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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
63/303

ちゃんとやれば出来るのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 いつものように昼食が終わり、休憩時間になったときの我輩の何気ない一言から始まったのである。


 「料理をまた作りたいものであるな」


 その言葉に、ダンは信じられ無いものを見る目で我輩を見、アリッサ嬢は持っていたカップを落としそうになるのである。


 「今まで一度も見たこと無いけれど、おっちゃん料理をを作れるのか?」

 「作れないのである。しかし、錬金術で料理を作ることが出来るのである」

 「へぇ、本当に何でも出来るんだなぁ、錬金術ってすげぇなぁ。今度食わせてよ」


 デルク坊が意外と言った感じで我輩に問い掛けるのである。

 我輩の返答を聞いたデルク坊は感心したように頷くのであるが、ダンとアリッサ嬢がこちらに詰め寄ってきたのである。


 「本気で言ってるのか?本気で言っているのか!?」

 「センセイ!研究所であれだけの惨事があったのにまだ懲りてないのかい!?」


 二人の剣幕に、残りのメンバーは引き気味である。


 「いや、あの時とは違うのである。手引き書に料理の項目があったのである。今度は大丈夫である」

 「信用できるかよ!今までそのセンセイの言葉にどれだけ騙されたと思ってるんだ!」

 「あの……あの悲劇を繰り返すわけにはいかないんだよ!」

 「二人は大袈裟なのである」

 「はぁ!?」

 「……あ、あの……何があったのですか?」


 取り付く島のない二人の様子に驚きながらも、ミレイ女史が何があったのか質問するのである。

 若干恐怖を含んだ表情をされているのが分かった二人は、少し落ち着くとミレイ女史の質問に応えるのである。


 「あれは、アリッサが来て半年くらいだったかな……」




 

 それほ、アリッサ嬢が新しくメンバーに加わったダンのチームが、初めての遠征から帰って来たときの話である。


 「センセイ!聞いてくれよ!アリッサのやつ、飯がめちゃくちゃうめぇんだよ!」


 我輩が頼んだ素材を下ろしながら、ダンは興奮ぎみにそう言うのである。

 ダンの言葉を聞いた他のものも、頷いて同意を示すのである。


 「いやぁ、大したものは作れてないですよ、材料もあまり無い中で作りましたし」


 謙虚であるが、とても嬉しそうな表情をアリッサ嬢は浮かべていたのを覚えているのである。

 当時はまだ入ったばかりだからメンバーとの距離感がつかめていなかったのであろうな。


 ダンからその話を聞いた我輩は、その日アリッサ嬢に市場で材料を買ってもらい、料理を作って貰ったのであるが、その時の衝撃はまだ記憶に焼き付いているのである。

 我輩は、食事などは食べられれば良い。生きるのに必要なとき滋養だけとれれば良いという認識であったため、アリッサ嬢の料理を食べたときに、自分の認識の愚かさ、浅はかさを初めて知ったのである。


