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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
4章 新たな移動手段と辺境の収穫祭、である
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我輩の抱える問題点である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 サーシャ嬢の活躍により、素材候補であるウィスプという謎の物質の確保と、【浮遊】の構成魔力の確認ができた我輩は、サーシャ嬢を休ませるために、湯浴み場まで抱えて運び入れ、ミレイ女史に後の事は任せて道具の作製に取り掛かるのである。


 しかし、である


 「……」

 「動かないねぇ。錬金術師アーノルド」


 妖精パットンが我輩の頭の上に寝そべり、暇そうに頭を髪の毛をぱたぱたと蹴飛ばすのである。


 確かにサーシャ嬢は、【浮遊】の構成魔力を動かしたのである。今もその余韻で水色に輝く構成魔力だけが緩やかに動いているのがその証拠とも言えるのである。

 しかし、我輩がどれだけ制御しようとしても全く反応がないのである。

 錬金術が、"魔法が使えない人間のための魔法技術"である以上、我輩がこの構成魔力を制御できない。と、いうことは無い筈なのである。


 「錬金術師アーノルドが【浮遊】の構成魔力を扱いづらいのは、浮遊と言うもののイメージを、錬金術師アーノルド自身が掴みきれていないんだろうね」


 そうなのである。他の構成魔力だと、大体これであっているであろうと、自分の中での概念的なものが1つ出来上がるのであるが、どうにもこの【浮遊】という構成魔力のイメージがその名前の通りフワッとしていてうまく掴みきれていないのである。


