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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
13章 大森林の駆除活動、である。
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思ったよりも状況は良くないのである。


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 魔物達の大量発生に合わせ敵勢力が活動を本格的にするという計画を聞いた我輩達は、大森林にあるノヴァ殿の工房に戻ることにしたのである。

 そうして雪上での行動・戦闘訓練をしながら周囲の敵性生物を駆除する生活を続けていた我輩たちのもとに、前もって駆除活動を行っていた親御殿達が合流のためにやってくるのであった。






 「早期の情報提供をありがとう。あなた方から情報をもらってすぐに他の集落へ伝達要員を出したので、おそらく早期に共有されると思う」


 アリッサ嬢が出した暖かい茶を一口飲むと、分隊長がそう言って頭を下げるのである。


 「今回の駆除は、今まで以上に魔物達の抵抗が苛烈であったので何かがおかしいとは思っていたのですが、連中も動き出しているということなのですね」

 「そうである。今回は向こう側にとっても大事な局面のようで、今まで以上に活動が活発化している可能性があるのである」


 我輩の言葉を聞いた親御殿は大きく頷くと手に持った茶を一口飲もうとしたのであるが、一瞬顔をしかめるのである。


 「どうしたんだい? 口に合わなかったかい?」


 その様子を見たアリッサ嬢の質問に、親御殿は苦笑いを浮かべながら首を横に振るのである。


 「いえ、口の中で浸みてしまいまして。治療が完全ではなかったようです」

 「彼は魔狼の抵抗を受け、口を一部裂いてしまったんだ」

 「え!? おじさん大丈夫!? 魔法を……ううん、お薬! お薬使った方が!」

 「サーシャ落ち着いて! もうおじさんは治ってるじゃんか!」

 「あ……あ、そうだね……えへへ…………」


 分隊長の言葉を聞いてあわてふためいたサーシャ嬢であったが、デルク坊の一言で落ち着きを取り戻すのである。


 しかし、そういった怪我をするほどまでに大変な状況であると言うことは確かである。

 それは、今ここに来ている分隊のメンバーが半分ほどであるという事からも伺えるのである。


 ここにいる者は分隊長と親御殿を含めた4人である。

 他の者達はというと、怪我の治療や度重なる戦闘での魔法使用のために倒れてしまったために集落に残っている状況のようである。

 7人1組という編成で活動をしている事から、ほぼ半数が大きな被害を受けているようである。


 「しかし、これだけの状況で今までよりも被害が少なく住んでいるのは錬金術師殿の道具のおかげだ」

 「そうですね。霧の魔物達の横槍を今までよりも気にしなくて済むようになりましたし、獣人達が錬金術師様の薬という効果の高い回復手段を得たことで、私たちの負担も減りましたし」

 「その状況なのに、被害がでかいってことは相当荒れてんのか。現場は」

 「正直なところ、従来のやり方でしたら被害は甚大でしたでしょう」


 戦闘中に強烈に染みるという副作用はあるものの、即座に傷を癒すキズいらずや、安全に治療行為を行う空間を作り出す人工障壁石や人工結界石の存在は、彼らの生存率を飛躍的に向上させているようである。

 とは言え、生産できるものが我輩たちだけだあり、なおかつ最近はずっと遠出をしていたため、各集落に残されている量もそれほど多くはないのである。

 なので、今は被害を最低限に抑えられている状態なのであるが、いつ厳しい状況になってもおかしくない状況になりつつあったらしいのである。


 なので、今我輩たちがこちらに戻ってきたということは彼らにとっても渡りに舟の状況のようである。


 「それは分かったけどさ。話を聞いてると、あんたたちまとまりがないように聞こえるねぇ」


 アリッサ嬢の言葉を聞いた分隊長と親御殿は困ったような表情を浮かべるのである。


 「我々の集落以外はまだ他種族が混ざって生活しているところはあまりないため、連携があまりうまく取れていないのは事実だ」

 「獣人の私が言うのもあれですが、獣人は他種族の方々の話をあまり聞かない上に、好戦的で敵に真正面に突っ込んでいく癖を持つものが多数います。彼らがもう少し話を聞いてくたり一緒に駆除を行う者達の事を考えてくれていれば、森の民が魔法で援護も十分に行えて、もっと被害は少なく済んでいると思います」


