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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
3章 森の集落と紙人形、である。
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森の民の集落である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である






 我輩達は現在、サーシャ嬢達の親御殿の案内に従い、森の民の集落に向かっているのである。

 

 「おじさん!皆に会えるの楽しみ!」

 「そうであるか。それは良かったのである」


 我輩の隣にいるサーシャ嬢が満面の笑みで我輩にそういうので、我輩もうれしい気持ちになるのである。

 だが、集落を離れてからサーシャ嬢と手を握ったまま進んでいるこの状況を、暖かい目で見守られているのはなんとも気まずいのである。

 ダンやアリッサ嬢が冷やかしがてら、我輩をそういうふうに見るのはよくあることなのであるが、まさかミレイ女史やハーヴィー、ドランや親御殿にまでそういう風に見られるとは思わなかったのである。


 「旦那、もうすでに子持ちの風格が出ておりますぜ」

 「ドラン、失礼なことを言うな。センセイにようやく春が訪れたんだよ」

 「リーダー、辺境の集落にいけばセンセイは選り取り見取りだよ。サーちゃん!がんばれ!」

 「????……良くわからないけど、がんばるね!」

 「適当なことを言って遊ぶのはやめるのである」


 毎度の事ながら、こやつらは必ずなにか隙を見つけては絡んでくるのである。しかも、最近は一人増えて三バカになったのである。全くもって迷惑な話なのである。


 「しかし、本当にサーシャはアーノルドさんに懐いておりますし、デルクもダンさんやアリッサさんに良くしてもらっております。私も安心して二人を任せられます」


 親御殿が、ドランの背負子に座りながら笑顔でそういうのである。親御殿が安心していられるのであればそれは良かったと思うのである。


 「それで親御殿。集落までは後どれくらいのなのであるか?」


 我輩は、話を変えるべく親御殿に質問をするのである。このままだとまた、褒め殺しのような御礼攻撃が始まりそうなのである。


 「そうですね、この速度ですと後一日といったところでしょうか」


 あまり速度をあげて親御殿の負担にならないようにしないといけないという名目ではあるのであるが、実際は、体力一番無い我輩に合わせているのである。

 元々ドランの背負子は、我輩が使うように作られていたものであったのだが、病み上がりの親御殿の為に使用しているのであった。


 「ということは、後一回は夜を越さないとか」


 ダンはそういうと、アリッサ嬢とハーヴィーに何か指示を出しはじめたのである。二人は頷くと、我輩達から離れて先行して行ったのである。どうやら、本日の夜営地に適した場所を探しに行ったようである。


 「アリッサは凄腕なのは知っているけど、ハーヴィーを連れていって大丈夫なのかい?一応ここは深部に差し掛かるよ?」


 妖精パットンがダンに疑問の声を上げるのである。確かにハーヴィーは新人でもあるし、深部の斥候に出すことを疑問に思うのは当然である。

 だが、ダンは問題ないとばかりに


 「あいつは、自分が新人だということで自信はなさそうだが、ウォレスの訓練も乗り越えたし、俺達との訓練だってこなしているし、大丈夫さ」


 といって笑うのである。

 そういわれた妖精パットンは、何かを思い出したように納得の表情を浮かべるのである。

 確かに、ウォレスの訓練は色々おかしかった記憶があるのである。

 目隠しをした状態でダンやシンの攻撃を察知する訓練や、リリー嬢の旋風の魔法にはじき飛ばされないように耐える訓練など、意味がよくわからないことを喜んでやってのである。

