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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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久しぶりの森の家である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 青空教室も何回か行い、集落の魔法を使える者達も、新しい水の魔法陣を大分安定して使えるようになり、中には量を増やして出せるようになった者もいたのである。

 なので、この辺りで森の家に行くことを首長に話したのである。


 「導……術師様、また帰ってきてくれるんだろ?」

 「勿論である。大森林深部の捜索が終わり、一段落ついたら戻ってくるのである」


 我輩の連日による訂正が実を結び、漸く我輩が納得できる呼び方をしてくれるようになった首長は、我輩にそう尋ねてきたのである。

 我輩としても、幾らか関わった土地である。これでも愛着はあるので、戻らないと言うつもりはないのである。

 そんな我輩を首長は、嬉しそうな顔をして見ているのである。


 「何であるか?首長」

 「正直なところ、術師様はこれで戻ってこないと思っていたよ。あの子達、亜人なんだろう?」


 首長から、思いがけない言葉が出てきたのである。何でばれたのであろうか?とりあえず、誤魔化さねばならないのである。

 その前に首長に機先を取られてしまったのである。


 「隠さなくても大丈夫だ……というか、集落の大人はほとんど知ってるよ」


 首長からさらに予想外の言葉が出たのである。

 話を聞くと、我が家を通りかかると、湯浴み場から聞き慣れない言葉の歌が聞こえることがあったという。聞こえる声からサーシャ嬢とデルク坊である事は分かったらしいのである。

 人間が使う言葉は何千年も前から統一されているので、知らない言葉を使っているという事は亜人であるということなのである。

 そのことを知った集落の大人たちは、どうするかと話し合ったのであるが


 集落に来てからずっと、集落の事に対して全面的に協力的であったこと

 二人とも裏表がないくらいにいい子であったこと

 我輩が二人を信用していて、二人は我輩を慕っていたこと


 から、悪い存在ではないということで、我輩が亜人である事を隠そうとしているようなので、そのまま騙されていようという事になったのである。


 そして、集落に来た探検家達からダンとアリッサ嬢が、探検家の最高峰である事を知った首長は、最高峰の探検家に魔法研究所の研究員、新しい護衛を雇ってきた意味を考え、大森林に行くのは、人攫いに攫われてしまった二人を集落に送り届けようとしているのだと思ったようである。そういえば、二人は攫われたところを保護したという設定であった。忘れていたのである。

 そして、これだけの魔法技術と知識を持ち、最高峰の探検家と魔法研究所にコネがあることから、首長は我輩を開拓団の特別任務などで派遣された者だと予想し、今回の一件で深部の捜索・亜人の集落との接触が出来たらそのまま帝都に戻るのだと思ったようである。


 「首長、それは考えすぎである。我輩は初めて会ったときに言った通り、魔法研究所を追い出された、ただの錬金術師なのである」

 「術師様が普通って言うのはあり得ないけど、そういうことにしておくよ」


 我輩の言葉に、首長が苦笑いを浮かべ、手を差し出すのである。


 「術師様、気を付けて。俺達集落の者達は、術師様達の帰りを待っているからな」


 我輩は、首長の手をしっかり握ることで、それに応えたのである。


 その翌日、集落全員に見送られ、森の工房へ出発したのである。


 「おじさん、良い人たちだったね」

 「そうであるな。思いのほか気持ちの良い者達であった」


 森の入口へ向かう街道をのんびりと歩きながらサーシャ嬢と会話を交わすのである。


 「本当だよ。亜人だと知ったうえで、普通に接してくれてるとはな。でも、まさか、バレてるとはなぁ…。しかも理由は湯浴み場かぁ。湯浴み場関係ではいろいろあるなぁ?アリッサ?」

 「うぅ……すいません……反省してます…………」


 ダンの言葉に、力無く頭を足れるアリッサ嬢。魔法陣の暴走事故も、元はといえば湯浴み場が出来たことで推し進められた形になっているので、我欲で進めた湯浴み場関連では踏んだり蹴ったりの状態である。


