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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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予想外の事実、辺境への帰途


 俺の名はダン。帝国で現役特Aランク探検家だ





 ミレイから出た取引の内容に俺は驚く。

 確か、錬金術研究所は閉鎖されたはずじゃなかったか?

 俺の驚いている様子を見て、リリーも頷いている。


 「私も驚いたわ。一度閉鎖されたはずの研究所が、ある日また、錬金術研究所として稼動していたのよ。けれど、よく考えればあり得ることでもあったのよね。」

 「宰相閣下が、それだけ本気で魔法の道具がほしかったってことか。まあ…………いつできるかはわからないが、無駄に対立を煽るような使われ方をしないで欲しいところだな」

 「そうね……宰相閣下も、あえて対立をするような人ではないはず……と思いたいわね」


 そういって、俺とリリーは茶を一口飲む。


 「え?え?何でそんなに落ち着いてるんですか?それって、大丈夫なんですか?皆さんで乗っ取られないようにしていたんですよね」


 俺達の話にハーヴィーが慌てた様子で尋ねてくる。


 「錬金術研究所の錬金術が、センセイが求める理念とは別の方向へ進む可能性に対して思うところはあるけどな。」

 「そうね。宰相閣下も、人間至上主義者である前に、誇りある帝国貴族として錬金術を活用すると信じたいわね」

 「へ?気にしてないんですか?」


 俺達の返事にハーヴィーは面食らった顔になる。そのハーヴィーにドランが話しかける。


 「何で乗っ取られないようにしていたかわかるか?ハーヴィー」

 「え?ドランさん?それは、人間至上主義の人たちに亜人を傷つける可能性のある魔法の道具を作らせないためじゃ…………」

 「それは、正解の一部だ。話の本質はそこじゃない。それだったら、伯爵様達はいろんな魔法研究所に手を回さないといけなくなるぜ?」


 ドランがハーヴィーと問答を始める。ドランは、正確に話の流れを掴んでいるようで、その上でハーヴィーの教育係を進んでやっているようだ、思った以上に面倒見がいいやつだ。


 「ドランの言うとおりね、この敷地内には範囲魔法の研究所もあるわ。でも、それには所長は何の行動も起こしていないわ。なぜなのかしら?」

 「伯爵達が何を守りたかったのか、もう一度よく考えてみろ。少し考えればわかる筈だ」


 俺達の言葉に、ハーヴィーはしばらく考えてから、はっとした顔になる


 「守りたかったのは、アーノルドさん……ですか?」

 「ガッハッハ!そうだ、ハーヴィー!錬金術研究所を中心に、貴族様のゴタゴタがあったからそう思うのもわかるが、実際はアーノルドの旦那が余計なことに巻き込まれないようにしようってのが本筋だ。探検家の依頼でも話がややこしくなることがある。話の本筋を見極みる力を早く持つんだな」

 「っ!!わかりましたから、背中を叩かないでください!ドランさん!」


 ハーヴィーの答えに満足そうなドラン。こいつ、会ったときの戦闘バカそうな発言はわざとか?


 「とはいえ、隊長。ハーヴィーの言ってたことも間違いではないはずですが、そっちは問題ないんですかい?」

 「まぁ、リリーが言った通り当面は問題ない筈だ」

 「それはなんでですか?」


 ハーヴィーの質問に、リリーが答える。


 「そうね、まずは錬金術研究所の研究員は、センセイしかいなかったというのは、話の流れでわかるわね?」

 「はい」

 「そのセンセイがいなくなったら、どういう手順で研究を行えばいいかわかる人はいないわ。私達だって流れは知ってるけれど、やったことはないもの。そうしたら、何でやり方を知ればいいかしら?」

 「教本や、過去の資料だと思います」

 「その通りよ。ただ、教本は古代精霊語で書かれているの。分かるのはセンセイのような、学者の一族と呼ばれている人達だけよ。そして、学者の一族はセンセイのように人間至上主義には非協力的だから、多分協力関係になることはないわ」

 「仮に学者の一族から教えを受けたやつを雇うとしても、協力しそうなやつを探さないといけないし、そいつが手引き書を読めるほど古代精霊語に詳しいかどうかもわからないしな」

