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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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気持ちを伝えるのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 工房で作った道具を魔物の繁殖地付近で展開しているキャンプ地に届けに行ったアリッサ嬢。

 数日後に戻ってきた彼女やハーヴィー達から聞いた現地の状況を聞き、サーシャ嬢達はさらに道具の作製を頑張ろうと決意し、我輩もその補助に邁進しようと決意したのであった。






 「これで、当面探検家連中がこっちにやってこないと良いねぇ」

 「ダンのチームの一員であるハーヴィーと同行したギルドの重役であるギリー老の報告を聞いたうえで、なお危険な状況にある大森林に入るのであれば、それはもう完全に自己責任である」

 「そういう所は妙にドライなんだねぇ、センセイは」


辺境の集落へ向かったハーヴィーとギリー老を見送ったアリッサ嬢は、自身のつぶやきに対する我輩の返答に苦笑いを浮かべるのである。


 「別にドライとかそういう話ではなく……」

 「分かってるさね。まぁ、正直なところハーヴィーはともかく、ギリーじいさんの言葉をまともに受け止めないような奴は探検家連中にも、一般人にもほぼいないと思うけどね」

 「ギリー老がギルド本部のマスターだからであろうか」


 我輩の言葉に、アリッサ嬢は軽く頷くのである。


 「それもあるし、爺さんは一代子爵様だからねぇ」


 そういえばギリー老は現状10名程度しか存在していない数少ないAクラスの探検家、つまり一代子爵である。

 ギリー老が貴族としてこのあたり一帯の立ち入りを禁じれば、平民である集落の者やCクラス以下の探検家がそれを破ればそれなりの罰則を受ける可能性は当然あるのである。

 


 「それにあたしが書いた報告書もあるし、これだけこのあたりの大森林に入るのを禁止した状態で敢えてこっちに来る奴らは、センセイが言った通り自己責任さね」


 駄目押しとして、帝都に送るものとしてさらに効果の高い一代侯爵としてアリッサ嬢には辺境の大森林が非常事態だという書面も書いてもらっているため、伯爵以下の貴族達も功績を求めてやって来るのは難しい筈なのである。

 そうなると、ここぞとばかりに宰相や将軍が討伐隊を結成して大森林に侵入しようとするであろうが、それは現皇帝であれば止めるであろう。


 大森林に棲む魔物達の性質に関しては帝都に報告済みであるので、おそらく集落と大森林の間に防衛線を張るはずである。


  そこであればおそらく魔物達とは渡り合えるはずである。

 帝都の保有している戦力が我輩たちの予想以下でない限りであるが。


 むしろ防衛線は張ってもらわないと、仮にここで我輩たちが魔物達の侵攻を防ぎきれなかった場合、敵勢力によって辺境地域が大被害に、それだけではなく東方地方まで被害が及ぶ可能性もあるのである。


 正直なところ、敵勢力が帝都まで侵攻できるほどの勢力を持っているとは思えないのであるが、こういう場合は考えられる最悪の状況を想定して欲しいものである。


 「今回の一件で、もう黙ってられないねぇ」

 「致し方ないのである」


 さすがに帝国に被害が及ぶであろう程の大森林の魔物の大量発生を、森の民の遺物を使用して我輩たちだけで抑えたというのは無理があるのである。

 なので、今回の報告書には我輩たちが大森林内で出会った亜人種達と共闘していることを記載しているのである。


 おそらくこの事をきっかけに宰相率いる至上主義者の連中が騒ぎだすであろうが、そんなことを今は気にしている場合ではないのである。

 それは皇帝やロックバード伯爵や東方都市の領主にどうにかしてもらうのである。


 重ねて言うのであるが、今優先すべきことは帝国民の安全を守るために魔物達の大量繁殖及び敵勢力の帝国侵攻を大森林内で食い止める事であり、民を大森林に近づけさせない事である。

