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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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緩やかな悪化傾向さね


 あたしの名前はアリッサ。

 帝国で二人だけの現役特Aクラス探検家さ。


 現在あたしは、大森林の深部で行われている魔物の大繁殖の駆除を手伝っているところさね。

 あたしの役割は、現場とセンセイの工房、そしてその近くにある森の民の集落を行き来して道具や戦士を輸送するという大事な役割さね。

 だから当然…………。






 「まったく! うざいったらありゃしないねぇ!」

 『姐御! 反対からも同じ種類の足音がしやす!』

 「姐御って言うんじゃなって何度言ったらわかるんだい! あたしは一番年下だよ!」

 『何言ってるか分かんねえっすよ姉御!』


 悲鳴じみた声でそう報告をよこす猫の獣人をつい人間の言葉でどやしつけながら、あたしは荷車を牽きながら全速で走る。

 普通ならこんなことをしながら移動をしてもすぐに周りの連中に追いつかれてしまうわけだけれど、これは錬金術で作られた重さを無くす魔法の荷車だ。

 おかげで荷台にはたくさんの負傷者達が所せましと載せられていても全く気にすることなく牽くことができる。


 だからといって何も問題ないというわけじゃない。

 いくら軽くても荷車を牽いているという事に変わりはなく、この木々が生い茂っている大森林内では移動できるルートが限られているから、今回だけで既に三回敵の襲撃を受けることになっている。


 それでも集落からキャンプ地まで行く分にはそれほど問題ない。

 道具も十分あるし、リフレッシュした連中が乗り込んでいるから撃退は容易だ。


 それでもまあ、道具も人員も消耗するわけだから歓迎できたもんじゃ無いんだけれども。


 問題は今のような、戻る場合だ。

 道具も基本的に身を守るのに必要な分しか持っていないし、荷車に乗っているのは向こう側で戦力外になって一度集落に戻される連中なわけだから、状況としてはかなり良くない。


 当然、敵さんもその事がわかっているから行きの時よりもこっちの襲撃の方に力を入れてくるってわけさね。

 こちらの戦力を削りつつあわよくば自分たちの戦力を確保するために。


 まぁ、今のところは切り抜けているわけだけど、日に日に激しさを増す敵の襲撃に、さすがにうざったさを感じる。


 「今更だけど、荷車が一台っていうのは問題だったねぇ……」

 『何言ってるか分かんねえっす! 姐御!』

 『独り言だよ!』


 猫獣人はあたしの声と敵がやってくるであろう方向に聴力の意識を向けているため、あたしががぼそっていった言葉ですらしっかりと聞き取ってしまう。

 連中は意識すれば指向性をもって収音したり普通の人間程度の聴力に下げることができるらしい。

 混血であるあたしやデルっちも少しはそういう制御できるけど、やはり獣人にはかなわない。


 羨ましいもんさね。


 そんな事を思いつつ、無駄な事と思いながらついつい自分の発した独り言に対して思考を巡らせる。


 道具の運搬も、人員の輸送もこの荷車一つで賄ってしまっていたため、センセイが提案した荷車の作製をあたしはやらなくていいと判断した。

 それは、荷車が増えることで敵に荷車を奪われる可能性が上がることを危惧したからだ。

 あたしが自分で管理する分には何とかなると思っていたし、先程も言ったとおりこの荷車で道具・人員の輸送が問題なく行えていたからだ。


 結果、補給ラインはあたしだけになっているから敵の襲撃を一手に受けることになってしまったわけで、現在に至るわけさね。


 自分で決めた事だからと思いつつも度重なる敵の襲撃によるイライラで、荷車をいくつか作ってもらうべきだったと後悔するけれど、そんなことをいまさら思ったところでほとんど意味は無い。


