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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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これからが本番のようだ


 俺の名はダン。帝国でたった2人の現役特Aクラスの探検家だ。


 ハーヴィーと爺さんが俺達のもとを離れて数日、再びアリッサが工房で作られた道具と治療の済んだ連中を運んできた。

 そこでいろいろ報告を受けてた訳だが、アリッサの奴は時々何かを思い出しちゃあニヤついていやがった。

 この数日でなにがあったんだ?






 「そうだな。センセイの言うとおりだ」

 「そういう訳で、あたしももっと気を付けて行動するさね」

 「そうしてくれ。現状、お前に戦力を割いてやれる余裕がないからな」

 「分かってるよ」


 そうしてアリッサは再び猫の獣人と共に集落へ、そして工房へと戻っていった。

 あの猫の獣人は、デルクの代わりだ。

 今は一人でも戦力が少ないのは困るが、だからといってデルクに来られてもそれはそれで面倒だ。

 激しい戦いが続いている現状で、戦力的に劣るデルクの面倒を見ながら戦う事はハンデでしかない。

 それを比べた結果、猫の獣人をアリッサにつけたほうがマシだという結論になり、今に至る。


 デルクにとっては厳しい現実だろうが、あいつも俺達の状況も理解し納得しているようだ。

 だが、こんな状況を知ったうえで力になれないことがもどかしいのも確かだろう。 


 この経験を糧にしてさらに成長して欲しいもんだ。


 そんなことを思いつつ、センセイが言っていた言葉じゃないがその成長を見届けるためにも、生きて戻らにゃあならないと言うことを再度認識する。


 俺だけじゃない。

 ドランの奴も結婚を控えているし、この駆除隊に参加している連中も各々戻らなきゃならない理由がある。


 演劇の世界だと、そういう奴らこそ先に死んで行くという悲劇的な演出がかけられるわけだが、俺達はそういうわけには行かない。

 俺達や嬢ちゃん達が頑張っているのは、その為だからな。


 「ダン様! ただいま帰りやしたさー!」

 「おう、おかえり」


 そんなことを思っている俺の元に、全身毛むくじゃらで猿顔の男がやってくる。

 こいつは樹上での戦闘が得意な猿の獣人一団の首領格で、主に樹上から集団で襲い掛かってくる猿の魔獣達の迎撃や、同じく樹上での行動に長けているため、偵察を担当させているリスの獣人の護衛を担当してもらっている。

 こいつらが奴らを抑えてくれているおかげで、地面で戦う獣人や森の民達が上を気にせずに戦うことができている。


 「どうだった?」

 「思った通り、寒さに強い魔獣達はもう繁殖期に入ってきてるさー」

 「ちょっかいをだそうとする奴らもいたか?」

 「向こうも様子見な感じだったさー。多分、こっちに気づいていたから迂闊に動けなかったんだと思うさー」


 男からその言葉を聞いて、俺はにやりと笑う。


 「へぇ……、お前達から突っ込んでいかなかったのか。偉いじゃないか」

 「そんな勝手なことをしたら、冷えた固い肉を食わされるさー! ドラン様のあの肉を食わされたら、もうあんな肉は食べたくないさー!」

 「はっはっは! お前らも学んだな!」


 まだ雪も降る日もあるが一番寒い時期は過ぎ去って、少しずつ野生の魔獣や魔物の動きも活発化しつつある。

 それに合わせて敵勢力の動きも激しさを増し、小競り合いは様々な場所で行われるようになってきている。


 それでも被害をほぼ最低限に抑えることができているのは、錬金術の便利な道具があるのはもちろんだが、俺が獣人達の勝手な行動を抑えて集団的に行動できるようにしているからだ。