 そのためにやれることはやっておくのである。


 「また道具が一杯になったら向こうに行くんだから、そのための準備をしないとねぇ」

 「非常に危険な任務であるが、よろしく頼むのである」

 「前線に出張ってる連中に比べたら楽なもんさね」


 そうアリッサ嬢は気楽そうに言うのであるが、油断は禁物である。


 「相手は魔物や魔獣だけではないのである。何らかの方法でアリッサ嬢の存在が敵勢力に知られたら、一番に襲われる可能性があるのである」

 「……あぁ、補給線を断つっていうのは常套手段だからね。そうだね。少し気を引き締めるさね」

 「そうしてくれると助かるのである。アリッサ嬢がいなくなると困るのである」


 我輩がそう言うと、アリッサ嬢は一瞬驚いたような表情を見せ、そしてニヤニヤと笑い出すのである。


 「……へぇ。あたしがいないと困るんだ」

 「困るのである。ダンやサーシャ嬢達もミレイ女史も、もちろんドラン達もいないと困るのである」   「…………だよねぇ。ま、分かってたけどさ」


 我輩の返事を聞いたアリッサ嬢は、何故かがっかりしたようなしぐさを見せるのである。

 一体、どんな言葉を求めていたのであろうか。


 「そこはさぁ、嘘でもいいから"アリッサ嬢がいなくなったら我輩に生きている意味がない"とか言ってくれりゃあ良いのに」

 「……仮に言ったとして、アリッサ嬢は本気にするのであるか?」

 「するわけないじゃん」


 これである。

 全く、人をからかうのも大概にして欲しいものである。


 で、あるが。


 「ただ、アリッサ嬢。無事に帰ってきてほしいと思っている感情は、研究所時代のようなアリッサ嬢が試験役であるとか、護衛役だからとかそういったところからではないという事は理解してほしいのである」

 「へぇっ?」

 「我輩は叶うことであるならば、皆とずっとこうやって共に生きていきたいと思っているのである」


 各々生活があるのである。

 種族も違うのである。

 当然生活のために別れることもあるであろうし、不慮の事故や今回のような出来事で死に別れてしまう事もあるかもしれないのである。


 それでも叶うならば、我輩は今一緒にいる皆と共に生きていきたいと思うのである。

 それは本当の気持ちである。


 「だから、無事に帰ってくるのである」

 「……………………まいったねぇ。違った意味で、不意を突かれたねぇ……」

 「アリッサ嬢?」

 「ま、ちゃんと帰って来るさ。あまり心配しないで待ってるんだよ」


 我輩の言葉に再び驚いたような表情を浮かべていたアリッサ嬢であったが、少し恥ずかしそうな嬉しそうな表情に変わり、そう返事を返すのであった。






 「聞きましたよ! アーノルド様!」


 そうしてアリッサ嬢が再びキャンプ地へと向かって行ったある日のこと、作業がひと段落したミレイ女史がこちらにやってくるなり、襲い掛からん勢いで話しかけてくるのである。


 「どうしたのであるか、ミレイ女史」

 「アリッサさんと共に生きたいって言ったそうじゃないですか!」


 どうやら数日前の話の事のようであるが、それが一体どうしたというのであろうか。


 「確かに言ったのであるだが、それは……」

 「それって、アリッサさんだけ個別にそう言う対象になっているという事なのですか?」


 そう言ってミレイ女史が少し悲しい表情を見せているのであるが、我輩には行っている意味が良く分からないのである。


 「別にそういう事はないのである。ミレイ女史も共に歩んでいければと思っているのである」

 「わたしは?」

 「当然、そう思っているのである」


 ミレイ女史、そしてミレイ女史の後ろにいたため気付かなかったのであるが、不安そうにそう尋ねてきたサーシャ嬢にもそう返答を返すのである。

 そもそも、先程の話はアリッサ嬢に限った話をしていない筈である。

 それが何でこんな話になっているのであろうか。


 「そう言う話なのではございません。そういう事は、ちゃんと全員に伝える事が重要なんです!」

 「おじさんは、そういう事は人から聞くよりもその人から聞きたくないの?」


 言われてみれば、その通りの気もするのである。

 誰であったであろうか、大切なことは本人にしっかり伝える事が大事だと言っていた気がするのである。

 確かにこれは、大切なことであると言えるのである。


 「そうであるな。それはすまなかったのである」

 「では、共に生きるという事で私たちと結婚をしていただけるという……」

 「なんでその話につながるのであろうか」

 「だってずっと一緒にいたいっていう事は結婚するっていう事でしょ!」

 「それとこれは意味が違うと思うのである」


 その理屈だと、我輩はダンやドランなどの男性とも結婚しなくてはいけなくなるのである。


 「一般的には異性に共に生きたいというのはそういう意味になるのですよ」

 「別に、この話は異性に限った話では……」

 「おじさんは、男の人も好きなの?」

 「そもそもそう言う話ではないのである」

 「痴れ者だな。人間」

 「こういう話にしれっと参加して人を咎めるのは止めるのである、セランフィア嬢」


 こうして、我輩は妙なとらえ方をする女性陣に自分の意図を延々と説明する事になるのであった。


 言葉には気を付けるのである。



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