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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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辺境の集落に戻りました


 僕の名はハーヴィー。新人なのにもかかわらず、帝国でも少ないCクラスの探検家になってしまった者です。






 慌ただしく駆け巡る人たちの姿を、僕は呆然と眺めている。

 僕は今、辺境の集落に新しく建てられている仮設の探検家ギルトの中にいる。

 彼らが今忙しいのは、僕とここのギルドの相談役を務めているギルド本部のトップであるギリーさんが持ってきた、大森林における魔物達の大繁殖の兆しが見えているという報告のためだ。

 その対応で、数少ない職員がフル稼働で仕事に追われているのだ。

 しかし、彼らだけでは人手が足りないので、集落にいる低ランクの探検家達を雑用係として雇っている。


 ギルドの雑用を行うのも危険な場所での仕事が難しい低ランク探検家にとっては貴重な仕事で、中にはそれ専門の探検家もいる。

 探検家とひとくくりに言っても、もともと何でも屋みたいなものだったから色々な仕事があっていいと思う。


 「いたぞ! あそこだ!」

 「おい! ハーヴィー! これは本当の事なのか!?」


 そんな僕のもとに、険しい顔をした探検家の人たちが勢いよくこちらにやってくる。

 どうやら、ここに生活している皆に見てもらえるように広場に建てた緊急掲示板を見てこちらにやってきたのだろう。


 中にはすごい剣幕でやってくる強面の人もいたものだから一瞬びくっとした僕だけれど、表には出さないで応対する。


 「お前はもうCクラスなんだから、どんと構えてろよ。舐められるぞ」


 と、ダンさんやドランさんに日々言われているからそうしたのだけれど、僕は探検家としてまだ新人の様なものなのだから許してほしいと言いたい。

 本来僕は、あそこでギルドの職員と一緒に雑務に追われる低ランク探検家と同じくらいの筈なのだから。


 「掲示板を見たんですね」

 「そうだ! あそこに書かれていたのは本当なのか?」

 「魔物の大繁殖の兆しって……どうやって知ったんだよ!!」

 「お前だけどうやって深部から戻ってこれたんだ! ダンさんとかは大丈夫なのか!」

 「お前たちだけがおいしい思いをするための嘘じゃないのか!?」

 「ここも危なくないか? 早く逃げなきゃダメじゃないのか?」


 僕の返事に、探検家たちが思い思いの質問をぶつけてくる。


 おそらくここにいる人のほとんどは、掲示板に書かれていることをちゃんと読んでなくてこっちに来たのだろう。

 書いてあることを全て読めば、僕たちが大森林にすむ亜人の方々と共同戦線を張って戦っている事や、この報告書を書いたのが僕だけじゃなくて同行したギルド本部長のギリーさんとの連名になっている事、そしてこれを帝都に報告して防衛線を張ってもらうように申し出るという事まで理解できるはずなのだ。


 ドランさんいわく、こういう人たちは大体腕っぷしは良いがミスが多くてⅮクラスに上がることができない探検家に多いらしい。

 探検家は情報が命だから能力の高い者はこういった大切な情報はしっかり読み、それから自分では理解できないことを情報を持っている者に尋ねるのだそうだ。


 「まぁ、俺は面倒だから知ってるやつに直に聞くけどな。はっはっは」

 「だからお前は万年Eクラスだったんだろうが」

 「俺は別に問題ないですぜ! 隊長!」

 「そんなアンタも今は貴族様だけどね」

 「ほんと、それは勘弁してほしいですぜ……」


 必死に詳しい情報を聞き出そうと僕に話しかけてきている強面の探検家を見ながら、そんなやり取りをダンさんたちがしていたことを思い出して、委縮していた気分が少し元に戻る。

 そうして質問に答えようとした僕だったが、それを遮られることになる。


 「なんじゃなんじゃ、おぬしらは。掲示板を見たなら最後まで内容を読まんか。今ハーヴィーに聞いたことは全部掲示板に書かれておるじゃろうが」

 「誰だあの爺さん」

 「馬鹿! あの人はギルド本部のマスターだ!」

 「ギ……ギルド本部マスター……」


 僕の後ろからもう一人の証人、帝都にあるギルト本部のマスターであるギリーさんが僕に詰め寄ってきた探検家達に声をかけると、先程までの勢いが打って変わって全員おとなしくなる。

 大分年齢を重ねて好々爺然とした佇まいのギリーさんだけれど、短時間なら大森林の魔物や魔獣とも渡り合えるほどの力はまだ持っており、おそらくこの場にいる誰よりもギリーさんは強いと思う。

