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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
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緊急事態である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 ダン達が、周囲の警戒や捜索をして、人に取り憑く魔物の存在を確認できなくなるまでに3日ほど、そしてあらなた試験場の選定にまた3日ほどかかったのである。

 その間、我輩は新たな紙人形の作成に着手していたのである。


 素材は前回と同じ紙・脳・核を用い、そこから従来のもの・構築時に美味しいものだという気持ちも入れたもの・素材とは別に、紙にに美味しいものだよという文字を気持ちを入れて書いて加えたものを組み合わせた全部で18通りの紙人形を作ってみたのである。


 「これが今回の紙人形ですか」


 前回に引き続き、調査係の責任者になったハーヴィーが、今回用意した紙人形を手に取りながら呟くのである。

 立場が人を変える。という言葉があるように、一番の新人だということで自信無さげであったハーヴィーも、何処と無く覇気が出てきたように思えるのである。


 「今回も危険な調査である。必ず一人にならないよう気を付けるのである」


 我輩がそういうと、真剣な面持ちでハーヴィーは頷くのである。


 「では、行ってきます」

 「ハーヴィーお兄ちゃん、頑張ってね!」

 「ハーヴィーさん、お気をつけて」


 部屋の外に出るハーヴィーに、サーシャ嬢とミレイ女子が声をかけるのである。一度振り向き、はにかんだような笑顔を浮かべて二人に応じると、そのまま外へ出ていったのである。


 「行っちゃった」

 「大丈夫…………でしょうか」


 窓から外に向かって手を振り見送るサーシャ嬢とミレイ女史は、その姿が見えなくなると、心配な表情を浮かべるのである。

 今回の試験場は、前回の試験の際魔物の襲来が多かった方向へ進んだ場所に作ったのである。

 その方向はさらに深部に向かうことになるため、有事に備え我輩達3人とアリッサ嬢以外全員と、深部の案内役として親御殿のチームで動くことになったのである。


 「今の辺りでも我輩達には未知の領域である。不安が無いとはさすがに言いきれないのであるが、あれだけメンバーが揃っていれば大丈夫だと信じるしかないのである」


 森の民達や獣人達、夜の一族などもここより深い場所で集落を形成しているのである。人間が足を踏み入れることができないということはない筈ではあるのである。

 

 「お兄ちゃん大丈夫かなぁ……」

 「捜索団であちらの方へ行くこともある親御殿や、ダンが連れていって問題ないと判断したのである。きっと大丈夫であるよ」

 「……………うん」

 『皆大丈夫だって言っているから、きっと大丈夫だよ』

 『うん、そうだね』


 サーシャ嬢は、まだ長文だと理解に時間がかかるようであったので、古代精霊語で答えるのである。

 我輩の言葉にそう答えるものの不安は拭いきれないようで、気持ちを紛らわすように我輩とミレイ女史の袖を掴むのである。そのサーシャ嬢を笑顔を浮かべながら優しくミレイ女史は抱きしめるのである。


 『私達は、笑って待つ。それでいい。』


 アリッサ嬢が、茶と茶菓子を持ってきてこちらにやってきたのである。

 

 「そうそう、そのようなことが起きるとは思えないのであるが」


 我輩は茶を受け取り、一口飲む。森の民の好む茶は、爽やかな香りが広がる独特の味の茶である。これはこれで帝国内で流行りそうな感じである。


 「ああ、美味しいです。……アリッサさんは凄いです……」


 ミレイ女史が茶菓子を一口頬張り、物欲しそうに見ていたサーシャ嬢の口に一切れ運ぶのである。菓子を口に入れたサーシャ嬢は、先程までの不安の表情は一転して蕩けるような笑顔を見せるのである。

