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錬金術師アーノルドの自由気ままな毎日  作者: 建山 大丸
11章 収穫祭と獣人女性の治療薬、である。
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治療薬の効果と、安静解除。である


 我輩の名はアーノルド。自由気ままに生きる錬金術師である。


 治療薬の作製時の無理が祟り、意識を失った我輩が意識を取り戻したのはそれから数日後であった。

 皆に心配をかけたことを、アリッサ嬢に強く咎められた我輩は深く反省し、それを見たアリッサ嬢から治療薬の使用結果を聞くのであった。


 しかし、脳天に手刀を打ち付けるのは止めてほしいのである。






 「それで、薬の効果はどうであったのであるか? 副作用はどうであろうか」

 「がっつくんじゃないよ。…………本当に反省してるのかねぇ……?」

 「反省はしているのである。だから、教えるのである」


 別に、報告を早く聞きたいから反省するふりなどしないのである。

 どこまで疑い深いのであろうか。


 その気持ちが表に出ていたのか、アリッサ嬢は我輩を見てやれやれといった様子を見せつつ、話を続けるのである。


 「ぐいぐい来ているところ悪いんだけれどね、まだ、センセイの期待するような結果にはなっていないさね」

 「それはつまり、効果が無かったという事であろうか?」


 あれだけ苦労したにもかかわらず効果が無かった。

 それだけ消えかけの【意思】の構成魔力を補充する方法というのは難しいということであろうか。

 研究的には貴重な結果ではあるのであるが、治療としては非常に残念である。


 そんなことを考えていると、アリッサ嬢から再び手刀を打ち付けられるのである。

 ただし、先程までとは違い本当に軽く注意を自分に引き付ける程度の力であるが。


 「人の話はちゃんと最後まで聞くさね。まだって言ったでしょうが。パットンいわく、流出する構成魔力量よりも補充されていく量の方が少し多いから、時間はもう少しかかるけれど意識は取り戻せると思うっていう話さね」

 「では、効果はあったというわけであるか」

 「そういうことさね。ただ、まだ意識を取り戻していないからそれ以上の効果や副作用がわかっていないという点で、センセイが期待しているような結果は出ていないっていう話なわけさね」

 「いや、十分である」


 構成魔力の感知ができない我輩達では何とも言えないのであるが、三人がかりであれだけ苦労した薬であっても、流出する構成魔力の量よりも少し多いくらいの回復しか促せないという事が、何よりもきちんと構成魔力を補充する事ができる薬を作製できたことが判明しただけで報告を聞いた価値があったのである。


 「そうかい。……と、いうわけでだよ」

 「なんであるか?」


 何やら意味ありげなことを口走るアリッサ嬢に何事かと尋ねると、彼女はにやりと笑い、


 「獣人の子が起きるまでにまだ時間がかかるから、センセイ達も数日間は安静にしてもらうからね」


 と、言い放ち、実際に我輩達が寝台から起きる事が許されたのは、妖精パットンとクリス治療師から問題なしと言われた一週間近く後であったのであった。






 「もう大丈夫だね」

 「体調面も特に問題は無いですね」


 アリッサ嬢から安静を言い渡されてから一週間ほどが経過したのである。

 我輩の容態を診ていた妖精パットンとクリス治療師から問題なしという結果を聞き、我輩はようやくであるかと小さく息をつくのである。


 「そうであろう。別にこんなに長く安静にする必用など無かったのである」

 「あはは……それだけ心配かけてしまったということですよ」


 安静を言い渡されてから数日で、多少重く感じていた体も軽くなり、意識に関しては最初から何も不自由を感じることは無かったのである。

 にもかかわらず、今まで経過観察という名目で寝台に軟禁されていたのである。


 それだけ皆に心配をかけてしまったということなので、我輩もおとなしくそれを受け入れていたのであるが、はっきり言って非常に無意味な時間を過ごした気分である。


 なので、ついこぼれてしまった先程の我輩の言葉に、その場にいたミレイ女史が苦笑いを浮かべるのである。


 ミレイ女史とサーシャ嬢は、我輩よりも意識を回復したのが早かったため数日前から自由に動けるようになっているのである。

 しかも、安静の期間も我輩よりも短かったのである。


 それを不服とした我輩は、早く安静を解くように訴えたことがあったのであるが、


 「サーシャとミレイと、錬金術師アーノルドは魔法制御の効率が違うからね。視覚による確認でしか制御ができないキミは、二人に比べるとだいぶ制御効率が悪いんだ。つまり、消耗も激しいんだよ」


