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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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前を見てほしいのである


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 錬金術の使用ができなくなり数日、我輩が自身が落ち着いて現状を受け入れている理由を把握しながら自身の調査を行う日々を送っていたのである

 そんなある日、帝都に献上する霊草と霊木の運搬をギルドに頼むべくギリー老に依頼をしたところ、我輩の状態を回復させる方法である薬の使用を心配されたのであった。


 さすがに、まだその方法はとらないのである。






 「結界の展開も問題ないみたいですね」

 「いや、以前よりも展開できると自分で感じる範囲が狭いのであるな。そして、魔法石の発動時に違和感を感じるのである。おそらくであるが潜在的に、現在の自分の展開限界を示唆しているのかもしれないのである」


 そう言って我輩は展開させていた結界を解除したのであるが、その言葉を聞いたミレイ女史は、調査の結果を紙に書き記すのを止め、我輩の顔を眉をひそめてじっと見るのである。


 「ミレイ女史?」

 「……申し訳ございません。私が倒れたばかりに……」

 「気にすることはないのである。その話は既に終わっているのである」

 「ですが……」


 サーシャ嬢もミレイ女史もあの時の事を大分気にしているようで、普段通りに過ごしていたと思ったら、突然このように我輩に謝りだす日々が続いているのである。

 妖精パットンやクリス治療師曰く、二人が倒れたことで我輩が一人で限界を超えた状態で錬金術を行使した結果、このような事になったことが、根深い心の傷になってしまっているようである。


 だが、当の我輩はほぼ気にしておらず、むしろ我輩一人で魔力暴走を起こして屋敷を吹き飛ばさずに済んだこと、無事に薬を作製できたということ関して、二人のように限界を知らない状態で魔法を行使し続けていて良かったと思っているくらいであるし、現状に関してもこれから先を見据えると、非常に良い研究の題材になると思っているくらいなのである。

 なので、我輩に謝罪をしてくる二人に対し、最近は逆に申し訳のない気分になってきてしまっているのと同時に、もっと前を向いてほしいと思うのである。


 何度謝ったところで我輩の状況は改善されないのであるし、寧ろ、事あるごとにそれを思い出して錬金術に集中できなくなるのではないかと心配になるのである。


 「ミレイ女史、ギリー老から頼まれた薬の作製状況はどうなっているのであろうか」

 「はい…………? えっと……順調です。このままですと、予定よりも少し早く依頼された分は出来上がると…………」


 我輩も工房で二人の作業を見ているので、進捗状況は当然把握しているのである。

 ミレイ女史もおそらくそう思っているので、突然の質問に驚いた表情を浮かべたものの、丁寧に質問に答えるのである。


 多分、手順としては相手の都合を聞くのが正解であったはずである。

 こういう事は慣れていないので、良く分からないのである。


 そう思いながら、我輩は次の手順を進めるのである。


 「そうであるか。ではサーシャ嬢も含めた三人で、少し集落を散策にでも出かけても良いであろうか?」

 「…………へ? ア……アーノルド様?」

 「たまには、こういうのも良いと思うのである」


 我輩は自分でもこざかしい事と思いつつ、二人のために一計を案じることにしたのである。


 しかし、自分でもわかるほど不自然な誘い方をしたものである。

 ミレイ女史も我輩からの唐突すぎる申し出に、混乱した様子をみせるのであった。


 慣れないことはするものではないのである。






 「ギルドと治療院は併設なのであるな」

 「元は別々に建設する予定だったそうですが、ギルドと治療院の話し合いで併設が決まったそうですよ」

 「この前、ギリーおじいちゃんがそう言ってたのに聞いてなかったの? しょうがないなあ、おじさんは」

 「申し訳ないのである」


 小さな子供に注意するような表情を浮かべ我輩を窘めるサーシャ嬢を見て、ミレイ女史も困ったような笑顔を浮かべるのである。


 多少の不自然さを醸し出しながらも、二人を連れだすことに成功した我輩は集落を散策して回っているのである。


 「このお薬をギルドの人に渡せばいいんだよね」

 「で、あるな」


 そんな我輩達は現在、薬の納品のためギルドに向かって歩いているのである。


 と、いうのもいつも薬の配達を担当しているダンが、我輩達が外に出かけるのを知って配達を押し付けてきたからである。

 それは別に問題ないのであるが、その時の会話の流れで我輩が二人を誘ったことを知り、ニヤニヤしながら冷やかしてきたのが非常に面倒であったし、その場でそれを聞いていたアリッサ嬢が少し機嫌が悪そうだったのが気になったのである。


