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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
12章 我輩の変化と覚醒した獣人女性、である
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少し判明したこと。である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 晴れて自由に動ける身になってから数日、ついに獣人女性の意識が回復したのである。

 喜ぶハーヴィーであったが、彼女は人間に敵意を強く抱いている事が判明したのであった。

 一体何が彼女にあったのであろうか。






 「どうであるか」

 「自分で食事を取ってくれるようになりました」

 「それは良かったであるな」

 「はい。文句をずっと言っていますが、しっかり残さず食べてくれています」


 獣人女性が意識を取り戻し数日、いまだに彼女と面会を果たせずにいるのである。

 “敵“と言った通り、彼女は人間に強い敵対心を持っているのであるが、それでもハーヴィーには何とか会話が成立する程度には態度の軟化を示している様である。

 やはり、同種族の血が入っているというのはそれだけ大きいという事なのであろうか。


 「それもあると思うけれど、彼女を心配するハーヴィーの、強い【意思】の構成魔力を感じていたのもあるんじゃないかな」

 「あぁ、何となく分かる気がします。治療院でも意識の無い患者さんが、家族がいるときに容態が安定する事とかありましたから」


 その事について考えを述べる妖精パットンに、クリス治療師は同意を示すのである。

 それを聞いた我輩は、人とは不思議なものであると思いつつ、意識を失っていたとき感じた()()もそうであったのであろうかと、ふと思ったのである。

 今ははっきりとは覚えていないのであるが、アリッサ嬢のおかげで我輩は起きれたような気がしているのである。


 しかし、我輩たち人間のみならず、森の民であるサーシャ嬢や別の獣人の血を持つドランなどにも敵意をむき出しにするので、そのたびに妖精パットンが強制的に鎮静させることになってしまうのである。

 ハーヴィー以外に大丈夫な者がいれば負担も減るであろうと考えた故の行動であったが、三回目の鎮静の際に、実験みたいなことをするなと妖精パットンにきつく注意されたのである。


