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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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集落に残るもの、報告へ向かうものである。


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 「ようやく戻ってきたのであるが……」

 「センセイ……」

 「何も言うなである」


 我輩達は、首長の家で鍵を貰い自宅へと戻ったのであるが、眼前に見える見慣れない建物に驚きを隠せないのである。

 我輩達が集落にいた頃は、工房兼居間兼厨房の一室と我輩の部屋とサーシャ嬢とデルク坊用の小さな客間に湯浴み場を増設した小さな平屋であった筈の我が家が、なぜか森の家よりも一回り大きい3階建ての家に増築されているのであった。

 しかも、まだ増築している部分があるのである。どこまで広くするつもりなのであろうか。


 これでは初めてこの集落に来たものは、ここが首長の家だと勘違いするのである。

 いや、もしかしたら実はここが……


 「驚いたか?」


 振り返ると、そこにはしてやったりといった顔で笑っている首長と、いたずらが成功したといった表情の奥方がそこにいたのである。


 「首長は、こっちに引っ越したのであるか?」

 「おいおいおいおい、術師様はどんなボケをかましてくれるんだ?ここは前と同じ術師様の住居だぜ」

 「何を言うのであるか。首長の家よりも立派な一般人の家があるのは帝国法にひっかかるのである。知らないわけではないであろう?」


 帝国法には、“集落内の責任者の住居がわかるように、責任者の住居は1番立派な物にすること“という一文があるのである。

 必要あるのか全くわからない条文なのであるが、存在するのだから仕方ないのである。

 だが、首長はどこ吹く風である。


 「ああ、だけど全く問題ないぜ。この家は一代候爵様の別荘ってことになってるからな」

 「あぁ、なるほど。それなら問題ないのであるな。良かったであるな、アリッサ嬢」

 「えぇ!?なんであたし!?」

 「ここの発展に寄与したのは、表向きは一代候爵様だからな。俺達はそれに感謝して別荘を寄贈したっていうわけだよ」

 「だから、ほら、ここ見てください。ここにちゃんとアリッサさんの徽章があるでしょう?」


 家のドアを見てみると、ドアの一部に狼と短剣を象った徽章が彫り込んであるのである。これは、アリッサ嬢が爵位を得たときに作った徽章である。

 わざわざこのために首長は我輩達が集落を出たあとすぐに帝都へ向かい、印章院で使用許可を貰ってきたらしいのである。


 ちなみに先ほどいった帝国法、貴族の邸宅はその限りではないという一文もあるので、これは法に触れていない事になるのである。


 「やったなアリッサ。念願の自宅を手に入れたな」

 「全く実感がないよ……」

 「でも、そうするとアリッサさんはこの地方で1番爵位が高くなってしまいますが……。」

 「だから別荘なのさ」


 首長の言葉を聞いて、ミレイ女史は得心がいったように頷くのである。


 この地方を治めている貴族の爵位は伯爵である。

 なので、それよりも高位貴族であるアリッサ嬢の本邸が存在すると、爵位の関係上統治に問題が起きてしまうのである。

 なので、統治に関わらない事を表明するために、本邸ではなく別荘を建てるのである。

 自分の本拠地はここではないので、統治には関わりませんよということである。 


 「そんなわけだから、事後承諾になるけど一代候爵様、俺達の集落全員の感謝の気持ちを受け取っていただきたく」

 「よろしくお願いいたします」


 アリッサ嬢は、大きなため息をついてから我輩の方を見るのである。


 「センセイは自宅が無くなっちまうけど良いのかい?」

 「元々空き家であった場所を譲ってもらっただけなので、住めるの場所と工房さえあればで輩としてはなんの問題も無いのである」


 我輩の言葉を聞いて、アリッサ嬢は諦めたように覚悟を決め、皆の好意を受けとるのであった。






 「うわぁ、広くなったねぇ。おね……おじさんのおうち」

 「完全に別の家であるな」

 「新しくなったアリっs……センセイの家を確認するか」


 自宅に入った我輩達は、各々自由に中を確認しだすのである。


 一応アリッサ嬢の別荘なので、これから先はそう呼ぼうとしたのであるが、本人から〈あたしは名義を貸しただけなんだから、仲間内でそう呼んだら、その日のご飯は味がないと思いなさいよ〉と言われてしまったので、対外的には″一代侯爵の別荘″、身内間では″我輩の自宅″という面倒な呼び方をしなくてはならなくなってしまったのである。


 「へぇ、一階は台所と居間と工房と湯浴び場かい。まるで森の家みたいだね」

 「アリッサおねえちゃん、湯浴み場が広くなってるよ!」

 「じゃあ、今日は女三人で入ってみようか」

 「うん!たっのしみだなぁ~♪」

 「えぇ!私は…………」

 「なにやってんだよお前らは……」


 湯浴み場を前にして騒々しくしている女性達を横目に、ダンとハーヴィーは新しくなった自宅の上階を確認しに行くのである。


 ドランとデルク坊は、荷車から荷物を下ろしているのである。

 今回はデルク坊とアリッサ嬢に加え、ドランまで大量の食料を採取しているのである。

 明日辺りから、また集落の女性陣との料理研究会でも始める気なのであろうか。


 そして我輩は、工房を確認するのである。

 森の工房よりも少々手狭であるが、元々あちらよりも置いてある道具が少ないので、当然と言えば当然である。

 しかし、森の工房の三割程度とはいえ、物置が併設されているのはありがたいのである。これで素材の置き場所が確保されたのである。


 「森の工房とは違って品質保存の魔法がかかってないから品質管理はきっちりしないとダメだよ、錬金術師アーノルド」

 「当然である。必要以上の物を運び込んで劣化させて嘆く愚は犯さないのである」

 「ドラン達が運んできた食材の事を言ってるのかな?でも、彼らならあれくらい悪く前に全部食べきりそうだようね」

 「……そんなことは流石に……と思うのであるが、ありえそうである」


 ドランはまだしも、デルク坊の体のどこにあれだけの食べ物を詰める場所があるのか知りたいのである。

 我輩は、人体の謎を感じつつ居間に戻るのであった。

 

