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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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記憶の謎と異変。である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 獣人女性が目覚めてから数日、彼女の口から色々なことが聞けたのである。

 だが、その中で我輩は"集落を人間に襲われた"という、耳を疑う言葉を聞くのであった。





 「人間に集落を襲われた……ですか?」

 「どう考えても有り得ないねぇ。正直言ってパットンの魔法やセンセイの結界が無い限り、あたしやリーダーだってそんな深い場所まで入り込むことなんかできやしないよ」

 「そうですよね。彼女にもそう言ったのですが、信じないのかと怒鳴られてしまい……」


 ハーヴィーも彼女との関係がかなり不安定な状況で成り立っている事がわかっているので、それ以上の否定や訂正は行わなかったようである。


 「って言うことは、魔者となった人間なのかねぇ」

 「若しくは、意思の魔法か何かで記憶を改竄されているという可能性もあるかもしれないのである」

 「その辺りどうなんだ?」


 我輩の仮説を聞いたダンが妖精パットンに尋ねてみるのであるが、聞かれた本人は困ったように首を傾げているのである。


 「うーん。そこなんだけれどね、彼女の【意思】の構成魔力はまだ安定していないんだよね。だから、意思の魔法の残渣とか、そういうのがまだ分からないんだ」

 「いつ頃安定しそうなのかっていう目安はあるのか?」

 「今までこういう事に出会ったことが無いからね。正直言ってどれくらいかかるかっていうのも想像ができないなぁ」


 なんとも頼りない一言をいうのであるが、様々な要因が絡んでいるので確かに軽々しく予想を立てることはできないという気持ちもわからないではないのである。


 「結局はっきりと分かったのは、猛禽の獣人は人間に非友好的な種族で…………っぐふぅぅ!!」

 「ドランちゃん! なんでそういう事を言うの!」


 ドランの言葉に何故かクリス治療師が憤慨したらしく、腹に一撃を加えるのである。

 強烈な一撃を喰らったドランはその場に蹲るのである。

 無防備とはいえ、ドランを一撃で沈めるクリス治療師の攻撃力は毎度見ても驚きとともにどこにそんな力が湧いてくるのか興味がわくのである。


 命の危険を感じるので、調査をしようとは思わないのであるが。


 「クリスさん、気を使っていただいてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。一応その可能性もあるとは思っていましたし、それに現に僕は彼女と会話ができていますし」