 「新しい魔法陣はすごく喜んで貰えて良かったよなー」

 「湯出しの魔法陣と、冷水の魔法陣は別にあるんですが、まさか同じだったとは思いませんでした」

 「魔法陣の考え方が、人間とボクたちでは違うからねぇ」


 デルク坊とミレイ女史と妖精パットンが、新しい魔法陣について会話をしているのである。

 現在、帝国では魔法陣を描くときにその詳細なイメージを持って描くという技術は存在していないのである。お湯を出す魔法陣、冷水を出す魔法陣というのが別に存在し、それらを正確に描くことで魔法を出すのである。

 つまり、前にパットンやダンと話したことであるが、森の民達亜人にとって補助術式である魔法陣は、人間にとってはそれ自体が魔法術式なのである。

 何で多種類の魔法陣を作ることになったのかというと、どうやら人間という種族が純魔力の確保量がなかなか上がらないことと、何をどう具現化するのかをイメージするよりも、具現化したものを制御するほうが得意なようであるからである。


 「あいつ、最後の日はやばかったな。水の槍とか作って最初とは比べもんにならないくらいの速さで撃ち込んできたもんな」

 「避けても付いてくる水球なんか、デルク君やサーシャちゃんもできないって言ってましたね」

 

 ちょうどその事をドランとハーヴィーが話しているのである。あいつとは、訓練に参加していた探検家のことである。

 訓練の間で、水の魔法陣で出せる水の量はほぼ増えることはなく、新しい魔法陣で思い通りの水温を出すことも数回に一度程度でしかできなかったのであるが、具現化したあとの水の制御の方で才能が開花したようである。他の者達も程度の差はあれ、同じような成長の仕方をしたのである。

 サーシャ嬢に、森の民の成長の仕方を聞いたのでおるが、逆に、確保できる純魔力の伸びは人よりも多く、構築前の制御のほうがやり易いようである。


 なので、多様な魔法陣を作ることによって、構築前のイメージを単純化したのであろうと我輩は思うのである。


 「久しぶりにお家に帰るね。いっぱいお勉強できるね!」

 「そうであるな、あの辺りで取れる素材も幾らか持っているので色々やれそうであるな」

 「うん!」

 「センセイ、これはいくらかって量じゃないけどな……」


 我輩とサーシャ嬢の言葉に、ダンが呆れた様子でこたえるのである。我輩とサーシャ嬢が確保した素材はダンとドランが背負い袋を三袋、ハーヴィーが一袋背負っているのである。 


 「食材も多いですね……」

 「お礼に森で採れないもの貰ったからね!でも、人も多くなったからすぐ終わっちゃうよね」

 「楽しみだぜ!」


 アリッサ嬢は背負い袋を二袋、デルク坊が一袋背負っているのである。


 獣に襲われたらどうするんだろうかと思うのであるが、集落から出てすぐに、妖精パットンが認識阻害の魔法をかけているし、野犬や小型の狼数匹程度なら問題はないとダンが言っていたので、多分問題はないのである。


 こうして、総勢8人の新チームで大森林内にある森の民の集落捜索を行うため、森の工房へ向かうのであった。






 道中は特に問題もなく、無事に森の家に着いたのである。


 「アーノルド様……これは……完品魔法白金では……」

 「そのようであるな。ちなみに、これもそうである」


 錬金術用の釜を見て驚いているミレイ女史に、転がっていた混ぜ棒を渡すのである。手渡された混ぜ棒を確認すると、ミレイ女史は硬直してしまったのである。稀少なものではあるが、このくらいで驚いていたらこの先持たないのである。これから我輩達は、自分たちよりも技術が進んでいる世界に足を踏み入れることになるのである。


 「おじさん、素材は全部倉庫に入れちゃっていいの?」

 「お願いするのである」


 サーシャ嬢が、てきぱきと持ってきた資材を倉庫に入れていくのである。森の民は森とともにいるのが良いのであろう。森の中にはいってから、サーシャ嬢とデルク坊は元気が増した感じである。

