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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
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誘因の紙人形の研究開始である。


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 集落の宿舎で集落長達からの話を聞き、【意思】の構成魔力を餌にしている魔物を取り憑かれているものから離す道具を作ることにした我輩は、ミレイ女史や妖精パットンの知恵を借りて道具作りのおおよその構想を練ることができたのである。あとは、研究と実験を繰り返して道具を作れればいいのである。


 我輩は一夜明け、まだ誰も起きていない早朝、一人で今回の作る道具の構想を紙に書き起こしているのである。


 昨日、ミレイ女史の言葉を聞いて、手引き書にちょうど良さそうな道具が書いてあったことを思い出した我輩は、今回はそれを応用してみようと思うことにしたのである。


 その名は【誘因の案山子】という名の道具である。

 これは、害虫忌避の煙玉などの畑の味方シリーズのひとつで、畑に害を及ぼすものを忌避するのと逆に、密を運ぶ蜂など畑に益を及ぼすものを誘引する道具なのである。畑の味方シリーズは、農業に役立つものが多いのであるが、それ以外にも使える利用価値の高いシリーズである。


 研究所時代にも、ハチミツが特産であったのであるが、害獣や魔物の来襲で蜜蜂が減少してしまった村の危機を救うときに使用したのがこの道具であった。あの時は、蜂蜜の【甘味】と【香り】の構成魔力を具現化させた案山子を村から外れるように置いていき、害獣や魔物達を別の場所へ移動させたり、駆除したりしたのである。

 初めて作った試作品の試験の時、獣や魔物ではなく大量の虫に襲われてしまい、虫忌避の効果を加えた覚えがあるのである。

 また、ハチミツや蜂ではなく、それを狙う虫や獣を狙う獣や魔物たちが多いことも分かり、生態系の奥深さを知ったのである。

 

 ハチミツであるか…………あそこのハチミツは様々な味が楽しめて良かったのである。いつかまた食べたいものである。

 そういえば、ハチミツも疲労改善薬や回復薬の素材であったな。副作用は、蜂やハチミツが好物な獣や虫に襲われやすくなるのであったな。リリー嬢とアリッサ嬢が、虫に襲われて大変な目に遭っていたのを思い出すのである。


 多少話が脱線したのであるが、我輩は今回の道具の構想を、朝食の時間になるまでの間書いていくのであった。






 朝食後、この後狩りに行くことになるハーヴィーとデルク坊と妖精パットンを抜いたメンバーに、今回の構想を書いた紙を見せて意見を求めるのである。


 「ボクが行かないと、ハーヴィーが困っちゃうからね」


 妖精パットンがいないことで、意思疏通の魔法が途中で切れてしまうので、本日我輩達は、宿舎に詰めている事になったのである。

 そうなると、サーシャ嬢との会話がうまく行かないかと心配したのであるが、老婦人がサーシャ嬢の通訳を買って出たのである。


 「私くらいの年齢だと、当時帝国にいた祖父母や親から、人間の言葉や文化を教えてもらってるんですよ」

 

 集落長や老婦人、それに一部の大人たちも、それなりに人間の言葉を理解できるものはいるようである。長命種の長所と言えるのであろうな。

 これが落ち着いたら、当時の文化や歴史を教えてもらわないとである。やる気が出てきたのである。


 「なぁんだ。それならボクがそんなに苦労する必要はなかったじゃないか」

 「ごめんなさいね、皆が言葉をわかる訳ではないし、私達も他に仕事があるからパットンに頼ってしまったのよ」

 「頼りにしているから、アリッサ嬢も菓子を作って労っているのである」

 「そうだよ、頼りにしてるよパットン」

 「…………それなら仕方ないか。フフン、ボクは頼りになるからね♪」


 不満を口にした妖精パットンであったが、老婦人や我輩たちに誉められ、機嫌良さそうに出かけていったのである。中々ちょろい妖精である。


 そんな一幕もあったのであるが、現在は我輩の素案を見て、何か意見がないか聞いているところである。


 「使うものが、文字や絵画であるならば紙人形で作ることはできないのでしょうか?」

 「ああ、そうすれば持ち運びが簡単だから、襲われたときの身代わりとして使えそうだねぇ」

 

