な髪を見て、一度で良いからなりたいと思ってたんだ」

 「そうなんですか、私もアリッサさんの……」

 「私もね!………」


 女性陣が三人集まって楽しそうに髪の色の話で盛り上がっているのである。

 辺境の集落にいる時にも思ったのであるが、美というのは女性にとっては重要な感心事なのであろう。


 「ありゃ何やってるんだ?」


 狩りから戻ってきたダンが、きゃいきゃいとお互いの髪をいじったりしている女性達を見て我輩に説明を求めてきたのである。

 

 「女の美の探究心っていうのは物凄いねぇ」

 「時として狂気を感じる時があるのである」

 「じゃあ、センセイと同じだな」

 「心外である」


 心の底からそう思った我輩の言葉を聞き、ダンもなぜか心外そうな表情を見せるのである。

 そんな顔をされて余計に心外である。


 「センセイ、自分が何言ってるのか分かってんの?」

 「当然である。狂気をはらむほど我輩は何かに没頭してなどいないのである」

 「どの口が言ってんだ?この口か?」


 ダンは、本気で納得いってない表情を浮かべて我輩の口をわなわなと指差すのである。

 演技かかって大袈裟である。


 「我輩はダンが何を言い出したかが理解できないのである」

 「錬金術に没頭してるセンセイが狂ってないとしたら、この世の狂人はみんなまともだぜ」

 「我輩は、いたって節度を保っているのである。狂うほどに没頭していないのである」

 「狂ってる奴はそういうんだよ」

 「そもそも狂うほどにのめり込んでいたら、魔の冠を抱くことになるであろう」


 我輩の言葉に、ダンは指を一本立てて左右に動かすのである。

 実にいらつく動作である。


 「チッチッ、甘いぜセンセイ。すでにセンセイは人間の枠を越えてるんだよ」

 「何を馬鹿なこと言っているのであるか」

 「代償にしたのは、人としての常識と倫理観だぜ!」

 「うむ、リリー嬢に湖の事を報告するようにミレイ女史に言うので覚悟するのである」

 「ちょっ!それ卑怯!」


 決まった、と言わんばかりに指を突きつけたダンであったが、我輩の言葉で一気に様相が変わるのである。

 さすがに、先ほどの一言は言い過ぎである。猛省を促すのである。


 力無く湯浴み場に赴くダンを見送っていると、我輩の袖を掴むものがいるのである。

 誰かと思い振り向くと、そこにはミレイ女史がいたのである。

 意を決したような表情を浮かべてこちらを見ている。顔が少々赤い気がするのであるが、大丈夫であろうか?


 「一体どうし………」

 「私にも、髪飾りを作ってください!」


 ……


 「いや、ミレイ女史は自分で……」

 「アーノルド様が作ったものが欲しいです!」


 ……


 「いや、我輩が作る……」

 「アーノルド様が作ったものが欲しいんです!!!!!」


 そのあとも何回か問答をしたのであるが、結局押し切られて我輩はミレイ女史に髪飾りを作ったのであった。

 もらった髪飾りを嬉しそうに胸に抱くミレイ女史を見て、女性は不思議な生き物であると思ったのである。






 そんな髪飾りをつけているサーシャ嬢であるが、ついこの前間違えて、こちらに着いてから新しく作った別の髪色にする髪飾りをつけてしまったのである。


 その結果


 「薬師様!私は空のような青色が良いです!」

 「薬師様!おらぁ、この白髪が昔のように黒く戻るようにしてほしいでさぁ」

 「私は、アリッサさんと同じ赤でお願いします!」

 「綺麗な翡翠色が良い~」

 「薬師様!髪の色ではなく、髪が生える道具はありませんか!」


 集落の女性に髪飾りの存在が知れ渡り我輩は、収穫祭の準備どころではない状況になってしまったのである。

 ちなみに、髪が生える道具は今のところ見つかっていないのである。


 収穫祭まであと2日。明日にはドラン達が戻って来るはずである。

 ギルドの評価はどうであろうか。


 我輩は、ドラン達の帰還を心待ちにしながら、言われた髪飾りを作るべく工房へ向かうのであった。






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