 まるで興味本位のような言い方は心外なのである。


 そんな状況であるので当然食事の際も、


 「人間の食事など食えるか!」


 と騒いで口にしようとはしなかったのであるが、ハーヴィーが目の前で料理を口にして安全を証明しながら説得を行った結果、しぶしぶであるが口にするようになったのである。

 その後はいろいろと文句を言いながらも料理を口にするようになり、今日はついに、自ら食指を伸ばすようになったようである。



 「アリッサ姉ちゃんの料理を一回口にしちゃったら拒絶するなんてできないよ」

 「あはは。ありがとうデルっち」


 そう言って、手放しで褒めるデルク坊に笑いかけるアリッサ嬢であったが、我輩もその言葉には同意をせざるを得ないのである。

 アリッサ嬢の料理は、心と体を鷲掴みにするまさに魔法と言っていいものと言えるのである。


 「この調子で少しずつ心を開いてくれると良いのですが……」

 「それに関しては慌ててはだめですよ。慌ててしまうと反発して心を閉ざしてしまいますから」

 「……そうですよね」


 クリス治療師の諫言にハーヴィーは苦笑いを浮かべて頷くのである。


 まあ、我輩としては極力早く人間に馴染んでもらい、色々と話を聞きたいところであるが。


 「センセイよぉ、顔に出てるぞ。"早く話を聞きたいぞ"ってな」

 「別に行動に移さなければ思うのは自由であろう」

 「へぇ、そういう分別ができるようになったんだな」


 反応を見て楽しむつもりなのか、ニヤニヤと小馬鹿にしたような笑いを浮かべるダンを我輩は無視することにするのである。

 何かにつけて絡んでくるなど、子供の所業なのである。


 そのような妨害もあったのであるが、ハーヴィーの報告を聞く限り少しずつではあるが良い方向へと向かっていると我輩は思うのであった。






 そうしてさらに数日経過したのである。


 未だにハーヴィー以外の人物には拒絶反応を見せている獣人女性であるが、ハーヴィーには少しずつ色々と話すようになってきたのである。

 おかげで、彼女や彼女の周りのことも少しずつではあるが判明したのである。


 まず最初に、彼女達猛禽獣人の大半は千年以上前に行われた大森林の抗争では人間に、非友好的な勢力に属していたということである。

 つまり猛禽の獣人の大半は、霊木の群生地よりもさらに奥に集落を構えているということになるのである。


 探検家の性なのか、それとも単純に祖となる者たちが生活していた場所や文化に興味があったのか、ハーヴィーは集落があったあたりのことを訪ねてみたところ、どうやら我輩達が活動しているあたりと大差がない環境のようであったとのことである。


 何か大きな違いでもあるのかと期待していため、少々残念である。


 そして、文句を言いながらも素直に質問に応じるあたり、彼女がかなりハーヴィーに心を開いているということが伺えるのである。 


 「まぁ、ボクがいるからっていうのもあるよね」

 「彼女も意思の魔法が使えるパットンがいることを知ってから、下手に情報を隠したところで意味がないと諦めたように言っていましたから」


 嘘をついたところで、【意思】の構成魔力を感知できる妖精パットンがいる限りすぐにばれてしまうのである。

 魔法で強制的に自白させられるよりも、素直に話したほうが楽だとどうやら判断したようである。


 それもあるのであろうが、もしかしたら彼女の心的負担ををパットンが魔法で軽減しているというのもあるかもしれないのである。


 今でも時々あるらしいのであるが、意識を回復してからすぐの頃は頻繁にパニックを起こすことがあったらしいのである。

 どうやら、蛇海竜が暴れまわる結界の中に閉じ込められた時のことを思い出してしまうらしく、その時の恐怖が唐突に戻ってくるらしいのである。


 それを、妖精パットンが魔法で気持ちを落ち着かせているのである。


 そういった事もあって、彼女は素直に話しているのかもしれないのである。


 ちなみに、ハーヴィーがその当事者の一人であることは彼女はわかっていないのである。

 どうやらそのあたりの記憶がまだ曖昧のようである。

 それは一時的なものなのか、それとも薬の副作用や構成魔力が極限まで減衰してしまったことによる障害なのかはわからないのであるが、とりあえずは好都合なのである。


 「そんな生優しい物言いじゃなかったけれどね。"妖精がいないと、まともに尋問する事もできないのか。さすがは人間、卑怯だな"とか言われていたじゃないか」


 妖精パットンの言葉に、ハーヴィーは苦笑いを浮かべるのである。

 どうやら我輩が思ったよりもハーヴィーは、辛辣なことを色々と言われているのかもしれないのである。


 「まぁ、パットンに頼っているというのは事実だからね。そう言われて当然かな。でも、そのおかげで彼女は素直に会話がしてくれているわけだし、パットンがいてくれてとても助かっているよ」

 「そうでしょう、そうでしょう。本当にボクがいないと君達はだめだなぁ」


 ハーヴィーの言葉に、妖精パットンは得意気に胸を反らして飛び回るのである。


 「だが、それだけで人間にあれだけの敵意を抱くとは考えられないんだけどね」

 「それは、至上主義者を見れば理解できるのである」

 「あぁ……確かに」


 代々受け継がれてきた凝り固まった価値観が拗れ、まるで親の仇かのような敵意を会ったこともない亜人種へ向ける至上主義者を見れば、逆の状況もありうることは想像に難くないのである。

 アリッサ嬢もその事に考えが至ったようで、我輩の言葉に納得の表情を浮かべるのである。


 「その事なのですが……気になることを彼女は言っておりまして」


 そう言って、ハーヴィーは困ったような深刻そうな表情を浮かべるのである。

 そして、そのあとに続いた言葉に我輩は耳を疑うのである。


 「その……彼女は住んでいた集落を人間に襲われた……と」


 


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