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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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集落での一幕、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 シンの部屋を出てすぐに意識を失った我輩は、女中の助けに応じたシンによって再び部屋へと戻ることになったのである。

 そこで、自分の心の問題をシンや異変に気付いてやってきた妖精パットンに話したことにより、三人の中で妙な仲間意識が芽生えたような気がしたのであった。






 「そんなに我輩が工房にいないことがおかしいことであろうか」


 雪がひらひらと舞うように降る中、そう独り言を言いながら我輩は集落を当てもなくぶらぶらと散策するのである。

 靴の跡がはっきりと残る程度に積雪を初めて体験したのか、この季節にしては少し薄めの格好をした見知らぬ子供達が、まだ何の足跡も付いていない雪場に靴跡を残しては喜んでいる姿を見て、子供は元気であるなと思いつつ、その姿を見て心なしか寒くなった気がした我輩は外套についているフードを被るのである。


 シンの部屋での出来事から数日、我輩は以前よりも部屋に篭る時間や一人で集落を散策する時間を少しだけ多く取るようにしたのである。

 それは、自分の中にある感情とゆっくり向かい合おうという考えもあり、そして以前クリス治療師から日の光を浴びて外を歩くのは心の健康にも良いと言われたからであったのであるが、思いのほか様々な面々から心配をされているのである。


 ダンやサーシャ嬢といった身近な者達は当然として、屋敷の使用人や我輩の人となりを知っている集落の者達まで、一人で集落を散策している我輩を見て心配になって屋敷にいるシンや妖精パットン、何故か治療院のクリス治療師に我輩は大丈夫なのかと尋ねているようなのである。


 その度にシンやクリス治療師が問題ない、大丈夫だとフォローを入れているようなのであるが、そんなに気になるのであれば我輩に直に尋ねれば良いのにと思うのである。


 「薬師さまー!」

 「薬師さまー! あっ!」


 そんなことを思っていると、我輩を呼ぶ声がするのでそちらを見ると、見覚えのある子供達が我輩を呼びながら駆け寄って来るのである。

 一人雪に足を取られ転んだのであるが、すぐに立ち上がると足を気にするようなそぶりを見せたのであるが、すぐに何事もなかったようにこちらにやってくるのである。


 「大丈夫であるか?」

 「うん! だい……いたた……」

 「見せてみるのである」


 何ともないと言う感じで、我輩の質問に対して軽く跳ねて見せた子供であったが、やはり転んだ時にどこか痛めたようである。

 なので、子供の痛がっている箇所を見てみると、軽く擦りむいてしまい血が少し滲んでいたのである。


 「これくらい大丈夫だよ!」

 「そうであるな。これくらいであれば問題はなさそうであるが、痛いよりは痛くない方が良いのである」


 この子供は女児でもあるので、足に傷の跡が残ったりするのも忍びないのである。


 そう思った我輩は外套内部から小さな薬瓶を取り出し、中に入っている軟膏状の傷薬を怪我をしている部分に塗るのである。


 「あ! って、もう痛くない…………」


 一瞬痛みを感じて顔をしかめた女児であったが、すぐに傷が回復したので呆気に取られた表情を浮かべるのである。


 「錬金術の薬による副作用で傷が治るまでの間は強く染みるのであるが、傷もすぐに治るようなものであったので、もう痛みはない筈のである」


 我輩の説明に、子供達は女児の既に回復して傷がなくなっている足と我輩の顔を交互に見て、まるで魔法でも見たかのように目を輝かせるのである。


 「薬師さますごーい!」

 「薬師さまのお薬すごーい!」

 「だから我輩は薬師ではないのである」


 集落の大人たちは我輩をようやく術士と呼ぶようになったのであるが、子供達はいまだに薬師呼びである。

 おかげで、新しく集落に入った者達の間で我輩はダン達と共にこの集落の発展に寄与した人物の一人ではあるが、その素性が何なのかわからない少々近寄りづらい存在になっているらしいのである。


