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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
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試験結果である

 

 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 【誘因の紙人形】試作品の試験を始めてから十数日。目のいいハーヴィーと、魔物の存在を確認できる妖精パットンが、護衛として日替わりでダン・ドラン・アリッサ嬢が試験場を毎日監視し、ミレイ女史と妖精パットンが試験場で起きたことから、色々仮説を立てていたようであるが、報告が纏まったということで、昼食後の集まりで報告を聞く事になったのである。


 その事を聞いた老婦人は、集落長・自警団長・捜索団長に召集をかけたのであるが、捜索団長は外に出てしまったので、代わりに親御殿の隊長が代わりに報告を確認することになったようである。

 なので、現在宿舎には我輩達メンバー全員と、森の民の上役達が在席しているのである。


 「本日は、わざわざ集まっていただいて申し訳ないのである。では、報告をよろしく頼むのである」


 我輩もまだどんな報告があるのかは聞いていないのである。

 本当は、我輩も監視に付いていきたかったのであるが、ダンとアリッサ嬢にいたら邪魔だと言われてしまったので、渋々我慢したのである。

 仮説の方も、ミレイ女史に紙人形の製作の方に集中してほしいと言われてしまったのである。



 我輩がそう言うと、他の者から促され、ハーヴィーは立ち上がるのである。どうやら、ハーヴィーがこの調査の責任者ということになっていたようである。


 立ち上がったハーヴィーは、緊張した面持ちで報告を開始するのである。


 「げ、現在、試験場には、私がアーノルドさんに渡した粘性生物のか、核を素材に作った紙人形が3体、け、け、獣の脳素材に作った紙人形が5体、私達の文……字などが書かれた紙を素材にした紙人形が3体あります」


 ……大丈夫であろうか?完全にガチガチであるのと、緊張で頭が真っ白になっているのか、報告はそこから始めるつもりなのであろうか?何があったかの報告だけ聞ければいいのであるが……

 と、その時ドランから声がかかるのである。


 「落ち着けハーヴィー。今まで試験場で起きたことを話してくれりゃいいんだ。そんなところから話しはじめたら日が暮れちまうぜ」


 緊張でどもってしまうハーヴィーに冗談めかすようにドランがそう言うのである。


 「あ、はい。そ、そうですよね。すいません」

 「まぁ、緊張する気持ちもわかるけどな!大丈夫だ、死にゃあしないんだからな!」


 ドランの言葉でハーヴィーは、いくらか緊張が解けたようである。

 仕切り直しということで、アリッサ嬢とミレイ女史が全員にお茶のおかわりと茶菓子を配るである。


 「すいませんでした、続けます」


 ハーヴィーの言葉で、一瞬緩んだ空気がまた真剣なものに変わるのである。その辺りは流石である。


 それからハーヴィーは、監視中に起きた出来事を次々と報告していったのである。


 ・魔物の誘引に成功したこと。


 もしも誘引ができなかった場合、誤認魔法を模した道具を作る事になっていたので、一からやり直しであったのである。


 ・構成魔力の放出されているものの方に最初は集まっていくが、最終的に内部の構成魔力含有量が高い紙人形に寄っていく傾向があること。


 これは、妖精パットンから補足の説明があったのである。


 「どうもね、構成魔力を敢えて漏らしている紙人形があるでしょ?あれで魔物達は引き寄せられてくるみたいなんだけれど、その紙人形に取り憑く前に、魔物達で構成魔力を吸い尽くしちゃうみたいだね。取り憑くのは、体内に具現化された構成魔力や、留まっている構成魔力を内部から食べる為みたいだよ」


 つまり、紙人形を餌箱と見立たとして、餌が常時駄々漏れの餌箱には魔物が群がって餌を食べて、餌箱の中に餌が大量にあって取り出せない場合は、中に入り込んで食べるというわけであるか。