 「でも、研究内容がわかる資料とか残さなかったんですか?」

 「あるとは思うけれど、センセイが自分がわかるように書いた資料を、何も知らない研究員がすぐに理解できるかしら?」


 リリーの言葉にミレイが続く。


 「実際に、再稼働から半年以上経過していますが、研究成果が上がったという噂も出てきません」

 「だろうなぁ。条件が整っていれば、そろそろ簡単な傷薬程度なら出来上がるかもしれないけど、宰相閣下が求めているのは魔法の道具だ。難易度が違いすぎる」

 「他にも、素材集めの困難さもあるわね。宰相閣下が求めていた規模の魔法の道具の素材なんか北の山の火山帯辺りにしかないんじゃないかしら?」

 「飛竜や魔物の生息地が混在してるあの辺りを、俺達以外にどれだけの探検家が無事に取りに行けるかな?」

 「素材採取や道具作製の困難さとかは、センセイにとってはなんでもない事のように思っていなかったから、かなり簡単に作れると勘違いでもしたのかしら?冷静に考えればわかるはずなのにね」

 

 リリーの言葉にハーヴィーは暫し沈黙して結論を出す。 


 「えっと?つまり…………宰相閣下がアーノルドさんの研究を横取りしようと思ったら、とんでもない不良物件をつかまされたってことですよね?」

 「そんなところかしら」

 「良い例えだなハーヴィー!多分そんな感じだ!」

 「父曰く、アーノルド様とダン様たちのチームだからこそ、まともにできた研究らしいですから」

 「まぁ、そういうことさ。だから当面は問題ないと俺とリリーは思っているのさ」


 俺の言葉に全員が頷く。


 「ただ、父としては、結果的にアーノルド様の錬金術に対する理念を理解しない者達に研究所を渡してしまったことを気にしています」


 そうだな。俺やリリーもそう思っている。


 「あぁ、それは仕方ないな。どうしようもなかったことだ。でもセンセイは、研究が人の役に立ってるならば誰が錬金術を研究しようと気にしない筈だ」

 「センセイ、新しい研究場所を見つけたものね。こっちには未練なんて無いでしょ」


 リリーの言葉に俺は頷く。森の工房という、センセイにとって夢のような、最高の場所が今はあるからな。そして、一応辺境の家にも大分劣るが、もうひとつもある。

 帝都に未練を感じる事は無いだろうな。


 「え?アーノルド様は、辺境の地で研究所を開設したのですか?」


 ミレイがいまの言葉に反応する。思わず笑ってリリーを見ると、あっちも笑っている。


 「ミレイ、センセイの研究所に興味があるの?」

 「そ、それはありますよ!でも、私は今室長の秘書ですし…………このお仕事も好きですし…………」


 と、ここでリリーが本題を切り出す。そうそう、元々これが目的だったんだよな。



 「ミレイ、室長命令よ。センセイの研究所へ出向しなさい」

 「え?どういうことですか?」

 「言葉通りよ。今日からあなたは、リーダーの作る新しい探検家のチームに入りなさいと言っているのよ」


 急な話の切り替わりに、ミレイは頭が追い付かないようだ。


 「で、でもそんな急に……」

 「良い機会じゃない。憧れのセンセイに逢えるわよ?」

 「あ、憧れだなんてそんな…………」


 リリーのいたずらな笑顔で発せられる言葉にリリーは、言葉弱くうつむいている。

 そうはあっているものの、何とはなしに嬉しそうな感じもする。


 「ち、父に…………」

 「所長の許可なら昨日取ってあるわ。むしろ、絶好の機会だから業務関係なしに、そのままセンセイのそばにいてもいいとまで言ってたわよ」

 「…………」


 どんどんと外堀が埋まってくな。もう規定路線だからどうしようもないけど、やられてる本人はたまったもんじゃないな。っていうか、伯爵様?その言葉は意味が変わってないか?良いのか?そんなに軽くて。


 「冗談は程々にしてもね、ミレイ。今回の探検もね、本当は私もウォレスも人を紹介しないで自分たちで行きたいのよ。だけれどね、私たちは私たちの経験を後進に伝えていくことを決めて引退したの」

