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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
2章 辺境の集落と新しいメンバー、である。
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人は見たいように見るものなのである


 我輩の名はアーノルド。帝国唯一無二の錬金術師である






 我輩がダンから森の家のことを聞き、集落を離れて約2週間。そこで出会った友人達と共に、集落に一旦戻ってきた訳であるが


 「薬師様が戻られた!探検家の皆さんの言う通り生きていて良かったです!」

 「あぁ、よかった。薬師様、ご無事でしたのね。お友達もようこそこの集落へ。何も無いところですがのんびりしていってください」

 「やくしさま!おかえりなさい!ねぇ、君達やくしさまのお友達?」


 何故か、手厚い歓迎を受けているのである。


 「センセイ、一体何をやらかしたんだ?」

 「特に何もしていないのである」

 「何もしてないなら、こんな日も落ちてきたこの時間に、集落総出で歓迎するわけないじゃないのさ」


 そう、我輩の姿を見つけた数人が、集落の各家に伝え回ったようで、我輩達の周りに人が続々集まってきたのである。

 なぜか皆、安堵の表情や喜びの表情を浮かべているのである。我輩、寧ろ家の管理などの面倒事しか頼んでいないはずなのである。


 「薬師様、予定より随分と長い遠出だったな。皆心配してたんだぜ」

 「首長、我輩は薬師ではないのである。

今回遅くなってしまったのは申し訳無かったのである。であるが、些か大袈裟すぎでは?と思うのであるが」


 我輩は、こちらに話しかけてきた幾分年上の、体格のがっしりした男性に話しかけるのである。

 彼が、この集落の長を勤めているのである。なかなか信頼のできるいい男である。

 我輩を心配してくれたのは嬉しいのであるが、探検家に捜索依頼を出したり、このような出迎えをするなど、大袈裟な気がするのである。


 「大袈裟なもんかよ、あんたがここにどれだけのことをしてくれたと思ってるんだ?皆感謝してるんだぜ」


 首長がそういうと、周囲の者も、そうだそうだと同意しているのである。


 「一体、センセイが何をしたんだい?」

 「ああ、あんたは薬師様に会いに来た探検家だったな。友人だったのか、歓迎するよ。薬師様がしてきたことを知りたいのかい?」


 その前に、と言って首長は住人の方を向いて


 「皆、薬師様が帰ってきたから各々歓迎をしたいだろう。だが、さすがにもう日も落ちちまう。今日のところは家に戻って、改めて明日そうしてもらえるか!」


 そう言うと、少し落ち着きを取り戻した住人たちは、名残惜しそうに各々家に戻って行くのである。


 「ああでも言わねえと、何時間でも薬師様のところから離れなさそうだからな。じゃあ、俺ん家で話を聞いてくれるか?茶くらいしかだせないけどな」


 首長はそう言って、我輩達を自宅に招いてくれたのである






 「お家がいっぱいだぁ…………」

 「良い匂いがいっぱいすんなぁ……」


 この集落に建てられている家などは、帝国の一般的なものに比べると幾らか劣るのであるが、人間の集落に初めて来るサーシャ嬢と兄君にとっては真新しいものに映るようである。兄君は、食い気に引き寄せられているのである。


 「お、ボウズ。腹が減っているのか?良かったら家で食ってくか?」

 「いいの?やっりぃ!」


 首長の言葉に、飛び上がって喜びを表す兄君である。食い物に弱い男子であるな。

 しばらく歩いていると、気持ち他の家より豪勢な一軒家が見えてきたのである。とはいえ、これでも帝国の一般基準よりは下なのである。開拓民は税などで幾らか優遇されるとはいえ、それでも生活水準は下なのである。気概が無いとやっていけないと思うのである。


 「ここが、俺の家だ。遠慮せずに中に入ってくれ」


 首長に促され、我輩達は中に入るのである。

 

 「小さな家で応接間とかねぇから、悪いけどここに座ってくれ」


 そういって、家に入ってすぐにある居間の椅子を勧められたので、我輩達はそこに腰掛けるのである。

 数が一脚足りなかったので、ダンが我輩の後ろに立っているのである。

 少しすると、我輩より少し若い女性が人数分の茶を持ってきてくれたのである。首長の奥さんで、我輩の家の管理をお願いしたのもこの女性である。


 「何も無いところですが、ゆっくりしていってくださいな。薬師様、おかえりなさい。ちゃんと家の管理はしてますからね」

 「すまないのである、奥方」

 「あぁ、そうそう。作業所の親方が、早く釜を取りに来いと嘆いていましたよ。場所を取ってしょうがないと文句を言っていたので、明日にでも行ってあげて下さいな」

 「そういえば、そんなこともあったのである。明日行ってみることにするのである」


 森の家の工房を使えるようになってすっかり忘れていたのであるが、そういえば、ここの職人に劣化魔法鉄で錬金術用の釜を作ってもらっていたのだった。とりあえず、明日家に持ってきてもらう事にするのである。