 ミレイ女史の言葉を聞き、アリッサ嬢が得心のいった表情を見せるのである。確かに、当初予定していた、木から分解される【植物】の構成魔力を利用した木人形を持つよりは携帯に便利である。


 「とは言え、そんなものを持っていたら、余計に襲われるんじゃないんですかい?」


 ドランの意見も尤もである。誘因の道具であるのだから、餌を持って歩いているようなものである。


 「俺達の【意思】の構成魔力を感じて寄ってくるなら、多少頻度が上がったところで変わらないだろう」

 「そこら辺も実際調べてみないとダメであるな。もしこの方向性がダメなら、最初の意思の魔法の道具を作る方向で考えるしかなのである」


 その場合、まだ我輩には作り方がわからないので、一度森の工房へ戻り手引き書を見て道具の作り方を調べるか、倉庫にそういった道具がないか探すしかないのである。

 おそらく作成するにしても、簡易魔法陣と携帯用の鍋ではできない気がするのである。


 「おじさん、一緒に頑張ろうね!私もお昼まで一緒に頑張るから!」


 サーシャ嬢が、我輩に笑顔で声をかけてきたのである。そうであるな。分からないことだらけで色々思うことはあるのであるが、いずれにせよ研究を始めてみないことには始まらないのである。


 「では、研究を開始するのである。皆、ありがとうである。」


 我輩はそう言い、簡易魔法陣が描かれた紙を広げるのであった。






 さて、魔法陣の起動も終え、研究を始めることにするのである。

 まずは、【意思】の構成魔力が分解できるかどうかである。妖精パットンがの言葉通りであるなら、文字や絵画を分解すれば【意思】の構成魔力が出てくるはずなのである。


 そこで、今いるメンバーに我輩が持っている紙を渡し、色々思うことを書いてもらったのである。何が書いてあるかは分からないように、折り畳んでもらうのである。

 なんとなく、ダンやアリッサ嬢辺りは、我輩に対しての恨み辛みがつらつらと書かれていそうな気がするのであるが、それはそれである。


 我輩はそれを受けとると、鍋の中にそれらを投入するのである。

 投入された紙は、少しすると分解されて様々な色の光に変化していくのである。


 「これが、錬金術なのですね。分解された構成魔力を留めて、色を付けるなんて不思議な魔法ですね」

 「婦人は、錬金術を見たことがないのであるか?」

 「私は、ノヴァさんが集落を出てからこの集落へやって来たので、接点が無かったのですよ」


 老婦人はこの集落の出ではなく、別の集落から人手不足解消のためにやって来た人員であったようである。


 「だからね、この集落で一番歳が上だから姥様って言われて慕われているけれど、本当はサーシャちゃんのところの彼女がこの位置にいるべきなのよ。私はよそ者なんだから」


 老婦人は、キラキラと様々な色に輝く構成魔力を眺めながらそう呟くのである。


 『そんなことないよ!$《>』は、《-$¥<のこと、凄いって言ってるよ。それに皆、尊敬してるって大好きだって言ってるよ!』

 『…………ありがとう、サーシャちゃん』


 そんなサーシャ嬢の言葉を聞き、老婦人は微笑んでサーシャ嬢の頭を撫でるのであった。


 「良い話だねぇ」

 「ばあさん、頑張ってきたんだろうな」

 「そうであるな」


 我輩ほどではないにしろ、古代精霊語を勉強している二人も、やり取りの雰囲気だけでなく会話の内容も幾らか理解していたようである。

 アリッサ嬢に関しては、多少なら日常会話が出来るようになったようであるし、ダンも上手く喋れないものの、言葉は理解できるようになってきているようである。努力の賜物であるな。


