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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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突然の出来事、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 主戦場が人間の土地に変わるため、辺境の集落へ移動した我輩達はそこで魔物達を追っていたダン達と合流したのである。

 状況としては、大半の魔物達はこちらにきているのであるが、一部が東方都市の方へと向かっていってしまったために、戦力が少々盛れてしまっている状況になってしまったのである。

 そんな状況なので我輩達は駆除活動に協力すべく、道具の作製に取り掛かるのであった。






 「久しぶりですね、アーノルド師」

 「そうであるな。我輩を帝都から追放するという事を決めた時以来であるか」

 「人聞きの悪い言い方ですね。変わらないな、あなたは」

 「事実を言ったまでである」


 我輩達が辺境の集落に拠点を移し一月ほど。

 怪我人は続出しているものの、我輩達が作っている道具のおかげか大きな被害もなく、順調に駆除は行えており、大森林からくる魔物達の数もだいぶ減少しつつあるのである。


 防衛線にいる者達の間では、手応えがないなどの余裕の言葉が出ているようであるが、それは全てその前に大森林内で森の民や獣人達、そしてダン達が身体を、いや、命を張って駆除活動をしてきたからである。

 そうでなければ、パニックを起こし自滅してこちらに運ばれて来るような者が少なくない騎士隊達がこれくらいの被害状況で駆除を行えるはずは無いのである。


 まぁ、ダン達が森の民らと協力したということを知っているのは我輩達やギリー老ら探検家ギルドの一部のものと、後は皇帝以下帝国の上層部くらいであるので、そういう状況になっても致し方ないわけであるが。


 そんな中、我輩達の元に防衛線から重装備の騎士達に守られ、一人の客人がやって来たのである。

 普段目にしない鋼鉄の鎧に身を包んだ騎士達の一団を見て、集落は一時好奇と畏怖の感情に包まれたのである。


 「あの物騒な一団のせいで、集落は一時パニックになったのである。もう少しどうにかならなかったのであるか」

 「私もそう思ったからそう団長にそう伝えたのだけれどね、全く聞き入れてもらえなかったのだよ。あれでも、譲歩してもらった方なんだよ」


 我輩の言葉に目の前の青年は苦笑いを浮かべそう答えると、そのまま茶を口にするのである。


 「それにしても、良くあの堅物の団長さんがこっちに行くのを許可してくれたな」

 「まぁ、それはさ。私の権限ってことで」

 「……おまえ、そんな性格だったか?」


 ダンの質問に悪戯っ子のような笑いを浮かべながら答える青年を見て、ダンは驚いたような呆れたような表情を浮かべるのであるが、二人きりで何度か会ったことのある我輩は不思議に思わなかったのである。

 この男は、父親や大人がいるときは猫をかぶって物分かりの良い大人な感じを装っていたのであるが、なぜか我輩と二人きりの時は年齢相応の子供っぽさを見せていたのである。


 一度その理由を聞いてみたのであるが、


 「あなたくらいですよ。僕を特別扱いしなくて、更に期待も興味も関心も抱かない人なんて」


 と言って笑って答えたのである。


 まぁ、当時皇太子であり、現皇帝であるこの男に関心を抱かぬ者など普通は確かにいないような気はするのである。

 当時の我輩は錬金術の研究が楽しすぎたために、人目を忍んで研究所に来てはどうでも良いことを話したり聞いてくるこの男はただただ邪魔なだけで、適当にあしらっていただけなのであるが。


 ただ、そんな姿を配下の者には見せることはやはりできないので、この部屋には我輩とダンと三人だけである。

 本当は我輩と二人きりが良かったらしいのであるが、さすがに護衛がいないとという事で、ダンが護衛役として部屋にいることになったのである。


 「それで、一体何の用なのであるか?」

 「防衛線の兵士や探検家達を守る道具を作っていると噂の、辺境の薬師に礼を言いに来ただけですが?」

 「それが、皇帝のやる仕事であろうか」

 「数多くの民の命をっている薬師ですよ? これくらいは当然でしょう」

 「で、あわよくば帝都に招こうという事か?」

 「ええ。しかし、断られたという形ですね」


 帝国の長である皇帝がこの集落の薬師を表敬訪問し自ら帝都に招こうとした事実は、我輩達の事を評価し、好意的に捉えているという宣伝になり、我輩達の評価や帝国での拠点であるここの価値が更に上がるという事である。

