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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
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とりあえず調査なのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 さて、集落長達からの希望を叶えるべく行動に移していこうと思ったのであるが、気になることがあるので先に尋ねてみることにするのである。


 「それならば、妖精パットンに魔法陣を書いてもらって、それを写していけばいいのでと思うのであるが」


 我輩の言葉に、老婦人が首を横に振って返答するのである。


 「それができればいいのですが、私達には、意思の魔法を使うことができないのです」


 どうやら、種族毎に使える構成魔力の適性があるようで、適性が低い構成魔力は魔法陣を使っても引き寄せることができないようなのである。逆に、全ての構成魔力を意識して感じることのできない人間は、構成魔力の優劣がないので、理論上魔法陣を介せば全ての魔法を使えるとのことである。ただし、人間の場合は魔法陣を描くのに必要な純魔力を用意する力が亜人に比べて低いようである。


 「そういうわけで、意思の魔法の効果がかかった道具が欲しいのです」


 集落長はそう言って、我輩を見るのである。

 我輩としては、魔法陣よりも錬金術の研究ができるほうが都合がいいので別に問題はないのである。なので、我輩は頷くことで集落長の問いに答えるのである。

 ただ、時間もあるのであるなら、もう少し広い視野で物事を考えていこうと思うのである。

 我輩は、全員を見渡し、


 「前回は、緊急のこともあり意思の魔法を使ったのであるが、その方法以外にも手段はあるかもしれないのである。なにか、その魔物の習性や特長、苦手なものや近づいて来ない場所など知っていることを教えてほしいのである」


 と聞いてみたのである。

 もしもそれらがあるならば、その効果を上げることで、魔物を追い出すことができるようになるはずなのである。

 自警団長と捜索団長が、なにかを思い出すように腕を組んで考え込んでいるようである。この二人が一番その魔物と対峙しているのであろう。

 暫くすると、自警団長が口を開くのである。


 「参考になるか分からないが、集落を襲ってきた時は、子供や年寄りよりも大人、それも覇気のある者を狙っていた傾向があるな」

 「一度、ガス体が獣に取り憑くところに遭遇したことがありますが、寝ていたものなどに取り憑くことはなく、起きた後に取り憑いていましたね」


 続いて捜索団長が口を開くのである。

 そのあとも色々と聞いたのであるが、苦手なものなどは分からなかったものの、やはり、餌となる【意思】の構成魔力に引き寄せられていることは確かである。

 であれば、餌をなくすと思わせる方法と同時に、外により多い餌の存在があれば出てきやすくなるのではないのであろうか?

 しかし、それであるならば以前ダン達が洞穴に入った時、さらに言えば集落での戦闘の時、なぜ魔物はダン達に乗り移ろうとしなかったのであろうか。

 魔物を生け捕りにして色々試せれば良いのであるが、流石に人に危害が及ぶ可能性が高い魔物なので、それは難しいのである。


 そこまで考えてふと、寄生型の生物と同じだと評していたミレイ女史を思い出すのである。彼女から寄生生物について話を聞けば少し何か分かるかもしれないのである。

 そう思ったなら、早速行動あるのみである。

 我輩はおもむろに立ち上がり、一言感謝を述べてその場を辞するのであった。


 「アーノルドさんは、急にどうしたのですか?」

 「あー、センセイは研究に集中すると、いつもああだから気にしないでくれ」


 何やらダンが、失礼なことを言っている気がするのであるが、そんなことよりも今はミレイ女史を探す方が先である。まだ先程のところに居るであろうか。


 我輩は、足早にミレイ女史のもとへ向かうのであった。






 「ミレイ女史、教えてもらいたいことがあるのである」


 先ほどの場所から既にいなくなっていたミレイ女史は、アリッサ嬢と共に集落の食材を見て回っていたのである。

 どうやら今日の夕飯の献立を考えていたようで、前にある食材の料理方法を前にいる森の民の女性に聞いているようであった。


 「ミレイ女史、寄生生物について教えてもらいたいのである」

 「え?あ、アーノルド様?急にどうされたのですか?」

 「また何か研究するつもりかい?」

 