 肩書に囚われるような彼らじゃないので、きっと直感的にその力を感じ取って気圧されているのかもしれないなと僕は感じる。


 「情報は探検家の命じゃぞ。上辺だけ見て慌てるなど、自分の能力の低さを露呈するだけじゃぞ」


 そんなギリーさんの話を聞き、そもそも知っている奴に最初から聞けばいいというスタンスのドランさんは、どうなのだろうか聞いてみたい気持ちに一瞬僕は駆られる。


 「まぁ、最初から情報源であるハーヴィーに詳細な情報を聞こうとする姿勢は正しいがの。もう少し冷静に聞く姿勢を持たんとな」


 僕の考えを読んだかのようなギリーさんの言葉に、僕はありなのかと理解する。


 「こういう臆病な性格の情報源じゃと、おぬしらのような強面に詰め寄られたらちゃんと話せるものも話せんわい。ふぉっふぉっふぉ」

 「は……はあ……」


 そう言って笑いながらその場を離れるギリーさんに、僕たちは全員拍子抜けた感じになる。

 きっと、全員思っただろう


 何しに来たんだ? と。


 「……と、とりあえずお前の口から話を教えてくれないか?」

 「あ……はい」


 間の抜けたような表情をした強面の探検家の言葉を聞き、僕も間の抜けた返事をするのだった。






 「それで、君はどうするんだい?」

 「はい。大森林に戻ってアリッサさんたちと一緒にダンさんのところに戻ろう思います」

 「僕の手伝いをしてくれるっていう選択肢は……」

 「すいません。ないです」

 「あはは。だよねぇ」


 僕の予想通りの返答に、目の前にいる男性は困ったような笑いを浮かべる。

 本来彼のような、いくら今Cクラスとはいえ新人に毛が生えた程度のキャリアしかもっていない僕からしたら、雲上人のような彼の願いを断るなど恐れ多くてできないのだが、彼はそういう事を気にしている様子はない。


 「状況はちょっと良くないみたいだね」

 「そうですね。繁殖地の広さが思ったよりも広いのと、敵勢力の横やりが思ったよりも激しいです」

 「それでも、現状被害がほとんどないというのはさすがリーダーと言ったところなのかな」

 「亜人種の皆さんがうまく連携を取れるようになったというのも大きいと思います」


 僕の返答に目の前の男性、シンさんは笑いながら茶を取る。


 「ふふふ……獣人達が自分勝手に動き回る感じなのかな?」

 「なんでわかるのですか?」

 「ウォレスやドランを見れば分かるでしょ。アリッサだってもともとはあちら側だったからね」

 「あぁ……」


 探検家でも、獣人の血が強く出ている人ほど自分勝手な行動をしたり、連携を無視した行動をとることが多かったりすることが多い。

 そう言われると確かに納得する。

 僕も猛禽の獣人の血があるためその傾向がある筈なのだが、僕の家系が臆病な性格の者が多かったので、そちらの影響を強く受けているためにうまく中和されている感じになっているようだ。


 …………できれば、もう少し獣人の性質が出ても良かったなと思う時もあるけれど。


 それよりも驚いたのは、アリッサさんがもともとはウォレスさんのような感じだったという事だ。

 今のアリッサさんからするとあまり予想できない。


 「まぁ、言ってしまえばウォレスももっと酷かったよ」

 「じゃあ、どうして?」

 「理由は三つかなぁ」


 僕の質問に、シンさんは笑顔で応える。


 「まず一つ目は、最初の時にリーダーに完膚なきまでにぼこぼこにされたことだね。あれで、彼らの中でリーダーには逆らえないっていうランク付けがされた」


 これは理解できる。

 獣人達は基本的に実力主義だ。

 その血が強く出ている人間も当然その傾向が強くなる。

 つまり、二人とも初めてダンさんに会った時に完膚なきまでに負けたためにダンさんをトップとして認めたという事なのだろう。


 「次は、リリーの()()だな」

 「ああ……()()ですか」


 僕は運良くまだ食べたことが無いのだけれど、リリーさんの怒りが高まった時に出る、見た目は最高、味は地獄、悶絶必須という噂のお菓子の存在。

 その存在を持つリリーさんの行動管理によって、問題行動の矯正を図ることができたという事なのだろう。

 今ダンさんがやっているドランさんの肉料理で獣人の皆さんを管理している方法はそこから着想を得たのだろうか。


 やり方は真逆だけれど。


 「それとあと一つは、獣人の血を持つ彼らよりも、もっと大きな問題児の存在だね」

 「それって……」

 「そう。センセイだよ。研究所時代のセンセイは、本当にとんでもなかったよ。自分の研究のためだったら僕らの意見とか状況とかほぼ完全無視だからね。僕らは、センセイの行動を妨げないようにしながらうまく立ち回っていく方法を模索し続けなくちゃいけなかったんだ」


 当時の事を思い出したのか、茶を飲むと深いため息をつくシンさんを見て、相当大変だったんだなと僕は思う。

 今のアーノルドさんでも、僕からしたら十分一緒にいるのは大変だ。

 思い付きで行動するし、あまり人の話を聞かないし。

 最近は聞いている風で、やっぱり聞いていないし。


 そんな今よりもさらに酷いって、僕には耐えられない

 良くダンさんたちは一緒に居続けられたものだと感心する。


 「ま、何を考えているか分かるよ」


 そんな僕の思いが顔に出ていたのか、僕を見てシンさんが軽く笑う。


 「陛下からの指名依頼っていうのもあったけれど、迷惑を掛けられた以上に面白かったしね」


 そう言って、シンさんは茶菓子に手を伸ばす。


 「僕は基本的に個人的に試験に巻き込まれることはなかったから、リーダーやウォレスが薬の試験とかで悶絶しているのを見て他人事のように面白がれたし、その後の口論が盛り上がり過ぎて、切れたリリーの雷が落ちるのを見てるのも笑えたしね。我ながら性格悪いけど、はたから見ていると面白いんだよね」


 そんな風に笑うシンさんを見て僕は、確かに性格悪いなぁと思ってしまった。


 「当然それだけじゃないけどね」


 そうして僕とシンさんは、僕が出発する少し前までの間色々な話をしていくことになるのだった。

 尊敬する探検家の一人と、こんなに長く話すことができてとても楽しい時間を過ごすことができた僕は、心機一転してまた、大森林へと戻るのだった。





 


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