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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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帝都にて


 東の大森林、北の龍の山脈、西の荒野、南の海に囲まれた平野部に位置する帝国。

 人の生活を脅かすほどの脅威をそれらが防いでくれていると言えば聞こえは良いのだろうが、逆に言えば帝国はそれらによって孤立する形になっている。

 そんな一角、東の大森林で帝国を脅かす脅威の報告が探検家ギルドを通じて首都、帝都にある帝城に届けられた。


 それは魔物や魔獣の大繁殖の兆候というものであった。

 数十年前に北の山脈付近で起こり、北方地方に大被害を与えた魔物や魔獣たちの襲来が再び帝国を襲うというものである。


 探検家ギルドが帝城に出していた報告はそういったものであったが、皇帝のもとに届けられたもう一つの報告書には、それとは別の報告が加えられていた。


 それは、


 帝国に恨みを持つ魔者による、帝国襲撃の計画というものであった。






 「信用できませぬ!」


 目の前にいる豪華な服に身を包んだ男は、開口一番そう切って捨てる。


 「そうは言ってもだな、魔物達の大繁殖の兆候が出ているという報告がある以上、民たちの安全のために防衛騎士団を辺境地方に送るのは当然だと思うのだが」

 「それが奴らの目論見ですぞ! そうやって辺境に騎士隊を送り手薄になった帝都を、亜人共と結託して襲撃しようというのです!」


 男の言葉に、その身分に不相応な質素な椅子に腰掛けた若者がそう反論をするのだが、男はすぐに抗弁をする。

 だが、その突拍子もない妄言じみた発言を聞いたその場にいる他の者は全員心の中でため息をつく。


 ここは帝城の執務室。

 ここにいるのは帝国を担う上層部。


 帝国の秩序と民の保護を担い、帝国防衛騎士団を総括する将軍。

 帝国の内政を担い、帝国開拓団と錬金術研究所を総括する宰相。

 若き皇帝の後継人で、相談役を勤める前宰相。

 そして、2年前に即位したばかりの若き皇帝である。


 いま、彼らは探検家ギルド本部長であるギリーが直々に持ってきた報告書の内容について話をしているところなのである。


 「宰相殿は、本気でそのようなことを申されているのですか?」

 「この報告書は彼と関わりの深いダンやアリッサだけではなく、本部ギルド長のサインも入っておるのですぞ? つまり、ギルド本部長もこのことを確認しているということになるのですぞ」

 「つまり探検家ギルドも、君の言うところのアーノルド氏による帝都襲撃計画に荷担していると言いたいのかな?」

 「い……いや……けしてそのようなことは……」


 他の三人から冷ややかな目を浴びせられた宰相は、我に返ったのか、先ほどの自分の失言を慌てて訂正する。


 「そもそも、この報告書にはダン達が亜人種と共闘していると書かれているだけで、アーノルド氏には一切触れられていないのだ」

 「ですが、もしものことが……」

 「そうか……」


 宰相の言葉を聞き、皇帝は何かを考えるようにしばらく目をつむる。

 その様子を見て宰相は、自分の言葉が聞き入れられたと安堵する。


 だから、あの男を好き勝手させてはいけなかったのだ。

 辺境に追いやり死ぬまで隠居生活を送らせるはずだったのに、帝都にいる間に特Aクラス探検家を抱き込んでたとは油断も隙もない。


 そのせいで、辺境に追いやったというのにも関わらず以前と変わらず帝城内ではあの男の影響がのこり、亜人種との交流を求める声が上がることが非常に嘆かわしく腹立たしい。


 帝国は人間の国であり、亜人など必要ないのだ。


 今の陛下も若いため、まだ短絡的な物の見方しかできず、あの男と行動を共にしている探検家が献上してきた数々の亜人の道具や資料を見て利益をもたらすと、あの男が好き勝手動いているのを黙認しているようだが、そうやって信用させていき己の影響を強めていくのがあの男の手口だというのがなぜ分からないのだ。


