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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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嫌な予感なんだ


 おれの名前はデルク。森の民だぜ。

 錬金術を開発したノヴァって言う森の民でおれのひいばあちゃんで、妹のサーシャも錬金術師なんだ!

 だからおれは、そんなサーシャを守れるように毎日頑張ってるんだ!






 『これで、終わったのかな……』

 『…………うん。こっちにやってくる物音はしないよ』


 森の民の姉ちゃんが言うので、おれは遠くの音を聞くように意識を傾けてそう返事を返す。

 猫の獣人の兄ちゃんから、物の聞き方の訓練方法を教えてもらったおれは、以前よりも少しだけ耳がよくなったし、聞きたくない音を聞かなくてすむようになった。

 アリッサ姉ちゃんも犬の獣人の人から何か教えてもらっていたようだし、そういうのってやっぱり適当にやるよりもちゃんと分かってる人に教えてもらう事が大事だよなと思った。


 ただ、獣人の血が強く出ているおれが言うのも変な話なんだけど、獣人の人たちがそういうことをちゃんと考えているっていうことに驚いたんだ。

 ちゃんとした訓練方法とかなくて、感覚的な感じなんだと思ってたから。


 そう思って訓練方法を教えてくれた獣人の兄ちゃんに話をしてみたら、


 『ああ、それはな。人間や森の民や土の民が、遠い昔にそういうことが苦手な俺達でもちゃんとできる訓練方法を考えてくれたんだよ』


 って言うのを聞いて、なる程って納得したんだ。


 『ボウズ、良く頑張ったな』


 そんなことを思っていると、体を血で真っ赤にした獣人の兄ちゃんがそう言いながらこっちにやって来て、おれにごつごつした顔で笑いかけてくる。

 当然その血は獣の返り血で、さっきまでその兄ちゃんがいた辺りには、ぐちゃぐちゃになった獣の後がたくさん残ってる。

 多分、集落の小さな女の子だったら獣よりも兄ちゃんの方が怖くて泣くか気絶するだろうなぁとか、ちょっと酷いことを思う。


 『うん。獣ならおれでも倒せるし』

 『頼もしいな、坊主。まぁ、嘘は言ってねえしなぁ』


 そう言うと、兄ちゃんは後ろを見る。

 そっちには数匹の山猫や野犬の死骸がある。


 『最初ついて来るって言ったとき心配だったけれど、すごく助かったわ。ありがとう』

 『べ……別に、獣くらいなら戦えるし……』


 森の民の姉ちゃんも、笑顔を浮かべておれに礼を言ってくる。

 戦士の人たちに褒められて、嬉しかったけどちょっと恥ずかしくなって、ちょっと言葉に詰まっちゃった。


 『ガハハハハハ、照れるな照れるな。魔獣や魔物、毛や皮が固かったり厚い獣は少々厳しそうだが、角猪相手くらいまでなら十分やれるぞ』


 ダン兄ちゃんたちや集落の訓練で、おれは昔のような無茶をしなくてもこれくらいはできるようになったんだ。

 ただ、兄ちゃんの言う通り、おれの力ではやっぱり魔物や皮の厚い獣には通用しない。


 それは今はまだどうしようもないことなんだ。

 自分でも分かってるし、仕方ない事だって思ってるけれどやっぱり悔しい。


 『それにしても、獣が深部からだいぶ流れてきているな』


 そんなおれの様子に気付くことなく、獣人の兄ちゃんが気楽そうにそう言ったんだけれど、森の民の姉ちゃんは少し怖い顔をしている。

 この姉ちゃんは、北の山脈に近いところの集落からやってきたらしく、何十年か前に北の山脈付近で起きた大繁殖の事を知っているらしい。

 もしかしたら、何か感じているのかもしれない。


 『姉ちゃん、何かあるの?』

 『……ええ。あまりいい傾向じゃないわ』

 『あ? そうなのか?』


 獣人の兄ちゃんの言葉に、姉ちゃんはさっきまでの少し怖い顔を浮かべたまま頷く。


 『深部から獣が来るという事は、魔物達の増加を感じ取った獣たちが、今までの生活区域を放棄しているという事よ』

 『つまり……ダン兄ちゃんたちの駆除活動が追い付いていないっていう事?』

 『そうね。そうなるわ』


 おれの予想の言葉に、姉ちゃんは小さく頷いて返事をする。


 『おいおい……って事はおれたちの集落は…………』

 『いえ、おそらくだけど……今回は大丈夫だと思うわ』

 『なんでだよ! 駆除が追い付かなきゃ集落があぶねえだろ!』


 兄ちゃんのいう事はもっともで、前にいる二人も含めてここに今いる人たちの多くは、おれたちの集落の人間じゃなくて自分の集落を守るために別の集落から繁殖地にやってきた人たちだ。

