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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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獣人女性の覚醒。である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 我輩はアリッサ嬢から治療薬の効果はあったものの、まだ意識の回復に至ってはいないことの報告を受けるのである。

 そして、様子を見るためにしばらく安静でいることを強要される事数日。

 我輩は漸く寝台から解放されることになったのであった。






 「ミレイおねえちゃん、右の草を取ってくれますか?」

 「これかな? 一束で足りる?」

 「うん! ありがとう!」


 サーシャ嬢はミレイ女史から見慣れぬ草を受けとると、それを魔法金の容器へ投入するのである。

 現在サーシャ嬢達は、大森林に入る探検家達に支給するための傷薬の作製をギリー老から依頼されたので、その作業を行っているところである。


 サーシャ嬢は流れるように構成魔力を制御して各作業を手早く行い、我輩やミレイ女史が魔法白金の釜で作業を行ったときと同じ程度の時間で構築作業まで終わらせていくのである。


 「サーシャちゃん、傷薬を作るのがまた早くなったね」

 「うん! きっと、魔法を前よりも上手に使えるようになったからだと思う!」

 「森の民の魔力制御能力ってすごいなぁ」

 「えへへ……」


 感心した様子を見せるミレイ女史に、サーシャ嬢は嬉しそうな笑顔を浮かべるのである。

 構成魔力を感知できるという事は、やはりそれだけ利点が大きいということであろう。


 「でも、お薬の効果を細かく分けて作ったりするのは、ミレイおねえちゃんやおじさんのようにできないから、すごいと思うよ!」

 「ふふふ、ありがとう。じゃあ、私はそっちの方を頑張っていこうかなぁ」

 「うん! 一緒にがんばろう!」


 そうして和気藹々と作業をする二人を我輩は眺めつつ、森の工房から持ってきていた手引き書を読むのである。

 我輩も作業に加わりたいところであるが、まだ錬金術の許可が下りていないからである。


 寝台から離れて既に五日経過しているのである。

 そろそろ許可が下りても良いと我輩は思うのであるが、専門家である全員が誰一人として許可を出さないので、不服ではあるが現状を受け入れるのである。


 と、言う訳で我輩は二人の作業の様子を時折眺めながら、復習がてら手引き書に目を通す日々を過ごしているのである。


 そうすること暫く、誰かがドアを開けるのである。


 「やってるな。調子はどうだい?」

 「サーシャ嬢達は順調の作業を行い、我輩は昨日と変わらないのである」

 「そうかい。そいつは良かった」


 ドアを開けたのはダンで、いつも通りの軽い雰囲気で我輩に話しかけてくるので、我輩もいつも通りに応えるのである。


 「良くはないのである。早く研究を再開したくて堪らないのである」

 「そのままセンセイが研究を再開しなければ、俺達は平穏な日々を過ごせるんだがな」

 「何を意味のわからないことを言っているのであるか」


 我輩の言葉にダンはおどけた様子を見せるのである。

 こやつは本当にいつも通りである。


 「それで、何の用であるか。まさか、そのようなくだらないことを言いに来た訳ではないであろう?」

 「ご挨拶だなぁおい。折角暇なセンセイに報告をしに来てやったっていうのによ」

 「何の報告であるか。手早く簡潔に話すのである」


 勿体つけるようにニヤニヤといやらしい笑いを浮かべるダンに、我輩は持ってきたという報告を早く話すように催促をするのである。


 時間は有限なのである。

 こんなどうでもいいやり取りに費やすのは勿体無いのである。


 「じゃあ、簡潔に言うぜ」

 「早くするのである」

 「へいへい。……獣人の女の意識が回復したが、暴れだしたからまた寝かせた。以上。それじゃあな……って何だよ」


 言うだけ言って部屋を出ようと立ち上がるダンを、我輩は引き止めるのである。


 「どういうことであるか? 詳しく言うのである」

 「んだよ。手早く簡潔にって言ったのはそっちだろうが」

 「そのしてやったりといういやらしい顔と、この下らないやり取りがいらないのである」

 「さらっと人に暴言吐くんじゃねえよ。何だよいやらしい顔って」

 「そのニヤニヤと人を小馬鹿にしたような顔である」

 「本当にひでえなおい」


 ダンはその後もぶつぶつと文句を言いつつ、報告を始めるのであった。






 獣人女性が覚醒したのはつい先程で、身の回りの世話をするべく彼女近づいた女中が、今まで一言も発さなかった彼女が苦しそうにうめき声をあげていることに気付き、慌ててハーヴィーを呼びに来たらしいのである。

