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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
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歓迎されたのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 「あなた!!」

 「パパ!!」


 自分で歩いて集落に戻りたいと言う親御殿の希望通りに、集落が見えてきてからドランの背負子から降りて歩いていた親御殿の姿を確認した一組の親子が、入口から飛び出してきたのである。親御殿の家族なのであろう、一心不乱に駆け寄って親御殿に抱き着くのである。親御殿も、抱きしめてそれに応えるのである。


 「二人とも、心配をかけてすまなかったね」


 しばらく抱きしめあっていた二人であったが、


 「一応、大丈夫だと思うのであるが、ここは森の中で集落の外だから早く中に入り、改めて再会を喜び合った方がいいと思うのである」


 という我輩の言葉を聞いて、我に返ったように体を離して一緒に集落に戻って行ったのである。


 「センセイは、そこらへんの機微がわかっていない」

 「良いじゃない、一ヶ月も心配してたんだよ?その程度あたし達が守ってやれば」

 「アーノルド様、さすがに今のは良くないですよ」

 「旦那ぁ、家族の再会くらい大目に見てやりましょうや」

 「アーノルドさん……」

 「さすがは錬金術師アーノルドだね。ブレないねぇ」

 「おっちゃん、わかってねぇなぁ」

 「おじさんも寂しくなればわかるよ」


 何やら、他のメンバーから総攻撃を喰らうはめになってしまったのである。我輩は、間違ったことは言っていないはずなのである。納得がいかないのである。


 集落に着くと、昨日見た捜索団の隊長やほかの団員。あとは十数人の森の民が出迎えてくれたのである。


 「よくぞ、我が同胞を助けてくださった。私たちは、皆様を歓迎いたします。錬金術師アーノルド様とご友人方」


 そういうと、出迎えてくれた森の民のなかでも年を取っているあろう男性が集落の中を案内してくれたのである。


 森の民の集落は、木々やその間をうまく利用した建物が多くあり、人間の建築様式とはいくらか違うものも見受けられたのである。樹木の中ほどで家を建てていたり、吊橋のような通路を作って見たりと森ならではの立体的な構造になっているのである。一応、文献を通して想像上ではどういうものかというのは考えていたのであるが、想像以上に面白いものであったのである。

 ちなみに、現在は親御殿、サーシャ嬢、デルク坊とは別行動になっているのである。3人は、親御殿の家で、家族との再会を喜びあっているはずなのである。別れる際に、小さい子供が何人かサーシャ嬢達の元へ駆けつけていったので、あれはきっと友達なのであろう。


 「申し訳ございませんな。皆感謝はしておりますが、如何せん人間と会うのは初めてで、どうしていいかわからないものが多いのです」


 森の民の老人が、我輩達にそういって頭を下げるのである。

 周りを見渡すと、家の窓やドアから住人が覗き込んでいるのがわかるのである。まぁ、1200年以上も交流が断絶している種族との邂逅である。奇異の目で見られることは仕方がない物だと思うのである。


 「俺達は気にしねぇよ。行く先々でこんなふうに見られてきたからな」


 ダンはそういって、笑いながら目の合った少年に手を振るのである。急に振られた少年は、一度窓から隠れすが、もう一度顔を出して恐る恐る手を振り返したのである。


 「いい子じゃねぇか。人間よりもよっぽど歓迎してくれてるぜ」


 少年の反応に気分をよくしたダンは、上機嫌で目の合う者に笑顔を振り撒き、手を振るのである。


 「本日は、集会場でささやかではありますが、歓迎と感謝の気持ちを表す宴を用意してあります。ぜひお楽しみいただければと思います」

 「ほんとですかい?酒はありやすかい?」

 「森の民の宴かぁ、どんな料理が出るのか楽しみだねぇ」


 老人の言葉に、飛び上がるような反応を示すドランと興味を惹かれるアリッサ嬢である。

 老人から、酒の用意もあるときいたドランは若者らしい爽やかな笑顔を浮かべて歩き出すのである。とはいえ、元が厳ついので、どんなに爽やかでも厳ついのであるが。そんな上機嫌のドランをハーヴィーが飲みすぎないように必死で注意しているのである。まぁ、ドランも中堅の探検家である。ちゃんと分はわきまえているはずなのである。

 アリッサ嬢はアリッサ嬢で、料理の研究をする気満々なのであろう。目がとても輝いているのである。きっとその料理はまた辺境の集落の女性陣に伝わることになるのであろう。


 「室長に報告しないといけないことが多過ぎて、どこから手を付ければいいのでしょう?」

 「とりあえず、リリーっていう子の興味を引きそうなものだけでも書いてみれば良いんじゃないかな」


 ミレイ女史は、リリー嬢に送る報告書をどう書けばいいのか悩んでいるようである。

 しかし、これから先もっと困る事態が増えていくことになる予感がするので、今からそれだと大変な気がするのである。そういう点では、妖精パットンの言葉は良いアドバイスになったようで、ミレイ女史は歩きながら紙に報告書をまとめていっているようである。