 そんなデルク坊は、家に着いて持ってきた食材を保管庫に入れてから、ダン・アリッサ嬢・ドラン・ハーヴィーとともに体を動かしに行ったようである。妖精パットンは我輩の頭で寝ているので、言葉が通じなくなっているので大丈夫かと思ったのであるが


 『大丈夫、少し、話せるように、なった』

 「おお、やるではないかアリッサ嬢」


 どうやらアリッサ嬢は、集落にいたときもデルク坊と妖精パットンに頼んで古代精霊語を学んでいたようである。簡単な会話くらいなら何とかこなせるようになっていたのには驚いたのである。我輩以外に古代精霊語が話せるものがいるのは、これから先に何かあったときに心強いのである。


 「こんな……報告……室長………所を辞めて………お父様も………それは嫌…………どうしたら…………」


 意識が戻ってきたミレイ女史がぶつぶつと何かを言っているのである。確か、ミレイ女史は研究所からの出向であった筈である。報告用に馴致された鳥を数羽持ってきていたので、定期的に報告をするのであろう。

 リリー嬢が上司のようなので、彼女の報告を見たリリー嬢がどんな反応をするのか楽しみである。

 そういえば、彼女の父親がリリー嬢の上司になるらしいのである。その父親があの時世話になった宮廷魔導師であったと知ったときには世間の小ささを感じたのである。


 彼とは、あの後も何度か世間話をしたり、実験のことを聞いてきたりしたので答えていたのであるが、実は職務で監査をしていたとは知らなかったのである。てっきり、錬金術に興味があるのかと勘違いしていたのである。

 そして、我輩や陛下の錬金術の理念に共感し、裏から我輩を助けてくれていたと知ったのである。

 前の宰相以外に、我輩や陛下の考えを理解しようとした貴族はいなかったので、驚きと共に嬉しく思ったのである。


 そして


 「というわけで、錬金術研究所が宰相閣下の管轄下になってしまったことを父はとても悔やんでおります」


 と、初めて会ったときにミレイ女史から彼がしていたことと、錬金術研究所の現在を聞いたのである。


 人間至上主義者に錬金術を扱われるのは心情的には嫌であるが、そんな事を思っていても、現実は変わらないのである。

 いくらあの男が愚かな思想の持ち主であったとしても一国の宰相である。自分の思想の実現のためだけに技術を運用することは無い…………筈である。

 それに宰相の管轄下とはいえ、皇帝陛下からの命令には逆らえないのである。

 我輩や陛下の思想は、理想的すぎて現実的ではないと批判した新皇帝であるが、彼が深く帝国民を愛していて、無駄な争いに巻き込むようなことを良しとしないことは知っているのである。

 おそらく、錬金術をより現実的に運用しようと考えた新皇帝であるが、運用の決定権が皇帝と同列と定められていた我輩は邪魔であったのであろう。我輩の性格を知っている新皇帝である。説得は難しいと思ったのであろうな。

 そこで、宰相の提案に乗った振りをして研究所を舵取りすることにしたのであろう。

 多少面白くない気分ではあるが、そのお陰で我輩も新しい環境や友と出会えたので、結果は良しなのである。


 「ということなので、我輩は気にしていないのである。研究所をどうにかしようとはせずに、新陛下の力になって、帝国民の力になって欲しいのである。それが、研究所や錬金術を守ることに繋がるはずである。と伝えてほしいのである」


 と、我輩はその時言ったのである。


 「せんせい、あっちの釜に慣れちゃって、こっちの作業が大変です」

 

 ふと声のした方を見ると、サーシャ嬢が久しぶりに工房の釜で作業をしようとしたら、反応速度の違いに驚いたようで我輩を呼んでいたのである。

 それはそうである。最遅から最速である。我輩も慣らさないと大変なことになるのである。


 「我輩も久しぶりにやったときに、その反応速度に驚いたのである。まずは簡単なものから作ってこの速度に慣…………サーシャ嬢!逃げるのである!」

 「え?…………あぁっ!」






 サーシャ嬢と共に高速で行われる作業に悪戦苦闘しつつ、我輩は森の工房へ帰ってきたことを実感するのであった。

 





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