 なので、ハーヴィーもよくわからない訓練や理不尽な訓練を数多くこなしてきたのではないかと思うのである。

 それに、妖精パットンの様子を見る限り、ダンもダンで色々なことをやっているようである。

 それであるならきっと問題はないのである。

 そう思いながら我輩は、アリッサ嬢達が戻るのを待つのであった。






 パチパチと薪がはぜる音が鳴るなか、我輩達は思い思い体を休めるのである。

 現在我輩達は、アリッサ嬢達が見つけた場所で夜営をしているところである。

 少しずつ体力をつけるべく、家の外を散策するようになった我輩であったが、他の者に比べるとまだまだ体力は低いのである。休める、というのはいいものなのである。


 「はい、出来たよ!みんなおいで!」


 アリッサ嬢が、全員に食事ができたことを知らせるのである。

 今日の夕飯は、ドランが焼いた肉と、採ってきた野菜がたっぷりのスープに芋である。


 「うっめえぇ!」


 一番乗りで食べ始めるデルク坊は、毎度の反応を見せるのである。デルク坊が、不味いと言うのを聞いたことがないのである。


 「しかし、この肉は不思議ですね。塩で焼いただけのはずなのに、とても美味しいです」


 親御殿が、肉を食べながら感想を漏らすのである。

 ドランの焼いた肉は、ドランの原初の意思の魔法がかかっているので、普通に焼いた肉でも美味しく感じるのである。

 それを聞いたドランは満足そうに笑うのである。


 「探検家を引退したら肉焼きの屋台でも出しますかね」

 「もう、出してもいいんだぜ。ドラン」

 「おれ、絶対に食いにいく!早く出してよ!」

 「いやいや、まだ引退しないですって!」


 ドランの言葉に反応するダンとデルク坊に、困ったように頭をかくドランである。賑やかな食卓である。


 と、先程まで笑っていたダンが急に真剣な面持ちになったのである。


 「リーダー?」


 アリッサ嬢が、ダンの様子に気づき声をかけるのと同時に臨戦態勢を取るのである。

 他の者も、何があったかわからないのであるが、二人の様子を見て随時体勢を整えるのである。


 「誰か見ているな」

 「あたしの鼻には何も感じなかったよ」

 「おれも音が聞こえなかったよ」


 ダンの言葉に、アリッサ嬢とデルク坊が疑問を投げ掛けるのである。二人の能力が及ぶ範囲はダンが気配を感じる範囲より広いからである。


 「ボクの魔法が破られちゃったのかい?」


 妖精パットンが、心配そうにダンに問いかけるのである。どうやらこの前の一件でいくらか自信を失ってしまっているようである。


 「そうじゃないな。おそらくだが、偵察に出たアリッサかハーヴィーを見つけて、このあたりで張ってたんだろう。来るってわかってれば効果は薄くなるんだろう?アリッサの鼻が効かないのは、相手が風下側にいるからだし。デルクの耳でも聞こえないところからすると、森の動きに慣れている連中ってこと。まぁ、森の民だろうな」


 ダンの言葉に、アリッサとハーヴィーが神妙な顔つきになるのである。偵察に出ていたら森の民に見つかっていたということだからである。話を聞くだけでも相当の実力の持ち主であることが伺えるのである。一行に警戒の色が浮かぶのである。

 だが、発言者であるダンは一向に気にせず肉を取り食べだすのである。


 「気にすんな。敵意はねぇよ。多分俺達が集落に近づいてきてるから警戒してるだけだろ。とりあえず、飯を食おうぜ。それとも、親父さんに話しかけてもらってこっちに来てもらうか?」

 「その方が良いかもしれません。私の無事も皆に早く教えておきたいですので」


 風下側に背を向けて座っている形になっている親御殿が立ち上がって、監視のものがいると思われる場所に向けて声を発するのである。


 「集落の自警団が捜索団のものであろうか?私は、捜索団の一員である!魔物にやられていた所をこちらの人間に助けてもらい、今集落に送り届けてもらっている所だ!同胞も共にいる!出てきてはもらえないだろうか?」


 親御殿の声が届いたのか、どうなのか。しばらくの静寂が夜営地に訪れる。


 「動きがあったな」


 ダンの言葉のあと、少しすると全員が見ている方向から翡翠色の髪をした男女が全部で4人現れたのである。全員、細身だが華奢というわけではない感じで、森で動くには最適な体格をしているようである。やはり、森の民ということなのであろう。


