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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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こういう関係も良いものなのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 アリッサ嬢との深夜の会話をした翌日、ダンが良く分からない絡みをしてきたのである。

 そちらは非常に不愉快であったのであるが、感謝の印としての贈り物に対しての助言は助かったのである。

 ただ、サーシャ嬢とミレイ女史には気付かれないようにと言っていたのにもかかわらず、本人の詰めの甘さで即時に二人の知ることになってしまったのである。

 何とか二人にも贈り物をする約束をしたことで、追及を躱すことは出来たのであるが、出だしから躓いたのは参ったのである。






 集落の至る所に雪が積もる季節が訪れたのである。

 大分寒さが厳しくなってくるこの季節であるが、陽の光が強く差す今のような天気だと、見た目の明るさも相まって感じる温度が実際よりも高く感じるのである。


 なので、この時間帯になると家から飛び出した子供たちが、元気に遊びまわっている姿が見受けられるのである。


 我輩もこの陽気に当てられたのか、自然に外に出てこの暖かさを満喫するのである。


 そうして集落内を一人散策していると、仲睦まじく歩いている一組の男女を見かけるのである。

 別に話しかける用事もなかったし、邪魔をしてはいけないと通り過ぎようとしたのであるが、向こうがこちらに気付くとやってくるのである。


 「珍しいっすね。旦那が自分から外に出るなんて」

 「ずっと工房で書を見ているだけというのにも飽きたのである。たまには外に出てみるのもよいものである」


 我輩に話しかけてきた、熊のような大男への返答を聞いて、隣にいる小柄な女性が嬉しそうな顔を見せるのである。

 

 「それは素晴らしいです。外で日を浴びるというのは体にも心にも良いのですよ。これからも継続してくださいね」


 心にも良いという事は、つまり【意思】の構成魔力にいい影響がある可能性があるという事である。

 それは、試してみる価値はあるかもしれないのである。


 「良いことを聞いたのである。では、できるだけそうするのである」

 「あ、こりゃやらないっすわ」

 「ドランよ。ダンのような返しをするのは止めるのである」

 「はっはっは! 悪いっすね旦那」


 我輩の抗議を受けた大男、ドランは大きく笑いながら我輩に謝罪をするのである。


 我輩の周辺には、我輩の抗議を意に介さない人物が多すぎである。

 もう少し、抗議を真摯に受け止める者はいないのであろうか。 


 「ドランちゃん、そういう意地悪は言っちゃだめなんだよ」

 「旦那はそんな小さいことを気にするような人間じゃねえよ、クリス姉」

 「ドランちゃん、夫婦になるんだからクリス姉はもう止めてって言ったでしょ!」

 「うぉっと!?」


 ドランの言葉に気を悪くした小さな女性、クリス治療師はドランに一撃を喰らわそうとしたのであるが、ギリギリのところでドランはその攻撃を止めるのである。


 「すぐに手を出すのはやめてくれよ……」

 「だって…………夫婦になるんだよ? なのに、いつまでも姉弟みたいなんて……」

 「いや、そういうわけじゃなくてだな……」


 ドランはそう言うと、ふとこちらを見るのである。

 すると、何かを思いついたのか我輩に話しかけてくるのである。


 「旦那もサーシャ先生やミレイのところを名前だけで呼べって言われたらすぐには呼べないっすよね」

 「そうであるな。今までの呼び方に慣れてしまっているので、違う呼び方にすると違和感を感じるとは思うのである」

 「ほら! 旦那だってそう言ってるしな。おかしいことじゃ……」


 ドランが我輩の言葉を聞いて我が意を得たような様子を見せるのであるが、話は終わっていないのである。

 

 「人の話は最後まで聞くのである。だが、サーシャ嬢やミレイ女史から名前だけで呼ぶようにと言われ、その必要を我輩が感じたのであるならば呼び方を変えるのは吝かではないのである」

 「…………あぁ……そうっすかぁ……」

 「ほら、アーノルド様もそうおっしゃってるよ」


 最後まで話を聞いたドランは先程と反対の反応を見せ、クリス治療師は心なしか機嫌がが良くなったように見えるのである。


 確かに名前の呼び方というのは親密具合を図る指針になるのであるが、固執するほどに重要なものなのであろうか。

 我輩から見ても、最近のドランは以前に比べクリス治療師に親愛を抱いているように見えるのであるが、それでは物足りないのであろうか。


 それともそれ故、なのであろうか。

 人の心は難しいのである。


 そのようなことを考えていると、ふと気になったことがあったので、それをクリス治療師に尋ねてみることにしたのである。


 「クリス治療師に質問があるのであるが」

 「なんですか?」


 ドランの腕を上下に振りながら、自分の名を呼ぶ事をせがむクリス治療師は、その動きを止めてこちらを見るのである。

 その表情は機嫌が良さそうであったが、少々残念そうにも見えるのである。

 ちなみに、その後ろではドランが助かったといった様子を見せているのである。


 「クリス治療師は、いつになったらドランを名前のみで呼ぶようになるのであるか?」

 「へ……?」

 

