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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
64/303

家に客人がやって来たのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 森の家に戻ってからおよそ一月、暑さがいっそう厳しくなってくるこの時期に我輩の家に来訪者があったのである。


 「センセイー!お客様を連れてきたぞー」

 

 ここ数日、今まで行っていなかった森の家周辺の探索をしていたダン達が、誰かと一緒にこちらに戻ってきたのである。

 研究を一度中断して、我輩は来客の対応に向かうのである。そこには見知った顔が何人もいたのである。


 「遊びにきたよ!」

 「いらっしゃい!」

 

 我輩と一緒に玄関にやってきたサーシャ嬢を見つけた見知った顔の一団にいた子供が、サーシャ嬢に笑顔で手を振り、サーシャ嬢もそれに応じるのである。


 「久しぶりであるな」

 「私達森の民からすれば、最近あったばかりという認識ですよ」


 やってきたのは親御殿家族と、親御殿のチーム全員である。


 「ねぇ、おじさん。フィーネちゃんとお外で遊んでいい?」

 「あまり遠くに行かないようにするのである」

 「じゃあ、一応ボクが着いていくよ」


 そういうと、サーシャ嬢とフィーネ嬢と妖精パットンは外に出て行くのである。

 我輩達は、それを見送ると会話を再開するのである。


 「紙人形の在庫がもうなくなったのであるか?」


 我輩の言葉に、親御殿は首を横に振るのである。


 「そういうわけではないのですが、少々問題がございまして……」


 そう言っている親御殿の顔は苦笑いである。一体何なのであろうか?


 「ああ、立ち話もあれなのである。こちらに座って……」


 我輩が、居間に通そうとしたのであるが、ダンに止められたのである。


 「ダン?どうしたのであるか」

 「多分説明を聞くより実際に見た方がいいぜ。まあ、外に一度でてくれよセンセイ」


 ダンに促され、我輩は玄関の外に出るのである。


 「これは……なんとも、まぁ」

 「毎日どんどんとやってきて下りまして、こちらに置いていても意味がないということで、持ってきたわけです」


 そこには、何個もの袋にぎっしりと詰まった、魔物の核や薬草、木材や鉱石などといった素材や見たことのない食材が並べてあったのである。


 「こちらの工房には状態維持の魔法がかかっている倉庫がある筈でしたので、とりあえずこちらに持っておけば何かの研究などに使えるかなと。それと、これが目録です」


 手渡された紙には、森の集落を起点にどのあたりにある集落が何を持ってきたのか。それが、集落でどういう風に使われているのかというのが書かれているのである。


 「この食材、帝国内だとかなり貴重だって言われてる奴じゃないか。それに、これは何だい?見たことが無いねぇ」

 「アリッサねえちゃん!悪くなっちゃう前に保管庫に入れておこうよ」

 「確かにそうだね。デルっち、ミレちゃん、手伝っておくれ」


 アリッサ嬢がそういうと、デルク坊とミレイ女史が食材の入った袋を保管庫へ持って行くのである。あの大きな袋を普通に持って行けるようになったあたり、ミレイ女史もだいぶ力が付いたようである。


 「じゃあ、こっちは俺らが運んでおくわ。センセイは、お客さんの応対を頼むぜ」

 「分かったのである。では、こちらである」


 素材の入った袋を抱えたダン達を残し、我輩は客人を中に通すのである。


 




 中の居間に客人を通した我輩は、座っている全員に茶と菓子を配るのである。


 「アリッサ嬢やミレイ女史がいま食材を入れている最中なので、我輩の煎れた茶になってしまうのであるが申し訳ないのである」

 「いえいえ、構いません」


 二人の入れる茶はとても美味しいのはここにいる全員が知っていることなのであるが、現状を知っているので不満等は出さないでいてくれるようである。ありがたいことなのである。


