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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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辺境の集落の変化である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 辺境の集落へと歩みを進める我輩達であったが、近づくにつれてその様相の変化に驚きを隠せないでいたのである。


 「門が出来てる?」


 逆光のためによくわかっていなかったのであるが、近くに来ると簡易ではあるが、集落ので入口に当たる部分に門のようなものが出来上がっていることがわかるのである。

 門だけではなく、周囲の柵も我輩達が集落から出るときに見た、所々手直しの部分があった年期の入ったものであったのが、大分頑強に作り替えたように見受けられるのである。


 これが何を意味しているのか。


 獣や魔物などの敵性生物や、賊などの敵対勢力に襲われたのか、もしくは


 「人が結構並んでるね」

 「そうであるな」


 集落に入る際に、審査が必要になるほど人の流れが増えてしまったか、である。


 「しかし、一夏過ぎる間に変化しすぎじゃないのか?」

 「普通ならばそうなのかもしれませんが、前回私たちが集落で行ってきたことを考えれば当然の結果ではないのでしょうか」


 ミレイ女史の言葉に思い当たることがない我輩たちは、ミレイ女史に更なる説明を求めるのである。


 ・一定水準以上の薬草群生地が、集落近辺に多数確認されていること

 ・珍しい食材が多数発見されていること

 ・帝国内でも恐らくこの集落でしか存在しない魔法技術を利用した″湯浴み場″という施設が存在すること。

 

 「そして、これらを主導していたのが、特Aクラス探検家のアリッサさんと言われていることだと思いますよ」


 我輩は、基本的に表に出るつもりは全く無いので、こういう功績はすべてダンやアリッサ嬢達に渡してきたのである。

 ミレイ女史の苦笑い混じりの説明を聞いて、ドランとハーヴィーは納得の表情を浮かべるのである。


 「魔法研究所の研究員と、その助手達が行ったと言われる魔法の学習会のことを忘れてないか?」

 「森の調査が終わってからまた開く約束してるからねぇ。その噂を聞いてやって来てる連中もいるかもしれないよ」


 ダンとアリッサ嬢に思わぬ反撃をされたミレイ女史は、夕焼けで赤く染まった顔をさらに赤くさせて、それ以上の口撃をされないようにワーワー騒ぐのである。

 ミレイ女史もすっかり馴染んだようで何よりである。


 我輩は、全員が気兼ね無く話せる間柄になったことに喜びを感じながら、入場受付をすべく集落の門へと向かうのであった。




 


 入場受付をするべく門へ向かう我輩達であったが、あまり、今の状況を他のものにジロジロ見られて注目を集めたくないとも思い、受付の列が無くなるまでまってから受付に向かうことにしたのである。


 「まぁ、これがねぇ」


 苦笑いを浮かべたアリッサ嬢が言っているのは、大量の魚が所せましと泳いでいる水の塊である。

 いま、我輩はこれが門を通ることができるのかというのが気になっているのであるが、それは行ってみないことにはわからないのである。


 最後の受付も終わったので、我輩達が門へと向かうと、ちょうど門を閉めようとしているところであったのである。

 いままでと違い、門がしっかりできてしまったのであまり遅い時間には集落には入れないようになってしまったのである。

 まぁ、いままでそんなことをした事もないのであるが。


 何とか門が閉めようとした者が、我輩達に気付いて門を閉めるのを待ってくれているのである。

 ここらへんが緩いのが帝都と違うところである。帝都はそういう規律には厳しいので、門限に間に合わないと貴族でも締め出されることがあるのである。


 「あなたたちで最後ですね。入ったら先に門を閉めますから、早く入って……」

 「おい、いったいどうし……」


 我輩達に早く入るように指示しようとした若者が、我輩を見て驚きの表情を見せるのである。

 若者の様子をみて、何事かとやって来たおそらく探検家も、ダンの姿を見て動きが止まるのである。たしかこの探検家は、青空教室の生徒だった若い探検家である。

 もしかして、この集落を拠点にして活動するようになったのであろうか。それならば我輩も嬉しいのである。

 いやいや、そんなことよりも受付をしないと中には入れないのである。


 「申し訳ないのであるが、受付を……」

 「薬師様!薬師様が帰ってきた!」

 「いや、受付を……」

 「みんなぁぁぁ!薬師様が帰ってきたぞおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 若者は、我輩達を放置して集落内へ叫びながら走っていってしまったのである。

