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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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セランフィア嬢の情報とその後、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 セランフィア嬢と一対一の面会を果たした我輩は、集落を襲った者について三つの可能性を話すのである。

 そして我輩の話をすべてを聞き終えたセランフィア嬢は、我輩に一つの情報を伝えるのであった。

 





 「大々的な侵攻?」

 「そうである」


 我輩の言葉を聞いたダンが、そう聞き返すのである。


 セランフィア嬢から情報を得た我輩は、その日の夕食後の団欒時にそれを伝える事にしたのである。

 他の者の反応もダンのように、あまり現実味のないような受け取り方をしているようであるが、全く信じていないという感じではないのである。

 まぁ、開口一番にそう言われればそう言う反応になってしまうのも致し方ないのかもしれないのである。


 「それは、セラにゃんがそう言っていたのかい?」

 「他に誰がそんなことを言うのであるか」

 「まぁ、そりゃそうだけどね」


 あまり意味のない質問をしたのは自分でもわかっているのか、アリッサ嬢はそう言うと舌を出すのである。


 「それはいつ頃になるんですかい?」

 「魔獣の大量発生の本格化とともに行動を開始すると言っていたのである」

 「それって…………」


 我輩の返答にクリス治療師の表情が青ざめるのである。

 そう、既に大森林では魔獣の大量発生が起こり始めていたのである。

 さすがにこの雪の季節は魔獣の動きも鈍くなるためそれに乗じて行動するということは出来ない筈なのであるが、逆に言うと動きが鈍くなっている魔獣たちを次々に配下に入れて勢力を拡大することもできるという訳である。

 大量発生している魔獣たちを亜人種達がどれだけこの季節に発見してできるだけ多く駆除していただきたいところである。


 「どうするよ。大森林に戻るか?」


 話を聞いてダンが我輩にそう尋ねるのである。


 ダンの言う通り我輩達も大森林に戻り魔獣の駆除に参加すれば、敵勢力の勢力拡大を防ぐ助力ができるのである。

 ただその場合、春まで大森林に行かないと集落長や集落の者達に言っているため、もしかしたらいらぬ心配をさせてしまう可能性があるのである。

 しかし、雪解けの季節を待つと勢力を増加させた敵勢力との戦闘になる可能性もあるのである。

 それに、雪解けとともに大森林外を中心に活動している探検家達も大森林に入るようになるのである。

 そうなると事情を知らぬ探検家たちに危害が及ぶ可能性は十分にあるのである。


 さすがに、出所の怪しい情報を伝えて危険を訴えたところであまり意味がないと思うのである。

 それならば、早いのであるがこれで大森林に戻り少しでも魔獣たちを駆除して安全を確保、また勢力拡大を狙う敵勢力との居場所を探したほうが良いと思われるのである。

 セランフィア嬢は、襲撃の予定の時期などは教えてくれたのであるが、敵勢力の居場所や主な者の能力などは教えてくれなかったのである。

 おそらく、彼女の中ではそこが妥協点なのであったのであろう。

 しかし、いきなり大量の魔獣達と共に魔の者達との戦いを繰り広げることになるよりは、こうやって前持った行動ができるというのは良いことなのである。


 「そうであるな。もともとこちらにいるのはこのまま何もなければと言う話であったのである」

 「そうだぜ! おじさんや大婆さまが心配だし、手伝いに行こう!」

 「決まりだな」


 こうして、我輩達は大森林へと戻ることを決定したのであった。






 「こんな寒い季節に戻らなくてもいいだろうに」

 「申し訳ないのである。この時期ではないと取れない貴重な素材があるとこの書物に書かれていたのである」

 「全く……好奇心旺盛だな薬師様は」


 我輩が取り出した上級手引書を見て、集落長はやれやれといった感じのため息をつくのである。

 古代精霊語が読めない彼にとって、この手引書に何が書かれているのかは分からないためごまかすのに使用したのである。

 嘘をつくことに多少の申し訳なさを感じるのであるが、本当のことを言ったところで混乱させるだけであるし、しばらくしてからドランかハーヴィーを使いに出してもっともらしい説明をしてもらう事になっているのでまぁ、それまでは平和に暮らしてもらいたいのである。


 「……マジでついて来るのか?」

 「当り前じゃろ。大森林の深部に行ける貴重な機会じゃぞ。同行するに決まっとるわい」


 我輩達の近くでは、ダンとギリー老が会話をしているのである。

 現在も屋敷で寝泊まりしているギリー老もセランフィア嬢の話を一緒に聞いており、我輩達が大森林に戻ると言った際にすぐに同行すると言ってきたのである。

 当然止めたのであるが、


 「兄ちゃんが行っとるのに儂が行けないとか狡いじゃろうが」


 と、子供のような理論を展開して頑としてこちらの言葉に耳を傾けなかったので渋々動向を許可したのである。

 あのままだと、勝手に大森林内を行動されかねなかったのである。

 バリー老の時はそもそも、危険状況が確実に迫っているという状況になかったので一緒にされては困るのであるが、探検家という職業の性なのかもしれないのである。


 そうして生き生きとした表情を見せるギリー老に、ダンは呆れっぱなしである。

 