 そして、そんな皇帝の招聘を拒否したという事実は、心情的に貴族たちが我輩達を抱き込むことを躊躇わせることになるのである。

 皇帝よりも自分を優先したと思われ、皇帝以下その他貴族たちの不興を買いたくないからである。


 そして、我輩達からすれば目の前にいる皇帝自身が我輩達に釘を刺してこない事実は、我輩達の今までの行動を、そしてこれからも今まで同様の行動をする事を黙認するという事になるのである。


 「いいのか?」

 「まぁ、うるさい人もいますけれどね。結果的に民たちを幸福にできるのならば、私はそれで構わないと思っていますよ。この国は一部の貴族や皇帝1人で動いているわけじゃないんです」


 そのことが分かっているからこそのダンの言葉に、優しい笑顔を浮かべながら皇帝は頷くのである。

 この男も、父である陛下と同様、民の事を第一に考え帝国を動かそうと邁進していることが伺えるのである。


 「で、あるならば、森の民たちと……」

 「それは無理です」


 しかし、それに続く我輩の言葉は、最後まで言う前に皇帝に拒否されるのである。


 「彼らとの交流の中であなたがどこまで知ったのかは分かりませんが、それは彼らとの約束でもあり、互いの為でもあるのです」 

 「だが、今のままで良いわけでもないであろう?」

 「だから、貴方方の行動を認めているのですが?」


 つまり、国としては受け入れることは出来ないが、個人間の交流ならば黙認するという事なのであろう。


 「センセイよ、気持ちは分かるが現状ではこれが妥協点だろうよ」

 「急な変化は、悲劇を生むだけですよ」


 ダンの言葉に頷きながら、皇帝は菓子を口に入れつつそう言うのである。


 話しぶりから察するに、皇帝はある程度事情を知っているのであろう。

 1200年前の本当の事情も、歴史に隠されたアルケミー領の事も。

 当然と言えば当然であろうが、帝城の中に我輩達学者の一族のように過去の事を残してある場所があるのかもしれないのである。


 そうすればこの男が我輩から研究所を取り上げ、尚且つ大森林に一番近いこの場所に追いやった事も辻褄が合う気がするのである。


 この男はおそらくであるが緩やかな融和を狙っているのであろう。

 言い方は悪いがそのために、我輩達を利用していると言っても良いのである。


 「食えない男である」

 「そうですか? 私も、帝国民の幸せを思えばこその行動なのですけれどね」


 そう言うと、少しだけ厳しい表情を浮かべるのである。


 「父とは形は違いますが、私もあなたには期待しているんです。だからこそ、やり過ぎは気を付けてくださいね」


 と、最後の最後で釘を刺していくのであった。






 「あっという間だったのである」

 「まぁ、忙しい中やってきたからな」


 あのあと数分ほど雑談をして、皇帝は配下の者達と共に防衛線へと戻っていったのである。


 「結局あれか、センセイがここに飛ばされたのも、その後のおれたちの行動も全て陛下の計算のうちだったってわけか」


 おそらくそういう事なのであろう。

 奴が皇太子であったころから、おそらくこの絵は描いていたのであろう。


 ただ、誤算だったのは思ったよりも早く陛下が亡くなってしまった事と、予想以上に我輩達が出す結果が大きかったという事なのであろう。

 おそらく帝都のほうで、我輩を抱き込もうという動きがあったのかもしれないし、宰相ら至上主義者たちによる我輩達の妨害計画もあったのかもしれないのである。

 それを奴はロックバード伯爵や東方領主を使い未然に防ぎながら、我輩達を動きやすくしていたのかもしれないのである。


 考えすぎかもしれないのであるが。


 「ま、何にせよ、陛下のお墨付きが出たって事は動きやすくなるな」

 「あまりそうは思えないのである」

 「あー……センセイにとっちゃあそうかもなぁ……今までのように好き勝手やれないからな」

 「我輩は、今まで一度も好き勝手にやっていたことは無いのである」

 「何を言っているんだか……」


 我輩の言葉に呆れた様子を見せるダンを横目に、我輩は工房へと戻るのである。

 我輩がいなくても関係ないのであるが、今、工房ではサーシャ嬢達が道具を作っているのでその手伝いをするのためである。


 我輩は錬金術師である。


 どんな状況であろうとも、我輩がやることは変わらないのである。

 帝国民の幸せのために、生きる。


 その事を胸に我輩はこれからも行動を起こすのである。






 そんな事を改めて思った数日後のある日、我輩達の元に衝撃の連絡が来るのである。


 それは、


 東方都市の騎士隊が魔物たちによって甚大な被害を受けることになった事。


 そして、


 その中に、リリー嬢とウォレスらしき姿があった事、である。

 その連絡を受け、ダンとアリッサ嬢、そしてシンはすぐさま東方都市へと向かって行ったであった。


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