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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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集落での日々である


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である






 首長の家で歓待を受けた夜から早いもので一週間が経とうとしているのである。

 本来、2・3日ほど居たら戻る予定でいたのであるが


 「薬師様!家の子が魔力を感じられるようになったのです!魔法を使えるように教えて頂けますか!?」

 「薬師様!燻すと蛇や蜥蜴などが近寄って来なくなる種類の草があると以前仰ってました。家の敷地に蛇がやって来て、鳥の卵を食べていってしまうのです!この辺りに生えていないか探してもらえませんか!」

 「薬師さま!弟の体が昨日から熱いんだ、熱に効く薬草をおしえてください!」

 「やくしさま、あたし、やくしさまのおよめさんになってあげる!」

 「あ、ずるい!あたしもおよめさんになるの!」

 「薬師様~、薬師様~。ありがたや~」


 いく先々でこのようなことがあり、それの対応していたら、ずるずると滞在期間が延びてしまったのである。


 「大人気だな、薬師様」

 「引く手あまただねぇ、薬師様」

 「我輩は薬師ではないのである。悪ふざけはやめるのである。そもそも引く手あまたなのはアリッサ嬢も同じはずである」

 「あー、あはは。あれは参ったねぇ」


 そう、我輩同様、いや、それ以上にアリッサ嬢は集落の女性陣に捕まって、森近辺の食材の話をすることになったのである。

 それだけでもなかなか骨のおれることであったのだが、その話のなかで


 「森から平原に出る途中に、煮ると、とろみの出る草があってね。なかなか美味しかったんだけど、それ以上に朝起きたら肌がツヤってしたんだよ。あれも……」


 と言ってしまったのである。


 「アリッサちゃん!それ見つけたの、どの辺りなの!」

 「アリッサちゃん!どれくらい生えてたの!?」

 「朝起きたらツヤって本当かい!?」

 「お姉様!そのお肌を触らせてください!ハァハァ…」

 「え…え…?」


 その言葉を聞き、一気に目の色が変わった女性陣を見て、アリッサ嬢は思わず後ずさってしまったらしいのである。逃げ出したかったようであるが、完全に包囲されてしまい逃げることはできなかったようである。

 その後、女性陣がアリッサ嬢を囲んだ状態で何やら相談をしていたようなのであるが、最終的に


 「アリッサちゃん!幾ら払ったら採りに行って(触らせて)くれるの!!!!」 

 「え、え、えぇ!!」


 ということになってしまい、女性陣から採取依頼を出され、勢いに押されて受けてしまったのである。

 ちょうど通り掛かった若手の探検家も巻き込まれる形で依頼を頼まれ、二人で食材採取をしてきたようである。


 「いやぁ、女性の恐さを見たね。あたしは」

 「アリッサ嬢も女性である」

 「そう言ってくれるのはありがたいね、センセイ。さぁ、ご飯でも作ってこようかな」


 そういって、アリッサ嬢は台所のほうへ移動したのである。


 「センセイ、集落にはもう少しいる感じか?」


 アリッサ嬢を見送った我輩達であったが、ダンが尋ねごとをしてきたので、正直に答えることにするのである。


 「本当はそろそろ出たいところではあるのであるが、もう少し集落の者の要望が落ち着いてからにしようと思うのである。釜もあるので、時間はかかるが錬金術の研究もできるのである」

 「センセイも、なんだかんだでお人よしだな」

 「陛下との約束でもあるのである」

 「あぁ、なるほど」


 陛下と決めた錬金術の理念[助けを求める者の思いを叶える力として行使される]である。

 たとえ、それが錬金術でなかったとしても、我輩にできることであるならば極力助けになろうと思うのは、我輩の錬金術師としての矜持なのである。

 我輩の考えが伝わっているのか、ダンは我輩の言葉に静かに頷くのである。

 