 やることは決まっているからだ。


 できれば戦闘を避け、逃げる。

 無理そうなら、迎撃を行う。


 襲撃が多かろうと少なかろうとそれだけの事なのだから。


 『それで、このまま行けば後どれくらいで追いつかれそうなんだい!』

 『今の調子で行けば、後二・三分くらいで連中に追いつかれます!』


 猫獣人の反応と、あたしの鼻で確認できる敵の匂いから想定される距離で、もうこれ以上は逃げても意味はなさそうだという判断をする。 

 そう判断したあたしは迎撃を行うため、荷車に積まれている連中に声をかける。


 『あんた達には悪いけど敵を迎撃するよ。現在牽制程度でもいいから動ける奴はいるかい?』

 『まともに腕は振れんから戦うことはできないが、足を使った撹乱行動程度ならできるぞ!』

 『移動はできないが、魔法で援護するくらいなら』


 あたしの声に、数人の獣人や森の民が反応を返す。


 『じゃあ、今動けるといった連中は各自準備を行いな!』


 そう言うと、あたしは猫の獣人に荷車を、そして意識のはっきりしている森の民に含有魔力がかなり減ってきている結界石を渡す。


 『あんたはあたしの代わりに荷車を牽く! あんたは荷車がやばいと思ったら結界を即時展開する事!』

 『わ、分かりやした!』

 『分かりました!』


 二人の返事を聞いたあたしは装備を軽く点検する。

 集落に帰ったらすぐに整備をしないといけないほどに状態が良くない。

 これではまともに戦うことができなさそうだ。


 『アンタの装備、貸してくれないかい?』


 そう言ってあたしは、近くにいた獣人に声をかける。

 

 『あ、ああ。いいけど』


 そう言って、外して差し出してきた装備を受け取るとすぐに確認する。

 やっぱり状態はあまり良くないが、さっきまで使っていたものよりはましだ。


 接敵が近い今、これ以上の吟味は無理と判断しあたしはその装備を使う事にする。


 『いいかい、あんたたちは生きて帰って元気になってまた向こうで戦うのが仕事なんだ。ここで、無理して大怪我するんじゃないよ!』

 『嬢ちゃん安心しろ! ここにいるのは大怪我した連中ばっかりだ!』

 『軽口ぶったたいてんじゃないよ! 行くよ!』


 そうしてあたしは、今日三回目の迎撃戦を行うのだった。






 『姐御、あっしが牽きますよ』

 『そうかい? 悪いね』


 猫獣人の耳にも、あたしの鼻にも敵の接近を感じることが無かったためにあたしは猫獣人に荷車の牽引を変わってもらう。


 今回はさすがに疲れた……。


 敵の襲撃の最中に、魔獣たちの乱入があった為にかなりの乱戦になった。

 敵側の反応からしてもおそらくそれは予定外の乱入だったのだろう。

 あたし達からしたら、敵の魔獣も野生の魔獣も変わらないから同士討ちにしか見えなかったけれどね。


 その混乱に乗じてあたしたちは迎撃を切り上げて逃げたわけなんだけれど、そうしたら狼の群れに遭遇してそっちの撃退に追われることになったわけさ。

 疲弊したところに獣との遭遇戦になったから、かなりしんどかったね。

 結界石の魔力が持たなかったら、荷車の連中に被害があったのは確実だ。


 正直、今回は運が良かった。


 そして、同時に分かったこともあった。


 『もう繁殖量に対して、現場の駆除が追い付いていないね』

 『残念ですがそうですね。魔獣や魔物の増加のあおりを受けて、深部にすむ獣たちが逃げていますね』

 『そう言う点で言えば、敵さんの勢力拡大の動きは魔獣や魔物たちの繁殖抑制の一端を担ってたんだねぇ……』


 あたしは軽く横になりながらそうぼやく。


 獣は少々厄介だ。

 大森林の深部で活動する魔獣や魔物は強力だ。

 だが、魔の冠を抱く種の特性として、大森林外での能力が低下することになる。

 それでもまあ面倒なんだけれどね。


 だけど、獣はその特性がない。

 つまり、大森林の深部で活動できる獣はその能力のまま大森林外で活動できる。


 魔獣たちの繁殖によって、生活区域を追われる獣たちが移動を開始する。

 深部のほうに行く獣もいれば、当然帝国側に行く獣もいる。

 さらに言うと、帝国側に向かう魔獣や魔物は敵勢力の奴だから近場である辺境に出現する可能性が高いが、獣は方々に散るため当然辺境を含む東方地区に出現する。


 『ハーヴィーを通じて防衛線の連中にこの事を伝えないといけないねぇ』


 徐々に状況が悪くなってきている事を感じつつ、集落につくまでのしばしの間、あたしは休憩を取るのだった。 






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