 と、妖精パットンに言われて訴えを退けられてしまったのである。


 どうやら我輩が余計なことをすぐに思ってしまうのは、性格的な面もあるのであるが、過集中による精神ダメージを本能で避けようとしているらしいのである。

 それだけ構成魔力を感知できない状態での魔力制御というものは困難であるということのようである。


 「そう考えると、今まで一度も倒れることがなく錬金術をしてきたキミの魔力制御や自己防衛の才能は、非常に優れているということでもあるんだけれどね」

 「そうですね。魔法に携わるものでしたら、ほぼ必ずといってもいいほど自分の限界を見誤って倒れてから自分の限界を知るのですが、アーノルドさんは本能で自分の限界を見極め、常にほぼ適性なところで力を運用していたということですからね。もしも、魔法の適性があれば優れた魔法使いになっていたかもしれませんね」


 妖精パットンとクリス治療師からそう褒められたのであるが、結果として余計なことを考えて作業を失敗したり場面が度々あるので、結果としてはいい方に向いていないような気がするのは気のせいなのであろうか。


 しかし、10年以上錬金術に携わるようになってから初めてその事を知ったのである。

 聞かなかったこととは言え、リリー嬢やゴードンも今まで不思議に思わなかったのであろうか。


 ふとそう思ったのであるが、おそらく “センセイだから“ の一言で片付けられそうだと思ったものである。


 そのようなことを思い出しつつ、我輩はミレイ女史に近況を尋ねるのである。


 「ミレイ女史達は、魔法人形との接続は再開したのであるか?」

 「サーシャちゃんは大丈夫ですが、私の方はまだ……」

 「ミレイはちょっと魔法人形との接続に慣れてないから、もう少し様子見だね」


 残念そうな様子を見せるミレイ女史であるが、妖精パットンの言葉には納得の表情を見せるのである。

 というのも、自身が使い慣れていない魔法を無理に使用して倒れてしまった場合、短い期間でその魔法を使用すると過剰反応を起こすことが度々あるようなので、その場合は該当魔法の再使用は期間を空けるのが一般的なようなのである。

 ミレイ女史は魔法人形のミリアと初めて接続して短期間で無理をして倒れているので、おそらく再接続で過剰反応が起きる可能性を考慮して期間を空けるようなのである。


 「錬金術師アーノルドも様子見なんだから、忘れないように」

 「我輩は錬金術に10年以上携わっているのである」

 「前も言ったけれどキミの場合、初めて倒れたっていうことが問題なんだよ。魔法全般に過剰反応を起こす可能性があるから、錬金術は当面禁止だよ」

 「そこはご理解ください」

 「私も同意見です。アーノルド様は、しばらく錬金術やプロトンとの再接続は行わないほうが良いと思います」


 数日前からすでに決定したことであるが、やはり納得のいかない我輩は不服を訴えるのであるが帰ってきたのはその時と同じ返答であったのである。


 「それでは、復帰する意味がほとんど無いのである……」

 「じゃあ、もう少し寝ていても良いんじゃないかな?」

 「そうしましょう! そうしたら、私が身の回りのお世話をしますので!」

 「あはは。そうなったらきっと、サーシャちゃんとアリッサさんもお世話したがると思いますよ」

 「良かったじゃないか。ゆっくり休むと良いよ」

 「いや、もう問題ないので復帰するのである」

 「えぇ……? お休みいただいてよろしいのですよ?」


 心底残念そうなミレイ女史を見ながら、我輩は愛玩動物ではないのであると心の中で溜め息をつくのであった。






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