 まあ、子供達にはあまりそういうことは関係ないようなのであるが。


 「サーシャちゃんのお薬も凄いよ!」

 「そうだよ! だってサーシャちゃんは、薬師さまのお弟子さんなんだよ!」

 「そっか! じゃあ、サーシャちゃんのお薬も凄いね!」


 話はいつのまにかサーシャ嬢の事になっているのである。

 皆がサーシャ嬢を話す様子から、しっかりとサーシャ嬢は集落の子供と有効な関係を築けているようである。

 最近は我輩が作業を行えなくなったことでサーシャ嬢が以前よりも外に出ることが少なくなってしまっていたので多少気にしていたのであるが、どうやら大丈夫そうである。


 「それはそうと、我輩に何か用事であるか?」

 「あ、そうだ! 忘れてた!!」


 我輩の言葉を聞き、先程までサーシャ嬢の話で盛り上がっていた子供達は、我輩に一つの人形を差し出すのである。

 それは、色とりどりの布をつぎはぎして作られた男性を模した人形であったのである。


 「これは人形であるな。これを我輩に?」


 我輩の言葉に、子供達は明るい笑顔を浮かべながら大きく頷くのである。


 「うん! これは薬師さまだよ!」

 「皆で布を少しずつ出し合って、お人形作りが一番上手なフィニーちゃんに作ってもらったの!」

 「薬師さまが、またお薬作れますようにってお願いしながら作ったんだよ」


 子供達の心遣いに感謝し、我輩は手製の人形を受け取ろうとしたところであることに気付くのである。


 「そう言えば、何故我輩が薬を作れなくなったことを知っているのであるか?」


 我輩の質問に子供たちは元気よく、


 「デルクお兄ちゃんから聞いたよ!」


 と答えたのであった。






 「え? 教えちゃいけない事だった?」


 子供たちから人形を受け取り屋敷に戻った我輩は、デルク坊がいるであろう中庭に向かったのである。

 予想通り中庭ではデルク坊が、ドランやダンとともに体を動かしているのが確認できたため、我輩はデルク坊にその事を質問したのであるが、答えは先ほどの通りあっけらかんとしたものであったのである。


 「最近おっちゃんが集落の中を歩き回っているから、何があったのか聞かれたから答えたんだけど、ダメだったの?」

 「いや、駄目という訳ではないのであるが子供たちが事情を知っていたので多少驚いただけである」

 「それなら良かったけど。おっちゃんの事を知っている子達がさ、最近おっちゃんが集落のあちこちをフラフラしてるから大丈夫なのかって心配してたんだよ」

 「であれば、デルク坊に事情を聞かずに直に話しかければよかったと思うのであるが」

 「皆、おっちゃんが本当に偉い薬師様だと思っちゃったみたいで、なかなか話しかけづらいみたいだよ」


 以前は小さな一軒家に住んでいた我輩であるが、今では貴族の屋敷の客人として住んでいる状況になり、さらにほとんど工房に籠りきりになってしまったことで、子供たちが近寄りづらくなってしまったらしいのである。

 以前のような、出歩けば必ずと言ってよいほどついて回られるほどに慕われていたのは少々面倒に思ったことがあったのであるが、近寄りづらくなってしまったと言われるとそれは寂しい気もするのである。


 「やはり閉じこもってばかりというのは良くないのであるな」

 「良いんじゃない? おっちゃんと話したり遊んだりしたいって人は結構多いみたいだから」


 そう言ってデルク坊は我輩の言葉に同意するのであるが、すぐに何かを思いついたように首を横に振るのである。


 「あ、でも、おっちゃんがたくさん出歩くとその分面倒ごとが起きそうだから、アリッサ姉ちゃんとかからしたら閉じこもっててもらいたいかもしれないなぁ」


 そんなデルク坊の言葉に、ダンとドランも同意の意を示すのである。


 「それはそうだな。センセイは歩く火種だからな」

 「火種っていうか、嵐じゃないっすかね」」

 「あはははははは!」


 そう我輩を小馬鹿にして楽しそうに笑う三人の姿を見て我輩は、工房に戻ったらプロトンを運用して何か新しい薬か錬金料理でも作り、その試験に巻き込もうと心に誓うのであった。

 


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