青空魔法教室である②
我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。導師などではないのである
二人の教師役が行う教室の様子に満足した我輩は、残る一人が行う教室の様子を見に行くことにしたのである。
最後の教室は、先程の広場よりもさらに奥にいった、集落の外れである。
現場へ向かいながら周りを見るのであるが、この辺りは柵等で囲まれてはいるのであるが、手入れはあまりされていないのである。おそらく集落ができた当初はここら辺まで人が住んでいたのであろう。
そんな風景を横目にしつつ、教室にしている場所に向かっているのであるが、近づくにつれて騒がしくなってきているのである。
予想通り。いや、それ以上に盛り上がっているのである。
我輩は、足早に現場に向かうのである。
教室にしている場所には、集落の少年少女、何人かの集落の若者と首長がいたのである。皆大盛り上がりである。
「頑張ってー!!」
「当てろ当てろ!」
集落の少年少女、若者達から様々な声が飛び交っているのである。
皆、とても楽しそうである。
「導師さま。これはすごいいな」
我輩に気づいた首長がこちらにやって来たのである。
「楽しんでいただいているのであるか?」
「魔法ってのは、やっぱりすごいな。ここ何年、種火と飲み水しか見てないからな」
「楽しんでもらって何よりである」
思いの外好評だったので、やって良かったのである。あとは、事故だけ起きないようにしてもらいたいのである。
我輩は、視線の先にいる教師役が最後まで無事にやりきれることを願うのであった。
「皆!使える魔法は少ないんだ。どうやったら当てられるか全員で考えてみるんだ」
ダンが魔法を使ってウォレスのような大男、ドランに水をぶつけようと悪戦苦闘しているデルク坊達に檄を飛ばすのであった。
「デルクは、教師役にしない方がいいと思うぜ」
「あたしもそう思うね」
翌日の青空教室の教師役をデルク坊をやらせようかと、意見を聞いたときのダンとアリッサ嬢の返答である。
「二人が同じ意見であるならばそれは正しいと思うのである。ただ、理由を聞かせてもらいたいのである」
我輩は先程の件もあり、デルク坊に自身をつけてもらおうと教師役を任せようと思ったのであるが、二人にはその提案を却下された形になったのである。
我輩よりもデルク坊に近しい二人の意見である。理由があるのであろう。
「指導役を任せるのはいいと思うんだ。ただ、デルクは人の上に立って、物事をを教えるタイプじゃない」
「そうだね。同じ舞台の上で、できない子に教えていくタイプだよ」
「つまり、共同作業のなかで能力の劣る者の助けに回らせるということであるか」
我輩の言葉に二人は頷くのである。
「センセイだって分かってるだろ?あいつは、人と対等でありたいんだ」
そうであった。その気持ちが強くなりすぎてしまったから、今回の一件が起きてしまったのである。
それなのに、今回特別扱いのような気の使われ方をされたと知ったら、きっと傷つくのである。
デルク坊の自信を回復させようと思ったあまりに根本的な部分を間違えてしまったようである。
「気を回しすぎてしまったのであるか」
「そういうことだな」
それならば、デルク坊を教師役にするのはやめておくのであるが、せっかく面白そうな訓練方法を教えてもらったのに、それが出来ないという事が残念である。
そんなことを思っていると、ダンがこちらを見て笑っているのである。
「なんであるか」
「センセイ、何を考えているか当ててやるよ。面白い魔法の訓練方法があるのに、その教師役がいないって思ってるだろ」
「分かるであるか」
我輩の言葉にダンは物凄く得意げな表情を浮かべるのである。正直、イラッとするのである
「俺も、先生からその話を聞いて面白そうだと思ったからな。っていうかさ、俺にやらせてくれよ。教師役」
という事で、ダンが3人目の教師役をやることになったのである。訓練内容は、一昨日デルク坊とサーシャ嬢がやっていた、水の魔法を使った遊びである。
一昨日と違うのは、攻撃役と標的役が居るということである。
攻撃役は、デルク坊と探検家に憧れている少年と、最近よく来ている若い探検家である。彼は、教室の話をちょうど聞いて、参加を申し出たのである。
標的役は、ドランである。
ダンは、教師役として取りまとめを行っているようである。
「んー!」
「そうそう!しっかりドラン兄ちゃんに当てる想像をして、出来たら一気に押し出すようにするんだ!」
デルク坊は、自身もハーヴィーに狙いをつけながら、水球を出した少年に指示をするのである。
「えいっ」
「なんだぁ?ひょろい球だなぁ?ガッハッハ!」
少年が気合いを入れて魔法を放つが、気合いと裏腹に水球がゆっくりとドランの方へ向かっていくのである。彼の制御能力ではこれがまだ限界なのであろう。
それを、ドランはなんなく避けようとするのであるが、後から発動したであろういくつかの小さな水球がドランを牽制するのである。
「うおっ!どこから来た?」
ゆっくりとやって来ている水球に油断して凝視していたドランは、決して早くはないが、違う方向から時間差でやって来る水球に驚いて回避するのである。
「危ねぇ危ねぇ、油断して……」
「今だ!」
ドランが全てをかわした直後にデルク坊が合図をする。すると、ドランの上から水が出現したのである。気づいたドラン咄嗟に避けようとしたのだが、避けきることができずに肩を濡らすことになったのである。
