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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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牽引役と、これからのことである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。





 ダンは、新しい玩具を貰った子供のように、【浮遊の荷車】を振り回して遊んでいるのである。それを見たドランが、荷車を奪い取ろうとしているのである。

 力バカにとって、大きなものを振り回すのはロマンなのであろうか。壊さないか心配である。


 「すげえすげえ!重さをほとんど感じねぇ!うっはははははは!」

 「ちょっとリーダー!危ないから振り回さないでよ!」

 「隊長!楽しそうじゃないですかい!俺にもやらせてくださいよ!」

 「バッカヤロウ!これは、デリケートに扱わないといけないんだぞ!お前みたいのが扱ったらぶっ壊れちまうよ!」

 「あんたたち!いい加減にしなよ!サーちゃんとミレちゃんが、頑張って作ったのをそんな扱いしていいと思ってるのかい!!!」


 アリッサ嬢の言葉を聞いて、荷車の取り合いをしていたダンとドランは動きをピタリと止めるのである。


 「あんたたちがそんな風にしてるから見てごらんよ、二人とも不安そうじゃないの!」


 そう言われて我輩も二人を見ると、ミレイ女史はハラハラとした表情を浮かべ、サーシャ嬢はちょっと泣きそうである。

 その様子を見た二人は、荷車を置いて二人のもとへ駆け寄るので、我輩はその間に、荷車の魔法を解除するのである。


 「二人とも、私たちが一生懸命作ったのに、振り回して遊ぶなんて酷いよ…………」

 「用途とは違う使い方をして、問題でも起きてらどうするおつもりだったんですか?」

 「いや、あの、すまんかったです。あんなでかいのを軽々振り回してるを見てたら、俺もやりたくなっちまいまして………」

 「二人が作ったんだよな、ごめんな。つい、先生か作ったのだと同じように雑に扱っちまった」

 「ダンおじさん!おじさんの作るものだって雑に扱っちゃダメなんだよ!」

 「嬢ちゃん、おれはおにいさん……」

 「いけない事する人の言うことなんか聞かない!」

 「えぇー………」

 「良い気味でさぁ」

 「あなたもですよ、ドラン。あなた食事は当分お肉にしてもらうようにアリッサさんに頼んでおきます」

 「え゛?」

 「つまみ食い防止のためにお肉番も外してもらいますから」

 「いやいやいや、おれは何にもしてないぜ?厳しすぎだろミレイ?」

 「こういうのは最初が肝心です」

 「おれは躾のなってない犬か何かか!?」

 「良い気味だぜ」

 「おじさん!まだお話終わってないよ!」

 「はい…………」


 安心したら怒りがわいてきたのであろう。

 二人の初めて作った大物を変な風に弄ばれたのだから、怒るのも当然である。

 特にサーシャ嬢、我輩のなら良いとかいう言い訳をしているダンの性根を直してほしいのである。


 怒り心頭の二人とこっぴどく怒られる二人の様子を眺めながら、我輩はそんなことを思うのである。






 「それで、この道具の魔法効果は確認できたが、何で牽かせるんだ?」

 「そういえばそうですね、道具を作っている間も牽引用の獣を馴致していませんでしたし」


 我輩はその質問に、自信をもって答えるのである。いろいろ考えたのであるが、やはりこれが一番いいのである。


 「獣など必要ないのである。これを牽くのはダンである」

 「はあ!?何で俺が?」

 「馬と同様の速さで長時間動くことができ、コミュニケーションをきちんととることができるダンがいるのに、なぜ獣などを馴致しないといけないのであろうか?」

 「いやいや、何を言っているのかわからねぇよ」

 「それに、である。あの道具を渡したときのあの喜びよう。あれはまさに、これを扱っていいのは自分だけだと言っていたようではないかと我輩は思うのである」

 「そう言われると、確かにそうだねぇ。あれだけ気に入ってたのなら、リーダーに牽いてもらうのが一番良いかもしれないねぇ」

 「いやいや、だったらドランだって良いじゃねぇか」


 そう言われれば、ドランも扱いたがっていたのである。我輩は少し考えて当初の考えを修正するのである。


 「そうであるな。だったら、ドランには速度が人が多い街道を進む時や、ダンが疲れた時に交代で牽いてもらうことにするのである」

 「ちょっと!隊長!何巻き込んでるんですかい!」

 「お前だって荷車扱いたがってただろうが。喜べよ。好きなだけ扱わせてやるから」

 「それとこれとは話が違うじゃないですかい」

 「じゃあ何だ?お前は嬢ちゃんとミレイが初めて作ったこの記念すべき荷車を扱いたくないっていうのか?」

 「そんなことは言ってないですぜ」

 「じゃあ、ドランが牽くってことで決定だな!」


 あれだけ荷車を気に入っていたのに、急に及び腰になったダンはどうにかドランに押し付けようとしているのである。だが、そうはいかないのである。


 「ねぇ、おじさんは牽いてくれないの?」

 「あ、いや、嬢ちゃん。ほら、俺はリーダーとしてな?」

 「ダンおにいちゃん、私たちの作った道具を牽いてくれないの?」

 「ぐぅっ!……嬢ちゃん、残念だけど俺はやることが他にもたくさん……」

 

