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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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青空魔法教室である①


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。導師などではないのである。






 集落の朝は早いのである。

 太陽が山から出る少し前、薄暗いうちから起き出して畑仕事や家畜の世話などを始めるのである。

 そして、太陽が出て明るくなってくると朝食の時間である。

 朝食を食べ終わり、畑仕事が残っているものは畑仕事を行い、終わっているものは手伝ったり他の仕事を始めるのである。

 日が完全に登り、暑さも一番上がる頃には各々自由に過ごし始めるのである。友人と茶をして話に興じたり、職人のもとに赴き家具の補修を頼んだり、子供が集まって遊んだり、最近では新しい食材の研究に勤しんだりである。


 そんな時間に新しい過ごし方が出来つつあるのである。


 集落の奥には、排水路の排水先である川を挟んで大きな広場が存在しているのである。先日大きな爆発と局所的な大雨騒ぎを 起こした。つまり、我が家の奥にある魔法陣の実験をした場所である。


 そこに10人弱の老若男女と、我輩たちがいるのである。全員薄着でいるのであるが、これは決して今日がとても暑いから、というわけではないのである。


 「うーん…………えいっ」


 この前我輩に湯を出す魔法陣を教えてくれと言った少女が、自分の目の前に桶一杯分の水を出すのである。少女の足下はぐっしょりとぬかるんでいて、少女自身もびしょ濡れである。


 「そう!魔法陣を描いたあとも集中するとそのままお水は落ちないんだよ!そのままゆっくりお水をあそこに運ぶイメージをするの!」


 少女に教えている教師も少女である。寧ろ生徒の少女よりも年下に見えるのである。


 「うん!サーシャ…………あっ」


 教師役の少女、サーシャ嬢に返事をしようと思った少女は、集中が切れたらしく水を落としてしまったのである。


 「また落としちゃった…………」

 「大丈夫だよ!今までお水を出してもすぐに桶にいれちゃってたんだから、とても上手になったよ!」

 「そう?えへへ…………」

 「これなら、前よりお水出せるようになると思うよ!」


 そう、今行われているのは魔法の制御の訓練と、使用できる純魔力量の底上げでを行う青空教室である。



 「学校だと、出した水を動かしたり形を変えて魔力の制御とかやってたんだ」


 昨日、デルク坊が落ち着いてから、学校での訓練を教えてもらったのである。

 

 「なぜ、水なのであるのか、具現化してから操作の訓練をしているのであろうか知っているであるか?」

 「おれは、あまりちゃんと聞いてなかったからよくわかんないや。ごめん、おっちゃん」

 「具現化するものが水なのは、制御が効かなくなった時になにかに当たったとしても、他のものよりもあまり大事にならないからさ」


 我輩な質問に、申し訳なさそうに答えるデルク坊。確かに、魔法を使うことができなければ、聞いていてもそれほど意味があるものではないので聞き流すのも当然であるか。

 と、そこで妖精パットンがやって来て、デルク坊の代わりに我輩の質問に答えてくれたのである。


 「それに、具現化する前の魔力でそんなことしてたら、制御できなくなったときに昨日みたいな暴走事故が起こるじゃないか。錬金術師アーノルド」

 「で、あったら、純魔力だけ操作していれば良いのではないのであろうか」

 「それは、一番最初にやる練習さ。それでも良いけれど、こっちの方が制御に使っている力が上なんだ」


 錬金術でも融合作業の時よりも、構築作業や構築後の道具などを扱っているときの方が集中している事を思い出して納得したのである。



 と、いうわけで今回は兄君から聞いた方法で魔法の制御の訓練をしているのである。

 朝食の時間が終わった頃に、各家を回り希望者を募ってみたのであるが、集落の魔法を使えるものが全員やって来たのである。


 今回の教師役は3人である。

 一人はサーシャ嬢である。

 サーシャ嬢は、先程教えていた少女と老年の男性である。


 「サーシャちゃん、この魔法は良いねぇ。今までのような同じ温度の水じゃなくて、温かいお湯まで出せるんだねぇ」


 老紳士は、丁寧に魔法陣を作り、出来上がったお湯をゆっくりと桶にいれていくのである。


 「前よりも、魔法陣を描くときにどれくらいの温かさにするか考えて作るから、魔法陣が描きづらいのと思うの。だから、いっぱい練習してね!」

 「そうだねぇ、ちょっと私には難しいから練習しないとねぇ」

 「でも、無理しちゃダメだよ。疲れてきたのに無理して描こうとすると暴走しちゃうんだから」

 「そうだねぇ、ちゃんと先生しててサーシャちゃんは偉いねぇ」

 「えへへ…………ありがとう!おじいちゃん!」


 どうやら、慣れない人間にとっては集中するものが2つある。というのが大変なようで、この老紳士もこうやって今は作れているのであるが、実際にはまだ五回に一回くらいしか、思った通りの水や湯は出せていないようである。