 「あら?このお菓子……」


 出された菓子を一口入れた奥方が不思議な顔をするのである。


 「うん?美味しいじゃないか。どうしたんだい?」

 「ええ、美味しいんですよ。でも、どこが美味しいって表現が上手くできないというか」

 「……そういわれるとそうだな。何とも捕らえ所の無い味だ。美味いってことはよくわかるんだが……」


 奥方の言葉に隊長の女性も一口食べ、納得のいった表情を浮かべるのである。


 「これは、我輩が作った茶菓子である。厳密に言うと、その茶も我輩の作った茶である」

 「アーノルドさんは料理ができましたっけ?」

 「そういえば、この茶も美味いけど特徴が無い味だな。何の茶なんだ?」


 我輩の言葉に次々と質問が飛び交うので、それに一つ一つ答えていくのである。


 もちろん、茶菓子も茶も我輩が錬金術で作った基本的なものである。

 他の道具などと同様に、料理も素材の鮮度や品質で味などがだいぶ変化してしまうのであるが、そこはこだわりのあるアリッサ嬢である。

 我輩同様、ある程度の品質以下のものは使用しないようにしているので、ここの食材はそれなりにいいものが揃っているのである。なので、我輩が作る錬金術料理も基本的に美味しいものが出来るのである。

 失敗するときは、自分なりの味を表現しようとしたときだけである。

 この前、それがばれて以来我輩はレシピ通りの料理を作ること以外を禁じられているのである。


 我輩は、研究で素材を減らしてしまうことは気にしないのであるが、食材の管理はアリッサ嬢の管轄である。我輩にどうこう言う権利は無いのである。


 「へぇ、これも錬金術で作ったものなんですね」

 「因みに、奥方と親御殿が今使っているカップは、サーシャ嬢が作ったものである」

 「あの子が……これを」


 まじまじとカップに注がれていた茶を眺めていた奥方は、我輩の言葉を聞いて感慨深げにカップの方を見るのである。

 奥方には美しい花の模様が描かれ、親御殿には森の模様が描かれているカップは、親御殿家族がやって来たときに使ってもらおうと、サーシャ嬢が一人で素材集めからして作製したものである。

 そこまで話した後で、もしかしてサーシャ嬢は自分でこれを出したかったかもしれないのではないのであろうか。と言うことに気づいてしまったのである。なので、一度食器を下げて誰にも見つからないように洗い、綺麗に拭いて元の場所に戻し、全員に口裏を合わせてもらうように頼んだのである。

 全員笑って応じてくれたのである。皆いい人で助かったのである。


 「茶を作るって液体状でカップに具現化するんですか?」

 「違うのである。粉末状にして、湯で溶いているのである」

 「あぁ、なるほど粉状ですか…。その方法は良いですね。持ち運びが簡単で、保存も効きそうです」

 「そうだな。集落に戻ってみたら団長達に提案してみるか。錬金術師殿、よろしいか?」

 「構わないのである」

 

 我輩が作った茶の具現化方法が思いの外捜索団のメンバーの興味を引いたようである。茶葉として再構築するのが面倒なだけであったのであるが、意外に評価が高くて嬉しかったのである。


 「しかし、6人であるか」

 「どうしましたか?」

 「部屋割りをどうしようかと思うのである」


 現在森の家は、一階の居間にドランが寝ており、二階はデルク坊とサーシャ嬢の個室とアリッサ嬢とミレイ女史の共同部屋があり、三階が我輩とダンの個室、屋根裏にハーヴィーが寝ているのである。