 「ったくよぉ。ギルドは良いのかよ」

 「もう儂がいなくても問題なく回るわい」

 「じゃあ帝都に戻れよ」

 「老い先短い爺になんていう事を言うんじゃ」

 「ぜってぇアンタとバリー爺さんは100まで生きるわ」

 「じゃあ、あと35年しか生きられんわい」

 「十分だ!」


 緊張感のない二人であるが、こういう軽い感じで会話をしていた方が見送りに来ている者達に変な緊張を与えなくて済むのである。

 そういう事を考えて行動しているならばなかなか気の利く者達だと思うのであるが、見た感じではそうは見えないのである。


 「それにあれじゃろ。こっちに戻来た時にまだ若いあやつら達のみの報告よりも、儂の一言もあった方が信憑性も上がるじゃろ」


 集落の者達には聞こえない程度の声でギリー老はそう言うのである。

 しかし、いくら若いとはいえ二人ともダン達と共に大森林で活動している事を評価され、高クラスの探検家の一因になっている筈である。

 そこまで発言力はないとは思えないのである。


 我輩がそう思っていると、

 

 「そんな事ねえよ。それに、今のは絶対に取ってつけた理由だろそれ」

 

 と、ダンもそう返すのである。

 やはり、今のはギリー老の言い訳の一つであったようである。


 「……最近の若いもんは疑い深いのぉ」

 「今までの積み重ねの結果だろうが」


 自身の言葉を一蹴されたギリー老は嘆かわしいといった表情を浮かべるであったが、ダンにそう言われると舌を出しておどけるのである。

 一体、今まで何をしてきたのであろうか。


 「皆さん、私達がいない間もしっかり勉学に励んでくださいね」

 「みんな、無理して大きな魔法を使おうとしちゃだめだよ。魔力の暴走は本当に危ないんだからね」


 別の場所では青空教室の生徒たちに囲まれたサーシャ嬢とミレイ女史が別れのあいさつを交わしているのである。

 相変わらずミレイ女史の周りには人が多く集まりが別れを惜しんで盛り上がっている様子を見せているのであるが、サーシャ嬢の生徒のほうが二人の言葉を真剣に聞いているように見えるのである。

 どうやら教室の組み分けが完全に出来上がっているようである。

 我輩も、ミレイ女史達もこの状況には思う所はあるのであるが、まぁ開かれた教室であるならば受け入れていかねばならない部分なのかもしれないのである。


 欲丸出しでミレイ女史に接する者たちがいるのはどうかと思うのであるが。


 「おうおう、お前らよぉ。あんまりミレイ先生を困らせるんじゃねえよ。あんまり度が過ぎてるといつもみたいにつまみ出すぞ」

 「ひ……ひぃ!……ド……ドランさん!!」


 次々に生徒たちに話しかけられ、対応に苦慮しているミレイ女史のもとにドランが割って入ると、先程までミレイ女史に群がっていた生徒たちが一斉に一歩以上下がるのである。

 そう、授業を真剣に受けない者達が多い事に悩んでいたミレイ女史の相談を解決する方法として我輩達が提示したのは、強面で大きいドランに教室に立ち会ってもらうというものであったのである。

 効果はてきめんで、表向きは全員必要以上にミレイ女史に接触しようとしなくなったのである。


 「ドランちゃん! そうやって皆を怖がらせないの!」

 「だけどよぉ……クリス姉」


 だが、そんなドランもクリス治療師の前では形無しである。

 結局、ドラン達結婚式を行うことなく大森林に戻ることになってしまったのはクリス治療師に大変申し訳なく思うのである。


 そんな事を思っていると、なぜか言い争いに発展したところでクリス治療師の強烈な一撃を喰らい崩れ散るドランの様子を見て、生徒たちがクリス治療師に恐れおののく様子が映るのである。

 二人がいない間はクリス治療師が青空教室の教師を行うらしいので、この先どうなるのか心配のような楽しみのようなである。


 「セランフィアさん、大丈夫?」

 「ああ、問題ない」

 「向こうの食材倉庫にはこっちでは食べてないような魚がいっぱいあるから楽しみにしててね!」

 「おい、それは大丈夫なのか?」


 デルク坊の言葉に、ハーヴィーによって荷車の上に載せられたセランフィア嬢が驚いたような表情を見せるのである。

 まぁ、森の家には品質保存の魔法がかかっているため、物持ちは非常に良いのであるがそんなことを知らない者からしたら不安になるだけである。


 本当ならばセランフィア嬢は残していきたかったのであるが、彼女現在欠損部位の治療中であるし、人間の言葉が喋れないので残しておくとそれはそれでまた問題が起こりかねないのである。


 「あっちの湯浴み場には、湯に入れて香りを楽しむ香油もあるさね」

 「…………それは楽しみだ」


 そのため、彼女も森の家に連れて行くことになったのである。

 慣れない平野部よりも大森林のほうが静養できるかもと言う判断もあるのである。


 そんな風に出発のあいさつや準備などをしていた我輩達であったが、そろそろ大森林へと向かう事にするのである。

 さすがにこの季節は陽が高いうちに移動をしなければ寒さが大変なのである。


 「それでは、ある程度素材が集まったらこちらに戻るのである」

 「センセイ、料理大会の前には戻ってきてくれよ。僕も一緒に行きたいんだから」

 「極力そうできるように努力するのである」


 状況を知りつつ、何とも緊張感のないシンの言葉にそう答える我輩の言葉を合図に、我輩達は大森林へと移動を開始するのであった。


 



 


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