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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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青空教室の変化、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 猛禽獣人の女性セランフィア嬢の、魚を食べたいという望みをかなえるべく、我輩達は湖に魚を捕りに行き、そして取った魚を料理してセランフィア嬢に提供したのである。

 食事を食べたセランフィア嬢は無表情で反応が芳しくなかったのであるが、それは美味しさからくる表情の崩れを他人に見せたくないという恥ずかしさからだったのであった。


 喜んでもらえたようで良かったのである。






 「魔力制御で動く乗り物が作りたい、であるか」

 「うん! 今の荷車って、誰かが牽かないと動かないでしょ? そうじゃなくて、人の思い通りに動く乗り物があれば良いなって思ったの!」

 「つまり、【意思】の構成魔力に反応をする乗り物を作りたいと言うことであるか」

 「あっ! そう! そういうこと!」


 我輩の言葉にサーシャ嬢はどこか合点の言った表情を浮かべるのである。

 どうやら、思いついたのは良いのであるが道具の作製のために必要になる構成魔力をいまいち把握しきれていないかったようである。


 「やっぱりおじさんは凄いね。わたしの話を聞いて、すぐに必要なことを教えてくれるんだもん」

 「今のは完全にたまたまなのである」


 今のは単純に話の流れに乗っただけであり、サーシャ嬢が我輩に何を求めていたのかなど全くわかっていなかったのである。

 評価をしてくれるのは嬉しいのであるが、さすがに買い被りすぎである。


 「そんなことないよ。おじさんもミレイおねえちゃんも、わたしが質問するとすぐに分かるように答えを教えてくれるもん」


 そう言うサーシャ嬢は、少しだけであるが元気がないように見えるのである。


 ギルドへの納品依頼も終了した今、時間に余裕ができたサーシャ嬢やミレイ女史は、天気の良い日には昨年行っていた魔法の青空教室を開催するようになったのである。

 今の言葉から、もしかしたらそちらのほうで何か問題でもあるのかもしれないのである。


 「青空教室の指導で何か悩みでもあるのであるか?」

 「悩みっていうほどじゃないんだけど……」


 我輩の質問に、サーシャ嬢は少しずつではあるが自分の心情を話し始めるのであった。






 「どうだい? センセイの見立ては」

 「そうであるな。サーシャ嬢の言っていることも多少はあると思うのであるが、大半は違う理由だと思われるのである」

 「あー……センセイでもそう思うかい? じゃあ、間違いないねえ」


 我輩の言葉に、アリッサ嬢が苦笑いを浮かべながら同意を示すのである。


 現在我輩達は、サーシャ嬢の話を聞いた後に開かれた青空教室の様子を見終えたところである。


 「まじめに勉学に励む気はないのであろうか」

 「まぁ、本人たち的には真面目にやっている連中もいるかもしれないけどねぇ。ま、人が増えればそういうのも増えるっていう事でしょ」

 「確かにそうであるが、その事を真剣に悩んでいるサーシャ嬢がかわいそうであるな」

 「まぁ、それはそうだね」


 我輩は直に話を聞き、アリッサ嬢は我輩からの説明を受け、サーシャ嬢の元気のない様子を知っているので多少の不愉快さを覚えずにはいられないのである。


 サーシャ嬢の話の内容をまとめると、今回の教室はサーシャ嬢のほうにはほとんど人が寄ってこないで、大半の者がミレイ女史の教室に在籍しているという事で、申し訳なさを感じてしまったというものである。

 時折ミレイ女史の教室からサーシャ嬢のほうに来る者もいるようなのであるが、大半はがっくりした様子を見せて再びミレイ女史の教室に戻っていってしまうらしいのである。


 サーシャ嬢はそれを、自分がちゃんと人に教えられないからからではないかと考えていて、それであの話になったという事であったのである。


 そこで、我輩はアリッサ嬢に事情を話して散策のついでの形をとって教室の様子を見て回ることにしたのである。


 本当は我輩一人で見て回るつもりであったのであるが、


 「センセイ一人で行ったらサーちゃんが気にするかもしれないしさ、それに、センセイはそういう所を観察するの苦手そうじゃん。だから、あたしがついていくよ」

 「いや、そんなことはないのと思うのであるが…………」

 「なによりさぁ、サーちゃんやミレちゃんとは気分転換に散策や湖に出かけるくせに、あたしは全く誘わないっておかしくないかい?」

 「いや、それもその日は来客があったから……」

 「い・い・よ・ね・?」

 「……分かったのである」


 と、アリッサ嬢に押し切られることになってしまったのである。

 遊びではないのであるがと思ったのであるが、アリッサ嬢もしっかりと教室の様子を見て回っていたようで安心したのである。


 と、いう訳で教室を見て回ったわけであるが、実際のところサーシャ嬢が心配しているような理由でミレイ女史のほうに授業を受ける者が多くなっているわけではなかったという事が分かったのである。