「終わりだ!」
ダンの言葉に呆然とするドランと、地面に転がるデルク坊達である。相当頑張ったようである。
「こいつは予想外だったぜ…………」
「油断しましたね、ドランさん」
「実戦なら命取りだねぇ」
我に返ったドランに、若い探検家ハーヴィーとアリッサ嬢が声をかける。言われた通りなので、ドランは気まずそうに頭を掻いているのである。
「…………遠隔描写なんてできるもんなんだな」
決め手となった一撃を放った探検家が信じられないといったような顔でさっきまで魔法陣をあった辺りを見ているのである。
人間の常識では、魔法陣は自分の周囲にしか展開できないと思われているので、デルク坊から教えてもらった方法が出来るとは思えなかったのであろう。
「やっぱり大人ってすげぇなあ、探検家のにいちゃん凄かったぜ!」
「すごいよ!探検家のお兄さん!カッコいい!」
「いやいや、二人の牽制がなかったら当たらなかったよ。君だって、初めてなのにちゃんと相手の方に撃てたじゃないか。素質あるよ」
「本当?探検家になれる?」
「このまま魔法の訓練をしたらいい探検家になれそうだぞ!ただし、探検家っていうのは、頼まれた仕事をきちんとやらないとすぐにダメだと思われちゃうから、まずは家の人から頼まれた仕事をちゃんとできるように頑張れよ!」
「うん!」
生徒の三人は、今回の作戦が決まって興奮しているのである。
どうやら、この3人はデルク坊が牽制役、少年が攻撃役の振りをした囮で探検家が本当の攻撃役という役割で連携を取っていたようである。魔法陣の遠隔描写も、操作になれてくれば出来るようになるのである。
探検家の後ろを見ると、遠くにいくつか濡れている場所があるのである。きっと、出来るようになるまで練習してたのであろう。
デルク坊は、少年に魔法の指導をしながら、探検家の練習を気づかれないようにドランを攻撃していたのである。
そんな3人のところに、ドランがやって来たのである。
「ボウズ達、すげぇな。完全にしてやられたぜ!良かったらもう一回やらねえか?」
「おれはいいけど……」
ドランの提案に、デルク坊は後ろを向くのである。先程の訓練で集中をギリギリまでやった二人はかなり消耗しているのである。
「俺は、少し休んだら行ける」
「僕は、まだ無理……だけどやりたい……」
「じゃあ……」
そう言うと、デルク坊は二人になにか耳打ちをするのである。二人はちいさく頷くとそのまま休憩を始めるのである。
「二人は、ゆっくり休んでてね!ドラン兄ちゃん、二人は無理そうだからおれがやるよ」
「そうかい?今度は油断しねぇからな」
何やら火花が散っているような気がするのである。この二人、波長が会う気がするのである。
「デルクくーん!頑張ってぇー!」
「そんな熊やっつけちゃえ!」
そんなデルクを応援する黄色い声を聞きながら、青空教室は成功であったのかなと思ったのである。
「くっそぅ…………二回も嵌められるとは…………」
「お前より、デルク達の方が実戦向きだってことだよ」
「返す言葉もねぇです…………」
今は、青空教室の反省会と言う名のドランへの説教が行われているのである。
ドランは結局あの後行われた訓練の時も、急に復帰した二人の奇襲を受けて水を被ることになったのである。
今回は、三人一組で行う訓練だったので、途中で一人になろうが残り二人の動向を伺うのが正解だったのであるが、ドランはデルク坊に集中してしまい、その確認を怠ったのである。
あのときの耳打ちは、その作戦だったのであろうな。デルク坊が時間を稼ぎ、二人が隙を窺い奇襲する算段だったのであるな。
「どっちが訓練させてもらったかわからないねぇ」
「ぐぅ…………」
アリッサ嬢の言葉に、悔しそうにしながらもなにも言い返せないドランである。
Eクラスの探検家が、子供二人とGクラスの探検家に二度もあしらわれたのである。普通ならあり得ないことである。
ただ、今回は魔法の制御訓練なので、あまり派手に動いたり、攻撃をすることで生徒の集中を妨害したりすることを禁じられていたりしていたので仕方がない部分はあったかもしれないのである。
「確かに、知らない発動方法やこちらの動きも制限はあった。だが、実戦のつもりで集中していたら、お前の実力なら全部回避できたはずだ。お前はウォレスの訓練を乗りきったんだからな」
「わかっておりやす…………面目ねぇです…………」
ダンは、それだけ言うと笑って
「ただ、生徒に自信をつけさせて、やる気をあげる役としてはちょうど良かったかもな。探検家として反省するところは反省して次にいかしてくれればそれでいい。何はともあれ、今日はお疲れさん」
ドランの胸を叩いたのであった。
「今度の時にはハーヴィーにやってもらおうかねぇ、他のところの子達も混ぜてさ」
「えぇ!?なんでそうなるんですか!?キツいですよ!」
「私も攻撃役やりたい!」
「それなら私もやってみたいです」
「一人だとかわいそうだから、ドランも混ぜてやろう。ドラン、名誉回復のチャンスだぞ!」
「じゃあ、またすぶぬれになっちゃうな!ドラン兄ちゃん!」
「…………言ってくれたなデルクゥ!おう!いいですぜ!今度こそ全部避けきって見せますわ!やるぞハーヴィー!」
「ええぇぇぇぇぇ!!一人でやってくださいよ!!!」
「あはははははははは!」
和気藹々と反省会と言う名の、次回の企画会議が進んでいくのである。
もう少ししたら、森の家に戻るのである。
それまでは、集落の皆のために頑張るのである。