 そこで、我輩も料理をして見たいと思ったのであるが、我輩は生まれてこの方料理をしたことが一度もなかったのである。

 どうしたものかと思ったときに大釜を見て、素材を投入すれば料理も模せるのではないかと考えたのである。


 なので、ダン達が宿舎に戻っていったあと、我輩は錬金術で料理を作ることにしたのである。

 ちょうど料理に使って余っていた食材があったので、それを投入してアリッサ嬢が作ったような料理をイメージして構成魔力を融合、構築したのである。


 「お?センセイ、なにか良い香りがするじゃないか」

 「アリッサ嬢の料理に感銘を受けたので、我輩も料理を作ってみたのである」


 翌日研究所にやって来たダン達が、我輩の料理を見て驚きの声をあげるのである。

 皿に盛られた見た目の美しい、香り豊かな料理がそこにあったからである。


 「これ、アーノルドの旦那が作ったのかい?あの余りで?こんな野菜あったっけ?」

 「錬金術を用いることで、元の物とは違う何かになってしまっているのは容赦してほしいのである」

 「へぇ……?よくわからないけど、リーダーが言うとおり、不思議な魔法なんだねぇ」


 アリッサ嬢が、我輩の料理をまじまじと眺めてそう感想を漏らすのである。

 確かに、まだ入ったばかりのアリッサ嬢にとって、この技術は不思議なものなのだと思うのである。


 「こんな匂いを嗅いでしまっては、腹が減るな。センセイ、食べても良いのか?これは」

 「是非食べてみてほしいのである」


 そう言うと、お腹がいっぱいで入らない遠慮したリリー嬢と、決まった時間以外には食事をとらないゴードン以外のメンバーに、アリッサ嬢は料理を取り分けていくのである。


 「それじゃあ、いただきます!」


 そういって、一斉に我輩の料理をを口にした一同は




 そのまま力なく倒れたのである。




 「み、皆さん!?」


 ゴードンが、あわててみんなに駆け寄り、様子を伺うのである。

 どうやら、気を失ったようで命には別状はないようなのである。


 「センセイ、貴方食べて見たの?」

 「ダン達に食べてもらおうと思って、我輩は口にしていないのである」


 我輩の言葉に、リリー嬢は大きなため息をつくのである。


 「センセイは、料理を作るときどんな構成魔力を使って、何をイメージして作ったの?」

 「【植物】と【肉】と【香り】を使って、アリッサ嬢のような料理を作ろうとしたのである」

 「それで見た目と香りは良いのね…………」

 「ダメであるか?」

 「多分だけど、筆舌に尽くしがたい酷い味だと思うわよ。センセイの料理には味覚に相当する構成魔力が抜けてるじゃない」

 「野菜と肉の味ではダメなのであるか?」

 「自分で味のイメージがきちんとできてないんだから、訳のわからない味になるに決まってるでしょ」

 「…………それもそうであるな」


 そのあと、意識を取り戻したアリッサ嬢に、食材を無駄にするな、農家に謝れなどとすごい剣幕で怒られ、我輩は食材に触れることをアリッサ嬢の許しを得るまで禁じられたのであった。






 「あの悲劇を!ここで繰り返すつもりなのかい!?」

 「そう、気になっていたのであるが、あの時の料理はどんな味…………」

 「俺は、あれより酷いやつはキレたリリーの菓子しか知らないな」

 「え……そんなだったんですか…………?」


 ダンの言葉を聞いて、ミレイ女史が意外そうな表情を浮かべるのである。

 我輩もそれは初耳である。そこまで酷い味であったなら、ダン達の反応も頷けるのである。


 「それを知っていれば、我輩も無理に料理をしようとは思わないのであるな」

 「そうだろ?だったら、やめようぜ?あんな悲しい思いをあえてすることはないんだぜ?」

 「確かにダンの言うとおりである。そこまで酷い味であるなら、やめておいた方が皆のためである」

 「さすがセンセイ!皆のために自分を抑えるなんて生長したじゃないか!」

 「我輩は子供ではないのである」


 我輩の言葉を聞いて、今回は引き下がってもらえそうだと安心するダンであるが、アリッサ嬢は、それに違和感を感じたようである。


 「妙に物わかりが良いね、いつもなら〈大丈夫である。手引き書通りにやれば問題筈なのである。二人は我輩を信用しなさすぎなのである〉とかなんとか言って、どうにかして実現させようと刷るじゃないか」

