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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
第14章 各々の戦い、である。
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二つの戦い


 「ぉぉおおお!」


 地鳴りのような声とともに頭上から振り落ちて来る、これをハルバードと呼んで良いものかわからない凶器を俺は避ける。

 空を切ったそれはそのまま地面に激突するが、奴は全く意に介する様子もなくこちらに追撃を加えるべくハルバードを振り回す。


 比較的固い地面も、今の奴にかかったらまるでプリンのようだ。


 そんな奴も、振り回している凶器に負けないほどに、トレードマークになっている獅子の鬣のような髪を振り乱しながら狂喜の表情を浮かべている。

 あいつの二つ名、【獅子の鬼神】そのものだ。


 「はっはっはっは! 愉しいなぁ! 愉しいよなぁリーダー!」

 「はぁ!? 愉しいのはてめえだけだ! この戦闘馬鹿野郎!」


 俺の言葉に一瞬攻撃の手を止めた奴は、本気で疑いの目を向けるように首を傾げると、


 「そうか? 愉しくないのか? そんな風には見えないがなぁ!」


 そう言い、その図体と凶器を支えるだけの強靭な脚力で、文字通り地面を爆発させるようにこちらへと一気に突っ込んで来る。


 ハルバードの先端で俺を突き刺すつもりのようだ。

 完全に奴は俺を殺すつもりで攻撃を加えてきている。

 普通の奴ならば、呆気なく死んでいくだろうその暴力的な攻撃を見切り、ギリギリで躱した俺に奴はその勢いのままぶちかましをかけて来る。


 「そうやって、いくらリーダーでも当たれば確実に死ぬだろう俺の攻撃を、あえてギリギリで躱し続けているのがこの戦いを愉しんでいる証拠だ!」

 「そんなもん、証拠にも何にもならねぇよ! てめえの攻撃が遅すぎるだけっての」


 そう言った俺は、少しばかり自分の失言に後悔する。


 「なるほど。まだまだ余裕だってことだな。だったら、どこまでギリギリで躱しつづけることができるか試してみるとしようか!」


 俺の言葉を聞いた戦闘馬鹿野郎(ウォレス)は、心から楽しそうな表情を浮かべてさらに強烈な殺意をこちらにむけて来る。


 「はっはっは! 北の山脈の時もそうだったが、本気の命のやり取りはこんなに心踊るものなのだな!」


 互いの命を奪い合った北の山脈での飛竜や魔物達との戦いとは違い、今は俺が一方的にウォレスに命を狙われているわけで、状況は全く違う。


 あいつは今それに気づいていない。


 だが、それを指摘すれば今度は本当に俺とあいつで命のやり取りをしないといけない状況になるだろう。


 あいつは今、自分の心の底に貯まっていた


 【本気を出して満足いくまで戦いたい】 


 という心を、意思の魔法によって暴走させられている状況らしい。


 どうやら、この状況は魔法による洗脳のような強制的な意思の上書きとは違うらしく、以前蛇海竜に使った【心戻し改】とかでは解除はできないらしい。

 欲望に非常に忠実なだけで、異常では無いとパットンは言った。

 そもそも人としての理性が効かない時点で、十分異常な訳なんだがどうやらそういうものらしい。

 

 だから今は、あいつの欲を満たしている為に俺は付き合っているわけだ。


 そんな状況の中、余計なことを言って


 【俺と本気の命のやり取りをしたい】


 なんて余計な欲求を増やしたら、その思いの成就のために何でもしかねない状態の今のあいつならば、別のところで戦っている連中にむかって大暴れしだすかもしれない。

 まぁ、仮にそうなったとしてもあいつをそっちに向かわせるつもりは毛頭無いが。

 

 (パットン! 何時まで時間がかかってやがる!)

 (怒鳴らないでくれるかな? 君がさっき余計な挑発をしたせいで彼の欲求がさらに高まったんだからね)

 (……そいつは済まなかったな!)


