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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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妖精パットンと研究をするのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である。






 ダンが帝都へ向かい十日ほど経ち、集落近隣の素材のや食材の調査なども大分進んでいるのである。

 この付近は人の手が余り入っていないので、良品な薬草の繁生地が数多く存在していたのである。ただ、大森林に近いので、余り遅くまで採取をしていると獣に襲撃される恐れが大分出てくるので注意が必要である。

 食材に関しても、我々よりも様々な物を食している森の民の兄君がいるので、毎日新しい食材の発見と料理の研究に女性陣が盛り上がっているのである。


 「薬師様、今日は土の中で長い根を張る芋を擦ったものと、麦の粉を水と卵で溶いたものを合わせて、野菜や肉と混ぜて焼いてみました。是非ご賞味ください」


 我輩の前には、首長の奥方が作った新しい料理があるのである。少し厚みがある円形の食べ物である。切ってみると、表面は焦げ目がつくほどに焼いてあるのでサクっとしているのだが、中は十分に熱は通っているのだが比較的柔らかいのである。野菜と肉の香りが何とも食欲を誘うのである。


 「うめぇ!うめぇ!ふわっとしてて、さくっとしてて、肉も野菜も全部一緒に食えて!」


すでに兄君は2枚目に突入しているようである。兄君は基本的にうまいであるからな。ただ、2回言ったから結構期待できそうである。3回言ったら期待大である。

 なので我輩も冷めてしまう前にいただくのである。


 なるほど。兄君の言っている通りである。小麦粉と水と卵を溶いたものと、野菜と肉を混ぜたものを焼いたものは、帝国の中でも屋台などで出されることもあるのである。なので、おおよその味は知っているのである。だが、この地で取れた地中に埋まっている長い芋を入れることで、食感にもちもちとした感触とふわっとした感触が加わることで、料理として一段上のものになった気がするのである。


 「アリッサさんから聞いた話ですと、この芋は滋養に良いらしいですよ」

 「そうなのであるか」


 我輩はそう答えるのであるが、実は我輩がその芋の構成魔力を調べ、疲労改善の効果が望めることをアリッサ嬢に伝えたことは秘密なのである。ばれると余計に変な評価がつくのである。


 「ただ、何人かこの食材が体に合わないものもいるようですので、使用には注意が必要です」

 「そうであるか。で、あれば初めて食してもらう場合は微量の使用で一度様子を見るのが良いのであるな」

 「はい。少し多めに食べたものが痒みなどを訴えておりますので、そのように致します」


 人によっては食材の適性があり、合わないものを食べ過ぎると死んでしまう場合もあるので注意が必要である。回復魔法を使えるものがいれば癒すことは可能であるが、何が原因でそうなるのかはわからないので根絶は難しいのである。


 このような感じで、毎日誰かが我輩や兄君に新作料理を持ってくるのである。ここで評価が高い料理は、家の食卓や最近できた探検家用の食堂に並ぶのである。

 珍しい食材を使用した一定以上の美味しさは確保された料理ということで、立ち寄った探検家の評価も上々のようである。

 中には使用した食材を聞いたり、分けてもらおうとする者もいるらしいのである。

 少しでも集落が潤い、また、近隣のみならず帝国の食料事情の助けになればと思うのである。






 妖精パットンは、釜の前にいる我輩の頭上をくるくると回り、自分の気持ちを表しているのである。


 「錬金術師アーノルド、ようやくこの時が訪れたよ。君の話を聞いて、この時が来るのをどれだけ待ったことか」

 「そう言ってくれるのは嬉しいのであるが、なかなか大袈裟なのであるな」

 「まあ、僕にとって久しぶりの休みだからね」

 「お疲れさまなのである」

 「毎日が楽しいからこれくらいの疲れなら問題ないさ」


 今までサーシャ嬢や兄君が外に出るときは一緒に付いて行っていた妖精パットンは、二人が在宅している今回、初めての錬金術見学になるのである。

 我輩の話を聞いて以来、錬金術の作業に興味津々であった妖精パットンは、興味深く錬金術の釜と素材と我輩を見て楽しそうにしているのである。


 中でも興味を示したのが錬金術用の魔法陣である。妖精パットンは魔法陣をじっと眺めて


 「凄い強い【意思】の構成魔力を感じるよ。きちんと読み取ってないけど、形状が違うと起動しないとか、そういう細かいところまでイメージしてるね」


 と、なかなか興味深い事を妖精パットンは言ったのである。


 「それは、意味があるのであるか?別のところに魔法陣を描くのであるからそれほど意味のあるようには思えないのであるが」


 妖精パットンは、フフンと笑って説明するのである。


 「その魔法陣を模して描くっていうことはね、その魔法陣にある意思を模すっていうことなんだ。だから、余計なことを考えたりすると、発動しなかったり違う効果が出るんだよ」

 「そうなのであるか」

 「普通はね、描こうと思う魔法陣の事を思い出しながら描けば、形は違っても発動するんだよ。前にも言った通り、魔法陣は魔法を使うための補助用だからね。自分で詳しい魔法の構築をしなくても、元の魔法陣のイメージがそれを補ってくれるからさ」