 受付はどうするのであろうか、責任感の無い者がこの仕事をやっていてはいけないのである。後で首長に報告しておかないとである。

 若者が駄目ならもう片方の若い探検家に受付をお願いしようと思ったのであるが、そちらもそちらで似たような状況になっていたのである。

 ダンが、どうにか受付をしようとするのであるが、探検家の方がのらりくらりとしていて受付をさせようとしないのである。

 我輩達は何かをしでかしたのであろうか。早く受付を済ませたいだけなのである。


 そうこうしているうちに、集落の内部が騒がしくなって来たのである。

 なにやら明かりを持った集団がこちらにやってくるのである。

 何か言っているのでよくよく耳をすませて聞いてみると、薬師様だの、導師様だの、術師様だの言っているのである。


 我輩は、これが嫌だから早く受付を済ませて家に行きたかったのであるが、それを邪魔した若い探検家を見ると、良い笑顔を見せているのである。

 あの若者が集落に触れ回っている間、時間稼ぎをしていたのであるか。

 余計な気は回してほしくなかったのである。


 明かり持ったの人の集団は数をどんどん増やしてこちらにやってくるのである。

 今は夕食の時間のところも多いはずなのである。なのになんでこっちにやってくるのであろうか。

 ほぼ集落全員近いほどの人数が集まった集団は、我輩達の前で止まるのである。

 その中から、一つの明かりが前に出るのである。


 「先触れを出してくれたら皆でちゃんと出迎えたのに、急に来るから来れない奴らだっていたんだぞ」

 「こうなるのがわかるから何も言わないのである。そもそも、他の者と同様の扱いをして欲しいのである」


 我輩の言葉に、前に出てきた体格の良い精悍な顔つきをした男性が、愉快そうに笑うのである。


 「そりゃ無理な相談だな。こんなにこの集落が発展したのは、全部あんた達のおかげなんだからな」


 その声に周りの連中も、そうだそうだの大合唱である。

 そんな中、前に出ている男性が我輩に言うのであった。


 「長旅お疲れ様。待ってたぜ、術師様」

 「……ただいま戻ったのである。首長。とりあえず、早く家に戻りたいので受付させてほしいのである」


 こうして、ようやく受付の済んだ我輩達は集落へ戻ってきたと言えるのであったのである。






 前回同様に、我輩達を出迎えた首長とともに、いろいろ歓迎したがる住人達を何とか解散させた我輩達は、家の鍵を貰いに首長と共に彼の家に向かうところである。


 「いやあ、悪いな。お土産を貰っちまってさ」

 「前回は、皆に出迎えてもらったから、今回は一軒一軒こちらが回って挨拶する予定だったのである」


 首長が言っているのは、水の塊の中にいる魚のことである。集落のほぼ全世帯の者が迎えに来ていたので、魚を帰す際に渡していったのである。来ていないところの者には近くのものに渡すように頼んだのである。

 そんな我輩の言葉を聞いて、首長は喉を鳴らすように笑うのである。


 「だったら余計にこの方が良かったな。一軒一軒なんか回ってたら明日になっても回りきれないぜ」

 「まぁ、全部の家でもてなされそうだな」

 「そんな勢いだよね。センセイは、こういうところの見通しが甘いよね」

 「それにな、急ごしらえで門を構えないといけない程度には移住希望者が増えてな。集落の中も結構変わってきたんだ」


 どうやら、この夏の間に集落の噂がいろいろなところに広まったらしく、移住を希望するものが続々とやってくるようになったのである。

 おかげで、現在この集落は人口が120人を越したのである。今でも移住希望者がやってくるので、今では集落維持のため移住を制限せざるをえない状況になってしまっているのである。


 「へぇ、120ってほぼ5割り増しじゃないか」

 「それもこれも、術師様達のおかげだからな。俺も含めて、前まで集落にいたものは全員あんた達に足を向けて寝られないくらい感謝してるのさ」


 全く持って大袈裟だと我輩は思うのであるが、何を言っても無駄な気がしたので我輩は黙るのである。

 しかし、人口が100人を越したのは朗報である。年々集落の人口が減って、あと数年でここを放棄するのでは無いかと囁かれていたのである。

 今も移住希望者が増えているとの事なので、この調子で増えつづけてくれれば良いのである。辺境なので、土地だけはたくさんあるのである。そうそうあぶれると言うことはないと思うのである。


 「あと、観光客も結構来るようになってな。宿場と食堂が増えたんだ。なかなか美味いから、今度一緒に食いにいこうぜ」


 食堂の話を聞いて、デルク坊とドランの顔がキラキラと輝くのである。アリッサ嬢の作るご飯が絶品だとしても、他の食べ物も求める辺り、食に対して貪欲過ぎるのである。

 アリッサ嬢の方を見てみると、研究する気満々である。我輩は思うのであるが、提供される料理のほとんどはアリッサ嬢とともに研究したメニューだと思うのである。


 「連中は、飯も目当てなんだけど、1番はあれだ」

 「あれ?」


 首長が指差すところを見ると、見慣れない建物があるのである。

 よく見ると、煙であろうか、もくもくと立ち上がるものが見えるのである。

 疑問を浮かべる我輩の表情をみて、首長は嬉しそうに話すのである。


 「ありゃ、湯浴み場だよ」

 「湯浴み場であるか」


 どうやら集落で大きな湯浴み場を一つ作り、夕方からの数時間限定ではあるが集落にいるもの全てに解放しているようなのである。

 水源は、温度調節の水魔法が使えるものがお湯を出し、そのあとの保温は薪を燃やすことで行っているようである。


 「本当は、もっと長時間解放したいんだけどな。薪だってあまり使うわけにはいかないからな」

 「そうであるな。娯楽施設のために冬が越せなくなってしまったら本末転倒である」

 「分かってるじゃねぇか。女性陣にはなかなかそれがわかってもらえなくてな……」


 我輩の言葉に大きく頷くと、首長は我輩達がいない間に起きた、我輩以外に話せず心に溜めていた苦労話などを、いろいろ話ながら自分の家に我輩達を案内するのであった。






 

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