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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
1章 森の民と新しい工房、である
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ミノムシと、魔法金属の作製は勘弁である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師であった。






 現在我輩とダンは、我輩のいた集落から北東に2日弱ほど先にある、地図上では大森林の中程にいるのである。

 我輩は実物を見るまで、確信できるまであまり期待してはいけないと思いつつ、久しぶりの好奇心と沸き起こる期待を抑えられずにいるのである。


  (あんなことを言われたら、さすがに期待するのである)






 「俺たちは、錬金術の工房だと思ってる」

 「…………」

 「センセイ?」


 反応がないと思ったのか、ダンは我輩の前で手をひらひらさせるのである。

 失礼な男なのである。

 そんなことを聞いたらいてもたってもいられないのである。ダンは、前置きが長すぎるのである。


 我輩は早速行動を起こすことにするのである。


 「現場へ向かうである。すぐに行くである。ダン、行くのである」

 「おい、センセイ!早い!早いから!遅いけど!」


 急いで現地に向かうべく外に行こうとした我輩をダンが止めるのである。


 「邪魔をするのは良くないのである。早く確認しないとである」

 「夜だから!今から行ったらすぐに真夜中だから!向かう前に夜行性の肉食獣とかに襲われるから!」

 「そんなもの、どうにでもなるである」

 「なんねぇよ!戦えないくせに!どんだけ飢えてんだよ!獣か!」

 「獣などではないのである、ダンよ」

 「なんだよ」

 「いやぁ、深き探求の道の前では、人間の理性など、無いに等しいのであるなぁ」

 「ブッハハッ!そんなわけあるかよ!すっげぇ良い笑顔で言ってるけど、内容は欲望に忠実ですって言う、ダメ人間宣言じゃねぇか」


 どうにか早く行きたかったわけではあるが、最終的にはダンに布団と共に巻きこまれ、朝まで待たされたのである。

 全くもって不本意である。






 結局我輩は、ダンの手によって布団に巻かれている状態で翌朝を迎えているのである。


 なぜならば、その状態でダンは


 「じゃあセンセイ、また明日の朝な!」


 と言って、宿に帰っていったのである。


 信じられない事をする男なのである。

 仮に用を足したくなったらどうするのであるか。


 そんなことを思っていると、玄関のドアが開ける音がするのである。

 そしてドスドスと足音が近づいてくるのである。

 ようやくやって来たようである。


 「おはよう、センセイ。調子はどうだい?」

 「ミノムシの気分が味わえたのである」

 「そうか、そりゃよかったな」


 ダンは、手際よく布団を巻いている縄をほどくのである。

 

 そして


 「うりゃー!」

 「あーれー、何をするであるかー!」


 転がされたのである。

 …………気持ち悪いのである。






 「悪かったって、センセイ」

 「いつか、覚えてるのである」

 「センセイ、研究所時代はいつもシンや、アリッサがあんな感じだったの忘れたのか?」

 「記憶にございませんなのである」

 「ぶっは!貴族院の連中かよ!」


 ダンが用意した朝食を食べ、一息ついたのでようやく移動開始なのである。


 「我輩はなにも用意できてないのである。誰かがミノムシにしたせいである」

 「どちらにしたって用意できてねぇだろ」

 「…………フン」

 「まだ拗ねてんのか、子供かよ。ちゃんとセンセイの分もこっちで用意してあるよ」


 以前、我輩も道具の現地試験などを行うことがあったので、ダンは、我輩が必要としてるのもは大体把握しているのである。

 こう言うところが有能であるな。

 自分の荷物を受け取ると、ダンに礼を言うのである。


 「ありがとうである」

 「おう。……なぁ、センセイ、ちったぁ落ち着いたか?前と違って、守れるやつが俺しかいねぇんだ。できるだけ安全に行きてぇんだよ」

 「………………そうだったのである。暴走して、すまなかったのである」

 「目の前に宝があれば気持ちも逸るさ。気持ちはわかる。まぁ……あんな時間に話した俺も悪かったよ。でもな、センセイ。そういうときに焦ったら危ないんだ。じゃあ、いこうぜ。」


 こうして我輩とダンは大森林に向かうのであった。






 で、今に至るのである。

 半日かけ目的地付近である森の入り口まで行き、森の中で1泊するのである。

 そして、今は森のなかを移動中である。


 危険な獣などが出ることを想定していたのだが、拍子抜けするほど森の外も中も何もないのである。

 淡々と二人で歩いているのである。


 森の中は、太陽が出ている現在では視界は不自由すること無いのである。

 歩いているところ以外は伸びた藪などもあるのであるが、ここは比較的歩きやすいのである。

 どうやら、以前歩いたルートを、そのまま辿っているようである。


 「何も……ないで……あるな」


 とは言え、殆ど家の周りしか散歩しない我が身である。

 森の散策はいささか大変である。

 息も絶え絶えである。

 これからのことを考えたら、少しは鍛えないといけないであるな、と思ったのである。


 「ああ、すでに効果範囲内だからな。アリッサが言ってたから間違いないと思う。」


 アリッサ嬢の話によると、この臭いの範囲は我輩達が入った森の入り口辺りから始まっているとのことである。


 「だから、夜中に森付近の平原に出る肉食獣の方が問題なんだよ」

 「そうで……あるか…………」


 こちらに合わせて大分ゆっくり進んでいるダンであるが、我輩の反応が遅いので心配になったのかこちらを向くのである。


 「センセイ、大丈夫か?大分へばってるな。休むか?」

 「気力は……十二分に……あるので……ある」

 「まぁ無理すんなよ、最悪、センセイ一人くらいならミノムシで運んでやるよ」

 「せめて……おぶって欲しいので……ある……」

 「嫌だよ、何が悲しくておっさんをおぶんなきゃ行けねぇんだ」

 「以前……研究所で……酔っぱらって4号と……」

 「センセイ、その話は止めようぜ。お互いのためにだ」

 「で……あるな……」

 

