森の集落に別れを告げるのである
我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。
二ヶ月少々滞在していた森の民の集落に別れを告げるときがやってきたのである。
「錬金術師様、この度は本当にありがとうございました」
集落長や老婦人を初めとした集落にいるものがほぼ全員集まっているのであるが、他にも集落の外からやってきた森の民や亜人達も見送りにやって来たようである。
「しばらくの間は森の工房にいると思うのである。もしも紙人形が足りなくなったら、材料を持ってきてさえくれれば作れると思うのである」
「はい、だいぶ作っていただいきましたが、どんどん遠い集落にも話がいっているようです。近々お願いしにお伺いすることになると思います。その時はよろしくお願いします」
道具が完成してから、今日までの数日間。他の集落から運ばれて来る素材を使用して、作れるだけの紙人形を作ったのである。現在おそらく在庫は数十はある筈であるが、他の集落から紙人形を求めて来訪者がどんどんやって来ているので、すぐに在庫は切れそうな気がするのである。それだけ、魔物の被害が大きいということなのである。
「いっぱい勉強して、おじさんが忙しくても私も作れるようになっておくからね!」
「私も出来るように努力いたします」
我輩と集落長の会話にサーシャ嬢とミレイ女史も加わるのである。
「二人ともありがとう。是非頼らせてもらうよ」
二人の意気込みを聞き、集落長や老婦人は嬉しそうな笑顔を浮かべ、他のものへの挨拶へ向かって行ったのである。
我輩は二人を見送ると、そのまま他の者達の様子を見るのである。
「ドランさん、必ず戻ってきてくださいね……」
「私もずっと待ってますから……」
「お、おう。えっと、ありがとうございます……?」
集落に入った頃は、たくさんの女性に囲まれていたドランであったが、日が経つにつれてその数は減っていったのであるが、最後まで二人の女性は変わらずドランを慕っていたようである。
ドランもまさかと思っていたらしく、最後までアピールをして来る女性を前に普段の豪快な返事ではなく、普通の反応で返しているのである。あの、変な言葉遣いはわざとであったのであろうか?それともハーヴィーの影響でも受けたのであろうか?
「ハーヴィー、君との狩りはとても良い勉強になった」
「僕も、皆様と一緒に狩りができて、たくさんのことを勉強させていただきました」
「ハーヴィー先生!また来てね!」
「僕もハーヴィー先生のように弓を上手になれるように頑張る!」
「ははっ!うん、また来るよ!皆また一緒に弓の練習しようね!」
ハーヴィーは、空いている時間は森の民の子供とその教官と狩りによく行っていたので、最近は集落にいるときは学校が終わった子供達がくっついていたのをよく見かけたのである。
あと、この集落に獣人が来訪するようになって、自分のそとなる獣人の情報を聞いて回った結果、手がかりになる情報をいくつか聞くことができたようである。
すぐに向かうことはできないのであるが、また深部に向かうことはあるので、その時にそちらの方にも向かうようにしてみようと思うのである。
「パットン、あなたのおかげでたくさんの人が救われたわ。本当にありがとう」
「僕はきっかけさ。ここまでの物にしたのは錬金術師アーノルドだからね」
「アリッサさん!ご飯いつもとても美味しかったです!あの……また、また来てください!」
「ありがとう、そう言ってくれるとこちらも嬉しいよ。また来るからね」
妖精パットンは、集落で中の良かった森の民と、アリッサ嬢は自警団員と会話をしているのである。
確かに妖精パットンの魔法がきっかけで、紙人形を作ることになったのであるが、そんな話ではないのである。限界ぎりぎりまで魔物に取り憑かれた者達を救ってきた事である。たくさんの皆が妖精パットンに感謝しているのである。
自警団員はとても寂しそうであったが、アリッサ嬢は至って普通である。
がんばれ、自警団員。と、何となく応援するのであった。
「デルク、体に気をつけるんだよ」
「おばちゃん、泣くなよ。またこっちに遊びに来るし、遊びに来ていいんだから」
「ダンさん、デルクのことをよろしくお願いします」
「おう、任せておきな。まぁ、ただこいつは俺よりアリッサに懐いてるけどな」
「飯がうまいから!」
「そこなの?デルクお兄ちゃん」
デルク坊とダンが親御殿の家族と話ながらこちらにやってくるのである。
フィーネ嬢がサーシャ嬢を見つけると、走り寄って来るのである。
「サーシャちゃん!絶対遊びに行くからね!」
「うん。フィーネちゃん、待ってるね!」
少し遅れて親御殿達もやってくるのである。奥方がサーシャ嬢と抱擁を交わすのである。
「サーシャ、体に気をつけてね……」
「うん……おばちゃんも元気でね……」
「ははは、サーシャがもらい泣きしちゃってるじゃないか、会えなくなるわけじゃないんだから大袈裟だよ」
「……そうよね、今度はこちらから会いに行くからね」
「……うん!待ってるね!」
親御殿、奥方と挨拶を交わすと、フィーネ嬢は、自分の袋から結構な量の紙を取り出すのである。
「サーシャちゃん、絶対に二人で強いお人形作ろうね!」
「うん、フィーネちゃんからもらったこの素材でいっぱい練習してフィーネちゃんが来るまでにお人形作れるようにするね!」
昨夜サーシャ嬢が言っていた通りに、フィーネ嬢と戦える人形を作るようである。我輩達に提供する素材とは別に、サーシャ嬢が紙人形を練習するための素材を少しずつ作っていたようである。
サーシャ嬢は、それを受けとると笑顔でフィーネ嬢に応えるのである。
「あの、今度こちらに来る際は、私たちの集落に来てください!」
「俺のところも来てください!お礼をしきれないくらい感謝してるんです!」
「私の集落には夜の一族のことを知るものと知り合いのものがいます!是非来てください」
「こちらは、ここらへんでは採れない薬草があります。私たちは魔法があるので使わないのですが、何かの素材に使えるかもしれません。良かったら調べに来てください!」
「俺も…!」
「私も…!」
他の者の挨拶の様子を眺めていると、他の集落のもの達が遠慮がちにこちらを見ているので、そちらの方に足を運ぶのである。
すると、熱烈な来訪アピールをされたのである。話を聞くと、帝国内では見かけない素材や深部に住んでいるもの達の情報など、我輩達にとって有益であろう情報を持って是非来てもらいたいと言っているのである。
裏があるようには感じられないし、あったとしても興味を引かれるないようであるので、またこちらの方に赴くことを約束して、今後の楽しみにするのである。
とりあえず森は大分広いので、楽に移動できる方法を何か考えないといけないのである。手引き書や倉庫にいい道具が無いか調べてみるのである。
「名残は惜しいのであるが、そろそろ行くのである」
我輩の言葉を聞き、集落のものや集落外のもの達と会話を交わしていたメンバー全員がこちらに戻って来るのである。
「皆、元気でな!」
「またこっちに遊びに行くからね!」
「もしかしたらフラッと遊びに来るから、その時はよろしくね!」
「ありがとうございました!」
「またうまい酒飲ませてもらいますわ!」
「また文化や技術を御教授ください!」
「森の民の料理もっと教えてね!」
「またな!」
「では、またである」
我輩達は各々最後の別れを告げて、森の家に戻るのである。
「じゃあね、ノルド」
歩き出す前に、小さくサーシャ嬢がノルドに別れを告げて行くのである。
今回の森の民の集落跡地から始まった一件は、つらいことや悲しいことや大変なこともたくさんあったが、サーシャ嬢、デルク坊、ハーヴィーにとっていい成長のきっかけになる。なればいい。そう思いながら我輩は歩くのであった。