 「部屋割りどうする?パットン以外、一人一部屋使えるようになってるけど」

 「だったら、各々好きな部屋を使えばいいのである」

 「それもそうだな」


 と、いうわけで居間に集まった我輩たちは部屋を決めていくのである。

 二階は女性陣と一室は客間、三階は男性陣、なぜかドランはここでも居間である。

 どうやら、森の家や森の集落での生活で、居間で寝ることに慣れてしまい、普通の部屋が窮屈に感じるようになってしまったようである。


 「俺がここにいれば、玄関からの侵入者にすぐ対応できるでしょ」

 「おれが花瓶を落としてもグースカ寝てるドランにいちゃんがそんなこと言っても全く説得力無いし」

 「はっはっは!言うようになったなぁデェルクゥ!俺は、置いてあるだけで効果がある魔除けの置物のようなもんよ!」

 「その言い訳苦しいよ、にいちゃん…………」


 本人がそれでいいのであれば、我輩は特に言うことはないのである。






 「ようやく落ち着いたかねぇ、あぁ、これ以上面倒事は勘弁だよ」


 少々遅くなった夕飯を摂り終え、我輩達は居間でくつろいでいるのである。

 表向きとはいえ、急に家持ちになってしまったアリッサ嬢は気疲れを起こしてしまったようで大きな溜め息をつきながらテーブルに突っ伏すのである。


 「集落長さんが、帰り際に〈収穫祭に領主様が来るから、対応よろしく〉とおっしゃってましたよ」

 「ええええぇぇぇぇぇ……。何で来るのさ……」

 「頑張れよ、一代侯爵様」

 「あんたも応対するんだよ。あんただって一代侯爵だろうが!」

 「俺は関係ないもんね~♪」


 ダンの確実に煽りに入っているその態度は、アリッサ嬢の琴線に触れてしまったようである。


 「……ミレちゃん、今度の定期報告でリリーに伝えてほしいことがあるんだけど……」

 「ちょっ!まて!わかったから!わかったから!……卑怯だぞお前」


 ダンよ、早いか遅いかだけで地獄行きはきっと変わらないと思うのである。

 そう思う我輩は、じゃれあっている二人を無視して話を始めるのである。


 「さて、ドランとハーヴィーは探検家ギルドに向かうと言っていたのであるが、いつ頃向かう予定なのであるか」


 どうやら二人は収穫祭に間に合わせるために、明日の朝には報告に向かうようである。

 特に、ドランが収穫祭で出される料理に興味津々のため、早く行って早く戻りたいようなのである。


 「で、隊長に相談がございまして」


 そう言ってドランがダンを見るのである。


 「やだよ」

 「まだ何も言ってねぇですよ!」

 「荷車牽けって言うんだろ、探検家なんだから自力で頑張れ」


 どうやら図星だったドランは、言葉に詰まるのである。

 早く移動できる手段を手に入れてしまったら、楽したくなる気持ちはわかるのであるが、勘違いしないで欲しいのである。

 その道具はそもそもサーシャ嬢とミレイ女史のものなので、ダンに確認するのはお門違いなのである。

 ダンにも同じ事を注意されたドランは、サーシャ嬢とミレイ女史に確認をするのであるが、見事に撃沈するのであった。


 「ドランとハーヴィーは、明日からギルドに向かうとして、俺達はどうするんだ?センセイ」

 「収穫祭の前は、準備がいろいろあって忙しくなるのである。我輩達はそれを手伝えば良いと思うのである」

 「ちなみに、去年はどんなことやったんだい?」


 どうだったであろう、昨年のこの頃は、腐って引き篭り出していた頃なのであまり外部の記憶が無いのである。

 それでも収穫祭の時は首長に強制的に引っ張り出された記憶が微かにあるので、それを思い出すのである。


 「普通の村などと同じであったが、昨年は収穫量が良くなかったので、かなり質素だったと首長は嘆いていたのである」

 「今年は、かなり豊作になりそうだと前回聞きましたし、集落外で採取した食材も沢山使用すると思いますので、かなり盛り上がりそうですね」


 そう、なので去年のことは殆ど参考にならない気がするのである。

 今年は皆の心からの笑顔で収穫祭を迎えることができそうである。それも、食料事情を改善させたアリッサ嬢やデルク坊のおかげである。


 「まぁ、あたしやデルッちは食材収集をやらされそうだね」

 「お前は、料理の方じゃねぇのか?」

 「ダンは、荷車で食材を運搬する係であるな」

 「それ、決定なのか?」

 「頑張ろうね!ダンおにいちゃん」

 「しょうがねぇなぁ、兄ちゃんに任せて置けよ、嬢ちゃん」

 「リーダーってあんなにちょろかったっけ?」

 「半分自棄であろうな」


 なので、今回の収穫祭は全員で協力して皆が楽しめる物にできれば良いのである。

 そう思いながら、我輩はこれからの事に思いをはせるのであった。

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