素材と回復方法は多い方がいいのである
我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師であった。
「誰かに見られてる」
ダンはそう言って周囲を伺うのである。
警戒してるように全く見えないその自然な姿は、さすが探検家であると我輩は感心するのである。
「獣ではないのであるか?」
臭い薬の使用時にも効果の低い個体もいたので、それではないのかとダンに尋ねるのである。
それとも、誰か……と言うことは魔者であろうか?
「獣や魔獣じゃないな。様子を伺うには近すぎるし、もっと早くこちらが察知できる。魔物や魔者にしては、反応が弱すぎる。……なんだ?」
ダンもよくわからない反応に戸惑っているようである。
だが、武器に手をかけてないところを見る限り、危険性は低いと言うことなのであろう。
「危険な感じはないのであるか」
「多分な……。なんと言うか……森に溶け込んでる感じで気配が読みづらい。シンだったらもっとはっきりわかるんだろうけどな」
そう言うとダンは、休憩場所の片付けを始めるのである。
「さぁ、先に行こうぜセンセイ」
「なにもしないのであるか?」
「おれたちは探検家だからな。別に用もないのにこちらから仕掛けることはねぇよ」
ダンがそう言うので、そんなものであるかと我輩も片付けと準備を始めのである。
片付けも終わり、現場へと再び向かうのである。
「あとどれくらいであろうか」
「ん? ちょっと待ってろよ」
そう言って地図を確かめたダンは、あと少しで着くと言ったのである。
あと少しであるか。
我輩はその表現にひっかかるものを感じるので再度確認することにしたのである。
「ダンよ」
「何だい? センセイ」
「その“少し“は、先程までの我輩の状態を知った上での発言であろうな?」
「……あぁ……。訂正するわ。もうしばらくかかる」
昔、ダン達との現地調査の際に何度もやったやり取りを交わすのである。
ダンやウォレスといった探検家達は、飯の量でも歩く早さでも、全て探検家基準で考えるから色々大変だったのである。
それが悪いとは言わないのであるが、こちらは室内派の研究者なのである。
同じにしないで欲しいのである。
そんなことを言ったらチームの全員に
「センセイ(おっさん)に言われたくない」
と半睨みで言われたのである。
真に、心外である。
再び移動を開始して一時間ほど経過するのである。
確認したのであるが、今度こそ後少しだそうである。
確かに、木の間も広がってきており太陽の光も多く差しているのである。
道、と言えば道のような気もする多少開けた場所に出てきているのである。
何だかんだで、まだ早く現場に行きたいと気が逸っていたのであろう。
落ち着いて周りを見渡すと、辺り一面素材の宝庫である。
そのなかでも、大量に生えている我輩にとってもお馴染みのものがあった
あれはたしか、【キズいらず】にちょうど良い薬草である。あれは…………
【キズいらず】
我輩が持っていた手引き書でも最初の方に載っていた、錬金術のなかでは基本的な傷薬を改良したものである。
考え方としては、薬師が作る傷・炎症用回復薬の効力を回復魔法の効力まで近付ける、というものである。
なので、回復魔法の効果範囲である病気や中毒の方には効果がないのである。
何故そのようなものを作ることになったかと言うことであるが、ダンたちから、
「ゴードン一人では回復が追いつかない時が増えてきた。だから、これからのためにできるだけ強力な傷薬が欲しい」
という要望があったからである。
何度かの実験を経て完成したこの薬は、使う材料の種類も多くないのでかなり重宝したのであるが、
・塗れる場所にしか効果がない
・素材の必要量が多く、作製に必要な時間がかかる
・回復魔法ほどの即効性がないので、傷の深さや大きさによっては再生していく様が見えてたり感じたりして気持ち悪い
等の問題点もあったりするのである。
殊更、ダン達が我輩に文句を言っていたのは、
再生している時の滲みる痛みがとても酷い。
ということである。
ウォレスとダンの二人が、強力な魔者との戦いで腹を裂かれたことがあったらしいのである。
その際、回復魔法で治されたダンは普通に回復したのであるが、薬で治したウォレスが再生回復時の激しい痛みで気絶したらしいのである。
報告書には、
ー治すはずの薬の副作用でショック死するかと思った。もう少し抑えてもらえないだろうかー
とあったのである。
だが、そんなものは仕方のないことである。
効果を上げているということは、良い効果も悪い効果も上がるのである。
それに、もともとは小さなキズから少し深いキズを治す用の初級の傷薬が元になっているのである。
本来強い回復魔法で治す程の大ケガを、これで無理矢理治そうとするからそうなるのである。
痛さは、生きている証である。
結構なことである。
そんなことを思い出しながら周りを散策していると、ふいにダンの足が止まるのである。
腕を広げ、我輩を後ろに隠すように立っているのである。
「センセイ、俺の後ろに一応隠れてくれ」
指示されるまま、ダンの後ろに行くのである。
すると、ダンの前方にある茂みからなにかが飛び出してきたのである。
一体何が出てきたのであろうか。
ダンの背中から顔を覗かせて確認してみるのである
二足歩行なのでほぼ、人間
背は子供くらいで紙は短く翡翠色、体の線は細いので、おそらく男子
薄黄緑色の服、らくだ色のズボンと布の靴を身に付けているのである。
こんなところに子供であるか? 一人で? 家の住人であろうか。
目の前の子供は、涙目で体を震わせながら我輩達の行く手を阻むように前に立ち、弓を構えているのである。
「おいボウズ。俺たちはあやし………………いや、それは無理だな。……とりあえず、その危ないものをしまってくれないか?」
ダンは両手を上げ、怪しいものではないと言おうとしたところで、こちらをちらりと見てその言葉を言うのを止めたのである。
一体どういう意味であるか。
今度一度話し合う必要があるのである。
だが、子供はピクっとしたが、それから反応が全く無いのである。
「おい、ボウズ…………」
もう一度話しかけようとしたダンの言葉を遮り、子供が大きな声を出すのである。
『ニンゲン?ニンゲンなの?ねぇ、お兄ちゃん、助けて!』
全く馴染みの無い発音だが、我輩には理解できたのである。
それは、我が一族がずっと伝えてきた古き友達の言葉、
古代………………精霊語であった。