 「副隊長、ご無事でしたか。後ろ姿が痩せてしまっていて全くわからなかったのですが、声でわかりました」

 「捜索団の方だったのか、皆、心配かけてすまなかったね」


 どうやら、監視を行っていたのは親御殿の仲間であったようである。親御殿は捜索団のなかにあるこの隊の副隊長であったようである。色々面倒がなくてよかったのである。


 「サーシャ!デルク!生きてたんだ!……よかった……」

 「あ!隣のお兄さん!」

 「兄ちゃんも捜索団に入ってたのか!」


 別の方ではサーシャ嬢達の知り合いが捜索団に入っていたようで、再会を喜びあっているようである。


 「あ!パットンじゃない!今までどこに行ってたのよ!探してたのよ?」

 「心配かけたようでごめんね。サーシャ達と一緒にいたんだよ」

 「パットンのことだから、そんなこと言って途中でどこかフラフラしちゃってたんじゃないの?」

 「……そんなことはないよ?」


 森の民の女性は、妖精パットンと知り合いのようで久しぶりの再会を喜んでいるのである。この女性は、妖精パットンのことをよく知っているのである。ずっといるような口ぶりであるが、合流したのはつい最近の話なのである。


 「この人達が、私達を助けてくれてここまで連れて来てくれたんです。集落へ連れていって歓迎したいんだが、案内を頼めますか?隊長」


 親御殿が今まで一言も発していない女性に声をかけるのである。この女性が、この隊の隊長のようである。

 隊長は、我輩達を見回して


 「副隊長、並びに我が同胞を救っていただき感謝する。我々は、あなたたちを歓迎する。」


 そういって笑顔を浮かべたのである。


 「じゃあよ、まだ肉は余ってるから一緒に飯でも食いましょうや。友好を深めるには飯を一緒に食うのが一番良いですぜ」

 「あんたは自分が食いたいだけでしょうが。残りは少ないけれど、まだスープもあるから是非食べていっておくれ」


 話が落ち着いたところで、ドランがおもむろに肉を取り出して焼きだしたのである。どうも、森の民の皆は先程からドランの焼く肉の匂いにやられていたようで、誘われるままに腰掛けるのである。


 「人間の作る料理を食べるのは初めてです」

 「私達いま、歴史的な出来事を迎えてるんだよね……」

 「あ、この肉塩味だけなのに信じらんねぇくらいうめぇ!」


 隊長以外の三人は、すでに料理に手を伸ばし思い思い堪能しているのである。


 「私のいない間、集落に変化はございましたか?」

 「聞きたいことは家族のことだろう?無理に職務に忠実になろうとしなくて良い。奥さんはだいぶやつれてしまったし、子供も元気がない。早く戻ってあげた方がいいな」


 隊長と親御殿は、親御殿の家族の状況を話しているようである。既に一月ほど経ってしまっているのである。いくら長寿の民とはいえ、そういうところの価値観もゆっくりしているというわけではないようである。できるだけ早く連れていってあげた方がいいのである。食事のあとにでもダンに相談してみるのである。嫌ではあるが、ダンに担いで行ってもらうことも考えておくのである。確実に我輩が歩くより早いからである。


 しかし、唐突な森の民との接触であったが、特に問題もなく友好的に進んでよかったのである。

 森の民も含めた全員で今夜は夜営することになったのである。






 翌朝、我輩達は森の民の集落にむけて移動を開始したのである。

 既に、一人を残して捜索団員の姿はないのである。先に、集落に行って説明するとのことである。現在残っているのはサーシャ嬢達の隣に住んでいた青年である。三人で仲良く話ながら進んでいるのである。