 

 妖精パットンはそういったあと、錬金術用の魔法陣を指差して


 「ただ、きちんと集中して元の魔法陣と同じに描かないと起動しないような意思をあえて入れているんだ。そういう意味では、人間用の魔法陣だとも言えるよね」

 「なるほど。よくわかったのである」


 我輩の言葉に妖精パットンは得意満面である。


 「妖精パットンは、魔法陣の解析ができるのであるか?」

 「出来るよ。魔法陣だって、どんな魔法にするかっていう意思が働いて作られるんだから、当然【意思】の構成魔力があるんわけさ。魔法陣から少しずつ漏れる【意思】の構成魔力を読み取れる形にまで具現化すれば、どんな効果を出そうとしてるかは読み取れるよ」

 「意思の魔法は便利であるな」


 魔法陣の起動をして、投入する素材を用意していきながら、そう話す我輩に


 「だから、生物の枠を越えた魔法なのさ。代わりに僕らはこれ以外の魔法を一切使えないんだ。それが、僕らの代償なんだろうね」


 そう笑って答える妖精パットンは、少し寂しそうだったのである。


 今回の研究は、今日の食材にもなっていた芋にある【疲労改善】の構成魔力を使って、酸味がダメな人用の体力回復の薬を作る。というものである。芋には酸味が無かったので、これならば副作用に酸味は出ない筈なのである。

 その代わりに、副作用は食物不適合の際に現れる痒みなどになる筈なのである。

 このままだと薬の効果が出ている間中痒みや酷い場合はもう少し深刻な副作用が出る恐れがあるのである。

 なので、他の素材を入れて別の副作用に変えられないかの研究である。

 今回使用するのは、一般的な解毒薬に使用される薬草である。もちろん副作用は苦みである。


 我輩は、アリッサ嬢から貰った芋と、解毒の薬草を投入していくのである。釜の中に入った素材が分解されて、様々な構成魔力に変化していくのである。

 

 「へぇ、構成魔力の可視化って、こう見えるんだ……とても綺麗だね」


 妖精パットンが釜中の構成魔力を見てそう呟くのである。


 それらの構成魔力から、今回の研究に必要な構成魔力を操作して融合していくのである。

 

 「へぇ、これなら確かに見ながら魔力の操作などの練習も出来るし、いろいろな確認ができるね。人間にとってはいい技術だね、この錬金術は」


 可視化された構成魔力の融合作業を見ながら妖精パットンは、そう感想を述べるのである。


 「ただ、思いの外時間がかかるね、こんなに時間がかかるね、かかるのかい?錬金術は」

 「使用している魔法金属に依るのである。森の工房の釜であれば10分程度であるな」

 「そうなんだ。何でこっちでは用意しなかったの?」

 「現在の人間では製錬するのが不可能なのである。この辺りでは、これを用意してもらうのにもかなり無理をして貰ったのである」

 「そっかあ、大変なんだね」


 森の工房にある魔法白金の釜とは違い、劣化魔法鉄で作られた釜は反応が大分鈍いのである。おおよそ13~14倍ほどの差があるので、森の工房であれば10分ほどで終わる融合作業も二時間少々かかっているのである。

 悪いことばかりではなく、作業時間が増える代わりに、素材の種類を増やして構成魔力を多くする調合はやりやすくなるのである。我輩は、まだ森の工房では単一素材での調合しかできていないのである。


 無事に、融合・定着作業も終えて、現在釜の中には【疲労改善】【解毒】【液体】の三種類の構成魔力が漂っているのである。


 「後はこれを構築するだけなのである」


 我輩は、【副作用が苦味の体力回復薬液】をイメージし、構築していく。恐らくこれで出来上がる筈なのである。

 もしかしたら、解毒効果も入る可能性もあるのであるが、そうした場合は結果的に副作用が増えることになるので、痒みも出る筈である。

 なので、出来上がった薬を実験役に試してもらい、痒みが出なくて苦味が出れば、実験は成功といえる筈である。


 構築も無事に成功し、我輩の目の前には濃いめの黄緑色の薬液の入った容器があるのである。

 普通の体力回復の薬液の色が薄い黄色で、解毒薬が緑色である。見た目的には成功のようである。


 「へぇ、本当に薬が出来上がったね。どうなの?成功なのかい?」


 妖精パットンが興味深そうに訪ねてきたので、我輩は


 「おそらく成功したのである。ただ、試してみないとわからないので、実験役を宜しく頼むのである」

 「え?な?へ?ちょっと!ま…………」


 妖精パットンを捕まえて、実験に協力して貰ったのである。


 妖精パットンは、芋に対する適性は問題なかったし、味も恐らく酸味はないので大丈夫な筈なのである。






 「うぅ……口が苦い……。舌がバカになったみたいだよ…………」

 「痒みもなく、元気になったようで何よりである。実験は成功であるな」

 「これがアリッサが言っていたことか……覚えておくんだね……錬金術師アーノルド」


 妖精パットンの惜しみのない協力によって、無事に我輩が作りたかった、酸味のない体力回復の薬が完成したのである。






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