 「この構成魔力のイメージに関しては、さっきも言ったけど、錬金術師アーノルドよりも、サーシャの方が向いていると思うよ」

 「妖精パットンの言うとおりだとは思うのであるが、我輩も制御できた方が良いのである」

 「じゃあ、サーシャみたいにイメージしてみるかい?"プカプしてフワフワっと"するんだよ」


 何て答えるかなど分かっていて、敢えてその質問をする辺り、なかなか妖精パットンも意地悪な妖精である。


 「…………我輩にはそのイメージを持ち続けるのは無理であるな」

 「より深くイメージを掘り下げようとして訳がわからなくなるんだよね」

 「我輩の思考を読んだのであるか?」


 そう言った瞬間、思いきり頭を蹴られたのである。その抗議の仕方は頭が痛いので止めて欲しいのである。


 「失礼な男だね、君は。いくらボクだって、本気で駄目だと言われたら、もうやらないよ」

 「わかったのである。失言であったのである。だから頭を蹴るのはやめるのである」


 我輩の謝罪で、一応頭を蹴るのは止めた妖精パットンであったが、何やらぐちぐちと言うのは続いているので、とりあえず生返事を返すのである。


 「全く君は。何でそんなに穿った物の考え方しかできないのかなぁ」

 「それはおそらくダンのせいであるな」

 「人のせいにするのは良くないと思うよ。錬金術師アーノルド」

 「事実であるから仕方ないのである」

 「ふふっ。本当に、君達は仲が良いねぇ……」

 「今の会話の流れでどうやったらそう思われるのか、教えてもらいたい所である」


 少しずつ妖精パットンの声がいつもの調子に戻ってきたようである。何とか機嫌を直すことに成功したようである。


 「ふふ……アーノルド様とパットンだって仲が良いと思いますよ」


 サーシャ嬢の事を任せていたミレイ女史が工房に入ってくるのである。先程とは違う服を来ている辺り、きちんとした女性であると思うのである。


 「そうだろう?ボクはだいぶ錬金術師アーノルドのことを理解できたくらいに仲が深まったと思ったのに、彼は魔法を使っていると疑っているんだ。怒っておくれよミレイ」

 「あらあら……、アーノルド様。そのような穿ったものの考え方ばかりしていますと、お友達がいなくなってしまいますよ」

 「それは、ダンのせいなので怒るなら奴を怒ってほしいのである。ミレイ女史、サーシャ嬢は?」

 「湯浴みを一緒にした後、お部屋に連れていったらすぐ寝ちゃいました。だいぶ消耗したみたいです」

 「そうであるか」


 こちらにやって来たミレイ女史は、釜を覗き込むのである。中の構成魔力に変化がないことから、我輩が全くこの構成魔力を扱えていない事はわかるであろう。


 「私も挑戦してよろしいですか?」

 「当然である」


 ミレイ女史は我輩の言葉を聞くと、釜に向けて手を突き出し、そのまま集中を開始するのである。

 時間にして1分ほどであろうか。サーシャ嬢の時と同じく、水色の構成魔力がゆっくりと動き出すのである。

 暫く構成魔力を制御していたミレイ女史であったが、限界を迎えたのか集中を解くのである。


 「サーシャちゃんが言っていた通り、今までの構成魔力と比べるとかなり反応が鈍いです」

 「どんな感じなのであるか?」

 「初めて圧縮された魔力をを扱おうとしたときのような反応の鈍さを感じました」

 「なるほどである。サーシャ嬢はまだ、圧縮を用いた道具の作製をしたことがないから感覚がつかめなかったのであるな」

 「錬金術師アーノルドは、それを聞いても先にやることがあるんだからいみないじゃないか」

 「何を言っているのであるか、すぐに出来るようになるのである」

 「反応が起こる兆しすら見えていないのにかい?」

 「妖精パットンも、最近ダンのようになってきたのであるな…………」

 「それだけ錬金術師アーノルドに馴染んだっていうことさ」

 「嫌な馴染み方であるな」

 「………なぁ…………」

 「うん?何であるか?」

 「い、いえっ!何でもないです!」


 我輩達の様子を少々羨ましそうに見ているミレイ女史に疑問を抱きつつ、我輩は気になることを聞いてみる事にするのである。


 「そんなことよりミレイ女史、質問である」

 「はい?なんでしょうか?」

 「ミレイ女史は、我輩と同じ方法で構成魔力をイメージする筈である。なぜ、我輩と違い構成魔力を制御することができたのであるか?」

 「あ、それは……」

 「ちょうど良い定義を見つけたのであるか?もしそうであれば教えてほしいのである。」

 「え?あの……」

 「サーシャ嬢とは違うイメージがあるのであれば、それでもいいので…………」


 気持ちが逸る我輩が、ミレイ女史に詰め寄ると、頭に衝撃が走るのである。どうやら妖精パットンに頭をかなり強く蹴られたようである。


 「どうどう、羨ましいのはわかるけど、いい年をした男が、若い女性にがっつき過ぎだよ、錬金術師アーノルド。ミレイが怖がっているるじゃないか」


 我輩とした事が、羨ましい気持ちが前面に出てしまい暴走してしまったようである。落ち着いてミレイ女史を見ると、笑顔で対応しようとしてくれているのであるが、若干涙目で、笑顔も引き攣ってしまっているのである。


 「ああ、申し訳ないのである。怖かったであるか?」

 「いえ、少し驚いてしまっただけです。こちらこそすいません」


 ミレイ女史は、落ち着きを取り戻すと我輩に説明をしてくれたのである。

 それによると、初めて魔法を使うときは、ほぼ全ての者がサーシャ嬢のような漠然としたイメージで制御することになるようなのである。

 それから徐々に知識を得て詳細にイメージを持つことで、複雑な制御を可能にしていくのが人間が行う魔法の成長の仕方のようなのである。


 「つまり、錬金術師アーノルドのやり方は、いきなり応用からスタートしてるようなのもなのかぁ」

 「大人になってから、魔法の適正を得た者が陥りやすい傾向だそうですよ」

 「矯正するにはどうすればよいのであろうか」

 「訓練あるのみです」

 「看も蓋もないのであるな」


 尤もであるが、一番難しい事をさらっと言われた我輩は途方に暮れたい気分である。


 「"プカプカでフワフワ"とかイメージする錬金術師アーノルドとか、イメージが湧かないよ。あはははははは!」

 「うふふ…………確かに私も想像がつかないです…………アーノルド様も、意外な欠点ですね……ふふ……かわいい……」


 そんな我輩に追い討ちをかけるように笑う二人である。

 特にミレイ女史、かわいいとはなんであるか。まったく

 我輩の欠点を改めて実感ながら、愉しそうに笑い合う二人を見て、我輩は深い溜め息をつくのであった。





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