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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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久しぶりの帝都。実は俺ってすごいんだぜ

しばらくダン側の話になります


 俺の名前はダン。帝国でたった二人の現役特Aクラスの探検家だ





 センセイ達の集落を離れて五日。俺は今、帝都の付近までやって来ている。

 本来は、早くて10日くらいはかかるはずだ。だが、俺は全力で移動すれば、馬並みの早さで長時間移動することができる。

 移動に優れること自体は特別なことじゃない。魔法で一時的に移動速度を上げることはできるし、足の速い獣人や体力のある獣人の血が強く出てるやつらなら、俺より速く走ることもできるし、長く走ることもできる。

 ただ、俺は"かなり足の速い獣人の速さを、かなり体力のある獣人が走る時間の長さ"で走れる。

 要は、足の速い獣人の速度10、体力が5だとすると、俺は両方8か7ってことだ。これは、身体能力で言えばすべてに当てはまる。

 パットンが、前に種族の枠を越えた特性や魔法を身に付けた存在が魔の冠をつける種族だとセンセイに言っていたらしい。

 そういう観点で言えば、俺の祖先は魔者か魔物。もしくはそれ以上の何かだ。兄から、流れる血の事を聞いた俺は、確信をもってそう言える。

 

 まぁ、そんなわけで帝都を確認できる位置までやって来た俺は、久しぶりにその外縁を見る。

 まだまだ距離は離れているが、左右に延びた外壁はかなりの広さがあり、都市の広大さを示している。

 帝都は人口が約三十万の大都市だ。帝都と付近の町村を合わせた中央地方と呼ばれるこの一帯だけで、東西南北地方全ての人口を越してしまうくらいに人が集まっている、まさに帝国の政治・経済・文化の中心だ。

 その帝都の外壁の上に、突き出している大きな建物がある。あれが、皇帝陛下が居住し、帝国政治の中枢となっている帝城だ。

 帝城は帝都のほぼ中央に位置し、城壁と堀で囲まれている。その外側に地方貴族や法務貴族の居住区画である貴族街や、魔法研究所や帝国治療院本部、製造ギルドや薬師組合などの公的な研究施設、そこに勤める研究員の居住区画である研究街などがあるわけだ。

 そこもまた外壁で囲まれており、その周囲を取り囲むように平民の居住区画、商業区画、娯楽区画、民間の組合、スラムなどがある、いわゆる平民街が存在する。

 今、俺が目の当たりにしているのは、その平民街の外壁だ。

 この外には穀倉地帯などの農村部が広がり、中央地方の食物を賄っている。収穫時には、辺り満面に黄金色の絨毯が広がり、地方から来たものを楽しませ、また、圧倒するのだ。


 「確かに、どう頑張っても人口が数十人の集落じゃ出来ない事だな」


 俺は、そうひとりごち、帝都へ向かう街道へ歩いていった。






 帝都に近づいていくにつれて、通る人の数も多くなる。そして、こういった都市には当然、帝国騎士による検問がある。

 帝国騎士っていうのは、帝国防衛騎士隊という、帝国領土がが亜人たちや獣などに襲われたときに防衛に向かう為に作られた集団に勤める連中のことだ。

 防衛騎士隊には、帝国民ならば入隊の資格があり、将軍以下全ての役職の任命権は皇帝陛下が持つことになっている。

 だが、実際は陛下が全ての階級を任命することは殆どなく、陛下が将軍を任命し、その将軍が決めた任命案に認証印を押すだけなのが通例だ。

 なので、殆どの場合上位の役職は将軍の腰巾着が付くことになり、派閥外の有能貴族は出世できても中隊長クラスまでだ。

 さらに平騎士になる前に准騎士という段階を踏むのだが、このままで終わることもかなり多い。

 ただ、帝国民として、国の防衛や治安活動をする誇り高い職業ということで羨望の目で見られやすいこと。公的な職だから食いっぱぐれがないことから、意識の高い貴族や平民には人気のある職である。