 「じゃあ、センセイが森の家に戻るのはもう少しかかるかもしれないな」

 「そうかもしれないのである。ついでなので、このあたりの素材や食材の植生・効果などをアリッサ嬢とまとめ、首長に渡そうと思うのである」

 「センセイがいなくても、自分たちで探したり採取依頼が出せるようにか」


 それもあるのであるが、人との応対で研究が進まないのが嫌なのが本音なのであるが、そこは黙っておくのである。


 「そうであるな。なので、おそらく後2週間前後はここに残る予定である」 

 「そうか。それなら一度俺は帝都に戻るわ」


 そう言って、翌日ダンは帝都に出発していったのである。






 ダンがいなくなり、我輩は素材の研究をしようと思うのである。

 素材の研究、といってもやることは素材を投入、特定の構成魔力を操作、反応を見ておおよその量を調べる。である。

 今回の調査魔力は【回復】【解熱】【虫忌避】【獣忌避】【蜥蜴忌避】【解毒】【疲労改善】である。

 構成魔力を感じることができれば、釜に投入して分解したらすぐに含有具合が分かるのであるが、わからない我輩には、一つずつ反応を確認する方法しか取れないので、時間のかかる作業なのである。


 「センセイ、出来たら食材の構成魔力も調べてよ」

 「各味の構成魔力であるか」

 「そう。構成魔力がわかれば、だいたい何の味になるか分かるじゃない」


 今日の朝食時、我輩が構成魔力の調査をすることを知ったアリッサ嬢が、椅子にもたれ掛かってそう訴えてきたのである。集落の女性陣の新しい食材を使った料理熱は加速しているようで、毎日集まっては様々な料理を作って試食しているようである。


 「とはいえ、結局本当にその味になるのかと、確認のため料理をすることには変わらないと思うのである」

 「……だよねぇ」


 そう言って机に突っ伏すアリッサ嬢。よく見ると以前より丸く、愛らしくなったであろうか。


 「そういえば、アリッサ嬢。集落に来る前に比べ些か……」

 「……センセイ?それ以上言うのは相応の覚悟が必要だよ」

 「……わかったのである」


 気になった我輩は確認しようと試みたのであるが、アリッサ嬢から何とも言えない異様な空気を感じ、我輩はそれ以上その話題に触れないようにしたのである。


 「あれ?どうしたんだいアリッサ?元気がないじゃないか」


 ちょうどそこを妖精パットンが通りかかったので、我輩はことのなり行きを説明したのである。


 「あはは、なるほどね。でも、確かにアリッサは会った時に比べるとふくよかになったよね」


 その言葉に、アリッサ嬢は即座に反応するのである。次の瞬間には妖精パットンを両手で逃がさないように捕らえていたのである。


 「パットン……地獄を見たいようだね」

 「え?え?ボクはアリッサに太ったとかそんなこと言ってないじゃないか!女性らしくなったって……」

 「問答無用、酢地獄かくてーーーーい」

 「なんでさあああぁぁぁぁ!!」


 妖精パットンがつい発してしまった言葉が、ちょうどアリッサ嬢にとどめを刺してしまったようで、アリッサ嬢に捕まり、酢をその口に垂らさせるという恐怖の拷問を味わうことになったのである。


 我が輩は思ったのである。

 物は言い様である。そして、妖精パットン憐れなりであると。


 そんな一幕もあったのであるが、現在構成魔力の調査中である。

 釜に使用している魔法金属の質がまるで違うので、素材の分解も構成魔力の操作も時間がかかるのであるが、融合以降の作業が無いので楽といえば楽である。


 『おじさん、【解毒】あるよ。この中の……これくらい』

 「【解毒】割合2割であるか…結構効果が期待できるのである」


 我輩は、調査用に用意した紙に草の名前の欄を空けて形状、予想される効果を書き記していくのである。名前を書かないのは、地域で名前が違う場合があるからである。名も無い草の場合は後でこちらが名を付けるのである。


 『サーシャ、ありがとう。助かります』

 『えへへ……役に立ってる?』

 『勿論』


 サーシャ嬢は我輩の構成魔力調査を手伝ってくれているのである。【回復】【解毒】が、有るのか無いのかすぐに分かる。というだけで大分作業が効率化されているのである。ものすごく助かっているのである。


 「他の構成魔力は…………」


 我輩はそういって、他の構成魔力の反応を調べるべく釜中の魔力を操作していくのである。

 存在しない構成魔力や、対応していない構成魔力を想像するときは内部の構成魔力は動くことは無いので、動いた構成魔力を確認していけばよいのであるが、この時イメージが曖昧だと近い効果の構成魔力まで反応してしまうのである。