 「それはボクのおかげもあるんだから、ハーヴィーはボクに感謝するべきだね」

 「そうだね。ありがとうパットン」


 ハーヴィーに礼を言われ、妖精パットンはまた得意気に宙を飛び回るのである。

 自己アピールの激しい妖精である。


 「猛禽の獣人が全て人間に対して非友好的だとは限らないしね」

 「そうですよ。人間だっていろんな考えの人がいるのですから、人間に対して友好的な方々がいてもおかしくないですよ」

 「おれ達に友好的なおっちゃんみたいな人や、そうじゃない帝国の宰相さんみたいな人とかね」

 「私たち治療院の人間は、森の民の皆様に友好的な立場ですよ……って、どうしたの?」


 ハーヴィーに対し次々に同意の言葉を述べていく中、クリス治療師が発した言葉にサーシャ嬢とデルク坊が困ったような表情を浮かべるのである。

 それを見たクリス治療師は不思議そうな表情を浮かべるのである。


 「……クリスおねえちゃんには悪いなぁと思うけれど、わたし、ちょっと苦手…………」

 「えぇ! なんでですか!?」

 「全員じゃないけどさー。治療院の人って、おれ達が森の民だってわかると目が血走ったようになるし、急に拝みだすし、ちょっと怖いよ」

 「そんなぁ……」


 二人の言葉にショックを受けたような表情をクリス治療師は浮かべるのであるが、二人の気持ちはわからないでもないのである。

 治療院に属する者たちの、森の民への思いは一種宗教的な信仰すら感じるのである。

 こんなことを言ったらクリス治療師に一撃を喰らいそうであるので、言わないのであるが。


 そんなことを思っていると、先ほどの一撃から復帰したドランが我輩の思っていたことを述べて再び一撃を受け沈む姿を見るのである。


 言わないで正解であったのである。


 「まぁ、気長に構成魔力が安定してくるのを待って、またその時調べてみるよ」

 「それしかないか」


 と、いう事で謎は残るのであるが、この事については情報が断片的である現状ではこれ以上考えていかない事に落ち着いたのであった。






 獣人女性の報告を受けて数日、我輩は待ちに待った時をようやく迎えることができたのである。


 「ようやく許可が下りたのである。プロトンもそう思うであろう?」


 我輩の声に同意するかのように、肩に乗っている紙人形のプロトンはゆらゆらと踊るのである。


 朝食の後、妖精パットンやミレイ女史から錬金術の再開許可を得ることがやっとできた我輩は、食休みも早々に、さっそく錬金術を再開するべく工房へと向かったのである。

 サーシャ嬢とミレイ女史は魔法白金の手鍋と魔法金の容器で作業を行っているので、我輩が使えるのは魔法鉄の鍋である。


 「おじさんは久しぶりのれんきんじゅつだから、魔法鉄のお鍋で頑張ってね」

 「反応は鈍くて作業に時間はかかりますが、魔力制御は容易ですから感覚を取り戻すにはちょうど良いと思います」


 我輩としては問題ないと思っているのであるが、魔法使用やそういった理論に関しては我輩よりもしっかりと学んできている二人やクリス治療師がそう言っているのであれば、我輩はそれに従うのみである。


 自分よりも先を言っている者の言葉に従わずに自分の理論や感情に固執するほど、我輩は独善的ではないのである。


 一月弱というそれほど長くはないが、我輩の中では途方もない長さと思える期間を経た事で、若干の感慨に浸りつつ我輩は錬金術用の魔法陣を起動するべく集中を始めるのである。


 「…………?」


 だが、そこで我輩は違和感を感じるのである。


 何かがおかしいのである。


 久しぶりの魔力制御を行ったことで違和感を感じているのであろうか。

 だが、別に魔法陣は問題なく発動したのである。


 何かの気のせいであると我輩は思い、薬の製作を行うべく薬草に手を伸ばそうとしたその時。


 我輩の視界が突如揺らいだのである。

 目の前がぐにゃりとしてまっすぐ立っていられないのである。

 そして、脳から目の奥にかけて厚い膜がかかったような感覚に襲われ、そして強烈な吐き気に吐き気とともに我輩はその場に膝をつくのである。


 「アーノルド様!?」


 ちょうど、薬の作製を終えたミレイ女史が我輩の様子に気付き、こちらへと駆け寄ってくるのである。


 「だ……大……丈夫……である……」

 「大丈夫なわけないじゃないですか! 人を呼んできます!」

 「おじさん! おじさん!」


 そう言って工房を離れるミレイ女史と交代するように、薬の作製が終了したサーシャ嬢が慌ててこちらに駆け寄るのである。


 「おじさん! 魔法使う?」

 「そうであるな……お願いするのである」

 「うん! 任せて!」


 我輩の返答を聞いたサーシャ嬢が我輩に魔法をかけると、多少であるが気分と状態が落ち着いた気がするのである。

 サーシャ嬢の魔法は外傷などに効果が高いと思ったのであるが、こういった事にも効果を発揮できるのであるかと、冴えない頭で考えるのである。


 「センセイ! 大丈夫か!」


 サーシャ嬢の魔法を受けながらしばらくそのままの状態で休んでいると、ダンが大声を上げ、勢いよく工房へと入ってくるのである。

 サーシャ嬢やミレイ女史の声は特に気にならなかったのであるが、ダンの大声は頭に響くのである。


 「貴様の大声のせいで、頭が揺れるのである」

 「そんな冗談言っていられるなら大丈夫だな」

 「冗談ではないのである……」

 「はっ! 言ってろよ……っと」


 ダンは我輩の訴えを笑って退けると、一気に我輩を担ぎ上げるのである。


 「何を……」

 「何って、部屋に運ぶに決まってんだろうが。そこでパットンと、後からクリスも来るから状況をちゃんと話せよ」


 そう言われると、我輩は有無を言う事すら許されず、部屋へと運ばれるのであった。


 一体、我輩はどうなってしまったのであろうか。


 さすがにこの状況を調べようとする興味よりも、焦りや不安の感情が前に出るのであった。




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