 俺達との戦いに巻き込まれない位置で、ウォレスを鎮静化させるべく働きかけているパットンに毒づくが、逆にちくりと釘を刺される。


 パットンは、ウォレスに欲求の満足度を早めるように働きかける魔法をかけて早期鎮静化を計っている。

 だが、もともとかなりの欲求が心の底に貯まっていたらしく、それが魔法により理性の枷が外れたうえに増大しているらしく、凝り固まったその意思自体が強い抵抗力を持っていてパットンが魔法の効果は芳しくないらしい。


 どんだけ欲求不満だったんだよあの馬鹿は!


 そんな事を思っている間にもウォレスからは矢継ぎ早にハルバードの、そして奴自身からの攻撃が降り注ぐ。

 その攻撃を躱し続け、自分の軽口癖をやや嘆きつつ、俺は時間を稼ぐ。


 俺と同様に、かつての仲間や味方を元に戻すべく尽力する奴らがどうしてるか気にしつつ。






 「リリー……あんたがあたし達をここにおびき寄せるように働きかけたのかい?」

 「……向こうの戦線に加わるには私たちの移動速度は遅いし、あなたたちが向こうにいれば戦局は不利になるもの。私たちは、あなたたちをおびき寄せるための囮よ」


 遠くの方で起きている、まるで強い魔法でも使っているような爆発音を聞き流しながら、あたしは目の前にいるかつての仲間に話しかける。

 彼女は普段見せないような冷たい笑顔を浮かべながら、あたしに氷の楔を打ち込みながらそう答える。

 それを簡単に避け、あたしはさらに会話を試みようとするのだが、それは別の方からの攻撃によって遮られる。


 「女、余計なことしゃべっていないでさっさと始末しろ」

 「……だったら、あなたの手下にあの子の動きを止めるように言ってくれるかしら? 私一人じゃ、的を絞らせないように動いているあの子をすぐに仕留めることなんかできないわ。……それとも手下や軍勢に入れた人、そしてあなたもろとも仕留めても良いのかしら? それなら可能よ?」

 「……口の減らない女め! お前ら! 奴の動きを止めろ!」


 リリーにそう言われた色白の亜人種の男は、苦々しい表情を浮かべる。

 おそらくこいつは夜の一族なのだろう。

 敵の協力者なのか、魔法によって操られているのか、魔物に取り憑かれているいるのかはイマイチはっきりしていないが、こいつがリリーに魔法をかけてリリーを操っていることははっきりしている。


 ただ、今までのやり取りで分かったことだけれども、どうやらリリーの意思の魔法に対する耐性がかなり強いのと、現在は日が上っているから本調子ではないので、リリーの制御で手一杯になっているようだ。

 じゃあそいつを倒せば良いだけだと思う訳なんだけれど、それはリリーの強力な魔法による妨害があるから難しい。

 じゃあ、リリーの意識を奪えば良いだけなんだけれど、そこに行き着くまでにはリリーを守るようにいる魔物や魔獣達をどうにかしないといけない。


 そんな魔獣達の一部が、先程の言葉に反応してあたしの動きを止めようと詰め寄って来る。

 その数は10匹ほど。


 あたしをこの程度で止めようだなんて、ナメられたもんだねぇ。


 大森林内部でその能力を十二分に発揮できる状況であるならば未だしも、ここは自身の特性を活かせることもなく、また実力も発揮できない大森林外。

 こんな数は大したものじゃない。


 あたしはやって来た敵を軽く蹴散らすべく動こうとするが、その瞬間を狙ってリリーが魔法を打ち込んで来る。

 してやられたあたしは、敵の数を一つも減らすこともできずに回避に集中することになる。


 「あなたは何で、目的達成のために私が魔獣達の援護をしないと思っていたのかしら?」

 「うるっさいねぇ! そういうところが嫌らしいんだよ!」

 「相手が嫌がることをするのが、戦いを有利にするための基本でしょう?」


 どことなく楽しそうな表情を浮かべながらそう言うリリーに、若干のいらつきを覚えつつ、あたしはこの状況を打破するチャンスを待つべく時間を稼ぐ。


 シン達でもリーダーでも良いから、早くなんとかしておくれよ!


 そう思いながら、ウォレスと戦っているリーダーや、取り憑かれた連中を元に戻すべく動いているシンやゴードン達も似たようなことを思っているんだろうなと、心の隅でツッコミを入れつつ。




 

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