 逆に、野心の強い貴族には表だった功績が出やすい帝国開拓団の方が人気だ。功績をあげた貴族は、開拓した土地をもらえるからだ。なので、平民は開拓団に入る資格はなく、開拓民としてくっついていくか、貴族の私兵に応募するか、探検家になるわけだ。

 帝国騎士の検問が滞りなく進み、そろそろ俺の番が近づいたときにそれは起こった。


 「平民よ、道を開けろ!私は男爵である!」


 一台の馬車が後ろを押し退けて先に進もうとしている。帝国騎士が馬車に駆け寄っていく。


 「男爵様、こちらは平民用の検問所でございます。貴族様用の検問所は、こちらより北側でございますので、あちらへ…………」

 「そんなことはわかっておるわ。准騎士風情が。あちらより、こちらの方が近いのだ。通してもらうぞ」

 「そういうわけには行きません、もし通るとしてもきちんと並んでください」


 帝国騎士の忠告を最後まで聞かずに、押し通ろうとする貴族サマ。


 タチ悪いやつがやってきたな。めんどくせぇなぁ。


 たまにこういう門を勘違いする貴族がいる。大体は、帝国騎士の忠告を聞き入れて貴族用の列に並び直すか、そのまま平民と一緒に並ぶわけだ。誇りある帝国貴族が、この様なところで権力をかさに取り乱すような、無様な格好を平民に見せるまいと。

 ただ、たまに無様な格好は見せられない方向性が、ずれている手合いがいる。絶対に非を認めない、貴族なので優先されるべきだと思う連中だ。

 こういう手合いはなぜか、平民を無駄に見下す傾向が強い。センセイが嫌いな人間至上主義者と同じ臭いがするんだよな。


 そんなことを思ってるうちに帝国騎士と貴族サマの方が話がどんどん進んでいるようだ。


 「そのような無理をされるなら、我々も、男爵様の所業を法務局へ報告しなければならなくなります」

 「何を言っているのだ!このような下らないことをわざわざ報告して、法務貴族のの手を煩わせる事などないではないか!」

 「ですから、貴族様の列に並び直していただくか、先程の位置まで戻っていただかなくては…………」

 「たかが平民の准騎士風情が何を偉そうに、貴族に意見しておるのだ!貴様達のような騎士に使われることしかできない木っ端騎士など、私達貴族の意見に従っていれば良いのだ!それともなんだ?金か?私が貴族だから賄賂でも欲しいのか?はっ!所詮は卑しい平民だなっ!!」


 帝国騎士は、手を怒りに震えさせながらも必死に耐えている。周りの平民達も、怒りをと侮蔑の混ざった目で遠巻きに見ている。どっちが卑しいんだよ。

 さすがにムカついてきたので、介入することに決めた。こういう手合いとは絡みたくねぇんだよなぁ。絡むならセンセイみたいに面白い屁理屈をこねる手合いが良いぜ。本当に。

 ムカついたから、さっさと終わらせようと思う。権力には権力だ。


 「男爵サマ、さすがにその言い方は良くないと思うが?」

 「何者だ貴様は!?見た目は平民だな、平民ごときが貴族にそんな偉そうな口を利くな!」

 「人を見た目で判断すると痛い目を見ることになるぞ」

 「たかが平民が偉そうに!貴様ごときに何ができる!名を名乗れ!貴様を侮辱罪で訴えてやるわ!」

 

