表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
256/303

一夜明けた工房にて、である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 我輩への負い目を感じたことで立ち止まりかけてしまった二人に、我輩の治療薬の作製を依頼したことで、二人は前に再び進みだしたのである。

 しかし、今度は反対に我輩が二人に取った行動に対して負い目を感じてしまったのである。

 だが、それは我輩の覚悟が足りていなかった故であったのである。

 その事を示してくれたアリッサ嬢に感謝しつつ、我輩は部屋の掃除は女中に任せたほうが良いと思うのであった。





 「お、センセイ」


 工房にやってきたダンが、我輩を発見すると何とも小馬鹿にしたような笑みを浮かべながらこちらに近づくのである。


 「なんであるか」

 「ん? センセイよぉ。昨日はお楽しみでしたか?」

 「会って早々、貴様は一体何の話をしているのであるか」

 「何って、ナニの話だよ」

 「意味が分からないのである」


 ダンは、サーシャ嬢とミレイ女史が作業に集中しているのを確認すると、我輩にだけ聞こえるように口元に手を添えながら話しかけてくるのである。

 そんな周りを気にするという事は、他言無用な重要な事でもあるのであろうか。


 我輩はダンに耳を傾けることにしたのである。


 「……昨日はアリッサと、夜中ここで密会してたんだろ? やるねえ」

 「密会……? ああ、アリッサ嬢が我輩を気にかけて後をつけてきたのである」

 「声が出けえよ、もう少し抑えろって。……それでそれで?」


 しかし、ダンが訪ねてきたことは、別に聞かれても問題のないような他愛のない会話であったのである。

 なので、普通に返答をするのであるが、何故かダンに声の大きさを注意されるのである。

 さらに、妙に食いついてくるダンに若干の気持ち悪さを感じながら、我輩は昨夜の出来事をダンに報告するのである。


 「……というわけである」

 「……は? それだけ?」

 「それだけである」

 「……マジか…………」


 ダンは、信じられないといった表情を浮かべて我輩を見るのである。

 この男は一体何を期待していたのであろうか。

 