 「お気遣いなく。私達3人は野宿でも問題ないので、彼等家族を泊めて頂ければ」

 「いや、さすがに客人にそのようなことをさせるつもりはないのである」

 「それだったら、隊長さんはアリッサのところで、あと二人は俺とハーヴィーの所で泊まれば良いんじゃないか?そちらが問題なければ、だが」


 ちょうど荷物を運び入れている最中のダンから提案があったのである。


 「僕は、全然構いませんよ」

 「私達は、泊めていただけるならなんの文句もありません」

 「あとはアリッサの許可が降りれば…………」

 「何か言ったかい?」


 ちょうど、食材を保管庫に入れ終わったアリッサ嬢がやって来たので、事情を説明したのである。


 「ああ、私は問題ないよ。ミレちゃんは?」

 「私も大丈夫です」


 おそらくサーシャ嬢とデルク坊は、親御殿達と相部屋になることを拒否するとは思えないので、これで部屋割りの問題はほぼ解決したと言って良いと思うのである。


 「では、我輩はみんなの分の寝具を用意するのである。ダン、手伝ってほしいのである」


 我輩はそう言って、工房へ向かうのであった。






 「それで?俺は何をすれば良いんだ?さすがに今の時間から六人分の布団を作れるだけの羽毛を用意しろって言われるときついぞ」

 「出来ない、と言わないところが恐ろしいと思うのである」


 冗談はさておき、寝具であるが今回は我輩達が使用している、綿の布団を作るには素材が足りないので、 草布団を作ろうと思うのである。


 「草をたくさん刈ってきて欲しいのである」

 「草布団か、わかった。草を入れる布はあるのか?」

 「麻の袋なら倉庫にたくさんあったので、客人には申し訳ないのであるがそれを使う予定である」

 「まぁ、あるもんで作るしかねぇからな最悪俺たちがそっちを使えば良いしな」

 「確かにそうであるな」


 ダンはそう言うと、颯爽と部屋の外へ出ていったのである。こういうときのダンはやはり頼りになるのである。

 普段も我輩にも絡まずにこうしていれば良いものを…………。


 我輩はそう思うと寝具用の袋を用意するべく素材を用意するべく、倉庫へと向かうのである。


 倉庫内で、人数分の布団になるくらいの袋の素材を確保した我輩は、工房へと戻るのであるが、工房にはサーシャ嬢とフィーネ嬢が魔法銀の釜の前で何かを話しているところであった。


 「ごめんねフィーネちゃん。遊びに来てくれる頃までには動くお人形作れるようにするっての言ってたのに、全然出来てなくて」

 「ううん、れんきんじゅつし様だって、お人形できたのはたまたまだったんでしょ?多分とっても難しいんだよ」

 「後ね…………私達森の民って、魔法陣を使っても意思の魔法って使えないって姥様が言ってたの」


 サーシャ嬢の言葉に、フィーネ嬢は悲しそうな顔を見せるのである。意思の構成魔力を扱えないということは、どういうことか、というのがわかったのであろう。


 「じゃあ、もしかしたらお人形作れないかもしれないの?」

 「もしかしたら…………」

 「そんなことはないのであるよ」


 我輩の声に、二人は驚いたようにこちらを見るのである。


 「おじさん?どこにいたの?」

 「客人の寝具の素材を用意しに倉庫にいたのである」

 「れんきんじゅつし様、私達でもノルドみたいなお人形って出来るんですか?」


 フィーネ嬢の言葉に、我輩は力強く頷くのである。


 「サーシャ嬢の曾祖母であるノヴァ殿は、人間のような魔法を扱うことのできないもの達でも魔法に似た道具を作れる技術として錬金術を考案したのであるなので、意思の魔法の適正がない森の民でも道のりは簡単ではないが…………」

 「……??」

 「おじさん、もっと分かりやすくゆっくり教えて?」


 どうやら興が乗ってしまい、早口で捲し立てるように喋ってしまったため、フィーネ嬢は理解が追い付かなくなってしまったようである。そうである、目の前にいるのは少女なのである。我輩より大分年上ではあるが。


