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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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繁殖地へ行くんさね


 あたしの名前はアリッサ。帝国でたった二人の現役特Aクラスの探検家さ。


 大森林で起きている、魔物達の大量発生とそれに乗じて勢力を拡大・帝国への進行計画を企てている敵の勢力の妨害をするために、戦闘チームと生産チームに分かれて行動をすることになった。

 そして、ノヴァ=アルケミストの工房で作業をしている生産チームの道具や薬がまとまった量できたので、あたしとデルっちは森の集落を経由して、リーダーたちのもとにこれを送り届けることになったわけさ。

 何も、面倒事が無ければいいんだけどねぇ……。






 

 『姐さん、ありがとうございます!』

 『姐さんじゃない! 何時になったらその呼び方をやめるんだい!』


 自分と同じくらいの年齢の獣人達ならともかくとして、見た目は同じくらいでも年齢は何倍も上の森の民の連中に姐さんと呼ばれるのはさすがに複雑だ。


 サーちゃんたちは良いんさね。

 あの子たちは子供だからね。


 そんな事を思いながら、続々と壊れ物じゃない道具の上や狭い空間に次々と乗り込む森の民や獣人達をあたしは眺める。

 この連中は、少し前まで魔物達の繁殖地で駆除活動を行っていたんだが、大きな怪我を負ったために一度自分の集落に戻されたあと、再び現地に向かうためにこの集落に集められた連中だ。


 と、いうのも、これからあたしが牽く【浮遊の荷車】。

 これに乗っていれば道具の効果で何人乗っても、どれだけ荷物を載せても重さは変わらない。

 ただ、魔法の効果範囲があるからそこから少しでも出ると一気に重さがのしかかってくるんだけれどね。

 だから、あたしたちが普段使っている物よりも小さなこの荷車に、まるで人と荷物が芋のように詰め込まれているこの状態でも、あたしは問題なく牽くことができるっていう訳だ。


 『アリッサ姉ちゃん、気を付けてね!』

 『ああ。2・3日もすれば戻るから、それまで待ってるんだよ。一人で戻ろうとするんじゃないよ』

 『しねえよ! アリッサ姉ちゃんもサーシャみたいな心配の仕方しないでよ!』


 あたしにからかわれてデルっちは、顔を少しばかり赤くして怒り出す。


 こういう所がまだまだ子供さね。


 本来は、あたしとデルっち二人とも現地に向かう事になっていたんだけど、この場に混血のデルっちではない猫の獣人が混ざっていたため、そいつの耳を借りることになったわけだ。

 まぁ、それを言ったらあたしよりも鼻の良い犬の獣人もいるわけなんだけれど、荷車を任せるのはちょっとばかり抵抗があったし、あたしも現地で少しは体を動かしたかったしね。


 ちなみにデルっちは自分から集落に残ることを選択した。


 それは正直ありがたかった。


 あたしたちと訓練を続けているデルっちは、そこら辺にいる探検家連中より強いわけなんだけれど、そいつらのほとんどは大森林の深部に入れるような連中ではないし、相手勢力にいる猿の魔物の相手に一人で身を守る事ができるとは思えない。

 そうなるとあたしが仮に逃げきれなかった場合、皆でデルっちを守りながら戦う事になる。

 実際、それでも別に問題はないと思うし、障壁石や結界石で身を守ってもらえればいいって話だけど、現状少しでも道具の節約はした方がいいと思うし被害は抑えたいから、デルっちの上位互換の獣人がいるなら無理に連れていく必要はない。


 そう判断したあたしは、デルっちにそれを伝えようと思ったんだけど、本人が先に自分から申し出てきたわけだ。


 「本当は、森に住む者としておれも一緒に行きたかったけれど、きっと皆の足手まといになるから」


 そう言っていたデルっちは少し悔しそうな表情を浮かべていた。

 

 冷静に状況を判断できるようになったことに頼もしさを感じつつ、もうこの年齢で森に生きる戦士としての強い意識が芽生えていることに驚いた。

 他の森の民や獣人達も驚いていたから、森に住む者全てが子供のうちからこういう意識を持つという訳ではないということが伺える。


 きっとそれは、あたしたちと一緒に行動してきたから。

 そこで森に住む者だけではなく、実際に守るべき存在である人間達と交流を持ったため。


 そして、今も錬金術で駆除隊を支えようとしている妹のサーちゃんの影響なのだと思う。

 