 「センセイ?サーちゃん取られちゃって寂しいかい?」


 アリッサ嬢が、意味ありげな笑いを浮かべてこちらにやってきたのである。何を言い出すかと思ったらこれである。


 「何を言っているのであるか。なんで寂しい思いをすることがあるのであるか」

 「大丈夫よぉ、もし寂しくなってもセンセイにはミレちゃんもいるんだから」

 「へ……?………!!!アリッサさん!急にななな何をいいいいだすんですか!!!!」


 急に話を振られたミレイ女史があわてふためいているのである。すごい勢いでやってきてアリッサ嬢に詰め寄るのである。


 「あっれぇ?おかしいなぁ?ミレちゃんはセンセイに憧れて錬金術研究所に入りに来たんでしょぉ?」

 「そうですよ!それと、今の話は何も関係ないじゃないですか!」

 「ほんとにぃ?」

 「……ないです!」

 「今の間は何かなぁ?ほんとに関係ないのかなぁ?」

 「……う……あ……えっ…と…」


 アリッサ嬢の言葉に急に勢いを削がれるミレイ女史である。返事に詰まるような何かが今のやり取りの中であったのであろうか。


 「アリッサ嬢、ミレイ女史をからかうのは程々にするのである。やりすぎると、後でリリー嬢からお仕置きがあるかもしれないのであるよ」

 「…………アハハ……それは笑えないねぇ……ごめんねミレちゃん。でも、せっかく希望が叶ったんだから、たまにはセンセイと仕事以外の話をしなよ。お節介だけどね~」


 そういって、アリッサ嬢は移動するのである。何がしたかったのであろうか。


 「……アーノルド様、私は邪魔になっていませんでしょうか?」


 ミレイ女史が意を決したように我輩に話しかけてきたのである。何がどうなってそういう話になったのであろうか?


 「邪魔であるか?」

 「はい、私は皆様のように優れた力を持っているわけでもないですし、錬金術の研究も全然追いついていません。皆様の好意に甘えて今ここにいさせてもらっていますが、役に立てている気がしません」


 ミレイ女史は、どうにも自信がないようであるな。普通に魔法研究所にいたらかなりの研究者になるのであろうが、現場ではどうしても一歩後ろを行くことになってしまうのは仕方ないのである。なので、積極的に訓練に参加して追いつこうとしているのであろう。


 「心配することはないのである。リリー嬢も同じことを悩んでいた時期があったようである」

 「それは、ダン隊長からもお聞きしました。ですが……」

 「ミレイ女史は、自分がリリー嬢よりも優れていると思っているのであるか?」


 我輩の言葉にミレイ女史ははっとした顔になるのである。リリー嬢も、何年も苦労を重ねて努力してダン達と呼吸を合わせられるようになったのである。ミレイ女史は、まだ外に出て二月弱なのである。焦る気持ちは分かるのであるが、急な成長は望んではいけないのである。


 「リリーが認めるだけの力はある。焦らずに進んでいけば、リリーと同じくらいの魔法使いになれるってダンも言っていたのである」

 「………」

 「我輩も、サーシャ嬢も新しい学友ができて嬉しいのであるよ。それに、素材の受け渡しなどのタイミングが素晴らしいのである。サーシャ嬢もやりやすいと言っていたのである」

 

 この言葉は嘘ではないのである。我輩も、ダンも、リリー嬢も、ミレイ女史に期待しているのである。出なければ、リリー嬢は送り出さなかったであろうし、ダンは森の捜索に同行させなかったはずである。当然、我輩も錬金術の研究をさせる気はなかったのである。


 「なので、ミレイ女史は我輩にとっては邪魔な存在などではないのである。そもそも、既に我輩の方が体力がないのである。そんなことを言ったら、我輩の方が邪魔者なのである」


 我輩の言葉にミレイ女史はふっと笑い、


 「では、アーノルド様も今度一緒に訓練いたしましょう」


 と言ったので、我輩は全力で断るのであった。そんな我輩をミレイ女史は笑って見ていたのである。あんな訓練をしていたら体が持たないのである。






 ミレイ女史との会話が終わり数時間、似たような森の景色が続く中、森の民の青年から声がかかるのである。


 「皆様、もうすぐ集落に着きます」


 そのまましばらく案内に沿って歩いていると、遠くに柵と建物が見えてきたのである。

 出入口になっている柵の切れ目の辺りには、十数人の森の民が待ち構えているようである。

 先行して話がいっているだけあり、どうやら警戒されている様子はないのである。


 


 いよいよ森の民の集落へ到着である。文献や伝承でしか知ることのなかった、そして、それでも分かることのなかった森の民との文化、文明に触れるときが来たのである。


 これから一体どんな素晴らしい時間を過ごせるのであろう


 我輩は高揚する気持ちを抑えることのできぬまま、一歩一歩集落へ向かっていくのであった。





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