 当然、駆除が間に合わないっていう事は自分たちの集落が危なくなるっていう事なんだから、兄ちゃんみたいになって当然なんだ。

 だけど、姉ちゃんは大丈夫だっていう。


 なんでなんだろう。


 『魔物や魔獣だって生物。生きるためには餌が必要よ』

 『んなことは分かってるよ!』

 『奴らの餌は、基本的には私たちのような人間種よりも獣よ。本能でそれを知っているから獣たちは異常増加の雰囲気を感じて生活区域から逃げるのよ』

 『んな事もいくら俺が獣人だってわかるぞ! 馬鹿にしてんのか!?』

 『違うわよ、話は最後まで聞きなさいよ。獣だってバカじゃないの。逃げるなら魔獣たちが弱体化する大森林の外に向かって逃げていくわ』


 そこまで聞いて、兄ちゃんは納得したような表情を浮かべる。


 『ああ、だから獣がこっち側に来ているっていう事なんだな』

 『でも、餌が逃げちゃうんだったら近くの集落を襲いにかかるんじゃないの?』

 『獣も……魔獣もそうだけど、基本的には私たちの集落を襲うことは無いでしょ? 襲いに来るときは獣たちの移動線状に集落が存在していた時や群れからはぐれたようなあぶれ者達よ』


 おれたちの集落が獣たちに襲われたのは、人間達への復讐のために深部で大きな群れを作った時だった。

 確かにそれ以外では獣や魔獣に集落を襲われたことは無かった気がする。


 『だったら、なんで今まで集落が魔物に……』


 そこまで言って、おれは気付く。

 その様子を見て、姉ちゃんも頷く。


 『そう。ここ数百年、魔物の繁殖期に乗じて集落を襲っていたのは、あなたたちが言う敵勢力の魔物達だと思うの』

 『でも、今回の敵は集落じゃなくて、帝国を襲うっていう話だから……』

 『そう。だから今回は集落は襲われることは無いと思うの。でも、獣たちがやってきているこっち側は

……』

 『増えた魔物や魔獣の移動線状にあたる可能性があるって事か』


 兄ちゃんの言葉に、姉ちゃんは険しい顔をして頷く。


 『もしかしたらこの辺りが新しい戦場になるかもしれないわ』

 『おいおい……』


 また、獣や魔獣に集落を襲われる。


 おれは、以前の光景を思い出す。


 みんなで楽しく暮らしていた集落に、突然数多くの獣や魔獣がやってきた。

 そんなに数が多くなかった前の集落では、魔獣たちを退治することが無理だったた。

 子供や女の人を逃がすために、おじさんたち自警団の人たちは懸命に魔物達を防ごうとしたけどやっぱり無理で、結構な数の人がけがをしたり、死んじゃったりした。


 おれやサーシャも、パットンがいなかったらきっと魔獣に食べられちゃってたと思う。

 あの時の事を思い出すと、とても怖い。


 怖い。

 そして、悔しい。

 あの時、何もできなかったことが。


 そして、あの時のことを思い出して一つ気付いたことがある。


 なんであの時、おれの耳には獣たちがやってきた音が聞こえなかったんだろう。

 あれだけたくさんの獣がいれば、おれの耳には遠くから何かがやってきている音が聞こえたはずなんだ。

 なのに、おれがそれに気づいたのは誰かの悲鳴が聞こえた時だった。


 なんで…………。


 ……もしかして。


 サーシャのように一生懸命働かせて、おれは気付く。


 あの時の獣はきっと、パットンが使うような魔法がかかっていたのかもしれない。

 だから、だからパットンはそれに気付いてやってきてくれたのかもしれない。

 って事は、もしかしたらあの時の獣は敵勢力の獣たちだったかもしれない。


 だとすると、獣たちがやってきた方向に、敵勢力の拠点が……。


 合ってるかどうかわからない。

 でも、もしもそうだったら……。


 『ボウズ、どうした? 深刻そうな顔をして』

 『……うん。ちょっと、思ったことがあって』

 『どんなことかしら?』


 おれは、目の前の二人に自分が思ったことを話しつつ、当時の事をよく知っている大ババ様に話を聞いてみようと思ったんだ。


 そしてこんな大変な時なんだけど、こんなことを考えたりするようになるなんて、おれも少しはひいばあちゃんの血が出てるのかなって、ちょっと嬉しく思ったりしちゃったんだ。


 きっと、サーシャがそれを聞いたら、


 『お兄ちゃん、こんな大変な時に何のんきなことを言ってるの!』


 って怒るんだろうな。






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