 我輩の質問を聞いたクリス治療師は、先程までの上機嫌の表情が一気に凍りつくのである。

 なにか、聞いてはいけないことを聞いてしまったのであろうか。

 ただ、ここまで言ってしまったので、我輩は最後まで疑問をぶつけることにするのである。


 「クリス治療師はドランに、夫婦になるのだから名の後に "姉" をつけることをやめるように言っているのである。ならば、クリス治療師もドランの名の後に "ちゃん" と、子供扱いするような言葉を外して呼ぶのが当然だと思うのであるが」


 我輩の中では、相手に何かしてもらいたいのであるならば、己が先んじて行動を起こすのが本筋なのだと思うのである。

 なので、その事をクリス治療師に伝えるのであるが、クリス治療師は何とも歯切れの悪い反応を示すのである。


 「どうしたのであるか? もしかしてクリス治療師はドランを名前だけで呼ぶのが恥ずかしいのであろうか」

 「そ、そ、そんなことはありましぇん!!!! 言えますよぉ!!!」


 我輩の言葉にまるで襲い掛からんばかりの勢いでそう答えたクリス治療師は、ドランを呼ぼうとするのであるが、全く言葉にならないのである。


 「クリス治療師、無理はするものではないのである」

 「無理じゃない! 無理じゃないですぅぅぅ!!」

 「クリス治療師が呼び方を変えるのが恥ずかしいように、ドランも同じだと思われるのである。なので…………」

 「旦那」


 話を続けようとした我輩を止めるように、ドランが視界に割って入るのである。


 「なんであるかドラン。話の途中であるが」

 「旦那。……嫁…………クリスを、あまりいじめないでやってください」


 頭を掻いたり叩いたりながら、ドランは我輩にそう言うのである。

 

 「誤解があるのである。我輩は別に意図はないのであるが」

 「そうっすね」


 ドランは頭を掻いたり叩いたりしながらそう答えるのである。

 何か、自分の中の気持ちを整理しているように見えるのである。


 「今回の事は、俺が恥ずかしがって拒否してたのが悪いってだけですから」

 「ううん。ドランち…………ド……ラ……ンが、恥ずかしがってるの知ってて無理やり言わせようとした私が悪かったの」


 先程、ドランが呼び方を変えていたのに気づいたのか、クリス治療師も呼び方を変えているのであるが、サラッと言ってのけたドランとは対照的でものすごくぎこちないのである。


 「あー……頑張ってくれたところ悪いけど、俺、今までの呼び方のほうが好きだわ」

 「……私も……前のほうが好き……」


 そう言うと、二人とも照れたように笑うのである。

 仲睦まじいことは良いことである


 「じゃあ、無理に呼び名を変更する必要はないのであるな」

 「そうっすね」


 我輩の言葉に、困ったような笑いを浮かべたドランはそのまま頭を軽く下げるのである。


 「なんか、巻き込んじまってすんませんでした」

 「あの……二人の事でご迷惑をおかけしました……」


 それに合わせクリス治療師も頭を下げてくるのであるが、ドランと対照的に深々と下げるのである。

 少々、事柄の軽さに対しての謝罪姿勢が大きすぎる気がするのである。

 

 「気にすることはないのである。問題が円満に解決できたことが重要である。では、我輩はこれで」

 「ちょっと待ってください。あまりない機会ですから、ご一緒にお茶でもどうですか?」

 「こうやって、外で話すのなんて初めてっすからね。どうっすか旦那」

 「確かにそうであるな。特にやることもないので良いのである」


 クリス治療師とドランの申し出を受け、我輩は二人としばしの歓談を楽しむのであった。






 時には意見が違い衝突もするが、互いに尊敬しあい支えあう。

 ゴードン夫妻や二人を見ていると、そういう者と一生を共にするというのも人生の選択肢として良いのかもしれないのであるなと、少しではあるが思うのである。


 これもきっと、研究に明け暮れていた生活から少し離れたことの影響の一つなのかもしれないのであるな。


 そう思いながら、 "卵包みの仕上がりはトロトロが良いか、ふんわりが良いか" という、どうでも良いことで再び喧嘩になりかかっている二人を眺めるのであった。






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