 「……ああ、すまなかったのである。簡単に言えば、難しいけど、凄く頑張れば出来るようになるのである」

 「そうだよ!もしできなくても、できるようになるから!」


 それは、種族の枠を越えるつもりであるのか?と穿ったことを考えてしまうのであるが、それくらいのつもりで頑張るということなのだろうと思い直しすのである。


 「だから、これからも諦めずに頑張るのである」


 そんな我輩の言葉に二人は元気よく答えるのであった。


 「お?嬢ちゃんたちはここにいたのか。帰ってきたら外で見かけなかったから、ちょっと心配したぜ」


 そこに、大量の草の入った袋を持ったダンが戻ってくるのである。


 「やっぱり隊長はすげぇな!やっぱり、これから戦闘訓練やりましょうや!」


 それに続いてドランも手伝っていたのか、草の入った袋を持って入ってくるのである。


 「やらねえよ。お前とやると疲れるんだよ」

 「お?それだけ俺が強くなったってことですかい?」

 「お前がしつこいだけだ。そもそも賭けに負けたんだから、諦めろ」


 どうやら、ダンとの戦闘訓練を景品に、ドランを草刈りに巻き込んだようである。


 「俺は諦めませんぜ!じゃあ、明日やりましょう!」

 「やらねえよ!」


 頭をダンに叩かれたドランは、どこか嬉しそうに笑って部屋を出ていったのである。


 「ったく!あの戦闘バカが」


 そういって、ドランを毒づくダンを、サーシャ嬢がじっと見つめるのである。


 「なんだ?嬢ちゃん」

 「ねぇ、ダンおじさん。フィーネちゃんが、ドランおにいちゃんが戦ってるところ見たいんだって」

 「はい?」


 どうやら、今まで隠していたようであるが、フィーネ嬢はドランに憧れているようで、今の話を聞いて、戦っているところを見てみたいと思ったようなのである。


 「そうか、だったらハーヴィーと明日戦闘訓練させてみるから、それで良いか?」


 頷きそうであったフィーネ嬢であるが、我輩はこの好機を逃さないのである。


 「フィーネ嬢、ドランは強い者と戦うのが大好きなのである。ダンはドランよりもとても強いので、ダンと戦うと、ドランの生き生きとしたとても良い表情がが見れるのである」

 「ちょ!先生何言って…………」

 「どうせなら、楽しそうなドランの方を見たくはないのであるか?」

 「うん!見たい!」


 我輩の話を聞いたフィーネ嬢は、目を輝かせてダンを見るのである。

 ダンは、我輩を恨むような目で見るのであるが、そんな目をされても困るのである。我輩は、純粋にフィーネ嬢に喜んでもらいたいだけである。


 「あー、でもな?あのー、あれだ」


 煮え切らない態度をしているようにダンを見て、サーシャ嬢は何かを思い出したようである。


 「フィーネちゃん、男の人が迷ってるときはこうすれば良いんだって!」


 そう言うとダンの腕を取り、上目づかいで


 「おにいちゃん、おねがい…………」


 と言うのである。

 それを見たフィーネ嬢も、ダンの反対の腕をとり、同じようにしたのである。


 …………アリッサ嬢の入れ知恵であろうか。何を教えているのか今度問い詰めておく必要があるのであるが、今この時においての破壊力は十分であったようで


 「あぁ!もう!わかったよ、明日ドランと戦闘訓練してやるから…………もう一回言ってくれるか?」

 「ありがとうダンおにいちゃん!」

 「大好き!ダンおにいちゃん!」

 「あー!好きかぁー!おにいちゃんも二人とも好きだぞぉ!」


 急にまんざらでもない表情になり、二人を抱き締めるダンである。二人も嬉しそうに抱き締め返すのである。

 やけくそなのか、本性なのかダンの意外な一面を見てしまったのである。


 「いいか、センセイ。絶対に誰にも言うなよ。いいな、絶対だ」

 「言わないのであるが、ダン、まさかとは思うが……」

 「そう思われるから嫌なんだよ!俺が普通に子供好きで悪いかよ」


 一通り二人のと触れ合いを堪能した後、ダンに有無を言わさぬ雰囲気で口止めされたのである。

 むしろ、そういう風に隠すから余計に勘繰られるのでは無いかと思ったのであるが、泥沼になりそうなので、我輩は黙って草布団を作ることにしたのであった。






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