 簡単にいえば、【解毒】も【回復】も同じ回復効果である。この時、想像しているイメージが、【体を治す】という大雑把なものだと両方が反応することがあるのである。逆に大雑把過ぎて反応しない場合もあるのである。

 なので、理論的には細分化すればするほど具体的な構成魔力が分かるのである。そのぶん、より詳細なイメージや集中が必要になってくるのであるが


 『おじさん!中!』

 『どうかしました……あぁ』


 我輩はサーシャ嬢の声を聞き、釜中を確認するのである。油断していつもの癖で融合作業をしてしまったのである。これで、この中の構成魔力の比率が分からなくなってしまったのである。

 一度、魔力を全て放出して、新たに素材を投入するのである。


 「おじさん、きを…ちゅけてね」

 『サーシャ、“ちゅ“ではなく“つ“である』

 『分かってる!発音難しいの!』


 現在我輩達は妖精パットンの意思疎通の魔法無しで会話しているのである。

 妖精パットンは、兄君がアリッサ嬢や時間の空いた探検家、そして集落の女性陣と一緒に食材探しにでかけたのである。危機管理はどうなっているのであろうかと首長に聞いたところ


 「こんな辺境の地じゃ、女だって少しは戦えないとやってけねぇからな、中央の連中よりできるぜ」

 「がさつだって言いたいのかしら?あなた?」

 「違う違う、頼りになるいい女が多いっていう話だよ」

 「ものは言いようですね」

 「本当だって、俺はお前のような優しくいだけじゃなくて強い女が好きだぜ」

 「あらあら、私もあなたのように頼りがいのある強い男性が好きですよ」


 途中で話が変な方向に変わっていったのであるが、どうやら辺境の女性は強いようである。

 そんな訳で、現在は二人で調査作業中なのである。


 『おじさん、【回復】あるよ。……これくらい』

 「おぉ、含有割合5割であるか。我輩が調査したときよりも多めであるな。我輩の調査が粗かったのか、土地柄による品質の違いなのかなのか、できれば別の場所での調査が必要であるな」 


 手引き書には素材の構成魔力割合までは書いてなかったので、以前研究所で調査したときは。5割弱くらいの含有量であったのである。

 土地柄で品質の差異は確認されているので、おそらくここの薬草は他の場所よりさらに品質が良いと思うのであるが、他を調べていないので我輩の魔力操作による差異も否定できないのである。

