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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
第14章 各々の戦い、である。
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戦況が動き出したようなのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師であるが、今はそれどころではないのである。


 防衛線へと向かい我輩達の前で立ち上る砂煙、どうやら大規模な戦闘が始まったようである。

 早く救援に向かうため、我輩達は防衛線へと急ぎ向かうのであった。






 「こういってはあれですが、陛下は隊長の話を聞いていたのですかねぇ?」


 少し程前に、自分がいた場所で他人に向けて発していた筈の言葉を聞き、皇帝は多少の気まずさを感じる。

 自分がこの行動を取った理由を説明したいところではあったのだが、ダンに敵の狙いが帝国、そして皇帝である自分であると言うことを告げられ、不必要に矢面に出ることを禁じられていたのは事実で、ここでの弁明は自己正当以外の何物でもないと思う皇帝は、つい最近一代貴族の仲間入りを果たしたばかりの、本来であれば自分に諫言することを許されないであろう、目の前の熊のような大男の言葉を素直に聞き入れる。


 「すまない」

 「まぁ、司令部にいるいざとなったら自分だけ逃げだしそうなお貴族様たちに囲まれるくらいなら、こちらに合流した方が良いという考えに至るのはわかりますがね」


 そう言うと、目の前の大男は強面の顔で笑顔を浮かべる。

 一見すると凶悪そうな表情に見えるが、よく見ると意外に可愛げもあるように皇帝は思う。


 「そんな軽口叩いている暇があるなら指示を出してくださいよ! 将軍閣下から、ここの指揮を任されているんでしょ!」

 「はっはっは! 慌てるなハーヴィー! 将軍閣下が前線の指揮をしているのだから、早々ここまで敵はやってこねぇよ。俺が指揮しなきゃいけない状態ってのはな、もう、相当ヤバいって事だよ」

 「ですが陛下がおられるのですよドランさん! 万全を期して……」

 「そもそも、少し前まで一探検家だった俺に指揮する能力があるわけねぇし、俺にわかる程度の事は、周りの連中だってわかってるわ」


 場の指揮官らしからぬ事を言いつつ、大男……ドランは周りを見渡す。


 皇帝の周りにいるのは、国を守る気持ちはあれど戦場での訓練をまだ行ったことのほとんどない新人騎士たちと、騎士とはいえる風貌ではない屈強な男達である。

 彼らは大森林での戦闘を経験したことのあるⅮ・Eクラス探検家であり、大森林の魔物との戦闘を経験したことのない騎士たちの教育係をしていた者達である。

 彼らの指導を受け、実際に戦闘を行った騎士や有力な探検家たちは将軍と共に最前線での防衛に加わっており、今残っている者は彼らに比べると能力はやや低いと言える。

 それでも、騎士たちに比べれば魔物との戦闘能力は高いし、騎士たちとの信頼関係もこれまでの事で高まっているため、皇帝を守る役を請け負っているのである。

 

 そうして、ドランは唯一の一代貴族であるBクラス探検家という事で場の指揮官を任され、その補佐官にハーヴィーが就いているのである。


 「さて陛下、そこの騎士の鎧を着てもらえますかい?」


 そう言ってドランは目の前の新人騎士が着ようとしていた鎧を指さす。


 「構わないが、理由を聞いても?」

 「そりゃ、リリーの姐さんが敵に回ったって事は、当然陛下の情報だって知れ渡ってるでしょう。そんな、一見して俺が皇帝だっていう格好していたら、こんな外に居たらバレバレですわ」

 「敵の中には、僕よりも目の良い獣人もいます。どこから発見されるか分かりませんので、少しでも姿を隠さないと」

 「なるほど……だが、彼の鎧はどうするんだ?」


 皇帝が新人騎士から鎧を借り受けつつした質問に、ドランはにやりと笑いハーヴィーを指差す。


 「彼には申し訳ないですが、こいつの鎧を着てもらいましょ。で、こいつは鎧無しで頑張ってもらいましょ」

 「は……はぁぁぁぁ!?」

 「新米とはいえ、騎士様は騎士様だ。命をかけてお国を守るために防具無しは困るだろうが」

 「僕だって命をかけて帝国を守ってるんですが……」

 「お前は剣を持って戦うよりも弓で戦う方だろう? 軽装で動きやすいが良いだろ?」

 「だからって丸腰はおかしいと思うんですよ!」

 「安心しろ! 陛下もお前も俺が守ってやるよ! はっはっは!」

 「その自信はどこから来るんですかね……」


 自分の抗議を全く意に介さないドランにため息をつきつつも、ハーヴィーは突然の指示に動揺している新米騎士の為に鎧を脱ぐのだった。






 『おい、陣が襲われているぞ』


 すでに戦闘が行われている防衛線に向かう前に、どこへ向かうのが一番良いのか判断するため小高い丘の上から戦場の様子を眺めていたセランフィア嬢から、そのような報告が聞こえたのである。