 なぜサーシャ嬢の教室にはあまり人がいないのかと言うと、大きく二つの理由があるのである。


 一つはミレイ女史を目当てに教室に来ている者である。


 今回の教室を受けている者の多くが集落に新しくやってきた若年から中年の男性であり、ミレイ女史が魔法教室を開くという事で、あわよくばミレイ女史に近づきたいという気持ちで参加しているようである。

 また、ミレイ女史が魔法研究所の職員であることを知り、自分の能力を売り込んで魔法研究所に入所しようと考えている者達もいたり、中にはミレイ女史がロックバード伯爵令嬢であることを知り、そことの繋がりを得ようとしている者もいるようである。


 こういう者は、魔法技術の学習というよりも完全にミレイ女史とのつながりを求めているわけであるので、当然サーシャ嬢の教室には行くわけがないのである。


 もう一つは、サーシャ嬢の能力の高さを認められない者が多いという事である。


 先ほど言ったとおり、魔法研究所への入所を求める者がいるという事は、その者達の多くは既に魔法が使える上でこの教室を受けているという事である。 

 基本的に人間の中で魔法が使える者はエリートである。

 それ故に自尊心が高かったり中には驕っている者も当然いるのである。

 そんな者達が、魔法技術の権威である魔法研究所の職員であるミレイ女史ならばともかく、子供であるサーシャ嬢が自分よりも、さらに言ってしまえばミレイ女史よりも魔法の力が優れているなどという事が認められないという事のようである。

 そんな自分の小さな自尊心を守るためにサーシャ嬢に近づかないようにするというのは何とも滑稽な話なのである。


 ほかにも、単純に子供から教わるのは恥ずかしいものだという価値観を持っている者や、サーシャ嬢が危惧していたように、指導の相性が良くないという者もいたのであるが、ほとんどの理由はその二つであったのである。


 と、いう訳で、サーシャ嬢の教室に在籍する者はサーシャ嬢の能力を認めたうえで、さらなる高みを目指す者達が多く在籍することになっていたのである。

 教室の本来あるべく姿としては理想と言うべきものであるが、サーシャ嬢は残る者よりも去る者のほうが気になってしまい、悩んでいたという事である。


 「まぁ、それは仕方ないところはあるさね。人は悪いほうに目を向けやすいからね」

 「我輩はそんなことはないのである」

 「じゃあ、センセイは人間じゃないんだよ」


 などと、アリッサ嬢から失礼なことを言われつつ教室の様子をまとめ、それを教室が終了した後にサーシャ嬢に伝えたのである。

 

 「ありがとうおじさん、アリッサおねえちゃん。本当にそうなのかなと思ったら気が楽になっちゃった」

 「残念ながら、人はそういうものであったりするのである。だから、そんな者達を気にするよりも、サーシャ嬢に魔法の教えを乞おうとしている者達がいるのであるから、そちらを大事にして授業に臨むのである」

 「うん! わたし、頑張るね!」


 我輩の言葉を聞いてサーシャ嬢は、笑顔を浮かべてぎゅっと拳を握るとそのまま走って屋敷へと戻っていくのである。

 どうやら元気を取り戻し、やる気を出したようである。


 「サーちゃん、元気を取り戻してよかったね」

 「そうであるな。アリッサ嬢、感謝するのである」

 「あはは。いいって事さね」

 「今度は普通に散策に誘うのである」

 「期待しないで待ってるよ」

 「あの…………お二人とも、少しよろしいでしょうか」


 そう言って二人で和んでいるところにミレイ女史がやってくるのであるが、どこか困ったような表情をしているのである。


 「どうしたのであるか」

 「あの……相談しようか迷っていたのですが……今日の教室の様子を見に来られていたので、いい機会だと思いまして…………」


 そう言って愚痴とともに我輩達が見た現状と同じ話を始めるミレイ女史を見て、我輩とアリッサ嬢は今度はこちらの問題を解決しなくてはならないのだと気付くのであった。








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