表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
48/303

森の集落での一幕である その2


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 ハーヴィーのいたところを離れて歩いていく内にふと気づいたことがあったのである。


 みんな、普通に会話していた気がするのであるが、一体どういうことなのであろうか?たしか、妖精パットンは集落全部を網羅するほどの魔法は使うことができないと言っていた筈である。


 と、そこに老婦人と妖精パットンが歩いてきたので尋ねてみることにしたのである。


 「ああ、それはこれを使ってパットンに魔法を掛けてもらっているのですよ」


 そういって、老婦人は手に持っている古びた木の杖を取り出したのである。

 この杖は、霊木と呼ばれる長い年月を掛けて純魔力を吸い込んだ樹木を、同じく純魔力が浸透した霊水と呼ばれる水で清めた強い媒体のようである。この杖を使うことで、魔法の効果を増幅させることができるらしいのである。


 「それでも、かなりこっちも力を使って魔法を掛けてるんだからね。感謝してほしいよ、全く」


 少し疲れ気味の妖精パットンであるので、後ほどアリッサ嬢に甘い菓子でも作ってもらうように頼んでおくと言ったら、とても喜んで我輩の頭の上に倒れるのである。


 「いやあ、持つべき者は友だね。錬金術師アーノルド、君は実によくわかっているよ」

 「そう言って頂けると幸いである」


 だが、少しして妖精パットンは我輩の頭から離れるのである。どうしたのかと思ったのであるが、


 「錬金術師アーノルド、君は頭を洗った方がいい。汚れと脂でベトベトだよ。ボクの快適な生活のために、遅くても今日中には湯に浸かって、身を清めてほしいところだね」


 そう言って、老婦人の元に移動するのである。そういえば、森の家を出てから一度も体を洗っていない気がするのである。昨日も、宴の後すぐに眠りについてしまったので、結局湯に使っていないのである。そういう点では、アリッサ嬢とミレイ女史は宿舎に戻ったらすぐに湯浴み場へ行っていた気がするのである。

 森の民は湯浴み文化があるだけあって清潔である。そう考えると少々我輩の今の状況はいただけない気がしたのである。


 「ダンやドランも朝食前に軽く湯に入って体を洗っていたよ。おそらく入っていないのは朝食前にふらふらしていた君だけだよ。錬金術師アーノルド」


 妖精パットンからの追加口撃で、我輩は宿舎に戻り湯に入ることを決断したのである。






 急いで湯浴みをし、昼食を終えた我輩は、妖精パットンとともにまた集落の散策に出かけているのである。


 「悪いねぇ、ボクの為に気を使ってもらっちゃって」


 しっかり洗った我輩の頭に横になりながら、妖精パットンは弾んだ声で我輩に話しかけるのである。

 別に妖精パットンのために湯浴みをしたわけではないのであるが、いちいち反発するのも面倒なのでとりあえず言われるままにしているのである。


 「そんなに我輩の頭が居心地いいのであるか」

 「今さらな事を言うね、きっと人間が干したての柔らかい布団で寝るって言うのは、これくらいの心地好さなんじゃないかと言っても良いんじゃないのかな」


 そこまで我輩の頭はフワフワしているのであろうか。きっと、妖精パットンの感覚がおかしいのであろう。

 我輩はそう思いながら、楽しそうな子供の声が聞こえてくる方向へ歩いていくのである。


 子供達は、とても楽しそうな歓声をあげながら、以前サーシャ嬢とデルク坊がやっていたように、水の魔法をどんどん撃ち合っているのである。それを相殺したり水の壁で防いだりしながら、攻撃に転じている様を見ていると、子供ながらさすが森の民なのであるなと思うのである。


 「あ、おじさん!」


 何人かの子供達からの攻撃を、他の子と共に防ぎ続けているサーシャ嬢が、我輩に気付き手を振るのである。そうしながらも、もう一方の手で水の障壁を張っているのはさすがの一言である。

 サーシャ嬢と共に、防御に回っている子供のなかには、フィーネと呼ばれていた親御殿の子供の姿もあるのである。

 人数的にはサーシャ嬢の方が大分少ないのであるが、いい勝負のようである。どうやらサーシャ嬢とフィーネ嬢の能力が、他の子よりも高いようであるが、良く見てみると、他の子は、二人よりも小さい子ばかりである。どうやら、二人が年長者として他の子の面倒を見ている感じなのであろうか。


 「ああ、そうか。サーシャより大きい子は学校にいくからね。学校に行かない子達のまとめ役になるんだね」


 妖精パットンが、我輩の頭をぽふぽふと蹴りながら我輩にそう話すのである。

 それはわかったので、とりあえず頭を蹴るのはやめてほしいのである。


 そんな妖精パットンの方に気を取られてしまったので、サーシャ嬢の方を見てみると、遊んでいた子供達がこちらに駆け寄ってきていたのである。

 子供達は、我輩の前までくると、


 「おじさん!サーシャおねえちゃんをたすけてくれてありがとうございました!」


 そう言って、我輩に抱きついてきたのであった。


 「ふふふ、こっちでもモテモテだねぇ。錬金術師アーノルド」

 「何をダンのようなことを言っているのであるか」


 妖精パットンが、からかうように我輩の頭の上から声をかけてくるのである。子供から感謝を伝えられているだけなのに、何をどうすればそういう風になるのかが分からないのである。


