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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
第14章 各々の戦い、である。
299/303

東方での終戦②


 辺境地方同様に戦況が変化する東方地方。

 ウォレス・シンの戦いが終わりを迎える頃、リリーとアリッサの戦いもまた変化が訪れていた。





 何がどうなってる?


 打つ手無しの状態だったシンが結界で抑えていた熊の魔獣を、一撃で仕留めたダンがアリッサの下へと足を運ぶと、そこにはアリッサが呆然と立っている姿が見える。


 アリッサとしては周囲の警戒はしているのだが、近づいて来たのがダンだったということが臭いでわかっていたので、特に態勢を整える必要が無かっただけというだけだったのだが。


 「どうなってんだ、ありゃ」


 そう言いながらダンは周囲を見回すと、無数の魔物や魔獣達の残骸が目に入ってくる。

 アリッサがやったであろう鮮やかな斬撃の跡が残っているものもあれば、リリーの魔法の巻き添いを喰らったのであろう、ぐちゃぐちゃな肉塊になっているものもかなりの数だった。


 その感じから、アリッサがどのような戦いかたをしていたのかというのを推し量ることはできたのだが、目の前のあまりよろしくないであろう状況はアリッサの口からしっかりと聞くべきなのだと判断する。


 なぜならば、ダンとアリッサの前には、結界の中で異様な雰囲気を漂わせるリリーがいたからだった。


 「予想はつくでしょ」

 「だとしても、だ。説明はしろ」


 ダンの言葉に、アリッサは若干苛立ったような様子見せるが口を開く。


 「敵さんがリリーを操ってる」

 「で、何で結界に閉じこもってんだ?」

 「リリーが持ってた結界石を強制的に魔力暴走させて、辺り一帯巻き込んで自爆しようとしていたらしい敵さんの行動を、リリー自身が自分を結界に閉じ込めることで防いでる」


 アリッサの言葉を聞いたダンは、結界を破壊してリリーを救出しようと向いだすが、アリッサがそれを制止する。

 予想外の行動に、ダンは訝しげな表情を見せる。


 どう考えてもリリーが霧の魔物に憑依されている状態であるなら、ダンが全力で結界を破壊して素早く紙人形に魔物を移すのが良いはずなのだ。


 「紙人形は効果が無いんだよ。あれば既に終わってるさね」


 どうやらアリッサは既に敵に紙人形の効力があるか試していたらしい。


 「霧の魔物なのは確かなようなんだけどね。アレじゃないかね。霧の魔物の枠を超えた状態って言うのかね」

 「霧の魔物の上位種か魔の冠を持つ魔物ってか? ややこしい話だな」


 いずれにせよ、アーノルド達が作った紙人形の効果が及ばない以上、すでに憑依されている状況になってしまった現在、二人にできることは見守ることとのみであった。

 さらに、この状況を打破できるであろうパットンはどこを飛び回っているのか、一向に姿を見せず、いつのまにかダンとの念話の接続すら切れていて、呼びかけにもまったく応じない。


 「あのバカ妖精……! こんな時になんでこっちこねぇ……。」

 

 そんなことをつい口走るダンだったが次の瞬間、全身が凍るような感覚に襲われる。

 それは隣のアリッサも同じようで、心なしか顔が青ざめたように見える。


 これは恐怖。

 絶対的な恐怖。

 味わいたくもない。

 心の底に刻まれた()()

 いや、いままでの()()はまだ序の口だったのではと思えるほどの感覚。


 その異様な雰囲気が周囲を支配する中、結界がゆっくりと解かれるのだった。






 「やっぱり愛ってすごいねぇ。魔法の強制力すら跳ね除けちゃうんだもんね」

 「あまり言うな。体がむず痒い」


 目の前をうろちょろと飛び回り、己を抱きしめるように身をよじらせ、からかい交じりの言葉を次々と投げかける妖精に、ウォレスは多少げんなりとした表情を浮かべる。

 だが、それでも苛立ちや不快さは無く、悪い気はしていない。

 ただ、多少の居心地の悪さがあるだけだ。

 

 確かに、妻への愛が無かったら自分は己の欲求のままに突き進んで命を無駄に散らし、愛する妻のもとに帰ることができなかった、悲しませることになってしまった可能性もあると感じていたからだ。

 それは現在のウォレスにとって望むものではなく、魔法の強制力から解放させてくれた妻に強い感謝とより深い愛を感じずにはいられない。


 ただ、その感情自体もパットンの魔法の影響による愛情の暴走の結果であったりするわけだが。


 パットンが現在ウォレスにかけている魔法は、敵がかけた意思の魔法による自身の欲求の暴走を妻への愛情で上書きしているものであり、かけられている魔法自体はまだ解除できているわけではない。

 そのため、パットンは現在もこうしてウォレスの近くにいて魔法の解除を行っているのである。


 帝都に戻るまでに魔法を解除して元通りにすればよいだけなのだが、思いのほかに強い魔法に対峙したパットンが好奇心と挑戦心をくすぐられたのと、戦闘馬鹿とダンに評されるほどの戦闘狂のような男が愛を語り、自分が発した言葉や感情に照れている様子が面白く感じ、今も近くにいて魔法の解除を行っているのだった。


 「あはは、そんな照れなくてもいいじゃ……」

 「……? パットン?」


 そんな様子でリリーたちの元へと向かっていたパットンとウォレスだったが、パットンの動きが突然止まる。

 全身を駆け巡る悪寒に襲われたからだ。

 パットンの突然の変化に、先程まで食傷気味だったウォレスも心配げな表情を見せる。   


 「ウォレス、悪いことは言わないよ。リリーのところには行かない方が良い」


 突然の言葉に、ウォレスは自身の頭を回転させる。

 リリーにはアリッサが対処しており、ウォレスの元を離れたダンが援護に向かって行った。

 二人がいればリリーを抑えることはそれほど難しいことではないし、敵対者たちもほぼ殲滅できるはずだからだ。

 むしろ、二人いて対処できない敵がいるのであれば、それこそ自分もその場に駆け付けなければならないとウォレスは考えている。

 つまり、リリーのもとに行かないという考えはないのだ。


 「残念だが、仲間の危機を見捨てるわけにはいかない」

 「仲間の危機……と言えばそうなんだけど、行くと絶対後悔するよ」

 「そうか。行かずに後悔するくらいなら、行って後悔するほうが良い」


 そう言うと、ウォレスはパットンを置いてリリーの元へと走るのであった。


 「……あぁ……被害者が増えるなぁ」


 そう言いながら、パットンはリリーのいる方向の逆へと飛んでいくのであった。






 気を緩めると意識が漆黒の濁流に流されてしまいそうな中、リリーは懸命に意識を失わないように耐え、目の前の男と対峙していた。


 「まさか父様の魔法の支配だけではなく、俺直接の支配まで抵抗するなんてなぁ……」


 そう言い、男は歪んだ笑みを浮かべるのだった。







 

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