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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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辺境集落の駄々っ子


 ダン達が亜人種達とともに魔物の繁殖地での駆除を開始して一月半。

 帝都に報告が行き一月弱。

 ダンが報告書に記載した魔物達の予想出現地付近に、帝国防衛騎士団・探検家ギルド・帝国治療院など各機関の者達が辺境地方に防衛戦を構築するべく集結した。


 そのような中、辺境集落に出来た探検家ギルドの中では押し問答が行われていた。


 「駄目です! 危険です!」

 「こういう時に行かんで何が探検家じゃ! 儂は行くぞい!」


 数人の女性が一人の老人を取り囲んで制止を行っているのを、屈強な男達が眺めている。

 彼らは半分止めに入りたい思いつつ、一緒に行きたいと思っている。

 ちなみに男達が止めにはいらないのは、あの老人は男達だと力ずくで排除を行うが女性には手荒なことをしない事を知っているからである。


 老人はこの場にいる者達など力ずくで振り切る事など十分できるほどの力を持ちながら、一切手を出さないことからそのことが伺える。

 止めに入っている女性職員たちもそのことを分かっているので、かなり強気に止めに入っている。


 「帝都本部から連絡があり、相談役はギルドに残るようにと指令が来ているのです!」

 「兄ちゃんめ、余計なことを……」

 「<自分もそちらに行くのを我慢して帝都に残っているのだから、お前も前に出ないで若いものに任せろ>だそうですよ」

 「ぐぬぬ…………に、兄ちゃんは総ギルドマスターだから当然じゃろう?」


 どうしても現在大森林付近にある防衛線に向かいたい老人は抵抗を試みるが、その言葉を女性職員の一人が冷ややかに受け止める。


 「あなたも探検家ギルド本部のマスターですが?」

 「儂の方が下の位置なのじゃから別に問題ないじゃろう?」

 「だったら、上の者の指令には従っていただかないと」

 「ぐぬぬ……」


 職員にやり込められて無念そうにしている老人の所に、一組の男女がやってくる。


 「まったく……いい歳して何駄々をこねているのよ」

 「おお、おぬしらかって、駄々って何じゃ!」

 「駄々は駄々でしょう? いい加減自分の年齢と立場をわきまえたらどうかしら?」

 「儂は生涯現役じゃよ」


 声をかけてきた女性に向かって、子供のような笑顔を浮かべてそう言う老人をみて、その女性を含め、周りの職員たちもやれやれといった表情を浮かべる。

 そんな様子にお構いなしに、老人はそこに来た


 「そんなことよりもどうしたんじゃ、オヌシこそ仕事はどうしたんじゃ?」

 「仕事だから来たのよ。陛下からの指名依頼よ。私はそもそも探検家じゃないっていうのに。それに、挙式も近いっていうのに…………全く」


 そうぼやく女性の後ろから、獅子の鬣のような髪を生やした大柄な男がやれやれという表情を浮かべる。

 彼は、ここに来るまでの間、ずっと彼女のぼやきを聞いていたからである。


 「そうぼやくな、魔法研究所は帝国の機関だからな。陛下からの依頼であれば仕方ないだろう。それに、帝都にいたら疑心暗鬼な宰相閣下の管轄に入るだろう? 陛下はそれを……」