 「深夜に男と女が密会して、話だけして終わるって……。ありえねえだろ…………」

 「何があり得ないのか、我輩には全く理解できないのである。というよりも、貴様はなぜ我輩とアリッサ嬢が会っていたことを知っているのであるか」


 我輩の質問に、ダンはこれ以上にないほどの自慢顔を見せるのである。


 「そりゃあ、センセイとアリッサの気配を感知したからに決まってんだろ。俺の気配察知能力をなめんなよ」


 そう言って得意満面の顔を見せるのであるが、そんなところで能力の自慢をすることにこの男はむなしさを感じないのであろうか。

 こういう下らないことに力を入れるくらいであるならば、その力をもっと別の事に生かすべきなのである。

 まぁ、雪が降り始めだしたこの辺りでは、探検家としての活動を行うことが少々難しくなってくるので力を持て余しているという事なのかもしれないのであるが。


 「それで、貴様はそんなことを聞くためにここに来たのであるか」

 「そんな事ってなんだよ。センセイがお子様から男になったのかっていうのは気になるところじゃねえか」

 「我輩は何年も前からすでに成人しているのであるが」

 「そういう事じゃないんだよなぁ~~~。わっかんねぇかなぁ~~~」


 小馬鹿にしたような大袈裟な態度で、ダンは我輩に何かを訴えようとしているのであるが全く見当もつかないのである。

 ダンは一体何の話をしているのであろうか。


 「まぁ、センセイもアリッサもお子様って事か。残念だ」

 「であるから……」

 「と、言う冗談は置いていて、どうやら吹っ切れたみたいだな」


 と、突然ダンは先程までの不快さの混ざった笑顔ではなく、好青年然とした表情を浮かべるのである。


 「ここ最近のセンセイだったら、反応が鈍そうで冗談も言えなかったからな。元に戻ったようで良かったぜ」

 「評価基準には思うところがあるのであるが、ダンにも心配をかけたみたいであるな」

 「まあな。センセイの変化に気付いてたのは俺達だけだったしな。だから、あの時アリッサが行かなかったら俺かシンがセンセイの所に向かっただろうな」


 どうやら、昨夜我輩が深夜工房へと向かっていったのは、ダンだけではなくシンも気が付いていたようである。

 さすがは最高クラスの探検家といったところなのであろうか。


 「まぁ、俺やシンよりも早く動けてアリッサには好都合だったな」

 「何の話であるか」

 「あ? 大きなお子様には分かんねえ話だよ」

 「先程から人を子供扱いして、非常に不愉快である」

 「くふふっ……悪い悪い」


 我輩の抗議を受け、ダンは手を合わせて謝罪をするのであるが、顔が笑っているので全然説得力が無いのである。

 何かしらの試験に巻き込まれる心配が無いと思っているのか、だいぶ調子に乗っているのである。

 いずれ、錬金術を再開できるようになったら目に物を見せてくれるのである。


 「ま、何にせよアリッサに感謝しとけよ」

 「当然である。アリッサ嬢には感謝しているのである」

 「そうかいそうかい。だったら東方都市に行った時にでも、贈り物の一つでも買ってやれよ。多分喜ぶぜ」

 「ここではダメなのであるか」

 「まあ、良いと思えるものがあればここでも良いけどよ。探す候補は多い方がいいだろうが」

 「なるほど。では、ここで探してみて良い物が無かったら、東方都市で探して見るのである」


 我輩一人ではどうしたら良いのか分からなかったので、後ほどミレイ女史やサーシャ嬢に尋ねてみようと思っていたので、ダンがこういう話を振ってくれるのは非常に助かるのである。


 「あと良いか? ミレイや嬢ちゃんと一緒に探すなよ。できるだけ二人にばれないようにしろ。もしもばれたら理由はごまかせ。……いや、センセイはそういうのが下手だから、やっぱばれないようにしろ」

 「そうなのであるか? 一緒に探すのは問題なのであろうか」


 我輩の言葉を聞いたダンは、顔を手で覆い天を仰ぐのである。


 「何でセンセイは、こういう所だけ馬鹿みたいに察しが悪いんだよ……。いいか? 今回センセイがおかしくなった原因は……」


 こうして、我輩はダンから我輩が一人でアリッサ嬢への贈り物を探さなければならない理由や、その他贈り物を選ぶ際の注意点などを教授されることになるのであった。






 「……と、まぁ、こんな感じだ。大丈夫か?」

 「要点はある程度把握したのである」

 「そうかい。じゃあ、後は実践だな。ま、頑張れよ」


 ダンはそう言うと我輩のもとを離れ、手をひらひらさせながら工房を後にするのである。


 どうでもよい話も多かったのであるが、自分が知らぬ事を教えてもらった事には感謝するのである。


 まあ、あまり活用するような場面があるとは思えないのであるが。


 「ねえ、おじさん」


 ダンもいなくなったので、読みかけの書でも読もうとしていた我輩であったが、そこにサーシャ嬢が声をかけてくるのである。

 そちらを見ると、ミレイ女史も一緒である。


 「二人とも休憩であるか」

 「うん。もう少しでご飯だから少し早いけどお休みにしたんだ」

 「そうであるか」

 「ねえ、おじさん。アリッサおねえちゃんに何か贈り物するの?」


 唐突の質問を受け、我輩は二人を見るのである。


 「なんでそう思ったのであるか」

 「思うも何も……隊長が大きな声でそのような話をなさっていたではないですか」


 我輩の答えに、ミレイ女史が苦笑いを浮かべるのである。


 ダンの詰めが甘いことで、二人にこの事を隠すという計画が第一歩から躓くのである。

 なので次の策、 "別の理由でごまかす" を決行するのである。


 「そうであるな。日頃の感謝を込めて、何か贈ってみようかと思ったのである。なので、アリッサ嬢には黙っていてほしいのである」


 こう言えば何とかなるとダンは言っていたのであるが、二人の表情は少々微妙な感じに見えるのである。


 「どうしたのであるか」

 「……アリッサおねえちゃんだけなの?」

 「日頃の感謝……。私達にはないのですか?」


 これは……二人はどうやら、アリッサ嬢のみに贈り物をするという事を快く思っていない可能性があるのである。


 「二人はこの前一緒に散策に出たので……」

 「あれは日頃の感謝での行動なのですか?」

 「……いや、違うのである」

 「おじさん、何か怪しい…………」


 サーシャ嬢がそう言うと、二人して我輩のすぐそばにやってきて、そして我輩の目をじっと見つめるのである。

 まるで、嘘は見逃さないぞと言わんばかりである。


 「何も怪しいことはないのである」

 「本当ですか?」

 「本当である」

 「嘘ついてない?」

 「ついていないのである。それよりも、近いのである」


 抗議も虚しく、二人はさらに近づくのである。

 我輩の視界にはもう二人の顔しか映らないのである。


 「では、私達にも何か贈っていただけますね?」

 「なぜ、そういう話になるのであるか」

 「日頃の感謝、ですよね?」


 これは、これ以上余計なことをすると非常に良くない気がするのである。

 そう判断した我輩は、二人にも我輩が一人で見繕った贈り物をすることを約束するのであった。


 もしかして、ダンの頑張れというのはこういう事であったのであろうか。


 違うとは思いつつ、我輩はダンに心の中で八つ当たりをするのであった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