 俺が現地についてまず思ったことは、あまりにも統率がとれていない事だった。

 捜索団の分隊長や親父さんから聞いていたからある程度は理解していたつもりだったが、本当に獣人連中は好き勝手に戦って、怪我をして戻ってくる。

 集落内で結成された駆除隊内での連携はとれているんだが、他の駆除隊が近くにいるとまぁ大変だ。

 一応森の民たちがけが人の治療や休息がとれる拠点の様なものを作っていたりするわけだが、大体は怪我をして担ぎ込まれて、治療を受けたらまた突っ込んでいく。

 その繰り返しだった。


 何回か駆除に参加したことがある初老の森の民に話を聞くと、大体いつもこんな感じらしいのだが、むしろ、何百年も同じことを繰り返してなんで学ばないのかと言う方に驚きを感じる。

 どうやら獣人達は、魔法を使えて知恵のある森の民を一目は置いているものの、こういう戦いにおいては自分たちのほうが優れているという気持ちがあるために勝手に動き回るらしく、さらに、大森林で起こる魔物の大量繁殖自体が数十年~数百年周期で来るものらしく、その時は反省して最終的に共同戦線を張ること獣人達も世代交代が進むうちにそういう所がリセットされてしまうようだ。


 獣人達は脳筋が多すぎる。


 と、言っても連中も自分の集落を守るためにここにやってきているわけだから、自分の集落に近い魔物を駆除するために各々動くのは当然と言えば当然なわけなんだが。


 とはいえあまりにバラバラ過ぎて、互いの邪魔をしあっている場面もあったりしたこともあり、俺はまず最初にそれらをまとめることにした。

 森の民たちはすぐに協力してくれたわけだが、当然獣人達の反応は良くなかった。

 そこで、俺は各獣人をまとめる奴と一対一で肉体的に語り合い、ついてくるようにお願いしたわけだ。

 頭さえ押さえれば基本的に連中はいう事を聞いてくれるしな。


 そして、できるだけバランスよく森の民や獣人達を組み合わせていくつものチームを作り、役割分担をしっかり決めて行動するように定めた。

 最初の頃はやはり勝手に動く連中もいたわけだが、そういう連中に効果的だったのがドランの肉料理だった。

 獣人達は基本的に肉が大好きなわけだが、そんな連中にとって出来立てのドランの肉は極上のごちそうだった。

 俺はそれをきちんと任務を果たした組にだけ与えることにし、勝手に行動した奴は今まで連中が食っていた冷たくて固い干し肉を食わせてやった。

 その効果はてきめんで、奴らはドランの肉を食うためにそれはもうとてもまじめに働くようになった。


 「こんな方法があったとは……」


 みたいなことを森の民たちが言っていたが、まぁ、胃袋を掴むっていう事の重要性を知っているのはアリッサのおかげみたいなもんだ。

 おかげで最近は順調に駆除活動を行うことができるようになっている。

 ただ、繁殖地の範囲が広すぎるため、すべてを俺達だけで守り切ることは出来ないわけだ。


 そこで、そう言った箇所は何人か担当の奴を決めて、結界石や障壁石で繁殖地の封鎖を行っている。

 おかげで障壁石の消費がものすごく激しいのが問題だ。

 だから、アリッサには嬢ちゃんたちに障壁石と結界石の作製を頼むように伝えておいた。

 回復薬は森の民の連中もいるし、魔法人形達が何とかしてくれているからな。

 こいつらは作業速度や作る道具の品質は劣るものの眠ることが一切ないため、素材さえ確保しておけば丸一日ずっと道具を作り続ける。

 おかげで、傷薬と紙人形に関してはこっちに来た時よりも量が増えている感じすらある。


 それだけ今はうまく回っているという事なのだろう。


 だが、これからまた局面が変わってくるようだ。

 季節も暖かくなり、休眠期を終えた魔物達が繁殖行動を本格的に行いだす。

 そうしたら敵連中の動きもさらに活発化する。


 「隊長! 飯ができましたぜ!」

 「分かった! 今行く!」


 ドランの大声を聞いた獣人連中が沸き立つ食事場に向かいつつ、俺はこれからが本番だと気を引き締めこれからの行動をどうするかを考えるのだった。







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