 「漏れてるやつから構成魔力を食べてるやつらは、争ったりしてなかったのか?」


 妖精パットンの言葉を受けて、ダンが質問をするのである。確かに、複数の個体が同じ餌を求めるのであれば、その可能性はあるのである。


 「成長していそうな個体が、未熟そうな個体を追いやっているような感じはありましたね」

 

 ハーヴィーの答えに、一同理解を示す頷きを返すのである。その辺りは普通の生物と同じ、ということであるか。


 ・紙人形の中に取り憑いていくのを目撃したこと。


 これに関しても、後からやって来た強い個体が、既に中に入り込んでいた弱い個体を追い出して、紙人形の中に入り込むのを確認したようである。

 取り合えず、共食いみたいなことはしない個体のようであることと、基本的に宿主を探している性質であることが伺えるのである。


 ・取り憑かれた紙人形は、動くは動くのであるが、ノルドのように動くのではなく、震えている程度であるということ


 その事に対してミレイ女史と妖精パットンが出した仮説は、ノルドは動きやすいような紙縒状であることと、おそらく【意思】の構成魔力が神経のように具現化されている状態になっているから、滑らかに意思の伝達ができて動くのではないかということである。

 確かに、紙人形はペラペラの1枚の紙を人型に切り取った形状であるし、【意思】の構成魔力を具現化させることなく内包させるように意識して作製しているのであるが、どうやらその事が、功を奏したようである。


 ・取り憑いた紙人形から魔物が出てくる前に、紙人形を燃やしたり細かく破くことで、中にいた魔物も倒すことができたこと


 中に入り込んだ魔物の核を破壊することができればそのまま倒すことができる。と、いうことなのであろう。


 様々な報告が上がり、どうやら次が最後の報告になったようである。


 ハーヴィーから発せられたその言葉は、我輩達が待ち望んでいたそれであったのである。


 「獣に取り憑いていたと思われる魔物が紙人形に乗り移るのを確認しました。そして、その獣の生存と、魔物の存在が無くなっていたことも確認しています」


 つまり、魔物を誘引して一網打尽にすること、紙人形を身代わりとして使うこと、そして、取り憑かれた生物から魔物を離すことが可能になる。と、いうことである。

 我輩達、特に森の民はの皆は、安堵と驚きの表情を見せるのである。今まで魔物に取り憑かれたら、殺すことでしか解放する術がなかったのが、助け出す明確なものが見えたのである。


 「そ、その報告は、本当なのか?」


 自警団長が、ハーヴィーに今一度確認するのである。尋ねられたハーヴィーは、頷きを返すのである。


 「なんと……素晴らしい……おぉ……」


 集落長は顔を手で覆って泣き始めるのである。今まで、どれだけの悔しく、悲しく、無力を感じたのであろうか。十分の一も生きていない我輩には分からないのである。それはきっと、老婦人も同じであろう。

 その老婦人は、笑顔でこちらを見るのである。


 「ありがとう、アーノルドさん。貴方に会えて、貴方を頼って本当によかった」


 だが、これからなのである。まだ、やらなくてはいけないことは多いのである。

 なので、我輩は老婦人達に言うのである。


 「一定の結果は出せたのであるが、実用はまだまだである。調べること、考えることがまだ多いのである。きっちり完成した、その時にみんなで喜ぶのである」


 我輩は、仲間達に頼むのである。


 「これからが大変である。皆、更なる協力を頼むのである」

 「はっ!当たり前だろ?センセイ」

 「当然でしょ?今更何言ってるのよ」

 「おうよ、やってやりますわ!」

 「僕も、自分のできることで精一杯協力します!」

 「はい、私も微力ですが力になれるように頑張ります」

 「ふふん、ボクがいれば百人力さ」

 「おっちゃん!核の採取は任せろよ!」


 皆、とてもやる気に満ち溢れているのである。我輩は、研究所の時といい協力者に恵まれていると本当に思うのである。


 「おじさん、これから何をすればいいの?私も一杯頑張るよ!」

 「そうであるな…………」


 我輩は、これからの課題を思い描き、更なる向上を目指すのであったのである。

 





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