 そのような感じで老人の案内を受けながら進んでいくと、前に大きな建物が見えてきたのである。あれが目的地の集会場であろうか。


 「あちらが集会場でございます」


 予想通りの返答を返した老人の案内にしたがって、我輩達は集会場へ進んでいくのであった。






 現在集会場の中は大混雑である。

 最初は、我輩達と出迎えてくれた森の民達だけで行われていた集会場での宴であったが、時が経つにつれて人が増えてきたのである。

 どうやら、集落の者の殆どが宴が始まると同時に、集会場へ様子を見にやって来ていたようである。


 「一体どれだけ人見知りなんだよ」


 ダンがおもむろに酒の入った杯を片手に、集会場の入口へ向かい、


 「せっかくの宴なんだぜ!皆で騒ごうや!」


 そういって一人の森の民の男性に杯を渡し中に強引に引き入れたのである。

 それを見たドランやアリッサ嬢も料理や酒を片手に、宴を遠巻きに見ていた者をどんどんと引き入れていくのである。

 さらに、サーシャ嬢やデルク坊が一度宴の席から離れて、友人を連れてやってきて全員で楽しく騒ぎ飲み食いを始めたことで、周りの者もどんどん中に入ってきたのである。

 最初は飲み食いはすれど、こちらに関わるのを躊躇っているものも多かったのであるが、やはり飲食を一緒にするというのは友好を深めるのに有効なようで、あれよあれよの内に打ち解けていったのである。


 「良い飲みっぷりですね、もう一杯いかがですか?」

 「そうですかい?じゃあもう一杯いただきやす!」

 「ドランさん、そのあとは私と一杯飲みましょうね」

 「喜んで!」


 意外なことに森の民の女性にはドランが人気があるようで、たくさんの若い女性に囲まれてドランは酌を受けているのである。どうやらドランのような厳つい男は森の民には殆どいないので、珍しいようである。ドランは、この状況を全力で楽しんでいるようである。酒に飲まれないことを祈るのである。


 「ハーヴィーお兄さん、これ取って!」

 「はいはい、どうぞ」

 「ハーヴィーにっちゃ!あーん」

 「はいはい、あーん。ありがとう、美味しいよ」

 「ハーヴィーさん、これどうぞ」

 「え?ああ、ありがとう」


 ハーヴィーは、子供と成人前の女性達に人気のようで、こちらもちやほやされている状況である。人のよさが伺える容姿なので、子供達にはとっつきやすいのであろう。


 「これ、かなりピリってくる辛味と香りが良いアクセントになるねぇ」

 「これは、このあたりで取れる実を挽いているんですよ」

 「へぇ、この黒いのがそれかい?あたし達の使ってる赤い実とは違う辛さだねぇ」

 「そちらの料理も食べてみたいです!」


 アリッサ嬢は、料理を作った女性陣とともに、料理話に花が咲いているようである。こちらでも、辺境の集落のような目に合わなければいいのであるが、きっとダメであろうな。女性陣の目が輝いているのである。


 「この、分解の魔法ってすごいですよね。これは、どうも同じような書式になっているのですが、確か皆様は自由な書式で魔法陣を発動するのですよね」

 「そうなのですが、私達にも分解の魔法は特定の書式の魔法陣以外では発動できないのです」

 「ということは、私達人間が作った可能性があるということでしょうか」

 「かもしれないけれど、長い年月を経てこの魔法陣自体に【この書式じゃないと発動しない】っていう原初の魔法がかかったかもしれないね」

 「そういうことがあるんですか?」

 「軽く言えば、そういう思い込みに縛られちゃったってことなんだけどね」

 「なるほど、そういうこともありますか」


 ミレイ女史は、森の民の研究者のような男性と妖精パットンとともに、森の民も使用しているがイマイチ構造を理解していない分解の魔法陣について話をしているのである。どうやら他の生活用魔法陣と違い、この魔法陣は特定の書式以外では発動できないようである。さらに、描いてある模様や書式を見るかぎりでは、人間の純魔力の制御量ではかなり描くのが大変である。我輩達が使う時には、媒体を利用しないと厳しそうである。

 きっと森の民でも描くのは大変だったのであろう。この書式になり、これが一番書きやすいことから長い年月を経て、この書式が分解の魔法陣として定着してしまったということなのであろう。

 なかなかここの話は興味深いのである。我輩も後で混ざろうかと思っていたのであるが、その我輩に近づいてくる見知った人達がいるのである。サーシャ嬢、デルク坊、親御殿とその家族である。


 「アーノルド様、夫を助けていただき本当にありがとうございました」

 「我輩は何もしていないのである。直接助けたのはデルク坊と、あっちにいるダンとその仲間である」

 「そのダン様に、センセイがいなかったらこんなところにいないから、礼はセンセイに言ってくれと言われまして……」


 親御殿の奥方が困ったような笑顔をしてダンの方を見るのである。ダンは森の民の若者達と、飲めや歌えやの大騒ぎをしているのである。奴は、そろそろいい歳の筈である。もう少し落ち着いて飲めないのであろうか。