 なので、慣れるまでは効果の多い魔法陣を描く練習をしたり、具現化したもので様々な制御を同時に行うことで、いくつもの制御を同時に行う訓練をするのである。

 サーシャ嬢は、その必要性を教えつつ、無理をさせないよう、一言添えるのを忘れないのである。昨日の反省をいかしているのであろう。

 相手の老紳士も、もう何年も魔法を使っているようなので、その事はわかってはいるようであるが、さながら孫に教えてもらうような気分なのであろう。にこにこと、サーシャ嬢の注意を聞いているのである。


 皆仲良く進めていくサーシャ嬢の教室は、ほのぼのとした空気が流れる癒しの教室であった。





 

 二人目の先生役は、ダンが連れて来た魔法研究所の研究員であるミレイ・ロックバード伯爵令嬢である。



 昨日初めて会ったときに、ダンにそう紹介されたので、そう呼んだら


 「アーノルド様、私はそのような呼ばれ方は好きではありません、ミレイで十分でございます」


 と、口調は静かではあるが、有無を言わさない程の強い目線で訴えられたのである。なので、今はミレイ女史と呼ぶことにしたのである。まだ不服そうであったが、気にしないことにしたのである。


 今回の青空教室の事を話した際も


 「素晴らしいお考えです、アーノルド様。未熟者ではございますが、私もその計画に協力させていただければと思います」


 と言って、積極的に協力を願い出てくれたのである。


 その計画を聞き、様子を見ていたダンには


 「センセイ、我輩は導師じゃないって言ってるけどさ、やってることはどう見ても導師としか思えないぜ」


 と、からかわれたのである。



 そのミレイ女史には、青少年が4人生徒に着いているのである。

 ここには、魔法を使えないもの若者が数人、勉強がしたいと言って混ざっているのである。勤勉なのは良いことである。


 「完全に、魔法陣の大きさや形を合わせないといけないと言うわけではありません。イメージさえしっかりしていれば、大きさや形が少しくらいなら変わってもちゃんと魔法は発動しますからね」


 ミレイ女史は、優しく4人の青年に教えているのである。華やかな、女性らしい容姿に、研究員らしい落ち着いた格好がなんとも新鮮に映るのである。

 華やかな容姿な者には華やかな格好が似合うとばかり思っていたのであるが、おそらく本人の心や育ちから溢れる気品や立ち振舞いの方が、より大事なのであろうな。と、我輩は思ったのである。


 「でも、先生、大きく描いたらたくさん水が出そうで…………」

 「先程も言いましたが、きちんと出す量をイメージできていれば大丈夫ですよ。余ってしまった分の融合した魔力はその時にまた元に戻ってしまいますから」


 不安を訴える青年に、安心させるように微笑みながら答えるのである。

 答えを聞いた青年は、安心したのか顔が緩んで顔が若干赤くなっているのである。よく見ると、他の者も似たような感じである。ミレイ女史の知識に感じ入ったのであろうか?

 

 この辺りは、錬金術と通じるのであるな。2本分の回復薬用の魔力をそのまま構築すると、2本分の薬液ができるのである。1本分の薬液を作ろうと思うと、余った分は元の構成魔力と純魔力に戻っていくのである。3本分を作ろうとすると、構成できなくて元の魔力に戻っていくのであるが、それでも魔力を止めて強引に構成させようとすると暴走するのである。


 その辺りの事をちょうど質問されていたようで、ミレイ女史もそのような感じで答えていたのである。


 「なので、魔法陣は、少しだけ大きめに描くことをお薦めします。ただ、適当に水を出そうと思って大きな魔法陣を描くと、大量の水が出ますので気を付けてくださいね」

 「先生、なんで大きな魔法陣を描いてもイメージすれば少ない水が出るのでしょうか?」

 「色々な説があるのですが…………私は、生命が持つ強い意思に純魔力が反応するのではないか、と思っています。」


 ミレイ女史は、こちらに来る前にダンから魔法の基礎的な話を聞いており、【意思】の構成魔力の事については知っているのである。

 ただ、世間一般どころか魔法技術の最先端である魔法研究所でも知られていないことなので、持論ということに留めているのである。

 同じくこの事をダンから聞いたリリー嬢は、今度行われる魔法学会にこの事を提出しようかと考え中らしいのである。


 「なにかが劇的に変わるって訳じゃないとは思うけど、今まで説明できなかったことが説明できる説にはなると思うわ」


 そう言って笑っていたようである。とりあえず、リリー嬢の役に立ったようで良かったのである。


 「ミレイ先生!ここは……」

 「ミレイ先生!これは……」


 魔法がわからない若者たちも、積極的に質問しているのである。学習意欲があるのは良いことである。これがきっかけで魔法が使えるようになるかもしれないのである。そのためにも、知識を得ておくのは良いことである。







 集落のこれからに期待して、我輩は最後の教室へ赴くのであった







 

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