 「アリッサ嬢は、被害妄想も甚だしいのである。それほど信用できないのであるか」

 「残念だけど、こっち系に関しては全くと言って良いほど信用してないねぇ」

 「我輩は悲しいのであるよ、アリッサ嬢」

 「ハッ!誰のせいだと思ってるのやら」


 しばらく我輩とやりあっていたアリッサ嬢であったが、ふとミレイ女史の方を見るのである。


 「そういえばミレちゃん、さっきなんであんな微妙な顔してたのさ?なんか、そんなこともあったんだぁ、くらいな感じだったけど」

 「はい。アーノルド様の料理のセンスが昔は壊滅的だったのだと言うことがわかって驚きだっただけです」


 ミレイ女史のその言葉に、アリッサ嬢がなにかに感づいたようなのである。


 「…………ミレちゃん?」

 「はい、何でしょうか?」

 「今日の料理当番はミレちゃんだったよね?」

 「はい。サーシャちゃんにも手伝ってもらいました」

 「……本当にそれだけ?」

 「はい。何か気になさってますか?」

 「あっれぇ?隠れてセンセイが料理を作ったとか思ってたんだけど違うのかぁ」


 ミレイ女史の反応に、予想が外れたアリッサ嬢は首を傾げるのである。


 「料理をしている私達にへの差し入れに、時々アーノルド様が一品作って持ってきてくれますよ。とても美味しかったので、そんなふうにひどい味だった時期があるのが驚きだったんですよ」

 「うん!おじさんの料理美味しいよ!料理だけじゃなくてお菓子も美味しいんだよ!」


 ミレイ女史の言葉にサーシャ嬢も笑顔で頷くのである。ノヴァ殿がちゃんと研究したものをそのまま作っているのだから、失敗するなんて事は無いのである。


 「ボクは結構もらっているけど、アリッサのとは違うおいしさでこれも良いかなって思うよね」

 「姐さんの料理ほどじゃないけど、旦那の作った料理はクセがなくて美味いんだよな」

 「わかりますね。僕らのことを考えて作ってくれるアリッサさんの御飯が美味しいのは当然ですが、誰が食べても同じように美味しいという点ではアーノルドさんの料理もいいなと思いますね」


 同じように、時々料理を振る舞っていた妖精パットンやドランやハーヴィーもうんうんと頷いているのである。


 「えー!なんだよ!おれだけ仲間外れなのかよ」

 「いや、デルク坊にも近々作る予定だったのである」

 「本当?たのしみだなぁ」 


 仲間外れにされていたと思って拗ねていたデルク坊であったが、今度料理を食べれると知ったら上機嫌である。単純なものである。


 「……だから、少し前から料理の味付けについて色々聞いてたのかい……」

 「そうである。まぁ、アリッサ嬢の料理を毎日食べていれば、自分でも味のイメージがしっかり付くのである」

 「それは、喜んでいいものなのかねぇ……」


 我輩の話を聞き、苦笑いを浮かべるアリッサ嬢である。当然喜んでいいと思うのである。アリッサ嬢のおかげで我輩もちゃんとした味の料理が作製できるようになったのである。


 「本当にちゃんと食えるのか?」

 「これだけの証言があって、まだ疑うのであるか?」

 「それもそうだよな……こういうときのセンセイは信用できないが、他の連中が嘘付くとは思えないしなぁ……」

 「……ダンよ、そのからかい方はさすがにどうかと思うのである」

 「あ、ばれた?」


 ダンはどうやら、他のものの反応から我輩の料理がマシになったことを信じたものの、そのままだとつまらないと思ったようで、信じていない振りをしてそのままからむネタにしたみたいである。素直に信用すればいいものを、本当に一々面倒な男である。


 「それじゃあ、今日の夕飯はセンセイに作ってもらおうかねぇ」

 「良いのであるか?」

 「いいけれど、条件が一つ」

 「何であるか?」

 「腹いせに、食材を無駄にした料理を作らないこと」

 「それを言ったらアリッサ嬢だって我輩に……」

 「……返事は?」

 「……分かったのである」


 何を言おうが、家のこと全般を仕切っているアリッサ嬢には敵わないのである。下手に逆らって、我輩だけ超薄味の料理を食べさせられるのは勘弁である。

 我輩は、アリッサ嬢の言葉に従い夕飯を提供するのであった。






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