 竜の山脈から無事に帰ってきた後の宴会で、酔っぱらったダンとウォレスが、同じ布団で抱き合って寝てたという話の何が問題か分からないが、ダンの目が不穏だったのでこれ以上は止めとくのである。


 なぜならば、それ以上言うとミノムシ状態で引きずられて行くような気がしたからである。


 身の危険を察知する能力が探検家に必要といわれているので、我輩、今ならば良い探検家になれる気がするのである。

 だが、まぁ、我輩は錬金術師がいいのである。






 太陽もだいぶ上がり、現在昼食休憩である。


 「そういえば、センセイ」

 「なんである?」

 「今さらだけどさ、こんなに出歩いて大丈夫なのか?」


 ダンが、持ってきた干し肉をかじりながら聞いてくるのである。


 「本当に今さらであるな。特に問題ないである。あと、その魚は、こっちに寄越すである。」

 「まじか、こっちに流されたんだろ?軟禁生活みたいなんじゃないのか?おう、これか?センセイ、魚好きだよなぁ。ここら辺だと高いんだぜ」


 ダンから魚を受け取って食べる。魚は頭に良いのである。

 以前、森の民の残した書籍にそう書いてあったのを覚えているのである。


 肉は食べ過ぎると脳まで筋肉になるのである。

 肉と酒が大好物のダンやウォレス、市井の酒場で見かけた探検家の殆どがそうであったので、きっとそうである。


 「厳密に言えば、僻地へ強制的に隠居させられた。が正しいであるな。監視も特にないのである。錬金術の環境もないので帝都に興味もないのである。どこも一緒である。」

 「へぇ、仮に帝都に研究所が残ってた……」

 「どんな手段を使っても戻るのである。」


 食いぎみに答えた我輩の答えに、ダンはどうやら引きぎみである。

 我輩の錬金術にかける想いを、舐めて欲しくないのである。


 「……宰相閣下殿は、センセイの事をよく理解してるな」

 「奴は、大釜に使用されている準魔法鉄が欲しかっただけである。あれだけで開拓団用の準魔法鉄製道具がいくつも作れるのである。」

 「あぁ、なるほどねぇ。錬金術は良い物できるけど、材料も時間もかかるしな。」

 「確かに、それは難点ではあるな。ただ、時間に関しては純正か準魔法銀、いや、せめて純正魔法鉄の大釜であればそれもかなり解消されるのであるが」


 昼食も終え、茶を飲みお互い一息つくのである。


 まぁ、宰相の気持ちもわからないでもないのである。

 魔力含有量の多い魔法金属は希少なのである。

 錬金術用の大釜で何十、何百の開拓道具が作れるのである。

 開拓団を統括する宰相は、喉から手が出るほど欲しかったであろう


 魔法金属はまだまだ精錬技術が未熟で魔力が流失することが多いのである。

 細かいことはよく分からないのであるが、魔力が流失するとその分強度が落ちたり魔法伝導力が落ちるのである。


 魔法金属は、含有魔力によって名称が異なるのである。


 目安で言うと

 1割未満=そのままの名前 鉄 等

 1割から3割=劣化 劣化魔法鉄 等

 3割から5割=廉価 廉価魔法鉄 等

 5割から8割=準  準魔法鉄  等

 8割以上=純正   純正魔法鉄 等

 ほぼ10割=完品  完品魔法鉄 等


 となっているのである。


 ちなみに現在の精錬技術では完品の再現はほぼ100%できないので、結果として純正が最上位になるのである。


 ちなみに、錬金術で作製した魔法金属は魔力含有量が自由である。

 ただし、先程言った通り、必要な材料があったり時間がアホみたいにかかるのである。


 昔、一度だけ完品魔法鉄を作ったことがあったのである。

 そのために、小指くらいの大きさを作るのに人の頭くらいの魔法鉄の原石3つと、魔法含有量を安定させる試薬を作るために希少な材料をいくつか(当然材料はダン達が採取)必要としたのである。

 さらに、全ての行程を含めて一ヶ月半以上かかったのである。


 そうして出来上がった魔法鉄を宰相に渡したときの、何とも言えない顔は今でも覚えているのである。


 そんなことを思い出していると、目の前のダンが周りを気にしだしているのである。


 「ダン?」


 尋ねる我輩に、小さな声で返してくるのである。

 武器に手をかけてはいないが、すぐに動き出せる態勢である。


 「誰かに見られてるな」


 ダンは確かにそう言ったのであった。






次は、7月3日の更新予定です

見てくださってありがとうございます。

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