 別の場所の同じ位の品質の薬草を分解して構成魔力を調べてみれば、地域差がわかると思うのであるが…………それには…………


 『おじさん!』

 「!?…………またやってしまったのである…………」


 考え事をしながら作業はしてはいけないと、サーシャ嬢からこっぴどく怒られながら我が輩は改めて思ったのである。






 集落を歩いていたときのことである


 「サーシャちゃん、おままごとして遊ぼう!」

 「おままごとしてあそぼう」

 「うん、良いよ!」


 サーシャ嬢も集落の子供と馴染んでいるようである。


 「デルク君、私、お菓子作ったの。よかったら食べてもらえる?」

 「え、いいの?ありがとう!…………ちょうど良い甘さで、うまいね!おねえさん、お菓子作り上手なんだな!」

 「あぅ……誉めてくれてありがとう……」

 「デルク君!あたしのも食べて!」

 「私、幾つかの果物を絞った飲み物を作ってみたの!飲んでみて!」

 「デルク君!」

 「デルきゅん!」


 兄君は、何やら成人になったばかりか、そろそろ時期を迎える女子に人気であるな。

 人間の成人は14であるので、見た目的には年上の女性に人気である。

 だが、二人とも実年齢は何倍も上である。そう思うと何やらおかしな気分になるのである。

 ふと兄君の周囲を見ていると女子と同年代の男子達が羨ましそうに見ているのである。


 「うふふ、年頃だねぇ」

 「そうなのであるか?」

 「まぁ、デルっちはなかなかの美形だからね。こういうところに来ればモテるよ」


 二人を見ている我輩に気づいたアリッサ嬢が我輩に声をかけてくるのである。

 兄君は、美形であるか。我輩は美醜は気にしないのでよく分からないが、帝国淑女であるアリッサ嬢が言うのだから、きっとそうなのであろう。


 「そういうものが出ると男子のやっかみがあると聞いたことがあるのであるが、兄君は、大丈夫であろうか?」

 「まぁ、デルっちはあんな感じだし、一時的なものでしょ。どちらかというと、愛玩動物に餌をやる感じだろうしね」


 アリッサ嬢の言葉を聞いて、我が輩は再度兄君の方を見る。

 確かに、美味しそうに、もらった菓子や飲み物を頬張っている兄君の姿を見て、女子達は喜んでいるようにも見えるのである。


 「食べ過ぎて太らないように、時間があったら運動に付き合わせてやろうかな」

 『デルクのことを心配するより自分の心配をした方がいいんじゃないのかい?アリッサ』


 何処からともなく、妖精パットンの声が届いてきたのである。少し前に酢地獄を受けたばかりなのに懲りないやつである。

 寧ろ、あからさまに喧嘩を売っている気がするのである。


 「パットン…………今は手出しができないと思って好き勝手言ってくれるねぇ…………後で覚えておくんだね」

 『ひぅっ!』


 ダンといい妖精パットンといい、自分の首を絞めるバカが多いのである。


 「私、およめさん役!」

 「私もおよめさん役!」

 「サーシャちゃんもおよめさん役やろう?」

 「いいけど、皆お嫁さんなの?」

 「偉い人は、お嫁さんいっぱい貰っていいんだよ!」

 「そうだよ、一人でも、たくさんでもいいんだよ!」


 確かに、一夫多妻や一妻多夫は認められているのであるが、繋がりを持とうと数多くの縁談がやって来るから面倒なのと、妻同士の人間関係も気にしないといけないから大変だと陛下は仰っていことがあったのである。

 陛下は正妻側室合わせて3人妻に迎えたのであるが、これでもギリギリまで減らしたようである。陛下自身は正妻一人で十分だったようである。

 力や権力の象徴ではあるが、その分の苦労があるのであるなぁ。と、その時思ったものである。


 そのような事を思っていると、サーシャ嬢達が、女子に囲まれている兄君に気づいたのである。


 「あ!お兄ちゃん!」


 兄君は、女子達を引き連れてサーシャ嬢の下へ行くのである。

 「どうしたんだ?サーシャ」

 「お兄ちゃんも一緒におままごとしようよ!」

 「えぇ!……おままごとかぁ……まぁ、たまにはいいか。で、おれは誰をやればいいの?」

 「薬師様!」

 「おじさん!」

 「おっちゃん?いいけど、皆は?」

 「「「およめさん!」」」


 その言葉に兄君の周りにいた女子達も敏感に反応するのである。


 「じゃあ、私たちも混ざっていい?皆でお嫁さん役やろう?」

 「うん!」


 ……………………あれは……我輩の嫁役だったのであるか………………

 兄君扮する、我輩に対し十数人の嫁である。異様すぎる光景である。子供の遊びとはいえ、我輩はどこの貴族なのであろうか。


 「くっふふふ…………よかったねぇ、センセイ。モッテモテじゃない」

 『あははははははは!錬金術師アーノルド、将来は安心だね』

 「おお!薬師様、選り取り見取りだな!はっはっは!」

 「全員選んでも宜しいのですよ?」


 なぜか、途中から見ていた首長と奥方まで我輩をからかってくるのであった。






 「薬師様ーおかえりなさい」

 「あなた、ご飯にしますか?」

 「あなた、おふろにしますか?」

 「薬師様、今日は私と一緒にお休みしましょう」

 「あなた、今日はお勉強しましょう!」


 猫を可愛がるかのように愛でられ、戸惑っている兄君を見て、さらに、こちらをニヤニヤ見ているアリッサ嬢と首長の視線を浴び、我輩は無性に疲れたのであった。


 しかし、ダンがいなくて本当に良かったのである。あやつがいたら、これどころではすまなかったのである。

 帝都であるか……研究所に未練は無いのであるが、ウォレスやリリー嬢にはまた会いたいものである。


 「「「薬師さまぁ❤」」」

 「え?え?えぇ!?」


 ハーレムのようになっている兄君を横目に我輩はそう思ったのであった。




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