 我輩がそんなことを思っている間に、首長は奥方に食事を用意するように言っていたのである。

 それに、アリッサ嬢が反応するのである。


 「あまり食材を使う訳にもいかないでしょ?あたし達、森から帰ってくるときに幾らか食料を採ってきてあるから、それを良かったら使ってくれるかい?」

 「あ、こっちにもあるから良かったら使ってよ!」


 そう言って、アリッサ嬢と兄君は、自身の背負い袋から食材の入った袋を取り出すのである。アリッサ嬢の背負い袋の中身の半分、兄君に関しては七割が食材だったのであるか……。


 「あらあら、ご丁寧に……あら?……見知らぬ食材などもありますね……」

 「あぁ、こっちでもあまり食べないんだね。森の中や行く途中にあった食材で、結構おいしいのも多いから、食材採取の時についでに採ってきたらいいよ」

 「食材が増えて食卓が豊かになるのは嬉しいことです。もし良かったら、明日、私たちの知らない食材のことを教えていただけますか?」


 奥方は知らない食材に興味津々である。やはり、家庭の食卓を守るものとして気にならない訳は無いのであろうか。アリッサ嬢がこのことを知った集落の奥方達に捕まる事が予想されるのである。


 「あぁ、いいよ。じゃあ、そちらが良かったら一緒に料理しながら話をしても良いかい?」

 「いえいえ、お客様にそんなこと……」

 「あたし、料理をするのが好きなんだよ。どうせなら、料理方法とか一緒に教えた方が楽じゃない?」

 「それでは、お言葉に甘えて良いですか?」

 「と、言う訳であたしは料理の方にいってくるね。後はよろしく頼むね」


 そういって、アリッサ嬢は奥方と台所へ向かって行ったのである。


 「自分勝手な者で申し訳ないのである」

 「いや、気にしてねぇよ。むしろ悪いな」


 そう言って首長は頭を下げるのである。


 「それより、一つ良いかい?薬師さま。この子達は一体どうしたんだ?確か森に入るときは二人だったよな」

 

 首長が、サーシャ嬢達の方を見てそう言ったのである。当然の疑問であるな。

 なので、当初の予定通り、ダンが答えるのである


 「さっきの女は、俺とチームを組んでる探険家でね、今回人拐い討伐の依頼を受けたんだよ。で、センセイに手助けを求めたって訳だ」

 「人拐いか…………」


 首長が顔を険しくするのである。人拐いの類いはどこにでも発生する厄介な犯罪なのである。


 「思ったよりも拠点を見つけるのに時間がかかってなそれで遅くなっちまったんだ。すまない。で、依頼自体は無事に終わって、他のチームメンバーは人拐いと子供達を引き渡しに行ったんだよ。だけど、この子達は身寄りがないらしくてさ」

 「森を抜ける間に我輩になついてくれたので、そのまま我輩が面倒を見るという話になったのである」

 「なるほど、薬師様の人柄なら子供もなつくな」


 我輩達の説明に首長は納得したようである。


 「お前達、大変だったんだな」

 「おじさんは優しいから全然大丈夫だよ!」

 「おっちゃんは、おれ達がいないとダメダメだからな!」


 首長の言葉に、二人は元気よく返事をするのである。


 「さて、話は一度戻すが、食材を分けてもらってすまないな。余った分は、集落の皆に分けさせてもらうぜ。ありがとう」

 「そうであるな。まだ穀物の収穫時期には早いのであるからな」


 我輩の言葉に首長は首を縦に振るのである。いまの時期は、帝国の主要穀物が採れる時期より少し早く、備蓄している穀物を食すのであるが、この地域は中央に比べ虫の被害が多く収穫量がなかなか上がらないので、この時期は多少食料事情が良くないのである。


 「昨年、あまり穀物が取れなかったからな。集落で余っている分もそんなに多くないんだ。でも、薬師様のおかげで今年は去年より大分収穫量が増えると思う。だから、皆感謝してるんだぜ」

 「すごいね!おじさん、そんなことしてたんだ!」


 首長の言葉にも、サーシャ嬢の言葉にも我輩は困ってしまうのである。心当たりが無さすぎるのである。


 「首長、そう言ってくれるのは嬉しいのであるが、心当たりが全くないのである。何かの間違いであろう?」


 その我輩の言葉に、首長は笑って答えてくるのである


 「薬師様が、虫除けの草を教えてくれただろ?これで作物を軽く燻せば、虫の飛来量を減らせるって。皆半信半疑だったけど、やってみたら、本当に虫が殆ど来なくなったんだぜ。あれは、本当に助かったんだ。ただ、その時期集落全体が臭くなったけどな!」