 そして、ちょうどその場にいたダンもハーヴィーとともにその場に向かったそうなのである。


 「なぜ我輩を呼ばないのであるか」

 「センセイがいたら、これは僥倖とばかりにあれこれ聞きまくるだろうが。そんなことさせられるか」

 「そんな事はしないのである」

 「ははっ。どうだかな」


 我輩の抗議を一笑に付し、ダンは報告を続けるのである。


 そうして様子を伺うダン達の前で、獣人女性は意識を取り戻したのである 

 最初は意識が朦朧としていた彼女であったのであるが、次第に覚醒していくと周囲を確認するようにゆっくりと顔を動かし始めたのである。


 つまり、死に瀕するほどに【意思】の構成魔力が減少していても、治療薬による効果で正常な思考が働く程度まで回復させることが可能であることが示唆されるのである。


 「なるほど。続けるのである」

 「お願いします」

 「します!」

 「うぉっ!? ……二人とも仕事はいいのかよ」


 いつの間にか作業を中断してこちらの会話を聞いていたサーシャ嬢とミレイ女史に、ダンが少々驚いた様子を見せるのである。

 そんなダンの質問に、二人は問題ないとばかりに笑顔で頷くのである。


 彼女たちとしてもこの報告は当然聞きたいところである。


 それを確認したダンは報告を再開するのである。


 そうして獣人女性は自身の置かれている状況を確認するべく顔を動かしているうちに、ダン達を見つける事になるのである。

 

 ハーヴィーを見つけた彼女は、見た目の特徴が近いハーヴィーの事を同族だと思ったのか、やや友好的な様子を見せて話しかけてきたのである。

 そこで彼女と友好的な会話ができると予想したハーヴィーが、自分が彼女と同じ猛禽の獣人の血を持つ人間であること、そしてここが人間の住む帝国の集落であると答えたところ、彼女の様子が一変し、敵意を露にしたのである。

 そうして二人に襲いかからんとした彼女のであったが、意識に体が追い付かず、思うように動かないのがわかると、次々に罵声を浴びせてきたのである。

 暫くそうやって罵声を浴びせていた獣人女性であったが、突如大人しくなったのである。

 これは、姿を隠して様子を伺っていた妖精パットンが、面倒だと思い魔法で強制的に大人しくさせたからである。


 「大丈夫なのであるか?」

 「パットン曰く、意識がちゃんとしてれば、相手に負荷をかけないように魔法の打つのは簡単らしい」

 「パットンって凄いんだねぇ……」

 「そうじゃないと、私達は常にパットンの魔法による負荷がかかる状態で過ごしている事になるからね」

 「あ、そっかぁ」


 ミレイ女史の言葉に、サーシャ嬢は納得の表情を浮かべるのである。

 負荷を極力与えずに、魔法をかけている。

 今まで特に考えなかったのであるが、よくよく考えると相当なことを妖精パットンは行っているのである。

 今度、甘い錬金菓子でも作って与えようかと思うのである。


 「ってな訳で、この状態だとまともに会話ができないってことで、ベッドに縛り付けて寝かせたってところだな」

 「物騒であるな」

 「しょうがねぇだろうが。敵意剥き出しなんだからよ。……ま、そんなところだな」

 

 ダンからの報告を聞き、我輩は治療薬がしっかりと効果を発揮したことと、彼女が人間に対して明確に敵意を持っていることを知ったのであった。






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