 我輩の質問に、面食らったような表情を浮かべて対応するミレイ女史と、普段のように対応するアリッサ嬢である。

 なので、我輩は先程宿舎であった会話をかいつまんで説明するのである。


 「あー、なるほどねぇ。それは確かにこの集落には必要なものかもしれないねぇ」

 「はい、私でわかる事でしたらお教えしたいのですが…………」


 そう言うと、ミレイ女史はアリッサ嬢の方を見るのである。どうやら、アリッサ嬢と何やら予定を立てていたようである。

 それを見たアリッサ嬢は、やれやれといった感じで

 

 「センセイの方へ行っておいで。この状態のセンセイは、もう何を言ってもダメだから」


 そう言って、ミレイ女史に笑いかけるのである。


 「あ、そうそう。そうなったセンセイは、満足するまで解放してもらえないから覚悟してね」

 「え……」

 

 最後にそう言い残して、アリッサ嬢は去って行くのであった。

 人聞きの悪い言い方なのである。我輩は、必要なことをしっかり聞かないといけないと思っているだけである。

 そう思いながらも我輩は、なぜか固まってしまっているミレイ女史に、寄生生物について知りたいことをどんどんと質問していくのであった。


 さすがミレイ女史は、リリー嬢がその能力を認めているだけあり、かなりの博識で色々なことが分かったのである。時々脱線して話が長くなってしまったのは大変申し訳ないなと思ったのであるが、なかなか興味深い話が聞けたのである。

 そんなわけで、話が終わるまでに数時間を要してしまったのであるが、我輩はとても充実した時間を過ごすことができて満足である。それでは、これからミレイ女史から聞いた話を元に研究を開始してみるのである。


 「ミレイ女史、大変助かったのである。本当に感謝するのである」

 「はい、アーノルド様のお役に立てたなら嬉しいです。それでは、私はアリッサさんのところに行かせていただきたいと思います」

 「忙しい中申し訳なかったのである。アリッサ嬢にもすまなかったと言っておいてほしいのである」


 別れ際に、ミレイ女史にアリッサ嬢へ妖精パットンに甘い菓子を作ってあげて欲しい旨を言伝して、別れるのであった。危なかったのである。これを忘れていたら後で妖精パットンに何をされるか分かったもんじゃないのである。

 そう思いながら、我輩は必要な素材を選定すべく、知恵を借りに妖精パットンを探しに行くのであった。






 妖精パットンを探すべく集落内を歩いていると、遊び終わり帰る途中のサーシャ嬢達を発見したのである。

 今回は錬金術の研究である。ふと、同じ錬金術を勉強するものとして、研究に誘ってみようかと思ったのである。


 「サーシャ嬢、少しいいであるか?」

 「あ!おじさん!うん、いいよ。どうしたの?」


 我輩は、サーシャ嬢に宿舎であった会話と、そのために必要な道具を作るために一緒に研究をする気はあるかと尋ねてみたのである。


 「やりたい!けど……」


 サーシャ嬢は言い淀み、周りの子供達を見るのである。

 集落にいる間、サーシャ嬢は学校に行っていない子供達のまとめ役をフィーネ嬢と共にしているのである。これも、サーシャ嬢にとってはとても必要なことなのである。それは、我輩でもわかることなのである。


 「ずっと、こちらの研究に付き合って欲しいと言っているわけではないのである。朝食の前と夕食の後に少し一緒に考え事をしてほしいのである」


 鍋を使っての道具作成は我輩にしかできないので、それは、昼の間にでもやればいいのである。研究をする前とした後に、一緒に研究の方向等を考えてもらえば、我輩では思いつかない何かを見つけるかもしれないのである。研究所時代でも、よくリリー嬢やゴードンにもお願いしていたことである。