 ああ、【畑の友"虫"】の素材になる雑草のことであるか。

 今までは、酢を薄めたものを散布したり、虫の湧きにくい樹木を燻したりしていたようである。

 耕作面積に散布する量や樹木を購入する費用を用意するのが大変で、なかなか効果的な虫除けが出来なかったようなのである。

 虫害に困っていると首長から聞いたときに、錬金術を諦められず、集落周辺の素材確認をしていた際に【虫忌避】の構成魔力含んだ雑草を確認していたのを思い出したので、それを教えたのである。


 「へぇ、そんなことしてたのか」

 「それだけじゃないんだぜ、ご友人。初めてこの集落に来たときは、背負い袋がいっぱいになるくらい、薬草を手土産に持ってきてくれたんだ」


 集落に向かう途中に薬草の群生地を発見して、錬金術の研究で使おうと持てるだけ採っていったときの話であるな。

 集落に着く手前で、釜が無いことに気づいて、愕然としたことを思い出すのである。

 我輩には必要のないものになってしまったが、廃棄するのも勿体なかったので、お土産として首長に丸投げしたのである。


 「集落全体に渡してもまだ余ったから、近くの村にいる薬師様に、売りに行ったんだよ。そうしたら、傷薬に使う薬草のなかでもかなり薬効も高くて品質の良いものだって言うじゃないか」


 手引き書に記されている素材は、基本的に手軽に取れて効果が高いものを使用するうにしてあるようなのである。

 ただ、その基準が、本の著者であるノヴァ殿の基準というのが問題で、魔法使用や亜人特性の使用が前提で採取可能な物があったりと、我輩たちには素材確保が大変な物もあったのである。まぁ、取りに行くのはダン達なのであるが。

 そこら辺がノヴァ殿も抜けているなと我輩は思ったりしたものである。


 「だから、集落の資金繰りのために恥を忍んで群生地を聞いたら、普通に教えてくれるしな」


 錬金術の研究ができない時点で、我輩にはほとんど用のない場所であるから、教えるのになんの抵抗もないのである。


 「良い薬草の存在を知った村の薬師様から、探検家に薬草の採取依頼が入るようになって、探検家がこの集落にやって来るようになったから、前より少しずつ潤うようになったんだぜ」


 それは知らなかったのである。基本的に家にこもるか、集落の裏手側から散策に出掛けることが多かったからであろうか。


 「後は、集落の純魔力を感じられるやつらに簡単な魔法を教えてくれたり、俺たちには分からない病気を教えてくれたり、この集落にたくさんのことをしてくれてるんだ」


 魔法に関しては、研究所にいたころにリリー嬢から魔法陣を描く練習という名の、種火と飲み水出現の魔法陣を延々と下書きさせられる嫌がらせをさせられたので、体が覚えてしまったものを、描いて渡しただけであるし、純魔力の操作などに関しては宮廷魔術師に教えてもらった練習方法を教えただけである。

 病気に関しては、ゴードンから説教を受ける際、こんな病気で生きられなかった人もいたのです、それなのにあなたは。という論法が多かったので、話をすり替えようと、病状や治療方法などを聞いていたものを偶々覚えていただけである。


 「なるほど、それでセンセイは薬師様って呼ばれてるのか」

 「おじさん、すごい!すごいよ!」


 サーシャ嬢の顔が、集落の老人達が我輩を見る時に稀に見せる、この世のものではない何かを見る時の顔をしているのである。いやいや、我輩はこの世のものであるから、そんな目を向けられても困るのである。

 ダンは、明らかにニヤついているのである。からかうネタができあかったとでも思っているのであろうか。


 「だから、薬師様が出掛けたきり戻ってこないってなったとき、集落の全員が心配したんだからな。本当に無事でよかったよ」

 「思ったよりも色々あって、戻るのが遅くなったのである。大変申し訳無かったのである」


 我輩の言葉に、首長は笑って手をひらひらと振るのである。


 「無事に帰ってきてくれたから、それでいいさ」

 「はいはいー!話の途中で悪いけれど、晩御飯が完成したよ!とりあえず話は食べたあとでしておくれ!」


 アリッサ嬢が、料理を持ってこちらにやって来たのである。奥方と子供達も料理を運んできているようである。


 「じゃあ、続きは食後にしよう。では、改めて」






 首長は男らしい豪快な笑顔を浮かべて我輩たちに


 「薬師様、よく戻ってきてくれた。お客人、ようこそこの集落へ。なにもないところではあるが、ゆっくりしていってくれ。俺達は、あんた達を歓迎するよ」


 そう言って、歓迎の意を表したのである






総アクセスが1000pv

訪問者数が500を越えました。


正直自分の予想を遥かに上回っております。

見てくださっている皆様、本当にありがとうございます。


どんどんグダってきますが、これからもよろしくお願いいたします。

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