 「既に夫から話は聞いております。サーシャとデルクのことをよろしくお願いいたします」


 そういうと、親御殿と奥方は頭を下げるのである。なんというか、今生の別れみたいになっているような気がしてたまらないのである。


 「そうはいうのであるが、この集落から森の家までは数日の距離である。時折遊びに来ればいいのである」

 「ですが、私達には森の家の結界を抜ける方法がございません」

 「それはもう問題ないはずなのである。森の家の存在を知っているものは通すはずなのである。つまり、親御殿が連れていけば問題ないのである」


 ミレイ女史が研究所との連絡用に使っている鳩も戻ってこれることから、一度家の存在を認識してしまえば通れる結界のはずなのである。

 

 「時々我輩達は、人間の集落の方に行ってしまうこともあるのであるが、自由に遊びに来てくれていいのである。そのほうが、サーシャ嬢やデルク坊も喜ぶのである」


 我輩のその言葉を聞いて、5人はとても喜んでいたのである。どうやら、本当にこれでお別れとでも思っていたようである。そういう文化なのであろうか?


 「森の民は、集落から離れると戻ってはいけない文化でもあるのであるか?」

 「そもそも、あまり集落から離れるものはいませんが、別の集落へ行ったものの殆どは前の集落へ戻ることはありませんね」

 「なるほどである。我輩達人間もそういう者もいるのであるが、結構自由に集落を行き来するのでそういう文化がないのである」

 「よかった!またサーシャちゃんと遊べるね!」

 「うん!」


 どうやら、森の民は集落間の交流がないわけではないが盛んでは無いようである。

 なので、駄目元で我輩は親御殿に提案してみることにしたのである。


 「そうである、親御殿は我輩と物資の交換をしてみる気はあるのであるか?」

 「物資の交換?」


 急な申し出に、疑問を浮かべる親御殿に我輩は説明するのである。


 このあたりの素材が欲しいこと

 森の民との交流を深めたいこと

 我輩達にも皆の力になれることがあるかもしれないこと


 我輩の説明に親御殿は困ったような顔を浮かべるのである。


 「それは、私の一存では……」


 そういえばそうである。我輩としたことが、どうにも気が焦っているようである。たしかに、捜索団の副隊長とはいえ、そのようなことを決める権利はあるわけはないのである。と、するとこの話をするのはもっと上の人物であるか。


 「楽しそうですね、良いと思いますよ」


 と、その時我輩の後ろから声がかかったのである。

 後ろを振り向くと、先ほど案内をしてくれた老人と老婦人がいたのである。


 「集落長、姥様」


 どうやらこの二人はこの集落の責任者のようである。老人が集落の長であり、老婦人が以前サーシャ嬢が言っていた一番長生きしているおばあちゃんという存在なのであろう。


 「同胞を助けてくれたお礼はしなくてはなりません、アーノルド様の……」

 「お礼とかそういうのはいいのである。我輩は、森の民と友好的な関係を築きたいだけである」


 集落長の言葉を我輩は遮って訂正するのである。お礼で交流を求めるつもりなどないのである。お礼はこの宴で十分なのである。

 我輩の言葉を聞き、老婦人はにこりと笑うのである。


 「あなたは素敵な人ね」

 「そうであるか?普通の事だと思うのである」


 別に目的があって、サーシャ嬢やデルク坊を助けたわけではないのであるし、親御殿もそうである。

 救えそうな者を救うのは当然のことであるし、そこに私的な感情を挟むのは我輩の錬金術師としての理念に背くのである。

 

 「ここは深部です、私たちも絶対にあなたたちが求めているものが採れるとは限りません。それで良いですか?」

 「こちらもそんな毎回なにかを頼む気はないのである。実際のところ気軽に遊びに来て、時々お互いの要望が聞ければそれで良い、程度のものである」


 我輩の言葉を聞き、老婦人はうんうんと頷くのである。


 「そういうことなら、こちらもお願いしたいところです。せっかくの人間とのつながりですから。いいですよね、集落長」

 「そうですな、ただ、窓口は決めておかないと行けませんな」


 そういうと、集落長は笑顔でその場から去っていったのである。我輩の我が儘のためにこんな時でも業務をしないといけなくなってしまったようである。少々、空気を読まな過ぎてしまったようで申し訳なかったのである。


 そんなことを思っていると


 「さあ、アーノルド様。まだまだ歓迎の宴は始まったばかりです。どうぞお楽しみください」


 そういうと、老婦人は我輩の手を取り、宴席の中央へ招くのである。

 中央は目立つので勘弁してほしいのである。我輩は抵抗を試みるのであるが


 「おじさん!行こうっ!」

 「おっちゃん!行こうぜ!」


 老婦人の反対の手をサーシャ嬢に握られ、背中をぐいぐいデルク坊に押され、我輩は抵抗虚しく宴席の中央へ連れていかれるのであった。

 

 「おお!主役の登場だぜ!我等がセンセイ!錬金術師アーノルドの登場だ!」


 完全に出来上がっているダンの煽りを受けて、周りの青年達が盛大な歓声をあげるのである。

 宴はより一層盛り上がり、夜遅くまで集落の宴は続いていくのである。





 

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