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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
第14章 各々の戦い、である。
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防衛線に向かうのである



 我輩の名はアーノルド。

 自由気ままに生きる錬金術師である。


 東方都市での事態収拾に向かったダン達を見送った我輩達は、できる限りの準備を行い、ギリー老らが召集を進める探検家らとともに、苛烈な戦闘が予想される防衛線への援護へ向かうのであった。






 「おじさん、アリッサお姉ちゃん達大丈夫かな?」


 心配そうな表情を浮かべ、サーシャ嬢がこちらに話しかけてくるのである。


 現在我輩達は、【浮遊の荷車】に、我輩達が入れるくらいの空間以外は詰め込めるだけ荷物を詰め込み、防衛線へと急ぎ向かっているのである。

 我輩達の周りも荷物に囲まれ周囲の景色など全くわからないため、防衛戦に着くまでの間は会話でもしていないと若干気も滅入るものである。

 とはいえ、離す内容もほとんどは東方都市へ向かったアリッサ嬢達を心配する話か、防衛線の事ばかりである。


 「アリッサ嬢やシンならばおそらく大丈夫であろう」

 「ダンおじさんは?」

 「暴れすぎて周りに被害が起きないか心配であるな」

 「さすがにそこまでは……」


 我輩の言葉にミレイ女史が苦笑いを浮かべているのであるが、ウォレスと似たような戦闘馬鹿のダンの事である。

 思わぬ強敵との戦いに酔いしれ、援軍に向かった目的を忘れて大暴れするかもしれないのである。

 そういう時に抑え役となるのがリリー嬢なのであるが、そのリリー嬢が敵側についている現状、どのようになるのかわからないのである。


 『おい、そろそろ準備をしろ』


 我輩達がダン達のことを話していると、頭上から戦闘の準備を促す声が聞こえてくるのである。


 『セランフィアさん、なにか見えてきたのか?』

 『薄く土煙が上がるのが見えた。おそらく戦闘中なのだろう』

 『ただ、俺からはまだなにも聞こえないから、結構遠い場所なのかも』


 こちらが発した質問に、荷車に積まれた荷物の上に腰かけた猛禽の獣人女性、セランフィア嬢がその優れた眼で捕らえた情報をこちらに伝えてくるのである。

 また、それを聞いた荷車を牽いているデルク坊も自分の持ち得る情報を伝えるのである。

 子供のデルク坊に大量の荷物を積んだ荷車を牽かせることに、多少の抵抗はあったものの、我輩達のなかで一番身体能力に優れているのがデルク坊であるので、致し方ないところなのである。


 「ここから土煙が見えたって事は、なにか凄いことが起きちゃってるのかな」


 荷物の隙間で遊んでいた魔法人形達を召集しつつ、サーシャ嬢がそうつぶやくのである。


 現在我輩達は、本陣にむけて小高い丘を連なっている場所を移動している最中のため、セランフィア嬢が見えたという土煙は丘の上に伸びたものを見たということである。

 普通の戦闘では、なかなかそこまで土煙が上るものではないのである。


 『見間違いということは?』

 『おい貴様、私の目を疑うのか?』

 「空の方まで土煙が上がるという事は、強力な魔法による爆風の影響等による可能性もあります」

 「そんな爆発が起きていても、俺の耳に聞こえないってことは、戦闘はまだ遠くで起きてるってことなのかな」

 「いずれにせよ、本格的な戦闘が始まったという可能性は非常に高いということである。デルク坊、できるだけ急ぐのである」


 我輩の言葉にデルク坊は無言で頷くのであった。






 「右翼は敵から一方的に攻撃を受けております!」

 「左翼には魔獣の軍勢が多数! こちらの数倍いると思われます!」

 「まだまだ後ろには多くの魔獣や魔物の群れが存在しています! 今までこんな数、見たことありません!」


 矢継ぎ早にやってくる不利を告げる報告に、その場にいた者達は頭を抱えそうになる。

 数日前まで楽勝ムードであったこの防衛線に転機が訪れたのは一つの報告。


 東方都市に向かっていた魔獣や魔物達の多くが突然姿を消したと言うものだった。

 その報告を受けた、この場にいる者の多くは援軍に向かった二人の特Aクラス探検家の助力で東方都市の防衛に成功、魔物や魔獣の多くは大森林へと帰って行ったのだろうと判断し、安堵した。