 犬の獣人の女性が、言葉を若干濁した分隊長たちの代わりにはっきりと問題点を挙げるのである。


 獣人達は元となる獣にもよるのであるが、基本的には直接的な戦闘を得意としており、森の民は弓や魔法での援護や治療を得意としている種族であるので、連携の相性は決して悪くはないはずなのである。

 ただ、獣人の種族特性上の問題が連携をうまく機能させていない状態のようである。


 彼女のように、犬という集団行動に適した種族が元となっている獣人にとって、他の獣人達が勝手に動き回っているのは少々苛立たしいのかもしれないのである。 


 ちなみに今の話を聞き我輩は、だからドランやウォレスのような戦闘馬鹿の様な者に獣人の血が強く出ている者が多くいるのだと納得するのである。

 そう思いふとサーシャ嬢を見ると、彼女もうんうんと頷いているのである。

 おそらくデルク坊の事を思っているのであろうか。


 「それってつまり、被害が大きいのは獣人側って事かい?」

 「いえ、一概にそうとは言えません。森の民を重点的に襲う魔獣や魔物達も多くおりました」

 「今思えば、そいつらはおそらく敵勢力の連中だったんだろうな。回復役でもあるの我々を先に潰せば有利な状況にできるわけだしな」


 アリッサ嬢の質問に、二人はそう答えるのである。

 確かに、わざわざ自分たちに突っ込んでいる獣人達を迎撃せずに、そこから離れた森の民たちをあえて襲撃するような余裕のある行動を繁殖期が間近に迫って余裕がなくなっている魔獣達がするとは思いづらいのである。

 で、あればそれらを行っているのは現場で紛れている敵勢力側の魔獣や魔物である可能性が高いのである。


 「そうであれば我輩達が現場付近に仮の工房を構えれば、いくらか状況は改善されるという事であるか」


 本当はもう少し安全な場所で事を運びたいのであるが、状況が状況である。

 多少の危険は伴うのであるが、帝国に敵性生物が侵入しないように命を懸けている森の民や獣人達を守るために自分たちも命を懸けるのは当然の事である。


 「いこう! みんな頑張ってるんだから、わたしたちも頑張らなきゃ!」

 「おれもみんなと戦いたいけど……足手まといになるから、サーシャたちを守る!」


 少々困ったような表情を見せるダンに、サーシャ嬢やデルク坊が勢いの良い返事を返すのである。

 おそらく、親御殿たちの状況を見て居ても立っても居られないのであろう。


 「……はは。子供たちがこんなに言ってるんだ。我々も厳しいとか言っていられないな」

 「そうですね。じりじりと追い込まれていて、少々弱気になっていましたな」


 分隊の面々もそんな二人の勢いに乗せられたのか、少し元気を取り戻したように見えるのである。


 「それに、獣人のみんなも皆様の言葉であれば少しは聞いてくれると思いますし」

 「そうなのであるか?」

 「ええ。自分たちと同等かそれ以上の実力を持っているダンさんやアリッサさんがいれば、彼らは言う事を聞くと思います。彼らは基本的に実力主義者が多いですから」

 「獣人は戦闘馬鹿が多いのか?」

 「全員じゃありません!」


 ダンの言葉に、犬の獣人の女性が抗議の声を大きく上げるのである。

 たしかに、彼女からすれば同じにされたくないというのは理解できるのである。


 「それでは、用意ができ次第現地に向かう事にするのである」


 こうして、我輩達は激闘の繰り広げられている繁殖現場へと向かうための準備を始めるのであった。







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