 子供たちがこんなに高い意識をもっているなら、あたしたち大人はしっかりと進むべき背中を見せてやらなきゃいけないね。


 事情を知っているあたし以外の連中もそう思ってるのか、荷車に乗っている戦士連中はぎゅうぎゅう詰めの状態ながら、その表情から伺える意気はとても高い。


 『デルっち、行ってくるよ』

 『うん。頑張ってね』


 最後にそうデルっちに言い、あたしはリーダーたちがいる繁殖地に向かい荷車を牽いて走り出すのだった。






 「へぇ。デルクの奴成長したな」

 「そうだね。以前のような猪突猛進な性格は大分直ったと思うよ」


 繁殖地付近にあるキャンプ地に無事についたあたしは、リーダー達と合流してここ数日の状況を互いに報告しあう。

 こっちはやはり敵勢力たちがこの駆除に介入してきているらしく、三つ巴の激しい戦闘が続いているらしい。

 どちらかと言うと、敵がちょっかいを出し魔物達を刺激し、それをこちらにぶつけてその混乱に乗じてこっちを襲い掛かってきている状況になってきているようだ。


 今までの駆除隊ならばすでに撤退、最悪壊滅してもおかしくない状況に近かったらしいが、センセイが今まで作っていた多くの道具、そして、こっちで少量で品質が多少劣るとはいえ、毎日同様の道具を生産を続けている魔法人形達のおかげで被害を抑えつつ、戦線を保っている状況のようだ。


 「やっぱり、サーシャ先生が頑張ってるから影響を受けてるんじゃないっすかね」


 ドランはそう言いながら今日駆除した魔獣の肉を焼いた物を豪快に食っている。

 この肉は熊の魔獣の肉で、倒すのに獣人を交えて8人がかりだったそうだ。

 しかも、途中で猿の魔獣どもの介入もあったからかなりの混戦になったらしい。


 それでも防具や着ている物にそれほど損傷が見られないというのは、さすがのドランも障壁や結界を使用した戦い方をしているという事なのだろう。


 こいつの盾役としてのこだわりなのか何なのか分からないけれど、なかなか障壁を使った戦いをしたがらなかったから少し不安だったけれど、さすがに四の五の言っていられる状況ではないという事は分かっているようだ。


 「ドランさんも成長してくださいよ……」

 「はっはっは! 当然俺も日々成長しているぞ! 前よりも猿どもを相手にするのが楽になったからな!」

 「そこじゃないでしょ! 獣人の皆さんと一緒に突っ込んでいかないでください!」

 「はっはっは!」


 多分、先に突っ込んでいこうとした獣人を障壁で護ろうとして一緒に突っ込んでいったんだろうとあたしは思う。

 ハーヴィーもきっとわかっているだろうけれど、心配だったんだろうねぇ。

 こいつはドランの事をなんだかんだ言って尊敬しているからね。


 ドランもそれが分かっているから、何も言わずに笑ってるだけなんだろう。


 「いやぁ。兄ちゃんから聞いていたが、この道具が流通したら探検家たちの探索区域が一気に広がるのう」

 「馬鹿言え。自分の力を見誤る馬鹿が増えるだけだ」


 その体に見合わない、ドランに負けない豪快さで肉をむさぼりながら、将来の目論みを話すギリー爺さんに、リーダーの突っ込みが入る。

 この爺さん、本当はあたしやセンセイ達と一緒に留守番組になるはずだったのに、駄々をこねてここについてきた困った爺さんだ。

 しかも、話を聞くとドランよりも張り切って駆除活動を行っているらしい。


 年寄りの冷や水だと思うけど、それができる実力を持っているから恐ろしい。

 継戦能力こそ低いものの、短い間だったらあたしやウォレスに近いくらいの力は、まだこの爺兄弟は発揮する。


 伊達に厳つい二つ名を持ってる訳じゃないってことさね。


 ただ、この後この爺とハーヴィーはあたしと一緒に工房に戻り、そして辺境の集落に現状を伝える役目を持っている。

 そのために実際に状況を見たほうが真実味のある報告ができるとか駄々をこねる際に言っていたけれど、絶対それはとってつけた理由だというのは分かり切っている。


 この爺兄弟は、そういう兄弟だ。


 「じゃったら、Cクラス以上の探検家限定の販売にするかの」

 「まぁ、それが妥当だな」 

 「その前に、作れる人間を増やさないとだめですぜ。現状、俺達と森の連中に渡す分くらいしか作れないんですから」

 「ウイングバードの小僧に期待かのぉ…………難しいのぉ……」

 「ま、それもこれも全部この状況が片付いてからだな」

 「じゃあ、あたしも少しだけ手伝うかね」

 「無理すんなよ」


 からかうようにあたしにそう言うリーダーに、あたしは負けじと不敵な笑みを返してやる。

 これがこの人に対してちょうどいい接し方だからだ。


 「誰に言ってるんさね」

 「ははっ! そうだな!」


 こうしてあたしは少しだけ駆除隊と共に行動し、そしてハーヴィーと爺さんを連れて集落へ、そしてそこで再びデルっちと合流してセンセイ達の待つ工房へと戻るのだった。

 


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