 「…………」

 「ドランとハーヴィーはウォレスが、自分の後進としてリーダーに預けようと送り出した人達よ。私が後進として送り出したいと思ったのはあなたよ、ミレイ。」

 「…………」

 「それでも決めるのはあなたよ。もう、大人になったのだから。あなたはどうしたい?ミレイ」


 リリーの言葉が終わると、しばらく沈黙が続いたが、


 「わかりました。ダン様、ドラン様、ハーヴィー様、よろしくお願いいたします」

 「おう。よろしくたのむわ、ミレイ」

 「おう、これから同じメンバーだから"様"はいらねぇぜ、ミレイ」

 「よろしくお願いします。ミレイさん。僕も呼び捨てでいいですから!」


 ミレイはチームに入ることを受け入れたのだった。







 「しかし、お前もウォレスもそんなふうに思ってたのか」


 メンバーの受け入れと顔合わせも済み、今は俺とリリーの二人だけで会話をしている。残り3人には辺境に向かう為の手続きや準備を任せた。


 「そうね、全てではないとは思うけれど、後進を育てたいと思っていたのは確かね。でも、それはリーダーやアリッサも一緒でしょ?だから防衛騎士の副将軍を蹴ってまで現役を続けてるんでしょ?」

 「まぁな」


 チームが解散したときに、将軍と陛下から打診されたんだよな。堅苦しいのは嫌いだし、現役探検家として後進を育ててみたいとも思っていたし、なによりセンセイのことを頼まれているしな。だから固辞して現役を続けている。

 アリッサの奴も、どうやら帝国の諜報機関から打診があったようだが、似たような理由であちらも辞退したらしい。


 「それより、リリー。お前、悩みがあるだろ」

 「わかるかしら?」

 「若干顔が浮かないからな。昨日の絡みか?」

 「…そうね」


 昨日、室内訓練場で魔法陣の話をしたからな。自分の研究が意味がないのかもしれないと思っているかもしれない。


 「昨日ね、確かめて見たのよ、実際に全然関係ない魔法陣で出したい魔法が使えるのか」

 「結果は?」

 「慣れないから結構無駄があったけれど……できたわ」

 

 新しくリリーが入れてくれた茶を飲み、一息入れる。


 「そうなると、魔法陣の解析って意味があるのか分からなくなっちゃってね。」

 「解析って今までどうやってたんだ?」

 「過去の魔法陣の模様等から目星をつけて魔法陣の発動実験をするの。それで、無事発動したら解析成功だったのよ」

 「じゃあ、全く形状の異なる魔法陣は…………」

 「一応同じ風にやってみるけど、発動確率が低かったり、発動しても研究員によって出る魔法が違うし。だから、先送りよ」

 「何で解析研究の意味がないと思ったんだ?」

 「形状による法則性はないし、今まで解析したと思った魔法陣だって、本当にその魔法陣の解析結果なのか、私達の思い込みで発動したものか分からないじゃない」


 俺は、リリーの悩みの原因と勘違いに気づいた。


 「珍しいな、お前が本質を捉え間違えるなんて」

 「どういうことかしら?」

 「俺の考えが間違ってなかったら、魔法陣の解析方法を変えればいいだけだと思うぞ。悪いが紙をくれ。」


 リリーから俺は紙をもらう。そこにいびつだが、覚えている範囲でセンセイが書いていた種火の魔法陣を描く。飲み水を出すイメージをできるかぎり行い丁寧に集中して。

 そうして出来上がった魔法陣をリリーに見せる。


 「これが何の魔法陣かわかるか?」

 「形は変だけど、種火の魔法陣でしょ?」

 「発動してみてくれないか?」


 リリーは、訝しげにしながらも俺の魔法陣を使って魔法を発動しようとする。

 しかし、魔法陣は発動前の段階で光を失ってしまう。


 「え?何で?」


 リリーは、本気で集中を始めると、魔法陣から種火が出た。


 「何で種火の魔法陣でこんなに集中しないといけないの…………?」

 「リリー、それは種火の魔法陣じゃない。飲み水の魔法陣だ」

 「え!?」

 「パットン話だと本気で描いた絵や模様にも意思の具現化は起きるって言ってたからな、かなり本気で飲み水の魔法を出すつもりで描いた」

 「私はこれを種火の魔法だとこの思ってこの魔法陣を描いたから、魔法陣にある意思の魔法とぶつかり合ったってこと?」

 「そういうことだろうな」


 俺の言葉に、リリーは何かを考え始めたようだ。


 「魔法陣にも意思の…………ということは…………だから…………あ……何で、こんなことを忘れてたの?…………つまり…………」


 暫く一人で考え込んでいたリリーは、何やら結論を出したようで少し晴れ晴れとしている。


 「リーダー、ありがとう。どうやら思い違いをしていたみたい。確認したいことがあるから手伝ってもらえないかしら?」


 俺はリリーの実験に付き合い、そしてリリーの答えが間違ってはいないことを確認したのだった





 