 「えぇ!?二人ともわかるんですかい?」

 「お前も勉強したらどうだ?ここだとお前モテるみたいじゃないか」

 「そうねぇ、ハーレム築くのに言葉は理解できた方がいいと思うよ」

 「なんで、俺がここでハーレムを築く前提なんですかい!?」

 「え゛?おまえ、そっち方面?」

 「どうしてそうなるんですかい!普通に女が好きですって!」


 どうやら、話が変な方向に飛んでドランがとばっちりを受けているようである。せっかくのいい雰囲気がぶち壊しであるな。


 なので、気を取り直して分解された構成魔力を融合していくのである。


 【意思】の構成魔力…………。つまり、人の心を司る構成魔力である。それを意識して中にある構成魔力を動かしていくのである。すると、1割ほどの黒色の魔力がゆっくり動き出すのである。

 つまり、あれが【意思】の構成魔力ということである。


 それと同時に、紙の元になる【植物】の構成魔力を動かしていくのである。こちらは、全体の半数以上を占める緑色の構成魔力が動き出したのである。


 【意思】に対して【植物】が多すぎるのであるな。


 そこで、我輩は【植物】の構成魔力を操作して、意思の構成魔力と同程度になるまで放出して中身を減らすのである。そして、減った中身を新たに何か書いてもらった紙を投入して戻すのである。

 こうすることで、圧縮はできなくとも、構成魔力の総量を増やして物を作ることができるのである。

 

 「さっきよりも【意思】の構成魔力が少ないのである。誰か適当に書いたのであるか?」

 「すいやせん、多分俺です。面倒になったからとりあえず埋めればいいと思って、全部黒く塗り潰したのを出しました」


 適当に塗りつぶすだけでも構成魔力が増えるのであろうか?それともなかったのであろうか?塗りつぶす範囲で構成魔力に変化はあるのであろうか?ドランの言葉で、我輩は気になることがたくさんできてしまったのである。


 これは、確認してみないとダメである。先に進むことはできないのである。

 我輩は、鍋の中の構成魔力を1度全て解放するのである。

 その行動に呆気にとられたドランに向かい、我輩は指示を出すのである。


 「ドラン、中々興味深い事をしたのであるな、ちょっと付き合って欲しいのである」


 その言葉を聞いて、サーシャ嬢は困ったような笑いを浮かべ、アリッサ嬢はにやにや笑っているのである。


 「あー、おじさんの気になるモード入っちゃったー」

 「お疲れ、ドラン。責任とって付き合いなね」

 「はい!?なんですかい!?」


 ドランは二人の言葉に、戸惑いを隠せないようである。そのドランの肩に、ダンが手を乗せるのである。


 「諦めろ」

 「だから何がって言ってるんですわ!」

 「研究者。特にアーノルド様は、気になることができると、納得するまで解放されることはありません。ドランさん、頑張って下さい」


 ミレイ女史の言葉に、ドランは顔をひきつらせるのである。我輩が納得するまで紙を塗りつぶす作業をすることがわかったのであろう。


 「いや、他の人のサンプルだって…………」

 「取り合えず、一人分あれば充分である」

 「じゃあ、俺じゃなくてサーシャ先生か、ミレイに…………」

 「ドラン、それは良くないよ。あんたが余計な事をしてセンセイの悪癖を出したんだから、あんたが責任取るんだよ」

 「アリッサ嬢、悪癖とは酷い物言いであるな、研究熱心と言って欲しいのである」


 その我輩の言葉を笑っても受け流し、アリッサ嬢とダンは皆を引き連れて外に出ていくのである。出ていく際、ダンは我輩に一言言い残していったのである。


 「センセイ、昼までには終わらせてくれよ」

 「ドラン次第である」

 「え!ちょっと、マジ、マジですかい!?」


 バタンとドアが閉まったのを、茫然と見ていたドランに我輩は、大量の紙を渡すのである。


 「昼までに終わらせろということである。ちゃっちゃとやるのである。まずは、適当に塗りつぶすところからスタートである」

 「トホホ…………。言われた通りにしておけばよかった…………」


 ドランの協力で、集中して紙を塗る事よりも、何かを伝えたい文を書いたり、絵を描くほうが構成魔力の量が多くなる事が分かったのである。


 ただ、最大でも全体の二割はいかなかったので、他と比べないとわからないのであるが、効率はあまりよくないのかもしれないのである。


 ちなみに


 一番多く【意思】の構成魔力があったのは、ドランが書いた


 【早く解放されたい】


 と言う一文であったのである。





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