 「わかっているわよ、それくらい。別にぼやくくらい言いじゃない」

 「……ここに来るまでの間延々とそのぼやきを聞かされる身にもなってほしいものだがな」


 帝都の防衛を任された宰相閣下は、今回の件をある男による陰謀だと思っている節が見え隠れしている。

 実力者である二人は、帝都に残っていたら当然宰相の指名依頼を受けて帝都の防衛を手伝うことになっていたはずである。

 ただ、宰相が疑惑を持っている男と関わりが強い二人を、宰相がまともな扱いをするとは思えない。

 そこで防衛線の戦力の拡充を兼ね、皇帝は早々に探検家ギルドと魔法研究所に打診し、この二人を辺境へ派遣するように要請したのである。


 そうしてこの二人、元特Aクラス探検家であるウォレスとリリーは辺境の集落へとやってきたわけである。


 彼らが少し遅れてここにやってきたのは、自分たちの仕事の引き継ぎと宰相による聴取が行われたためである。


 「センセイが亜人種と関わっていた形跡があるかどうかなんて、分かる訳無いじゃないの」

 「そもそも、あったとしてもそれが宰相閣下の言う帝都襲撃計画との関連など分かる訳無いだろうにな」

 「これこれ、他の者も聞いとるんじゃからそんなこと言うもんじゃないわい」


 突然ぼやき出す二人の言葉に呆気に取られた様子を見せる職員達を見て、目の前の老人、ギルド本部長のギリーが止めにはいる。

 ダン達が亜人種と関わりを持っているというのは、皇帝以下一部のものにしかしられていない事なのだ。


 「そんなこと言ったって、ここにいる皆は何となく分かってるんでしょ? いまさら隠したところで意味ないでしょ」


 とは言え、収穫祭前後から大森林内で活動している探検家達のなかで、大森林内での危険を訴える人間に比較的友好的な亜人種の目撃報告がされ初めていたため、それは、深部で活動しているダン達が亜人種と接点を持ったためでは無いかというのは探検家達の中ではかなり信憑性のある噂として流れているわけなのだが。


 「それに、一番面倒ごとを起こしそうな宰相閣下に報告が行っている以上、それこそいまさらなことでしょう」

 「ま、それもそうかのう」


 二人の言葉に、ギリーもそれ以上の制止をやめる。

 このことから、周囲の探検家達は噂が本当だったことを確信するのだった。






 探検家ギルド内では、特Aクラス探検家であったウォレスとリリーがやって来たことにより、その場にいた者達は現状の厳しさをより実感することになり、各々気を引き締めることになっていたのだが、当の本人とギリーは未だグダグダと押し問答を続けていた。

 だが、それも終わりを告げようとしている。


 「と、言う訳で、我々が防衛線に向かい探検家達の指揮を取るので、ギルマスはここでサポートを頼みます」

 「むむむ……」

 「現場に出たい気持ちは分かるけれど、ここでバリーさんの言うことを聞いておかないと、帝都に戻った後面倒よ? いつまでもここにいられるわけじゃないでしょ?」

 「それに、リーダーの予想が確実に当たるとは限らん。予想地点外から敵がやってくる場合もありえる」


 男のその言葉に、即座に反応し女性職員達が老人を説得するべく取り囲む。

 

 「私達も、相談役がここにいてくれると安心です!」

 「そうです! もしも、防衛戦から外れた魔物達がここにやって来たときに、相談役がいてくれれば心強いです!」

 「相談役は、集落防衛の最後の希望なんです!」

 「そ、そうかの?」


 職員たちの言葉に少々気を良くしたギリーに、周りにいた探検家達も次々に同様の声をかける。


 彼らは防衛線に呼ばれなかったり、向かうことを禁じられた探検家達。

 つまり、大森林の魔物と渡り合うことが難しいと判断された者達という事になる。


 そんな彼らにとって、歳を重ねたとはいえ凄腕で経験十分なギリーがいてくれる事はとても心強いものなのだ。


 「彼らもあなたを必要としているのよ」

 「あなたがここを指揮してもしもに備えてくれると、我々や陛下達も安心して防衛線の構築に集中できるはずです」

 「じゃがのぉ、期待できる戦力がわしだけと言うのは……」


 やる気を出したものの、冷静に考えると問題がいろいろ残っていることに少々困った様子を見せるギリーに、リリーが意地の悪そうな笑顔を見せる。


 「あら? この集落にはもう一人有望なのがいるじゃない」

 「そうだな。最近人間の相手ばかりで頭が痛いとか言っていた男がいるぞ」


 二人の言葉に、ギリーは合点のいったという表情を見せる。


 「確かにちょうど良いのがおったのぅ」

 「この非常事態で、アリッサやリーダーに用がある商人や貴族はこちらには来ないでしょう。きっと暇でしょうからこき使ってあげて」

 「本来の力を取り戻してはいなくとも、補佐役としては十分働けるはずだ」


 こうして、再び本人が知らない所で勝手に話が進み、辺境集落の防衛線構築にシンは深く関わっていく事になっていくのだった。


 そうして集落に残る事を決めたギリーに安心した職員や周囲の探検家の安心した様子を見て、ウォレスとリリーは辺境の防衛線へと足を運んでいくのだった。


 「まったく、いい歳して兄弟揃って子供よ」

 「まぁ、そう言うな」


 それまでの間、再びリリーの愚痴をウォレスは聞くはめになるのだが。









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