 もしかして、自分が誘われなかったのが不満であったのであろうか。


 今回は、サーシャ嬢とミレイ女史の心身を案じての行動であるので、アリッサ嬢を誘う必要はないのである。

 で、あるが、今までの事を考えると、別の機会にアリッサ嬢を誘わねばいけないのであろうなと想像するのである。


 人間関係というのは色々考えだすと非常に面倒なものである。


 「しかし、あらためて見ると集落の様相がだいぶ変わっているのであるな」

 「アーノルド様は、見送りの時以外ほとんど工房に籠りきりですからね。気付かないのは致し方ないですよ」

 「そもそもこの辺りは棄てられた家屋があった人気のない場所である。我輩の中でここは集落の認識範囲から外れているのである」


 過去には大森林開発の拠点として、なかなかの人数が存在していたこの集落も過疎化が進み廃棄されて立ち入りが禁止されていた場所が多く存在しているのである。

 昨年の収穫祭前後からこの集落に居を構える者達が増えてきたため、そういった場所をその者達に開放しているのである。


 「この辺りは集落の子達と追いかけっこしたりかくれんぼして遊んでたんだよ」

 「サーシャ嬢? ここは立ち入り禁止区域であったはずであるが」

 「あ! で、でもね! 危ない建物とか少なかったから大丈夫だよ!」


 その時の事を思い出し、楽しそうな表情を浮かべていたサーシャ嬢であったが、我輩の指摘にしまったという表情を浮かべ、言い訳を始めるのである。


 「そう言う問題ではないと思うのであるが」

 「あうぅ…………」

 「まあまあ、アーノルド様。元気な子供ですから、そういう所で遊びたくなることもありますよ」


 我輩の言葉に気まずそうな表情を浮かべるサーシャ嬢を見て、ミレイ女史が助け舟を出してくるのである。


 「では、ミレイ女史もそういった経験があるのであるか」

 「いえ、私はないですよ。貴族の娘ですから。ですが、平民の子たちが外で怪我を気にせず元気に遊んでいるのを見て、羨ましいと思うことはありました」


 そう言って、当時の事を懐かしむミレイ女史の表情は、少しだけであるがどこか悲しそうな表情をしていたように見えたのである。


 おそらく、ミレイ女史も平民のように外で元気に遊び回りたかったのであろう。

 だが貴族、それも伯爵という上級貴族の令嬢という立場がそれを許さなかったのであろう。

 

 「アーノルド様はそういった経験がないのですか?」

 「我輩はそもそも外に出歩かなかったのである。家の書庫に閉じこもり、ひたすら書を読む毎日であったのである」

 「おじさんは、小さい時から学者さんだったんだ」


 サーシャ嬢の言葉に、我輩は頷きを返すのである。


 「そうであるな。我輩達は過去の文献から知識を蓄え、それを広めてるために様々な場所をめぐり、また新たな知識を得て書に記す、学者の一族であるのである」

 「アーノルド様は、中でも古代精霊語や亜人種の文化を中心に学んでいかれたのですね」

 「そうであるな。まあ、我輩はもともとそれが担当ではなかったのであるが」


 当時の事を思い出すのである。

 

 まだ幼かった我輩は、親から一つの書を渡されたのである。

 学者の一族は各々担当する知識が違い、生涯をかけてその知識を学び、広め、そして新たな知識を得て、それをまた書に記していくのである。

 だが、我輩は親から与えられた書に全く興味を示さず、まだ立ち入りを禁じられていた書庫に入り込み、そこで手にしたのが古代精霊語を翻訳した書であったのである。

 幼かった我輩は、当然ほとんどの文字は読むことも理解することもできなかったのであるが、なぜだか無性にその書に、厳密にはそこに書かれていた文字の模様の美しさに惹かれたのである。

 当然、書庫に入ったことを親に叱られたのであるが、我輩はそれからことあるごとにあの手この手で書庫に入り込んでは古代精霊語の文献を読みふけることになったのである。


 「懐かしいのであるな……」


 二人にそのことを話しながら当時の事を懐かしんでいると、二人が微妙な表情を浮かべるのである。


 「おじさんに、わたしのことを注意されたくないなぁ…………」

 「アーノルド様、人のことは言えませんね」

 「いや、我輩の行動は怪我の心配はないのである」

 「そう言う問題だったっけ?」

 「確か、いけないことはしてはいけないという話でしたよね?」

 「そうであったであろうか」


 こうして、この後二人から批難のようなからかいを受けながら、見えてきたギルドに向けて我輩は歩くのであった。






 その後、ギルドに薬を納品した我輩達は、しばらく集落を散策したのである。

 それから我輩は帰り際、二人に一つ頼みごとをしたのである。

 それを聞いた二人は、強い意志で我輩の頼みを聞き入れたように見えたのである。


 しかし、後になって思うのである。


 これで、本当に良かったのか。


 もしかしたら、我輩は二人に枷を嵌めてしまったのかではないのか、と。


 であるが、前を見て進んでほしい。


 自分勝手ではあるが、我輩はそう思うのであった。






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