 「うん!それならいいよ!私も人の心を食べちゃう魔物を追い払う道具一緒に考えるね!」


 そういうと、サーシャ嬢はフィーネ嬢や他の子供達と一緒に家に帰って行ったのである。


 「錬金術師アーノルド、何か新しい研究でもするのかい?」


 それに合わせたかのような、ちょうどいいタイミングで妖精パットンがこちらにやってきたのである。


 「妖精パットン、ちょっと聞きたいことがあるのである」

 「どうしたんだい?錬金術師アーノルド。ボクに答えられることなら答えるよ」

 

 妖精パットンの言葉を聞いて、我輩は、先ほどサーシャ嬢にしたような説明を妖精パットンにもするのである。


 「それでであるな、【意思】の構成魔力を含んでいそうな素材に心当たりは無いであろうか?」


 我輩の質問に、妖精パットンは難しそうな顔をするのである。何か問題はあるのであろうか?


 「前にも言った通り、文字や絵画などは意思表示の一つだから、それに強い意思が混ざれば【意思】の構成魔力も含むはずだよ」


 確かにそうなのであるが、人の持つ構成魔力量以上が必要なのである。その場合、どれほどの量が必要になるのであろうか。おそらく圧縮作業も必要になるし、鍋を使う簡易魔法陣では作成ができないのである。


 「それか、生物の意思を司る部位と言われる脳を使うか。だと思うけれども」


 脳であるか。おそらく文字や絵画よりは魔力量が多そうな気はするのである。肉にする獣や家畜の脳をいただいて研究してみるのである。我輩も、その辺りかとは思っていたのであるが、どうやら妖精パットンも同意見のようである。

 が、妖精パットンは、そのあとにもう一言続けるのである。


 「多分一番効率が良さそうなのは、魔法生物の核だね」

 「魔法生物の核であるか」


 魔法生物というのは、土人形や今回話題に出ている魔物のような、純魔力の溜まり場等から発生したり、人工的に作られる生命体のことである。普通の生物と違って、体を維持するのに魔力の結晶である核を保有しているのである。つまり、魔法生物は核を破壊しないかぎり、時間が経てばまた元通り復活してしまうのである。


 妖精パットンの話によると、どうやら自然発生する魔法生物は核を構成するにあたり、付近にある様々な生命の意思の構成魔力を吸って形成するようなので、魔法生物の核は大きさの割に多量の構成魔力を保有しているのではないかと見ているようなのである。

 ただ、核は破壊してしまうと時間とともに消失してしまうのである。錬金術魔法陣の制限として、生命は分解できないのである。魔法生物の核を生命と判別した場合、分解は行われないのである。そうなると、分解直前で破壊して核を魔法陣に投入しないといけないのと、それまで復活が行われないようにしないといけないという点が問題なのである。


 「なるほどである」

 「まぁ、実際にどれがどれくらい【意思】の構成魔力を含んでいるかなんてわからないんだ。ボクも手伝うから、色々やってみたらいいよ」


 確かに妖精パットンの言う通りである。ちょうど妖精パットンは【意思】の構成魔力を感じることができるのである。分解したものにどれだけの含有量があるかわかるのである。


 そうと決まれば明日から早速研究を開始するのである。

 

 ダン達には核を保有する生物を捕ってきてもらうのである。森の民達からは獣や家畜の脳を頂くことにするのである。

 これから行う研究に胸を踊らせながら、我輩は宿舎に戻ろうと思ったのであるが


 「どうしたのであるか妖精パットン?」


 妖精パットンが、我輩の前に立ちはだかるのである。


 「錬金術師アーノルド。君は、ボクとの約束を忘れてはいないだろうね」


 どうやら、昼前に会ったときのことを言っているようである。少しだけ顔が怖いのは、それだけアリッサ嬢の菓子を楽しみにしているということなのであろうか。

 我輩が、先ほどミレイ女史に言伝をしておいた旨を話すと、妖精パットンは機嫌良さそうに我輩の頭に乗り


 「さあいこう、錬金術師アーノルド。おいしい菓子がボクを待っているよ」


 そういって先を急がせるのであった。






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