 新しきメンバーを加えて一週間。俺達は探検家ギルドで馬を借り、センセイの集落の一番近くの村まで移動した。

 ギルド間で馬のやり取りをしているので、ここで馬を返して残りは徒歩で数時間ほど歩く、現在は遠目で集落が見えてくる位置だ。


 「でも、すごいですね。室長が大喜びでしたよ。これで飛躍的に解析が進むって」

 「そいつはよかったよ」


 ミレイの言葉に俺は頷く。リリーがあの日出した答えは簡単だ。解析の時には余計なことを考えずに、魔法陣を丁寧に写すことを心がけるようにした。それだけだ。

 すると、魔法陣の発動率と統一性が飛躍的に向上したようだ。


 「よく考えると、センセイの魔法陣を描くときには、魔法の効果なんかなにも知らなかったのよ。分解とか、可視化とか、自動防護とか。センセイには、〈錬金術に使う魔法陣である〉としか言われなかったしね」

 「そう。だけど実際に魔法陣は機能してるんだよな」

 「それは、つまり魔法陣には構成魔力の誘因や魔力量の指標などの他にも、実際の魔法構築や制御など全てが詰まっているということ」

 「魔法陣を写す、つまり模写ね。それは、描かれている魔法陣にある具現化されている意思を、そのまま別のところに写すということだな」

 「そう。それなのに私達は余計な思い込みを入れていたから、解析が上手くいかなかったのね」


 と、まあこんな感じで研究員にも少しずつ意識改革を行っていくみたいだ。

 そもそも、意思に構成魔力があるなんて事を知らないんだから、こんな発想にはなかなかならないよな。


 そんなことを思いつつ、俺はミレイ達に声をかける


 「それはそうと大丈夫か?ミレイ。ハーヴィー。特にミレイは長旅に慣れてないだろ?」

 「僕は、元々帝都から一週間ほど歩いたところにある集落の出なので、ある程度はなれてます」

 「大丈夫です、むしろ戦闘でお役にたてなくて…………」

 「まぁ、急には無理だよ」


 ミレイは少し元気がない。疲れているからというわけではない。戦力になっていないという思いからだ。

 ここまで来るまでに、何度か獣の襲撃にあっていたのだが、俺とドランがいれば基本的に間に合うし、ハーヴィーもバックアップにいるからミレイの出番がないだけだ。それでも、チームの荷物になっているという気持ちになるようだ。


 「俺達が初めてチームを組んだ時は、リリーとゴードンが戦闘経験無くてな。慣れるまではウォレスと二人で戦ってたんだ。全員通る道だから、気にするな」

 「室長がですか?」

 「と、言うかほぼ全員そうだ。ハーヴィーも俺も初めての時は先輩にくっついて守られながら経験を積んだんだよ」

 「俺は、守ってくれる先輩もいなかったけどな」

 「ダンさんは規格外なんですよ」

 「ふふっ。そうですね。ダン様が規格外の話は室長から聞いてます」


 俺達の会話で気が楽になったのか、ミレイに笑顔が浮かぶ。


 「でも、驚きました。すでに森の民や妖精と生活しているなんて」

 「だから、ああいう面接をしたわけですかい?」

 「もう逃げられないからな。ここまで知られてるんだからな」


 俺の言葉に三人とも笑顔で答える。


 「むしろ、面白そうじゃないですかい。辞めてくれって言われても辞める気はないですぜ」

 「僕もそうです。もしかしたらアーノルドさんと一緒にいれば僕の祖先の獣人と会えるかもしれないですし」

 「私もです。室長が言ったことは正しかったです。最初から普通では絶対経験できないことが起きています」

 「それなら良かったよ。さぁ、後少しで到着だ。皆にお前らを紹介……」


 と、そこまで言ったところで大きな爆発音が集落の方からした。





 センセイ、一体何をやらかしたんだよ。

 俺はそう思いながら急に起きた爆発音に驚く3人を引き連れて集落に向かうのだった。






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