 俺の態度に一瞬たじろいだが、姿を見て怒りを露にする貴族サマ。口角泡を飛ばして様々な言葉で罵る罵る。

 だが、こちらだって陛下の配下であった帝国貴族にこんな馬鹿がいて、その馬鹿のせいで民も、帝国騎士も、俺も、無駄な時間過ごす羽目になって腹が立ってんだよ。

 本当は、ぶん殴ってやりたいけど、そんなことはしない。なぜなら、俺は誇りある帝国貴族だからだ。


 「俺か?俺の名はダン。帝国特Aクラスの探検家だ。あんたが本当に帝国貴族なら、俺の言ってる意味わかるよな」


 俺はそう言って、胸元から探検家ギルドが発行し、帝国の認証印が押された特Aクラスの発行証を見せる。 

 発行証を確認した貴族サマは、顔が真っ青になる。


 「な……な……。特Aクラス……ということは…………」

 「陛下から正式に一代侯爵として叙勲された俺が、平民と共におとなしく列に並んで待ってるのに、たかが男爵風情の貴様が何を偉そうにしてやがる。誇り高き帝国貴族なら、下らねぇ文句を言わねぇで騎士の言うこと聞きやがれ!この件はしっかりと法務局に報告しておくからな。覚えておけよ」


 俺がそう怒鳴ると男爵は大慌てで馬車に戻り、北にある貴族の列に並び直していった。

 それを見送ったあと、俺は帝国騎士達の方へ向き直す。


 「帝国騎士諸君、君達の権威に屈しない誇りある仕事ぶりは、誇りある帝国騎士として称されるべきものである。諸君らの働きは、私から、防衛騎士団本部へ伝えておこう」

 「わ……我々は、誇り高き帝国騎士として、当然の仕事をしたまでであります!もったいなきお言葉でございます!」


 呆気にとられていた帝国騎士達だったが、俺の話を聞いて我に帰ったのか、帝国騎士の礼の姿勢をとって返事を返す。なかなか良い訓練を受けているようだ。


 「これからも、諸君らのより一層の仕事に期待している。頑張ってくれ」

 「はっ!ありがたきお言葉であります!それでは失礼いたします!」


 そう言うと、帝国騎士達は足並み揃えて駆け足で検問所へ戻っていく。


 そう、俺達のチームメンバーは全員帝国の一代侯爵という爵位を貰っている。

 探検家が平民に人気の一因なのは、帝城に行くことになるBクラスから、一代限りの貴族爵位がもらえるからだ。そこから法務貴族になったり、開拓団や防衛騎士隊に入り、功績を上れることで、正式に地方貴族や法務貴族になることもできるわけだ。