 おかげで、亜人共と交流を図ろうと試み出している貴族がいるという情報も入ってきている。

 情報のみでまだ証拠がないので尻尾を掴むことは出来ないが、あの男が幅を利かせるまではそのようなことは無かったのだ。


 忌々しい……。


 その様なことを宰相が考えている間に答えが出たのか、皇帝は目を開くと言葉を発する。

 だが、それは宰相の思いとは違うものだった。 


 「ならば宰相の考えも考慮し、開拓団はもしもの備えとして帝都に集結。帝都の防衛を任せよう。騎士団は探検家ギルド、治療院、薬師ギルドと連携を取り辺境地方に防衛線を展開。私もその場に向かう」

 「お……お待ちください陛下!」


 慌てふためく宰相の様子を見て、皇帝は不思議そうな表情を浮かべる。


 「何事だい?」

 「な……なぜ陛下が防衛線に向かうのですか!」

 「こういう事は、上に立つものが前に出ると士気が上がるものだよ」

 「そう言う話ではございません! あの報告書を信用するのですか!」


 宰相の言葉に皇帝はさすがに隠しきれなかったのか、やれやれと言った表情を見せる。


 「宰相……君はアーノルド氏の影が見えると途端に無能になるようだね」

 「な……!」


 皇帝の唐突な言葉に、宰相は目を大きく開く。

 そんな宰相を気にすることなく皇帝は言葉を続ける。


 「冷静に、国を預かる者の一人としてよく考えてほしい。今まで国の繁栄のために心身を投じてきた特Aクラス探検家やギルド本部長。その報告を君は、アーノルド氏というたった一人の存在により、信用に値しないと断じるのかい?」

 「…………」

 「先ほども言ったが、宰相は探検家ギルドが彼に掌握されたと思っているのかい?」

 

 掌握とまではいかないまでも、かなり深い位置まで入り込んでいるという確証を宰相は抱いている。

 しかし、その証拠は一切ない。


 あの男が、ダンやアリッサ達と共に行動しているのはほぼ間違いない。

 ただ、いくら凄腕の探検家達でも身を守る術すら持っていないあの男を守りながら大森林内で長期間活動することなどできるわけがない。


 「だが、宰相。君の危惧も可能性が僅かながらあり得る。だからこそ、君と優秀な能力を持つ開拓団に帝都の守りを任せ、騎士団の訓練を兼ねて彼らを辺境に派遣したいと考えているんだ」

 「……わかりました」


 納得いかない気持ちを抱えつつ、この皇帝も開拓団のほうが騎士団よりも優れているという評価を持っていることに満足した宰相は、皇帝の意見を受け入れるのだった。






 「騎士団と、将軍には悪いことを言ってしまったな」

 「いえ、彼は陛下の真意を理解しておりますよ」


 二人きりになった執務室で、皇帝の独り言じみた言葉に元宰相がそう言葉をかける。


 「……それならばいいのだけれどね」

 「大丈夫です。陛下や先代が騎士団を大事にしていることは騎士団や将軍は分かっております。ですから彼らは誇りをもって仕事に励んでいるのです。彼らの仕事ぶりは歴代最高と言っても良いでしょう」

 「そうか」

 「それに、そう思っているからこそ陛下も辺境に同行するわけでしょう?」


 元宰相の言葉に、皇帝は軽く笑顔を浮かべる。


 「まあね」


 ダン達の報告によると、大森林の魔物達は大森林から外れると力が弱まるらしい。

 魔の森の中心付近で訓練を行っている騎士団たちの練度ならば、十分な働きを見せることができるはずだと皇帝は信じている。


 「それにしても、彼らが亜人種との関りを表に出すとは思いませんでしたな」

 「それだけの大きな問題が大森林で起きているという事だろう」


 そして、ダンは亜人種達との共闘でこの問題を解決しきれないと踏んだからこそ、こちらに危機を知らせに来たのだろう。

 つまり、辺境が大森林から飛び出した魔物や魔獣、さらに言えば帝国に恨みを持つという魔者に襲われるという事になる。


 「守り切れますかな」

 「守り切れるか、ではなく守り切るんだよ。歴代皇帝が守ってきた帝国を私が守れなかったら、私は末代までの笑われ者だよ」


 そのためにも、彼らには奮闘してもらわなければ。


 皇帝はそう思いながら、目をつむるのだった。


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