 『あそこって……』

 『防衛戦の本陣だ』


 デルク坊の呟きに、我輩が答えるのである。

 見れば、防衛線前部の激しい戦闘のしている間に、側面から少数の魔物達が簡易陣地に作った堀や防壁を突破して内部に侵入しているようである。


 『なんで、あれだけの備えがあって陣に敵が侵入して……』

 『あれくらいの堀や防壁など、仲間の実力上位に入るものにとっては、大した障害ではない』


 ミレイ女史の言葉に、セランフィア嬢は当然といった様子の返答をするのである。

 やはり、今まで防衛線で戦っていた敵は主力ではなく、言ってしまえば帝都襲撃の為に数を揃えた捨て駒のような兵隊達であり、帝都襲撃と同様の効果を発揮できるであろうこの場にいる皇帝襲撃の為に、戦力を惜しみ無く出したということなのであろう。


 『まるで話にならないな。あれが本当に騎士と言われる、人間の中でも戦いに優れた連中なのか?』

 『そんな酷いの?』

 『一部は良いが、大半は大森林内の女子供の方がマシじゃないか?』


 どうやら、一部の騎士達は敵の進行を食い止めるべく決死の覚悟で戦っているようであるが、大半の者は突然の急襲にパニックを起こしているようである。


 『あ! あっちからも何かが中に入っていこうとしてる!』


 サーシャ嬢が指差す方を見ると、見た感じからおそらく人であろう何かが本陣にむけて急いでいる姿が見えるのである。


 『あいつらは見たことがある……。多分、私達より前にここへ向かった人間達だ』

 『集落から出発した先行した者達か。ならば、彼らと一緒に救援に向かうのが良いかな』


 我輩の言葉に、他の3人は大きく頷くのである。

 そうして、我輩達も本陣へ向かうべく荷車に乗り込むのであるが、セランフィア嬢が一点を見据えて身動きをしないことに気付くのである。


 『セランフィアさん?』

 『……人間。あの建物まで行ったら別行動をさせてもらいたい』

 『そういうわけには行きません。信用できないというわけではありませんが、あなたは一応……』

 『あそこに見えるあいつは、父様と一緒に私の集落に来た奴だ。私は、どうしても確認しないといけない』


 当然であるが、反対の声を上げるミレイ女史を、セランフィア嬢は真摯な目で見つめるのである。


 「おねがい、ミレイ……アーノルド。わたしは、ほんとうを、しりたい」

 『そ……そんなことを言っても……』


 いつ覚えたのであろうか、セランフィア嬢の口から唐突に発せられた人間語に、困惑の表情を浮かべつつもミレイ女史は否定の言葉を述べるのであるが、さきほどよりその口調は弱いものになっているのである。

 おそらく彼女なりの誠意というか、歩みよりというものを感じたのであろう。


 『分かった。行きなさい』


 我輩の言葉に、デルク坊とサーシャ嬢はよくわからないような表情を浮かべ、ミレイ女史とセランフィア嬢は驚きの表情を浮かべるのである。

 ミレイ女史はわかるのであるが、何故セランフィア嬢まで驚くのであろうか。

 表情に出るくらい驚く程、期待していないのであるならば聞かなければよいと思うのである。


 『こうして我々に許可を得ようとする事が、彼女なりの誠意なのだろう。それに、そもそも我々の中で彼女が一番強い。その気になれば道具ごと捕らえて向こう側に付くことだってできるはずだ』


 そう言って、我輩は我輩なりの好意的な笑顔を浮かべてセランフィア嬢を見るのである。


 『それだけで私は、彼女を信用するに値すると考えている』

 『……その、ふてぶてしい笑いをやめろ人間。……イライラする』


 我輩から目をそらし、セランフィア嬢はそう言い捨てると荷車に乗り込むのである。


 彼女は本当に我輩が嫌いなようである。


 「さっきの笑顔、素敵でした。ちょっとセランフィアさんが羨ましいです」

 「意味の分からないことを言っている場合では無いのである。話も終わったのならば、救援部隊と合流するのである」

 「急ぐんだったらさ、あれやってよ」

 「分かったのであるデルク坊。障壁で最短距離の道を作るのである」


 我輩達は、そうして冒険者達と合流するべく本陣のある場所へと急いで向かうのであった。






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