 ちなみに

 Bクラスは一代男爵

 Aクラスは一代子爵

 特Aクラスは一代伯爵の予定だったんだが、俺たちのチームは、陛下直近の探検家だったこともあり一代侯爵になった。

 一応、侯爵というが、実際は伯爵以上侯爵未満という立ち位置だ。だから、Bクラスの一代男爵なんか、有って無いようなものだ。


 「あの人……特Aクラスって……」

 「ってことは、北の山を越えた伝説の……」

 「引退したんじゃなかったか……?」


 やっぱり周囲が騒がしくなってきたな。センセイじゃないけど、騒がしいのはあまり好きじゃないんだよなぁ。だからできるだけ身分証とか出さないで過ごしている訳だしな。


 「あのぉ……えっとぉ……」

 「どうしたボウズ?」


 一人のボウズが俺の前にやってきた。大分もじもじしていたが、意を決したようで


 「北の山の龍って強かったですか?」


 なかなか男のガキらしいかわいい質問だ。周りでこそこそ話されるよりよっぽど気分が良いので、検問が終わるまでこのボウズの相手をすることに決めた。


 「あぁ、残念だけどな、龍とは戦ってねぇんだ。俺達が戦ったのは翼竜って言って、ボウズ達が龍って言ってる奴らとはちょっと別の空飛ぶでっかい蜥蜴だ」

 「どれくらいおっきかったの?」

 「そうだなぁ、あの門の半分よりちょっと大きいくらいか?」


 そういって、俺は目の前にある門を指差す。門はだいたい横幅は馬車が3台分、高さは人7人分くらいはあるだろう。

 予想以上に大きかったらしく、ボウズはものすごく驚いている。


 「そんなおっきいのと戦ったの?」

 「まぁ、俺一人じゃないからな。仲間も入れて6人で戦ったよ」

 「トカゲの龍は、1匹だけだったの?」

 「だいたいはな。多いときは3匹一気に来たときもあったぜ」


 その時の状況を思い出す。

 北の山を一度越えて、帰りの中腹辺りだったか。運悪く匂い薬が効かない個体が3匹同時に襲ってきたんだよな。奴らはトカゲの癖に妙に賢くて、最初は俺達の真ん中辺りを狙って落石をして左右に分断してきた。その時運悪く太陽に石が隠れたことでかわすのが遅れたゴードンが石を頭に受けるのはなんとか避けたものの胸に受けて衝撃で気絶。ここで俺とウォレスはゴードンを守るための翼竜への牽制で身動きが取れなくなった。

 リリー達の方は奴らに有効的な攻撃手段を持つリリーの魔法を一匹が牽制しつつ襲撃でもう一匹が隙をみて左右両方に襲い掛かってきた。

 ゴードンが気絶から回復するまでなんとか耐え切ることが出来たのと、一匹がチョロチョロと攻撃対象を変えていたからなんとか一匹倒して、残り二匹を退散させることは出来たが、帰り道で体力が減って来ていたときのあれはきつかった。

 

 「そんなおっきいのが3匹来たのに退治できたの?」

 「退治できたのは1匹だな。あとは退散させただけだ」

 「でも、1匹倒せたんだ!」


 ボウズの目がキラキラと輝いている。

 なかなかカッコイイ話にならないんだが、楽しんでもらえているようなら良かったと思う。


 「ねぇおじさん、ボクも特Aクラスの探検家になれるかなぁ」


 ボウズが不安げに質問してくる。ぼかしても良いと思うが、ちゃんと言ってやった方がいいとも思うのではっきりと伝える

 

 「一人じゃ無理だ。仲間を作れ、友達でも良い。たくさんの人と関わって、たくさんの人と支え合っていけ。そうすればきっとここまでこれるはずさ」

 「うん、おじさん。ありがとう!」


 ボウズはそういうと親がいるであろう方向へ走って行った。周りを見ると、話したそうにしている連中がちらほらいる。


 「おい。お前話しかけてこいよ」

 「でも聞いたろ?侯爵様だぞ?俺達が話しかけていいものなのかよ」

 「さっき子供だって話しかけたじゃねえか」

 「じゃあお前が話しかけてこいよ」

 「いや……おれは……」


 こうなるから貴族だって言いたく無かったんだよな。一応貴族だけど、平民だぜ。俺は。

 そう思いながら、時々我慢できずに話しかけてくる子供の相手をしながら、おれは検問が終わるのを待つのだった。






 検問も無事に通過し、俺は帝都の門を潜る。

 帝都の中は活気であふれ、町行く人が所狭しと動き回っている。

 道の脇にある屋台には人が集まり、売っている肉串や器に盛られた麦粥などを買って近くの広場に座って頬張っている。肉汁がキラリと垂れた香ばしい香りのする肉串は食欲を刺激する。俺も一本買っていこうか。

 別の場所では、飾り物の露店に別の地域からやってきたと思われる男が、女へのお土産なのか商品を必死の形相で吟味している。それを、何人かの商人と思われる男達が談笑しながら見ている。おそらく粗悪品を掴まされるのだろう。教えてやれよと思うが、これも勉強なのだろう。かわいそうなことだ。

 そんな、門を入ってすぐの光景を眺めながら、俺は今回の目的を果たすべくある場所へ移動を開始する。勿論、肉串は買っていく。肉は、良いもんだ。アリッサは野菜を食わそうと画策してるが、男なら、肉だ。

 そんなことを思いながら、俺はどんどんと移動していく。


 俺が帝都にきた理由は一つ、大森林の森の民の集落を探しに行くのにちょうど良いメンバーを探すためだ。

 そのために、俺はこれから仲間のいる場所へ足を運ぶのだった。






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