 だが、その次に届いた報告は敵側にその二人の姿が見えたという信じがたいものだった。


 ちょうど防衛線での戦いも一段落し、戦勝ムードが漂って来た中届いた急報に防衛線の空気は混乱し、その状況を安定させるのに多少の時間を有することになった。

 おそらく、幾度となく激しい戦闘を繰り返した歴戦の軍団であればそういう事もなかったのだろうが、いくら魔物達と戦う訓練を重ねたとはいえ、こういった本格的な戦闘行為を行うのは初めての軍団だ。

 彼らが気を引き締め直し、やってくるであろう敵の軍勢への迎撃体制を整える前に、敵勢力は現れた。


 以前相対したときよりも遥かに強大となり。


 「それで? 被害はどうなっているのかな?」


 次々と来る報告に混乱しつつあるその場で、一番若い男性が伝令の男に問い掛ける。

 その声は何事も無いようかのように落ち着き払っており、周囲にいた者達にもそれが伝播し落ち着きを取り戻していく。


 「は、はい! 探検家や、彼らと共に雑用に従事していた将軍率いる低位騎士達の奮起により、被害は最小限に食い止められております」


 伝令役の報告を聞いた若い男性は大きく頷き、その場でうろたえている戦闘用というよりも儀礼用に使用するのではと思われる豪華な鎧に身を包んでいる者達に鋭い視線を向ける。

 彼らはこの戦勝ムードに酔い、まだ気を引き締めるべきだという探検家や騎士隊を率いる将軍、そして皇帝である自分の言葉を軽く受け止め安穏としていた騎士隊の軍略などに関わる自称武家の貴族達だ。

 彼らも当初は真面目に仕事をしていたのだが、十分な結果を出した事とこちらの想定よりも少ない敵の襲来により、一気に気が抜けてしまったのだ。


 若者、帝国現皇帝は思う。


 確かに今まで相対していた敵勢力は、魔の森で訓練をしていたとき程度の規模だった。

 故に気が緩む可能性もある。

 とはいえ、現地でその脅威を直接体験した者の報告、それも数々の偉業をなしえた特Aクラス探検家のそれだ。

 それを大袈裟なものだったのだと切り捨てる神経がわからない。

 臣民の命がかかっているのだ。

 それこそ無駄に警戒して、何事も無ければそれに越したことは無いのだ。


 それに、ダンが東方都市へ向かう際に一度ここに立ち寄り、


 「リリー達から情報が伝わった敵勢力の主力はおそらくこっちにやって来る。俺達が東方都市の方はどうにかするから、そっちは任せる」


 と、忠告までしていったのだ。


 何故そこまでされて、安穏としていられるのか理解が全くできない。

 これが平和ぼけというものなのだろうかと、頭が締め付けられるような痛みを感じつつ、未だ自分の考えは間違っていないと言うことを必死に弁明している、ズレた感性の者達に話しかける。


 「今、君達がしないといけないことは自己弁明なのかい? 君の上司や部下が必死に戦線を維持しようとしてる、今この時に君達は一体何をしているんだ?」

 「い……いえ、我々は……」


 それでも弁明をしようとする貴族達にわからないようにため息をつくと、皇帝は立ち上がる。


 「君、将軍はどこにいるかわかるかい?」

 「は……はい! 現在中央の前線付近で指揮を取っておられます!」

 「そうか。すまないが、私をそこまで護衛してくれないか?」

 「へ、陛下! そのような危険な……」

 「私にとっては、いざとなったら私を見捨てて逃げ出すかもしれない自分の身しか案じないような者と共にいるよりも、危険であっても民のために命をかけ戦っている者達と共にいた方が遥かに安全だ」


 自分の領地や身を守ることに関してはおそらく優秀であろうが、その忠誠は己の野心や保身のためであり、帝国ひいては民にないような貴族など、このような混乱状態では全く信用できない。


 そう皇帝は判断し、伝令役の騎士を伴い防衛線へと向かうことになる。

 結果、それがさらに戦闘を激化させることになる。


 「敵の目当てはお前だ。絶対に目立つなよ」


 自分たちの意見を軽んじ、いざとなったら保身に走る貴族達に心中穏やかではなかった皇帝もまた、ダンから言われたその言葉が頭から離れていた。

 彼もまた、若さ故にその判断を誤ったのだった。






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