 「じゃあね!おじさん!」

 「今度遊ぼうね!」

 「おままごとしようね!」

 「ハーヴィーにっちゃもつれてきてね!」


 子供達は、自分の気が済むまで我輩に抱きつくと、また遊びに戻っていったのである。


 「みんな良い子達なのである」

 「そうだねぇ。今、その子達の笑顔を作ったのは錬金術師アーノルド、君なんだってことは自覚しているかい?」


 唐突に妖精パットンから、真面目な言葉が聞こえてきたのである。


 「どうしたのであるか?」

 「そのままの意味さ、君とダンがサーシャにあえなかったら、サーシャはここに来れなかった」

 「妖精パットンがいればいずれ来れたのではないのであるか?」


 我輩の言葉に妖精パットンがしばらく沈黙した後、頭を蹴飛ばすのである。


 「そうだとしても、デルクは既に死んでいるよ。全くもって、君はなぜそんなに人の感謝を素直に受け取らないんだい?謙虚を通り越して、嫌みだよ。それは」

 

 以前、ダンのメンバー達にも言われたことを、妖精パットンにも言われてしまったのである。自分としては感謝されるほどの事はしていないので、感謝されることが気恥ずかしいのである。


 「あと、君はサーシャ以外に不器用すぎるよ。感謝しているなら、素直にありがとうと言えば良いじゃないか。まぁ、君から漏れてる意思の魔法のせいで、大概はバレてるんだけどね」


 それでも、言葉は大事だよ。と言い放ち、妖精パットンは我輩の頭が飛び去っていったのである。






 妖精パットンと別れてから、我輩は宿舎に戻るのである。すると、ダンと集落長、老婦人とあと壮年の男性が二人宿舎の机を囲んで何やら話をしているのである。


 「おう、センセイ」


 ダンが我輩に気付き、手を上げて声をかけてくるのである。それに反応して全員が我輩の方を見るのである。


 「錬金術師アーノルドさま、ちょうど良いところにお越しくださった」


 そう言うと、集落長は我輩を話の場に誘うのである。とりあえず、誘われるままに話の輪に加わるのである。


 「紹介がまだでしたな。この二人が、集落の捜索団長と自警団長です」


 二人の壮年が、我輩に頭を下げて来たので、我輩も頭を下げて応じるのである。

 どうやら、ダンたちはこの界隈の地理の話や出現する魔物や獣、その対処方法等について話をしていたようである。

 そのうちに、これよりも深部も捜索する可能性は高いのである。知っていく必要はあるのである。


 「で、その流れでサーシャの親父さんを乗っ取ってた魔物の話になってさ」

 「今までですと、乗っ取られたものを救う方法が無くて、殺すことでしか解放することができなかったのです」


 だが、今回の一件で、魔物に乗っ取られた者を殺すことなく、解放することができる事がわかったのである。

 ただ、現状それが出来るのが妖精パットン一人と言うのが問題なのである。

 妖精パットン一人に負担がかかってしまうし、他の妖精は中々この集落にやってこないのである。

 そこで、錬金術で妖精パットンの魔法を模した道具を作れないか聞いてもらえないか、という話をダンにしていたようなのである。


 「工房へ戻った時に、出来ればその研究をしていただければ。と思いまして」


 そう言ったのは、捜索団長と呼ばれた壮年男性である。外へ出るため、そういう者達と遭遇する機会が多いのであろう。控えめに言ってはいるのであるが、かなり強い意思を目の奥から感じるのである。


 「そうであるなら、今すぐに始めるのである」


 我輩の言葉に、森の民全員が驚きの顔を浮かべ、ダンはあきれ笑いをしたのである。


 「やっぱり持ってきてたのかよセンセイ」

 「当然である。携帯できるようになったのだから、持ってこないわけがないのある」


 そう言うと、我輩は自分の手荷物から魔法陣の描かれた紙と、完品魔法白金の手鍋を取り出したのである。


 これさえあれば、大概の研究は何とかなるはずである。

 問題は、我輩が今まで読み進めた中で一致するものが無かったことである。なので、今回の研究は一から考えないといけないのである。


 ふふふ、遂にこの時が来たのである。研究者としての本懐である。自分の発想と能力を使い、新しいものを作り出すのである。

 我輩が浮かべている表情を見て、森の民達は、期待と不安が入り交じった表情を浮かべ、ダンは、諦めの入ったひきつった笑いを浮かべているのである。






 ふふふ、錬金術師として果たさねばならぬ依頼である!腕が鳴るのである!

 我輩はそう思いながら、魔法陣の描いてある紙を広げるのであった。





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