 ダンの攻略方法を知ったサーシャ嬢が、いいタイミングで攻勢を仕掛けるのである。

 しかし、ダンも2度も同じ手で負けるわけにはいかないと、必死で抵抗をするのである。


 「……に、にいさん……サーシャちゃんと、わ、わたしが一生懸命作った荷車を……牽いてください!」

 「…………はぁぁぁ。わかったよ」

 

 しかし、一撃でダメなら追撃である。アリッサ嬢から入れ知恵されたミレイ女史が、ダンに追い打ちをかけるのである。美人と評されるであろうその顔を恥ずかしそうに真っ赤にして伏せ、腹部のあたりで握っている手をもじもじしながら上目遣いでお願いするその姿を見て、ダンは陥落したのであった。


 「やったぁ!お兄ちゃん大好きっ」

 「に、兄さん……だ……大好きっ。は、恥ずかしい……」


 二人の美少女に抱きつかれてダンは、困ったようにため息をつき、苦笑いを浮かべているのである。しかし、我輩にはわかるのである。ダンは満更でもないのである。


 「珍しくデレついてますね」

 「隊長も男ってことですかねぇ」

 「美少女に囲まれて良かったね!お・に・い・ちゃ・ん♪」

 「アリッサ……覚えておけよ。あと、お前のそれはかわいくない」

 「酷くないかい!?」

 「あはははははははは!」

 「パットンは笑いすぎだよ!」


 多少の回り道はしたのであるが、これで牽引役も決まって安心である。

 この後、全員を乗せて試乗してみたのであるが、特に問題もなく運搬できたのである。


 こうして、我輩たちは新たな移動手段を手に入れたのであった。






 無事に【浮遊の荷車】を完成させた我輩たちは、その日の夕飯後に今後の方針を決めることになったのであるが、ハーヴィーとドランから、ある提案があったである。


 「探検家ギルドに戻る、であるか?」

 「はい。この付近の地図もだいぶ埋まりましたし、ここら辺に生息している生物についてもだいぶ調査が進みました。なので、一度探検家ギルドに報告に行ければと思いまして」

 「それに、俺もそろそろギルド証の更新日が近いんですわ。なので、ついでにここで更新しておこうかと思いまして」


 探検家ギルド員は、年に一度どこかのギルドで依頼を受けるか、未知の地域の調査結果を報告してギルド証の更新をする義務があるのである。


 「あー、そんなのもあったか」

 「すっかり忘れてたねぇ……って、ドラン、あんたそんなに仕事してなかったのかい?」

 「今のクラスになったら、あまり金に困らなくなったから遊んでましたわ」

 「呆れたねぇ…………」


 ダンやアリッサ嬢は、我輩の専属探検家という形なので、もう更新義務は無いそうである。ハーヴィーとドランは、ダンから大森林の調査という名目で依頼を受けている探検家なので、更新義務が発生するのである。

 で、あればこの二人も専属にすればという話なのであるが、専属契約を結べるのは帝城に報告されるBクラス以降からなのである。


 「で、あるならば我輩たちは辺境の集落で待っているので行ってくるのである。たしか、時期的にそろそろ収穫祭が行われると思うのである」

 「収穫祭?」


 首をかしげるデルク坊に、ミレイ女史が説明をするのである。

 収穫を祝ってたくさん料理が出ると知って、デルク坊はじゅるりと涎を啜るのである。


 「行こうぜ!おっちゃん行こうぜ!」

 「うん!私も皆に会いたい!」

 「あそこまでなら安全だし、皆サーシャ達の事を知ってるから、安心だしね」

 「もしかしたら、集落の皆様から何かお願いがあるかもしれませんし」

 「では、今回は荷車の最終試験をかねての本使用であるな。ダンよ、よろしく頼むのである」

 「へいへい」


 特に反対意見も出なかったので、我輩たちは収穫祭の参加と、探検家ギルドに活動報告をするために、辺境の集落へと向かい事に決定したのであった。






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