 今我輩達に出している菓子も、森の民の伝統的な菓子を帝国風にアレンジしたアッサ嬢の創作菓子である。

 以前老婦人に出したのであるが、とても喜ばれたのである。


 「おねえちゃん、おいしい~~。これ、好き!」

 「あはは、ありがとう。二人とも」


 アリッサ嬢は、二人に褒められ満更でも無い笑顔を浮かべて応えるのである。

 そんな風に、4人でのんびりとした時間をいくらか過ごしていたのであるが、その時間は一人の来訪者によって終わりを告げるのである。


 「錬金術師様!錬金術師様はいらっしゃいますか!」


 宿舎の玄関のドアを叩きながら、我輩を呼ぶ声が聞こえるのである。

 その声はかなり切羽詰まっているのである。

 そのただ事ではない感じに、玄関に一番近かったアリッサ嬢がすぐさま玄関に向かい、我輩達もその後に続くのである。


 ドアを開けた先には、集落長が苦しそうに息を切らせてそこにいたのである。

 他のものは我輩達と話がうまくできないので、集落長がやって来たのであろう。


 「集落長、どうしたので……」


 我輩が何事か尋ねる前に、集落長はすがるように我輩の腕を掴むのである。


 「息子が……息子が魔物に!助けてください!」 






 どうやら集落長の息子である自警団長率いる一団は、集落近辺の見回りの際に獣の集団と遭遇し、戦闘になったようである。

 獣は退治することはできたのであるが、全員が気を緩めた隙に、藪から一匹の獣が自警団長に襲いかかったようである。

 隙を付かれた自警団長は、足を噛まれたのであるが、すぐさま獣を殺して怪我も治療したのである。

 しかし、その後から様子がおかしくなり、不審に思った団員が様子を伺うと、人が魔物に取り憑かれた時に見せる特徴を出していたのである。

 本来ならばその場で殺すのであるが、全員我輩の研究の事を知っていたので、一縷の望みにかけて、自警団長の意識を失わせてこちらまで運んできたようである。

 

 「事情はわかったのである。ただ、まだ道具は完成していないのである」

 「それは重々承知しております。それでも、試していただきたいのです!」


 可能性が少しでもあるならば、それに懸けたい。神にすがるような、そんな表情で集落長は我輩を見上げるのである。

 もう少し自信を持てるくらいに、実証を積み重ねたかったのである。だが、もうそんなことは言っていられないのである。


 「サーシャ嬢、ミレイ女史は追加素材の準備を頼むのである。アリッサ嬢は、自警団員と共に団長の監視を頼むのである」


 各々が、自分の役割を果たすべく、行動を開始するのである。

 今回の紙人形は試験とは違うのである。素材の確保と効果のバランスなど考えてはいけないのである。


 我輩は、簡易魔法陣を起動させると自重しない道具作りに着手するのである。


 我輩はまず、鍋に魔物の核を現在持っている量のほぼ全てを投入するのである。

 核の分解が終えた鍋の中には、ほぼ満タンに構成魔力が入っているのである。

 正直これほどの量は必要ないかもしれないのである。

 だが、人に取り憑いた魔物にを離すのに適正な構成魔力量の研究がまだ終わってない以上、餌の量が多い方が少ないよりも生物は寄ってきやすいという現実基づいて、紙人形に限界まで構成魔力を保有させるのである。

 

 鍋一杯の構成魔力の融合作業を淡々と進めていくと、ミレイ女史とサーシャ嬢、そしてフィーネ嬢が紙をもってやって来たのである。


 「すごく気持ちを込めて書いたよ!」


 サーシャ嬢からたくさんの紙を渡された我輩は、この中から何となく気持ちが込もっていると思うものを厳選するのである。

 全て投入してしまうと、中の構成魔力が溢れてしまうからである。

 さらに、この中から気持ちの込もっていそうなものを選びたいのであるが、そんなもの分からないのである。

 効果もあるか分からないのであるが、やれることは全力でやっておきたいのである。


 「ノルド?どうしたの?」


 我輩が頭を悩ませていると、フィーネ嬢の声が聞こえたのである。そちらを見ると、フィーネ嬢の肩にいたノルドが、こちらの方にやって来て、一枚の紙の上に立つのである。


 「これであるか?ノルド」


 ノルドはなにも答えない。答えることはできないのである。だが、我輩はノルドの行動の意味をそう捉え、ノルドが立っていた紙を取り、鍋に投入するのである。

 

 「ノルド、後2枚ほど欲しいのである」


 我輩の言葉が伝わったのか、ノルドは2枚選び、我輩はそれを鍋に投入し、作業を続行していくのである。


 定着作業も無事に終え、残すところは構築作業のみである。

 これが失敗したら全てが無意味である。

 慎重に慎重を重ね、原初の魔法が発動するか分からないのであるが、思いを込めることを忘れないように、作り慣れている紙人形を作っていくのである。






 「…………できたのである」

 「…………できたね」

 「…………うん」

 「…………できましたね」


 我輩の横にある作業台には、一体の紙人形があるのである。

 疲れているのであるが、休んでいる暇はないのである。

 これからが一番の問題なのである。

 

 我輩達は全力を尽くしたのである。あとは、これが効いてくれることを願うだけである。


 我輩達は、そう思いながら紙人形を持ち、自警団長の元へと向かうのであった。






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